カメラの高感度性能が上がる一方で、フラッシュを用いることでしかできない写真表現がある。写真家 小澤忠恭氏にフラッシュを用いたポートレート作品の解説と、フラッシュによって広がる写真表現の幅について語ってもらった。
フラッシュを用いたα99でのモデル撮影。撮影を通じて感じたところを写真家 小澤忠恭氏が語った。
フラッシュを使う目的は、ただ被写体を明るくするためではなく、ハイライト部分をつくったり、陰影をつけたりするためなんです。光の強弱で影ができると情感が出て、写真に物語が生まれます。座っている和装の女性をどう描くか、ドラマを作っていくのと同じです。障子の向こうに何があるか想像して、庭からの木漏れ日を入れようとか、池の反射を入れようとか、部屋の構造を意識しながら昼や夜の灯りを演出していきます。ただ影を入れれば絵が美しくなるからではなく、画面の中に自分のストーリーを描くことが大切なんですね。それから重要なのは、モデルと背景を別々にライティングする意識です。モデルを照らした灯りが後ろに漏れるんじゃなくて「モデルはこれくらいの明るさ、背景はこれくらい」と、画面を構成する要素をバラバラに分解して再構成する。それをひとつのストーリーに仕上げていくように意識してみるといいと思います。
実際に撮影してみて、このフラッシュはかなり秀逸ですね。一度撮ってから少し光を調整するだけで思い通りの露出がとれます。背景が明るすぎれば光量を落とすだけで、まるで露出補正と同じような感覚で使えます。昔はフラッシュの調光にさまざまな知識や経験が必要で、設定からシャッターを切るまで30分以上もかかっていました。今ならTTL調光をオートにしておけば簡単に適正露出がとれて、数分で撮影できてしまう。よく言うことですが、まるで助手が2、3人入っているようなもの。僕も込み入った設定なんかひとつもしていないし、この撮影でも露出計を持っていったけど、一回も使わなかった。露出計の出る幕がないんですね。アマチュアの方でも多灯ライティングがサクサクできてしまう。今までフラッシュ撮影は難しいと思っていた方にも、ぜひチャレンジしてほしいですね。
ガイドナンバー60という光量もちょうどいい。光量が大きい分には弱くすればいいだけだから、ディフューザーやバウンスアダプターを取り付ければ、フラッシュ1灯でもかなり表現の幅が広がります。それから、調光補正機能が格段に良くなっていて、近づいて撮ってもぜんぜん露出オーバーにならない。昔なら顔が真っ白く飛んでしまいましたから。今回はフラッシュを3灯使いましたが、3灯あると日中の太陽と戦うこともできる。どういうことかと言うと、フラッシュ3灯を強く当てると、自然光の方が弱くなる。そうすれば屋外で陰影をつけたり、被写体や背景の色を濃く出したりといった、とても個性的なフラッシュ表現が可能になるので、撮影するときのひとつの武器になりますね。
このフラッシュとα99が有機的に結びつくことで、フラッシュ撮影の敷居はグッと下がりました。ただ、その進化は撮影を楽にしてくれるけれども、逆に言えば誰でも同じような表現ができてしまうことにもなります。カメラもフラッシュも使いこなさないと、逆にカメラに使われてしまう。オーソドックスな表現が簡単になった分、そこが表現のスタートライン。僕らカメラマンにとっては、技術と創作は常に競争で、今できることでいちばん遠くの到達点を目指さないといけないし、それを楽しんでいきたいですね。フラッシュには無限の当て方があるから、セオリーのようなものは教科書で練習して、その先に自分なりの工夫や発想で個性を引き出して欲しいですね。このフラッシュとα99なら、その個性や発想を確実に引き出してくれると思います。