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ハイレゾの魅力を、いろいろな角度から、深く掘り下げる企画が続々。

スペシャルインタビュー 科学者編 脳科学者・茂木健一郎が語る「脳をリラックスさせるハイレゾという“音”泉」

身近な例を用いて脳の働きをわかりやすく解説する脳科学者、茂木健一郎。科学だけでなく美術、音楽への造詣も深く、批評家としての横顔も持つ茂木健一郎が、音楽を聞くことで心が揺さぶられるメカニズムとハイレゾがもたらす感動の力、そして脳にとって心地よい音楽とのふれあいの方法を語る。

茂木 健一郎
茂木 健一郎 プロフィール
脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。2005年、『脳と仮想』にて第四回小林秀雄賞を受賞。2009年、『今、ここからすべての場所へ』にて第12回桑原武夫学芸賞を受賞。

脳にとって、音楽とはどのような存在なのか?

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──音楽を聞くと心がワクワクしたり落ち着いたりと、いろいろな感覚を味わうことができます。音楽を耳にしているとき、脳にはどんな反応があらわれているのでしょうか。

茂木: テレビやCDなど、聞かない日はないと言えるほど音楽は身近な存在ですが、同時に脳にとってはとても不思議なものです。音楽、ひいては“音”は、物理的には「空気の振動」にすぎません。しかし、音楽となって私たちの耳に入ると、心が震えたり感動を覚えたりします。

カナダ モントリオール大学の研究で、音楽を聞くと脳の“報酬系”という部位の動きが活発になるという結果が出ています。これは食べたり飲んだりしたときと同じ反応です。空気の振動であるにもかかわらず、音楽を聞いたときの脳は、生きるために必要な行動をしたときと同じ反応を示した。つまり、音楽は水や食べ物のように人間に欠かせないものだということがわかったんです。

ご存じの方も多いと思いますが、脳は主に言語など論理的な情報を処理する左脳と、心地いい・美しいといった感情を受け持つことが多い右脳とに分かれています。たとえば文章を読むときは左脳の働きが活発になります。では音楽はというと、おもしろいことに左脳も右脳も活発に動いているんですね。

音楽は美しい音の響きや感動を楽しむと同時に、作曲やリズムに定石があるようにロジックとしての性格もあります。ネットでニュースを見たり、メールをチェックしたりと左脳を使うことが多い今の生活において、右脳と左脳のどちらもバランスよく反応する音楽に触れることは、脳のリラックスにとてもよいことだと思います。左脳ばかりを使っていると感動を忘れがちになって心が渇いてきますし、逆に右脳ばかり使うのもよくありません。論理的でありかつ情緒的でもある音楽は、左右の脳をバランスよく使う、脳にとってすばらしいごほうび、まさしく“報酬”だと思います。

情報量の多い“いい音”に接したとき、脳の中では何が起こっている?

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──音楽を楽しむためには、たとえばライブを聞きに行ったり、CDやラジオを聞いたりといろいろな方法があります。しかし音としてのクオリティーはそれぞれまちまちです。情報量の多いハイレゾ音源で音楽に触れて、ハイレゾの音を脳が認識したとき、脳はどんな反応を示すのでしょうか?

茂木:
ハイレゾ音源はCDを超える情報量と、人間が音として認知できる限界とされている20kHzを超える超高音域の音を記録していますよね。『音と文明-音の環境学ことはじめ』を著された大橋 力さんの研究によれば、超高音は音としては聞こえなくても体の皮ふなどを通じて脳になんらかの作用をおよぼすとされています。たとえばインドネシアのガムラン音楽を聞いたときの不思議な感覚は、この耳には聞こえない可聴領域外の音の作用が大きいと言われています。

音楽を聞いてワクワクしたり前向きになったりする心の動きは、感情の中枢とされる脳の扁桃体や大脳基底核、大脳辺縁系という、いわゆる無意識の領域と呼ばれる部位の反応からもたらされています。扁桃体や辺縁系の動きは、ノイズが少なく、情報量が多い、つまり“いい音”であるほど大きくなると僕は考えています。情報量が多く、さらに可聴領域外の音を含むハイレゾは、通常のオーディオを超える音楽の感動をもたらしてくれるのだと思います。

じつはノイズが多い聞き取りづらい音も、脳を通すと“いい音”に変わるんです。というのも聞き取りづらい音を耳にすると、脳は今までの経験や想像から無意識のうちに音質を補正します。音楽にかかわる随筆に、批評家の小林秀雄さんが発表された「モオツァルト」があります。戦後という時代背景もあって、小林さんはおそらくSPレコードで音楽を聞いていたと思います。音のクオリティーは現代のわたしたちと大きな差があったはずです。それでも名作を遺してくれた。脳のすぐれた働きによるものだと思います。

