「カールツァイスレンズ」。それは、写真を趣味にしている者にとって長年憧れの的だった。フィルムカメラ時代には「暗室の中で浮かび上がってくる画像を見ただけで、ツァイスレンズで撮影したか否かが分かる」と言わしめたほど、立体感、実在感の再現は伝説となっている。それほどの歴史を持つカールツァイスをオートフォーカスで使用できる唯一(※)のデジタル一眼カメラが、ソニーのαであることはご存知だろうか。そんなαならではの楽しみかたも踏まえながら、レンズ史にその名を刻んできたカールツァイスレンズの圧倒的な描写力を、ぜひ堪能してみてはいかがだろう。
※2012年8月現在
写真レンズ発展の歴史は、カールツァイスなしには語れない。カールツァイス社は十九世紀半ばのドイツ・ケルンでその産声を上げる。カール・ツァイス自ら、厳しい検査に合格しなかった製品は打ち壊し、世に出さなかったという逸話が残っているほど、品質管理には当時から絶対の信頼を誇っていた。そして、エルンスト・アッベとの出会いがレンズに革命をもたらす。
それまで経験に頼っていたレンズ設計を、初めて科学的なアプローチによる光学技術として理論化したのだ。さらに写真レンズの発展を飛躍させたのが、カールツァイス社による全く新しいレンズ光学系の開発だ。「プロター」「プラナー」「ゾナー」と言った、歴史に残る往年の名レンズの誕生である。色収差の評価に使われる「アッベ数」や、コマ収差と非点収差を抑える「アナスチグマート光学系」、さらにホタル石を用いた「アポクロマート」などの現在も使われている光学技術は、カールツァイスが開発・発展させたものであり、カールツァイスの光学技術の歴史が写真レンズの歴史そのものだと言っても過言ではない。
2つの写真を見比べて欲しい。あなたはどちらがシャープに見えるだろうか。左は「解像力は高くないが、コントラストが高い」写真。右は「解像力は高いが、コントラストの低い」写真である。
写真レンズの評価が解像力一辺倒だった時代に、コントラストと解像力がシャープネスに与える影響を提示し、それらを総合的に評価するMTF(Modulation Transfer Function)を提唱したのがカールツァイスだ。今ではレンズ性能の評価にMTFを用いていない企業はないといっていい。カールツァイスは、美の指標ともいえるMTFをレンズ1本1本に示すことで、カールツァイスレンズの描写の良さを保証したのである。
MTFは、画像(被写体)における細かさごとのコントラストの再現を示したもので(上左図)、通常は画像が細かくなるほどコントラストも低くなる。レンズメーカーが示すMTFの多くは上右図のように、画面の各点(画面中心からの距離で示す)におけるMTFを、画像の細かさごとにまとめて表示する場合が多い。
レンズの表面に薄い膜を均一に蒸着することによって、レンズ表面での光の反射を抑え、レンズの透過率を上げる技術「レンズコーティング」が、もともとはツァイスの特許であったことはよく知られている。ツァイス社はさらに、写真用レンズにおいていく層もの薄膜を重ねる多層膜の理論を確立した。これがT*コーティングである。
それまではレンズ表面での反射が多く、レンズの透過率は低かったので、レンズ性能をあげるためにレンズ枚数を多くすることが困難だったが、コーティング技術の開発によってそれが可能になり、より高性能なレンズが開発されるようになった。もちろんレンズの内面反射も抑えられ、フレアーの少ない、よりコントラストの高いレンズができるようになったことは言うまでもない。
カールツァイス社ではこのT*コーティングを、単にレンズ面に施しているというだけでなく複数のレンズで構成される光学系全体の性能が基準を満している場合にだけT*と記載し、高い信頼性の証としている。
F1.4の絞り開放値から理想的な描写性能を示し、全画面にわたり高い解像感と美しいぼけ味を高次元で両立する、新時代の「プラナー」。α(Aマウント)本体搭載のボディ内蔵手ブレ補正機能と大口径レンズの組み合わせにより、暗いシーンの手持ち撮影にも威力を発揮。
圧倒的な広角描写で多くのフォトグラファーを魅了してきた「ディスタゴン」の名を冠するF2.0の大口径広角単焦点レンズ。画面全域でシャープネス、コントラストに優れた描写力を実現し、開放F値2.0と円形絞りによるぼけ味の演出も魅力。さらに最短約19cmまでの近接撮影が可能。
超広角領域の16mmから広角35mmまでカバーする開放F値2.8の大口径広角ズームレンズ。ZEISS「T*(ティースター)コーティング」の特性向上により、ゴーストやフレアを抑えたクリアな描写を実現。最大撮影倍率は0.24倍と高い近接撮影能力を備えているほか、防塵防滴に配慮した設計も施しており、幅広い撮影環境に対応。