REVIEW XBA-Z5 評論家レビュー

 

ハイレゾとXBA-Z5の特徴

第二世代のバランスド・アーマチュア・ドライバーユニットと厳選された素材との融合、それがXBA-Z5。

CDよりも情報量が格段に多いハイレゾの世界。CDの持つレゾリューション44.1kHz/16bitというスペックが決して悪いわけではないが、192kHz/24bitとなると情報量にして約6.5倍もの差が生まれる。人の可聴周波数帯域における高域の限界である20kHzをはるかに超え、100kHzを超える超高域再生も実現しているが、実際に音として感知することは難しい領域だ。しかし基本的に再生周波数の制限を持たないアナログレコード再生などとも同様に、耳では聞き取れない音も皮膚などの器官を通してその楽曲の持つエネルギーを体で感じ取っているともいわれており、肉体への作用という点では情報量は多いほど良い。

しかしハイレゾの最も有益な点は、情報を収める器が圧倒的に大きくなったことでヴォーカルや個々の楽器、いわゆる“音像”を取り巻く周囲の空気の揺らぎまでもがリアルに表現できるようになったことである。音が広がる空間、これを“音場”と表現するが、この音場の情報量の差がCDとハイレゾでは大きく開く。ヴォーカルに加えられた残響感(リヴァーブ)の成分をも見通せるほど、音場の透明度が高くなり、楽器の重なりも立体的に捉えられるようになる。ヴォーカルや楽器そのものもディティールがさらにきめ細やかに描写されることで、息をのむほどに鮮やかかつ自然な質感として感じ取ることができるのだ。

このハイレゾをありのままに表現できるフラッグシップ・インナーイヤーレシーバーとして誕生したXBA-Z5は耳元に最も近い位置で音楽を再生できる“密閉”スタイルであるため、よりダイレクトに情報量を損失なく届けることができる。イヤーピースの内側に発泡クッション材を用いたシリコンフォームイヤーピースを用いていることもあり、密閉性や遮音性も高く、ハイレゾならではの微細で小さな音も克明に浮き上がらせてくれるのだ。しかしXBA-Z5の持つ魅力は、長年にわたり技術を蓄積してきたダイナミックドライバーユニットと独自開発によるバランスド・アーマチュア(以下、BA)・ドライバーユニットの第二世代を厳選された素材と組み合わせて融合させ、ハイレゾ音源再生を前提に開発された最高峰の3ウェイ・ハイブリッドモデルであるという点に尽きる。

バランスド・アーマチュア・ドライバーユニット

新開発のBAドライバーが持つ特徴であるT字型のシンメトリックアーマチュアとダイレクトドライブ構造が織りなす中高域のサウンドの癖のなさは絶品だ。特に高域部を担当するマグネシウムHDスーパートゥイーターは、マグネシウムの持つ歪み感のない澄んだ音色特性が加わり、非常に透明感、解像感の高い分離良い高域サウンドを実現している。なおこの高域の澄んだテイストは、帯域分割を行うネットワーク回路に用いたフィルムコンデンサーも大きく貢献している。そして16mmの大型ダイナミックドライバーユニットも色付けのない低域を実現させるため、コルゲーションの数を増やしたアルミニウムLCP振動板を採用し、入力された信号に対しての追随性も高めた。加えてこのダイナミックドライバーユニットと一体化した構造となるフルマグネシウムハウジングは剛性や内部損失も高く、不要な振動を抑え込むとともに薄くできるため、付帯音のないクリアなサウンドと、装着性の高さも両立することができたのである。

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XBA-Z5のサウンドを聴いて

ノイズ感が全くなく、ヴォーカルやピアノが立体的に浮き上がってくる。

XBA-Z5はソニーのハイブリッドタイプのBAドライバー搭載モデルのなかでも個々のドライバーユニットが奏でる音の繋がりが優れており、まるで一つのドライバーが鳴っているような一体感を味わうことができた。高域にかけては粒が細かくそれぞれの楽器の倍音成分まで色付けなく素直に浮き立たせ、定位や奥行き方向の表現も的確だ。一方低域方向においてはダイナミックドライバーユニットでないと表現できない、高密度で弾力に満ちた存在感豊かなベースサウンドを聴かせてくれる。

特にハイブリッドモデルで難しいのがこのダイナミックドライバーユニットとフルレンジBAドライバーユニットとの間の音の繋がりだ。このポイントがうまく処理できないと中低域にかけての量感が膨らみ過ぎて、高域の明瞭度や音ヌケが悪くなってしまう。しかしこのXBA-Z5ではそうした素振りを微塵も感じさせない、極めてコントロールの良い素直な音の繋がりを実現しており、ヴォーカルの分離が良く立体的な浮き立ちに貢献している。音の芯に厚みがあり、リアルで安定感ある声質も好ましい。ピアノやヴァイオリン、シンバルなど、高域の響き方がカギとなる楽器については倍音の輝きを巧みに操り、アタックの抑揚もきめ細かくトレースしてくれた。

