SONY

ソニーのヘッドホンの魅力を、さまざまな視点で伝える。The Headphones Park

INSIDE STORY XBA-Z5 開発秘話

2013年 10月

プロジェクトスタート

技術の粋を結集した前作、それをさらに越える傑作をつくれ

ソニー ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課
鈴木貴大

2011年、ソニーが自社開発のバランスド・アーマチュア(以下、BA)ドライバーユニットを搭載したXBAラインナップを発表し、多くのリスナーから評価されたのは記憶に新しいところだ。そして2013年には長年幾度となく改良を重ねて採用してきたダイナミックドライバーユニットとBAドライバーユニットを組み合わせたハイブリッドモデルを発表し、フラッグシップ機XBA-H3はハイレゾ再生にも対応を果たした。

そして本年、ハイレゾ旋風はさらに勢いを増し、さらなるスペックアップが求められることとなった。XBA-Z5はそうした流れの中、新たなるインナーイヤータイプのフラッグシップモデルとして開発がスタート。その経緯をXBA-Z5の開発リーダーを務める鈴木貴大氏(ソニー ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課)に伺った。

高い評価を得ているXBA-H3を凌ぐモデルの開発に挑んだ

「昨年XBA-H3を発売しました。音質を重視し、ハイブリッド構造を採用した製品で、ありがたいことに大変評価いただいています。そんな中、昨年からハイレゾ音楽ソースのダウンロードが盛んになり、それを聴いているうちに新たな課題を感じました。それはハイレゾ音源の楽曲をより楽しむためには、音質だけでなく音楽の空気感までも再現することでした。これを実現するために更なるハイパフォーマンスを求める必要があると感じ、今回新たなフラッグシップを商品化しました。また、他社製品もハイレゾに対応して、音質を訴求するものが増えています。ソニーとしてもヘッドホンとしてのレベル、音質はもちろん、装着性や所有する喜びにおいてなど、全ての面で満足できる高いレベルの製品となるよう開発を行いました。しかし、これまでで一番音質的に満足いくものができた、と感じたXBA-H3を発売した直後から、このXBA-Z5の開発が始まり、音質的にXBA-H3をさらに圧倒するようなものをどうやって作ろうかという点ではかなり悩みましたね。当時使える武器を使いきったところで、その上を目指すにはどうすれば良いのか……これは本当に困難なことだと思いました」

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2013年 11月

デザイン開発が本格スタート

手にする喜びまで感じられるデザインを創りだせ

ソニー クリエイティブセンター スタジオ2 オーディオプロダクツデザインチーム1
大西民恵氏

フラッグシップにふさわしいデザインのこだわりについて、XBA-Z5を担当した大西民恵氏(ソニー クリエイティブセンター スタジオ2 オーディオプロダクツデザインチーム1)のデザインワークについて伺ってみた。

「ハイブリッドモデルのアイコンである円形と矩形(さしがた)を相関させた造形を元に、音響的に進化したことをデザインでも表現できないか、まずその点に取り組みました。BAドライバーユニットが収まる矩形部は2つのBAドライバーが入っていることがわかるよう中央に溝を入れ、全体として3つのドライバーユニットが凝縮された様を表現しました。さらに、ボディの薄型化と剛性の高さを可能にしたマグネシウムには、素材を生かした独特なフィニッシュを追求しました。カメラにも使われるプロット塗装を施し、高級感、重厚感を演出できるよう、艶や粒子感の違う試作を何段階も作って検証しましたね。小さな製品なので、塗装の粒子感が大き過ぎると精密感がなく感じますし、良いバランスを探すのに苦労しました。ソニーロゴやモデル名の表示は一般的な印刷ではなく、長く使っていただく上で擦れて消えてしまわぬよう、レーザー刻印を採用しました」

ソニーロゴやモデル名にはレーザー刻印を施すなど細部にもこだわったつくり

この「プロット塗装とレーザー刻印の両立が難しかった」と語ってくれたのは、このモデルのメカ担当をした吉田博一氏(ソニー ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課)だ。

