α Owners' Magazine Vol.2

写真家 小澤 忠恭 SPECIAL INTERVIEW 3

ポートレートの切り札、Planar 85mmを使いこなす

繊細な描写となめらかなぼけ味で、多くのフォトグラファーを魅了してきたPlanar T* 85mm F1.4 ZA。 最高のポートレートレンズとして名高いこのレンズの魅力やα99ならではの使い方、テクニック、 さらにポートレート撮影の極意まで写真家 小澤 忠恭氏に存分に語ってもらった。

僕は抽象化の手段として、ぼけが非常にきれいにでるPlanar 85mmを使います

1/80秒 F3.2

ポートレートを撮るときに“ぼけ”というのは抽象化のひとつの武器になります。抽象化とは写真に写っているものの中から感情や出来事など一番の主題となるものを抽出してあげること。たとえば一人の女性がちょっと悲しげな顔をしている場合、その気持ちを見る人にダイレクトに伝えるのに、背景に余計なものがあるとそこに目がいってしまい邪魔になってしまいます。でも完全にぼかしてしまうのならスタジオで撮ればいい。僕がこの場合の背景に求めるのは、モデルの気持ちにより共感しやすくなるための情報なんです。少し暗い部屋にいるときの雰囲気や、野原に立ったときの草の揺れる感じは、写真を見る人も体験したことがあるはず。それをぼかして適確な情報として伝えればモデルが感じているものも共感しやすくなります。
 そして、そういう狙いでポートレートに風景を生かすなら85mm〜100mmくらいのレンズがちょうどいい。ただし、抽象化したけど汚くなってしまったというのでは意味がない。そこで僕は、ぼけが非常にきれいに表現できるPlanar 85mm T* F1.4 ZA(以下Planar 85mm)を使うんです。このときに重要となるのが合焦したところの情報量の多さと繊細さ。モデルのほっぺたを指で押したらへこみそうなくらいに質感を表現するには、合焦したところがしっかりシャープにでていることが大事。キレイなぼけと合焦したところのシャープな描写、その両立がPlanar 85mmの魅力ですね。

Planar 85mmのぼけは、昔の記憶を思い出すときの淡いぼけ方に近いんじゃないかな

1/125秒 F2

この写真は、Planar 85mmのぼけの美しさに助けられて撮りました。ガラス越しに女性を撮っているのですが、晴れていたので向かいの屋根の瓦が白く映り込んでしまっていた。そこで前ぼけをいろいろ足してみればいいんじゃないかと考えたわけです。でも、汚いぼけにならなかったのはこのレンズのおかげだと思いますね。夢のなかにでてくるような雰囲気を演出できました。この写真に限った話ではないけど、Planar 85mmのぼけは、人が昔のことを思い浮かべるときの映像のぼけ方に近いのだと思う。記憶のなかの淡い感じとシンクロするから、写真を見たときに自分の思い出と重なる。それがいい写真だと感じるきっかけになるんじゃないかと思います。

一枚の写真がすでに言葉を持っているから、ポートレートにおいて相当威力のあるレンズです

1/320秒 F3.2

ポートレート撮影でのモデルとの距離感は「物理的距離」と「精神的距離」の2種類があります。いくらモデルに近づいて撮っても印象として遠く感じることもあれば、300mmで遠くから撮っていてもそばに感じられることもある。たとえばポートレートの作品集などの構成を考えたとき、最初から精神的距離の近い写真を見せられても、見る人はモデルの世界観についてこられません。だから徐々にモデルに感情移入できるような作品の流れを考えるわけです。そうすると見ている人がもっとモデルについて知りたくなってくる。そうなったときの切り札としてPlanar 85mmを使う。だから僕がこのレンズを使うときは、モデルに感情移入しはじめたときです。構成上かなり肝心なときに使うレンズではありますね。モデルの情感をしっかり伝えることのできるレンズだから、撮れる写真は叙情的な画になることが多い。文学に近いんですよ。一枚の写真がすでに言葉を持っているから、そういう意味ではポートレートにおいて相当威力のあるレンズだと思います。
 うまく撮れたときの威力はすごいし、面白い。でも昔だったらその1枚がうまく撮れても残り300枚無駄になることが多かった。それだけPlanar 85mmは撮る者の力量が試されるレンズでもあるということ。それがEVFで撮るようになってからは確率が高まりましたね。写る結果が先に見えているので。そうなると撮る力も大事だけど、見る力も大事になってくる。EVFでせっかく結果が見えていても、いい画かどうか分からなければ生かせません。それを瞬時に判断できれば、趣味として相当高度なレベルに来ているはず。すぐにうまくなれるわけじゃないけど、EVFならそのレベルに到達できる可能性が高まるということですよ。

現場の状況がベストじゃないときも、有機ELファインダーがリカバーしてくれるから撮れる

1/20秒 F2

最近どこのカメラも高感度性能は上がっているから暗いところでもよく写る。だけど残念なことに暗くて見えないからピントが合わせられない。それがα99の有機ELファインダーならしっかりピントを合わせて撮れる。この野原の写真は、それを体現したものです。もともとロケハンのときからこのイメージで撮りたいというのはありましたが、実際に撮り始めたときには、周囲が薄暗くなってきた。だからこのときはEVFでリカバーできるかの勝負でしたね。人間の眼だけでは、ピントの精度に自信が持てないほど、周囲が薄暗くなってきたなかでこれが撮れたのは、ファインダー上で見えたからですよ。現場の状況がベストじゃないときも、EVFがリカバーしてくれるから撮れる。しかもそれが写真家としての経験や想像力がなくてもできるからすごいんです。

Planar 85mmは撮影者の力量が試されるレンズ。でもα99ならきっと使いこなせるはずです

1/60秒 F2.8

僕がポートレートを撮るときはα99のクリエイティブスタイル機能の「ポートレート」を多く使用します。肌がすごくきれいに描写できるし、わざとらしくない。撮影後に加工するようなことがほとんどできているからです。でもユーザーのなかで色味が気になるという方は「ニュートラル」をおすすめしますね。特にRAWで撮るユーザーは、「ニュートラル」をベースに現像すればいいと思います。もうひとつ、今個人的に気に入っているのは「ソフトハイキー」です。「ソフトハイキー」設定後にマイナス方向にして、ホワイトバランスをアンバーの方に持ってくる。そうするとノーマルな色味でソフトハイキーの画づくりになる。これで僕は動画をよく撮るのですが、圧倒的にフィルムっぽい画になる。要はフィルムっぽさを自分でつくっているんです。ある意味、α99のなかには何種類もフィルムが入っているのと同じ。だからどのフィルムを使うか、つまりモード選択をしっかり考えながら使うことが大事だと思いますね。掘り起こせば楽しい機能がいっぱいあるのだから、それを利用して自分の好きな画をつくっていかないと。

さまざまな焦点距離のレンズがありますが、中でも力量が試されるのが35〜85mmです。なぜなら撮った写真は普通の画角にしかならないのに、それでも伝わってくるものがあるということですから。Planar 85mmの場合、一番おいしい絞り値はF2.5だと感じていますが、ぼけが繊細なだけにこの辺の絞りを使いこなすのはなかなか難しい。画角だけでは使いこなせない部分がある。そう考えるとPlanar 85mmはまさに撮影者の力量が試されるレンズですね。もしかしたら光学ファインダーのときに使いこなせなかった人もいるかもしれません。でもEVFなら撮る前にどう写るかが見えるから、きっと使いこなせるチャンスが増えるはずです。α99がユーザーの上達を助けてくれるんですよ。だからこういうレンズはぜひEVFで楽しんでもらいたいですね。

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