ではここで具体的な音源でどのように聴こえるのか、ハイレゾ音源対応ウォークマンNW-A16にXBA-Z5を繋ぎ、中島美嘉の『ずっと好きだった〜ALL MY COVER〜』から「I LOVE YOU」(96kHz/24bit)を試聴してみる。イントロではピアノからオルガン、コーラスとギター、ツリーチャイム、ベースという順番で楽器が入ってくるが、それぞれのパートが分離良く、細やかなタッチノイズやアタックのキレも鮮やかに表現。その音量差や定位の距離感も明確にわかる情報量の多さはヘッドホンに繋がるクオリティである。キックドラムやベースの厚みもリッチで輪郭感もきっちりと描く。ヴォーカルの質感も付帯感なくすっきりと浮かび上がり、口元の僅かなかすれ、細やかなニュアンスも包み隠さず引き出してくれる。

次に付属のケーブルからスターカッド&マルチゲージコンダクター構造の別売り・高音質ケーブルMUC-M12SM1(1.2mステレオミニプラグ)に交換してみるとその表情は一変、高域にかけての透明感が段違いで、スライドギターやツリーチャイムの輝きが増した。ピアノは低域の響きと高域にかけての倍音がよりまとまり良くなり、ナチュラルなトーンが際立つ。低域方向ではキックドラムのアタックやベースの輪郭もより明確となり、抑揚感がより豊かとなる。同様に輪郭がくっきりと描かれるようになったヴォーカルやコーラスの質感は一層ディティールが滑らかで厚みも増し、安定感が高まった。後半にかけて盛り上がるゴスペルコーラスのゴージャスな厚みと最後の一節、静かに落ち着くヴォーカルとピアノ、オルガン(そして深いリヴァーブの澄んだ響き)との対比も美しい。ポータブルヘッドホンアンプPHA-3との組み合わせとするとより音像の表情が豊かとなり、各楽器の間にある空気感も鮮明になってくる。最後の一節、NW-A16直結時にはヴォーカルとピアノがメインで響いているように聴こえてきたが、この組み合わせではそれほど音量バランスが大きくないオルガンが叙情感豊かに旋律を奏でているのが明確に掴みとれた。

ヘッドホンケーブル/スターカッド構造
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最後に別売り・高音質バランス接続ケーブルMUC-M20BL1(2.0mm 3極ミニプラグ)、そしてポータブルヘッドホンアンプPHA-3との組み合わせも試してみたが、ノイズ感が全くなく、ヴォーカルやピアノが立体的に浮き上がってくる。センターに定位するヴォーカルの口元の潤い感や各楽器の肉付き感もリアルだ。抑揚豊かで密度も高く、奥行き方向の配置が手に取るように分かる。低域方向の明瞭度も格別で、エレキギターの低域とベース、キックドラム各々鮮明に浮き立つ。それはまるでスピーカーで聴いているかのような鳴りっぷりだ。

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ハイレゾが与える影響

本質を追い求めるXBA-Z5は、ハイレゾ時代の一つの理想。

これまでのCD再生環境であってもプレーヤーやヘッドホンのグレードを上げていくことで音質も良くなることは実感できていた。しかし昨今のハイレゾへの動きはこの潮流を根本から覆す大革命といえる出来事なのだ。ハイレゾ音源はすなわちアーティストが録音スタジオで作り上げたそのままのサウンドクオリティを直接リスナーである我々が聴くことができるということであり、音質の純度が大幅に引き上げられたのである。むろん技術進化によってプレーヤーやヘッドホンの品質も年々格段に良くなっているが、このXBA-Z5をはじめとするハイレゾ対応機器の登場によって、誰でも、そしてどこでもマスターサウンドをそのまま聴くことができる環境が完成したといえるだろう。特に空気の介在も極小に抑えられるインナーイヤースタイルのXBA-Z5であれば、音源の持つクオリティ、アーティストや録音状態までもがダイレクトに耳元に届くということでもある。

ハイレゾ音源が簡単に入手できるようになった今、録音現場も従来の音圧競争ではなく、品質本位に立ち返っていただきたいと思う一方で、再生機器も音源の持つ情報量や緻密さを色付けなくダイレクトに表現できることが必要とされるだろう。プロモニターではないXBA-Z5のようなコンシューマーモデルであっても楽曲の本質をきちんと把握できる能力を持っており、リスナーもより色付けない原音への渇望が高まってゆくことは想像に難くない。そうした点でXBA-Z5は現時点でハイレゾ環境における一つのリファレンスとしての能力を持ちえる希少なインナーイヤーレシーバーであるといえるだろう。その付帯感ないリアリティに溢れるサウンド再生能力はバランス接続によってより盤石なものとなる。環境を選ばず気楽に持ち運べるという最大の利点を持ちえた、ミニマムフラッグシップというXBA-Z5のスタイルは本質を追い求めるハイレゾ時代における一つの理想といえそうだ。

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XBA-Z5

新開発のHDハイブリッドドライバーを搭載したXBA-Z5

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オーディオ評論家:岩井 喬
1977年・長野県出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオで勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業に携わるほか、生録など、ポータブルレコーダーを使った収録も手掛ける。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。いち早く“オーディオ”と“萌え”の世界との親和性を見出し『サウンドガール デュオ−音響少女−』(白夜書房)などを執筆。『アニソンオーディオ』(音元出版)では監修も務める。商業誌で初めてレビューした製品がQUALIA010であり、以降ヘッドホン&イヤホンの世界に深く携わる契機となった。JOURNEYやASIA、TOTO、BOSTON、CHICAGO、ビリー・ジョエルなど、80年代ロックをこよなく愛している。

さまざまな角度から分かるフラッグシップの魅力

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