ソニー ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課 吉田博一氏

「音質と装着性を最高のものにしたいので筐体材料にはマグネシウムを採用しました。小型化による装着性の向上は命題でした。剛性の高いマグネシウムを用いることで可能な限り部品を薄肉化することができます。ドライバーユニットが片側3つずつ入っていることもあり、ハイブリッド構成はハウジングが厚くなってしまう傾向があります。それは装着時の圧迫感につながりますがハウジングを薄型化することでそれを低減させ、装着性を向上させることができました。BAドライバー自体の固定方法を一新させたことも、薄型化に貢献しています。」

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2013年 12月

第二世代のドライバー開発終了

第二世代のBAドライバーユニットを開発せよ

ドライバーユニットはミクロン単位での検証が行われた。
ドライバーユニットの内部(50倍スケールの模型)

XBA-Z5開発に当たり大きな分水嶺となったのが、プロジェクトと同時進行でソニーの自社開発BAドライバーユニットの第二世代モデルが完成したことにあるという。BAドライバーユニットの開発に初期より携わっている鈴木氏は語る。

「BAドライバーユニットの第一世代機は2011年のXBAシリーズに導入しました。BAドライバーユニットは強い駆動力と軽量な振動系を持っており、中〜高音域の透明感が特長ですが、その部分をさらに向上させたいと思っていました。今回のXBA-Z5に搭載することが前提だったわけでなく、ちょうど同時進行で開発は進んでいたのです。従来モデルを徹底的に解析しながら、ゼロベースで見直すところから始めました。

搭載されているBAドライバーユニットは、米粒ほどのサイズ

そこで目をつけたのが振動板を駆動するアーマチュアという部品です。今までのアーマチュアはU字型に折り曲げられその先端に磁界からの駆動力受け振動をしています。その形状ゆえに上下の振動に若干の非対称性があることがわかりました。その検証のために大きくても10ミクロン程の微小な振動を丁寧に解析しました。あまりに小さい世界のため、検証結果が本当に正しいのか不安になることもありました。試作するにも顕微鏡が必要なほど小さいですから(笑)、本当に大変です」

新開発の上下振動の非対称性を持つT型シンメトリックアーマチュアとダイレクトドライブ構造

そうした幾多の試練ののち、上下振動の対称性を持つT型シンメトリックアーマチュアを開発。信号の伝達ロスを低減するため、アーマチュアと振動板を直接接続するダイレクトドライブ構造も採用したことで、中高域の透明感が向上し、より色づけの無いサウンド再生が実現。そのためにドライバーユニットを生産する国内工場の設備を新規で立ち上げた。部品がミクロン単位に小さいので、ちょっとした誤差で品質に影響するため、それを生産する設備にも高い精度が要求され、生産環境の構築にも細心の注意をはらったという。

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2014年 1月

アメリカのオーディオショーで試聴テスト

2014年 2月

トゥイーターの振動板にマグネシウムを採用

フラッグシップにふさわしい音質を追求せよ

ソニー ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課
大里祐介氏

XBA-Z5開発で音響設計を担当していた大里祐介氏(ソニー ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課)は新フラッグシップモデルの開発に当たり、当初XBA-H3をベースにより低域や高域の再現性を上げるために改良を重ねていた。