しかし、補完できるとはいえ自分の経験や体験をもとにしているので、補正には自ずと限度があります。いかにすばらしい脳でも、ヴァイオリンの音を聞いたことがなければその音を補正することは困難です。ですからふだんから良質な音楽に触れておくことが、感動を味わうために大切になるんです。音楽ならライブやコンサートでの生演奏の音を聞くことですね。生音(なまおと)での体験は、たとえるなら源泉掛け流しの温泉のようなもの。そして生音こそがベストと考えられていた音楽環境に、生音に勝るとも劣らないハイレゾが登場した。ハイレゾの登場はまさにお家に温泉ならぬ“音”泉が湧き出したようなものですね(笑)。

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ハイレゾ音源には、ライブを超えたライブ感がある

──ハイレゾ音源を実際に聞いてみて、茂木さんはどんなことを感じましたか?

茂木:
最近はライブやフェスイベントに行く人たちが増えていると聞きます。かく言う僕もライブに行く回数が増えています。ライブだからこそ得られる音楽の感動には、演者を直接見ながら音楽を体験できることやオーディエンスの一体感などがありますが、やはり大きな理由のひとつとして、“いい音”が聞けるという要素が挙げられます。現代人は時間を有効に使うために“ながら”で音楽を聞くことが増えてきていますが、“いい音”を聞くならできるだけいい音源で、それならライブの生音で、となるのは自然な流れだと思います。

音楽ファンがもっているイメージとして、“いい音”の頂点にはライブやコンサートの生音があります。そして録音した音を再生するオーディオは、レコードや圧縮音源など技術的、機材的な面から不完全な再現となることがあり、どうしても一段下に置かれてしまう。これは長年にわたって築き上げられてきた固定観念とも言えるかもしれません。確かに生の演奏に触れられるライブやコンサートはとてもすばらしい体験です。ただ、“いい音”をライブで聞く、ということは実は困難なことですよね。どんなにすばらしい音響効果のホールでも、席によって聞こえる音は違います。会場と音響機材の相性やエンジニアの腕によっても音は変わってきます。もちろん、それもライブの醍醐味のひとつです。しかし、純粋に音だけにフォーカスすると“いい音”と言い切るのは難しい。ハイレゾならいつでも特等席の音を再現できるんだ、ということを、今日実際にハイレゾの音を聞いてみて思いました。

ハイレゾは、今までのオーディオでは感じにくかったライブの雰囲気や空気感が感じられると同時に、コンサートよりいい音が聞けるんじゃないかという感覚がありますね。たとえばヨーヨー・マのチェロ独奏では、コンサートの生音でも聞いたことのない弓を戻す際のかすかな音も聞こえるなど、新しい発見がありました。目を閉じると、まるで僕の目の前でぼくのためだけに演奏してくれているような気分にひたれました。ヨーヨー・マが目の前で演奏してくれるなんてスペシャルな体験ですよね。ハイレゾならその体験を好きなときに何度でも味わえるんです。まさにライブを超えたライブ感とも言うべき体験ですね。

音源をダウンロード購入することで、聞きたい曲を思い立ったときにすぐ聞けるのもハイレゾのいいところだと思います。ネットの便利さと高音質なオーディオというベネフィットが重なっています。音楽は「聞きたい!」と思った曲を、聞きたいときに聞くのが一番です。気持ちには波があるので、たとえば今日はバッハが聞きたいな、カーペンターズがいいなと思ったとき、つまり波の頂点で聞くと、最高に楽しい気分になれますし、音楽の持つセラピー効果も高まってくるでしょう。

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脳を通じて体が音楽を、いい音を感じる

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──脳にとって心地よいハイレゾの聞きかたとは? 茂木さんがおすすめするハイレゾの楽しみかたを教えてください。

茂木:
ハイレゾを聞くときは、時間をゆったりと使うのがベターですね。30分、1時間と聞くことで音楽をしっかり味わうことができるし、脳へのマッサージ効果も現われてきます。ゆっくり時間をかけることで効果そのものも深くなると思います。忙しい生活の中で、音楽だけを聞く時間はなかなか取ることができないかと思いますが、温泉に入るような気持ちで時間を取って、しっかりリラックスして欲しいですね。

音楽を聞くときはオン/オフをはっきり分けて集中することが大事。音の世界にしっかりとひたることで、忘れかけていた音楽の喜びが心の奥にジワッと表われてきます。好きな音楽を“ながら聞き”にしておしまいというのは、やっぱりもったいないし、音楽のセラピー効果も薄れてしまう。なかでもハイレゾは源泉掛け流しの温泉も同然なのだから、温泉と同じように音の世界にゆったりとつかるのがおすすめです。