ボディ全体にマグネシウムを使用しさらなる高音質を追求

「まず、低域の再現性を上げるためダイナミックドライバーユニットの新規開発を行いました。ダイナミック型の振動板にはコルゲーションと呼ばれる溝がエッヂ上に配置されています。これは振動板を動きやすくする役割を果たすのですが、具体的にはそのコルゲーションの数を増やすことで低域においての可動性を高めました。この時の試作ではBAドライバーユニットは第一世代でしたが、まずトゥイーターの振動板には、XBA-H3で採用していたアルミニウムの代わりにマグネシウムを使いました。マグネシウムは軽量でかつ剛性の高い振動板に最適な材料ですが、いままでスピーカーユニットに使われることはあっても、ヘッドホンのドライバーユニットに採用はできませんでした。ヘッドホンのドライバーユニットに使用する場合は0.1mm以下の厚みが求められますが、その厚みは従来ではできなかったのです。しかし昨今マグネシウムの圧延・プレス技術の進歩によりBAドライバーの振動板として使用ができることになり試してみたところ、想像以上に澄んだサウンドで高域の音質に大きな向上が見られました。実は、中域を担うBAドライバーは従来品を使って試作していたので、全体のバランスを変えてみたり、音響抵抗の変更や素材の変更などをしてみたり、様々なパターンを試しましたが、劇的な変化がなく悩んでいたのです。ちょうどその頃BAドライバーユニット第二世代機量産のめどが立ったと連絡をもらい、早速試してみたのですが、組み込んでみると特性が今までとは全くの別物でしたので、ダイナミックドライバーとのバランスを一から取り直さなくてはいけませんでした。完成度を高めていく中で、この第二世代のBAドライバーのもつ中域のポテンシャルに気づき、これを最大に活かせるように検討を繰り返しました。その結果として、低域〜高域まで全体域で音質の向上を図ることができたのです。また今回の製品のコンセプトは開発当初から”Feel the air” というキーワードを掲げていました。“Feel the air”には楽音だけでなくそれを包み込む雰囲気の再現という意味があります。この言葉が持つ意味の一つに微小な音の要素を正確に再現することで音の実体感を高めるということがあります。今回、新しいBAドライバーを搭載し、トゥイーターの振動板には高い内部損失を持つ軽量で剛性の高いマグネシウムを採用したことで、微小な音の再現性を高めることができました。筐体においても、微小なレベルとはいえ不要振動の排除は必須です。今回のように細かな点にまで気を配った場合、マグネシウムを採用したことは、最適でした。」(大里氏)

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2014年 6月

音質チェックでニューヨークのスタジオへ

Feel the airを実現する音をニューヨークで探せ

MDR-Z7と同様、ハイレゾサウンドを追求するため、数多くハイレゾ作品のマスタリングを手掛けているニューヨークBattery studioでのチューニングを実施することになり、こちらの開発陣からは音響担当の大里氏がアメリカに飛んだ。

「Battery studioのエンジニア陣はハイレゾサウンドの先駆者だったので、個人的にもハイレゾへの理解を深めることもできますし、ぜひXBA-Z5にもそのエッセンスを盛り込みたいと思い参加しました。マスタリングエンジニア陣は、持ちこんだ試作機のサウンドに“Amazing!”と驚いていましたね。ただし“あえていうなら……”と、ボーカルの距離感や高域のレベル感など細かいところに対しての要望をもらったので、日本に持ち帰って是非とも反映させたいと思いました」(大里氏)

「細やかなバランス調整や空気感の再現性について、スタジオで体感した方向性に近いものを求めようとすると、どうしても電気的な部品を変えないと実現できなかったのですね。すでに資材調達やメカの担当にはタイムリミットと言われていたのですが、必死に説得して試作日程を変更しなんとか対応しました。」

第二世代のBAドライバーユニットを搭載したXBA-Z5

時間ギリギリまで生産現場との間で調整を行い、完成したXBA-Z5。BAドライバーユニットの製造を含め、“メイド・イン・ジャパン”体制で臨むことで海外生産では難しい微妙な調整を実施することができたという。一台一台手作りで組み上げられる上、調整も含め厳密に管理した生産体制を敷いているそうだ。“Feel the air”というテーマに基づき、インナーイヤー型では難しい空間再現性を実現した、まさにフラッグシップの名に恥じない、高い完成度を誇るプロダクトが完成した。バランス接続への対応も当初から決まっていたが、サウンド作りでは標準的なシングルエンド接続で実施。しかし基礎能力をしっかり作り込んでいるので、バランス接続へ切り替えれば、セパレーションの良さをダイレクトに実感できる。インナーイヤー型とは思えないような音の広がりや音場感、空気感をぜひ味わっていただきたい、第二世代ドライバーの幕開けを象徴するヘッドホンだ。

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XBA-Z5

新開発のHDハイブリッドドライバーを搭載したXBA-Z5

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(左から)

吉田 博一
ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課
鈴木 貴大
ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課
大里 祐介
ビデオ&サウンド事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計1課
大西 民恵
ソニー クリエイティブセンター スタジオ2 APデザインチーム1

さまざまな角度から分かるフラッグシップの魅力

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ソニーは、ハイレゾ。