法人のお客様ラージセンサーカメラ FS7 II 開発者インタビュー

「プロの道具として、完成形を目指して」

使い勝手のさらなる向上に向けて
徹底的に取り組んだFS7 II

開発チームロングインタビュー

無数のポイントにおよんだ新たな取り組み

私たちが取り組んだのは、全てが一体となって大きく実感できる『プロのための使い勝手』なんです」と語る商品企画担当の大石

「FS7に寄せられたフィードバックを全て取り込み、さらにその上を目指して企画したのがFS7 IIです」と語るのは、商品企画を担当した大石である。
2年ほど前に発売されたFS7はドキュメンタリーをターゲットアプリケーションとして「機動力をもった大判カメラ」をコンセプトに開発された。
多くのユーザーに綿密なヒアリングを実施して企画・開発を行い大ヒットモデルとなったが、その高い性能と汎用性から映画やCM、あるいは情報番組やバラエティ番組といった、当初の想定を超える幅広い用途に使われるようになり、そのためユーザーからさらなる要望について多くの声が寄せられた。今回FS7 IIでは、FS7へのフィードバックを徹底的に反映し、あらゆる用途において究極の使い勝手を目指して企画したという。進化点として市場から注目されるポイントは、電子式可変NDフィルターや新付属レンズ、レバーロックタイプのEマウントなどで、もちろんこれらは大きな進化だが、細かな改良点やユーザーの目には触れない部分も含めると取り組んだ箇所は無数におよぶという。一方で、FS7で提唱したコンセプトやユーザーインターフェースとの一貫性も重要であり、これらキャリーオーバー要素と新規要素を高い次元でバランスさせ、究極の完成度を目指したのがFS7 IIであるという。

全てが一体となって大きく実感できる「プロのための使い勝手」

数々の新フィーチャーも、多くはユーザーフィードバックに基づく「使い勝手」に取り組んだ賜物であるという。新しい付属レンズは、より幅広い映像制作現場に対応できるワイド端30.6mm(35mm換算)からのズーム領域をもち、ズームリング回転方向切り替え機能を搭載しつつ、メカニカルズーム機構によりダイレクトなレスポンスを実現した。
さらにENGスタイルで運用する際に便利なレンズシャッター内蔵フード、フォローフォーカスに対応する0.8mmピッチのフォーカスギア、簡単に脱着できるレンズ部の三脚アタッチメントなども搭載し、マウントにはレンズを回転させずに脱着できるレバーロックタイプのEマウントを新規に開発した。全ては「機能」ではなく「使い勝手」の観点で企画を行った結果だという。

多くのユーザーフィードバックを取り入れ進化した新付属レンズ「E PZ 18-110mm F4 G OSS」

特に電子式可変NDフィルターはPXW-FS5で好評の機能で、搭載への要望が非常に高かったという。従来のドラマ、映画、CMのような創作性の高い作品で浅い被写界深度を維持する目的だけでなく、大判センサーを一般用途にも幅広く活用する流れが増えてきている中で、逆に被写界深度はそこそこ維持しながら、小絞りボケの原因となるアイリスの絞り過ぎは避けたいというニーズも出てきている。

作品の用途に適したアイリス開度や被写界深度を維持して撮影が行える電子式可変NDフィルターの使い勝手は一度手にすると手放せない。「どれも1つ1つが小さな新機能のようにも見えますが、私たちが取り組んだのは、全てが一体となって大きく実感できる、『プロのための使い勝手』なんです」という。

ソニー独自の革新的デバイスである電子式可変NDフィルター

レンズ絞りを固定したままシームレスにNDフィルターの濃度を変更できるため、狙った被写界深度を維持したまま、明るさ調整ができる

カスタマイズの幅を飛躍的に広げ、将来の要望にも応えたユーザーインターフェースの設計

「外観はパッと見、変わらないのですがFS7 IIは似て全く非なる製品なんです」と語る、外装設計担当の伊藤

「多様なカスタマイズや組み立て、バラし作業を工具なしでできるようにする。そして、各種調整を片手で素早く、かつストレスなくできるようにする、というのが今回の取り組みでした」と語るのが、外装設計の伊藤である。FS7が幅広い用途で利用されるようになり、意識したのが、さまざまなカメラの構え方や三脚使用時の多様な使い方に対応するカスタマイズ性だったという。

カメラの構え方については、市場から要望の多かったデジタル一眼に近い持ち方を可能にする「ウェストホールドスタイル」に新たに対応した。またグリップアームの長さ調整機構についてはFS7ではネジを緩めるとグリップの自重で最長位置までストンと移動するため、片手で最適な位置に保持しつつ、もう片方の手でコインを使ってネジを締めるという作業となり担いだ状態での調整は難しい。
FS7 IIでは担いだ状態で片手で調整できることを目指し、任意の位置でグリップが止まるようにアーム内にブレーキ機構を設け、さらに工具を使わず手で締めつけることができるようにした。ブレーキ機構は外見からは全く分からないギミックの一つだが、そのテンションなどの力加減も試行錯誤をしてこだわったという。

グリップアームの変更により市場から要望の多かったウェストホールドスタイルに新たに対応した。

グリップアームを取り付ける菊座部と長さ調整機構。菊座中央の凹形状とアームの凸形状を作ることで、ウェストポジションのアーム取付を簡単にした。

新規開発したネジ。ネジの製造工程で、先にワッシャーを取り付けた後、ネジ山を転造で作ることで、現場でのポジションチェンジ時にワッシャーが抜け落ちることがないよう配慮している。

また操作スタイルのカスタマイズ範囲を拡げることにより留意したことが「全ての位置関係において、無理やストレスのない操作を可能にすること」だったという。指の挟み込み等の危険性が起きないことはもちろんのこと、「指があたる」「ひっかかる」といった現場でのちょっとしたストレスも取り除く配慮を入念に加えて行ったという。

 ビューファインダー周りにも細かく手を加えたという。φ15mmの丸形ロッドは業界標準でありながらも、ファインダーの位置調整の際に水平が保てない課題があった。FS7 IIでは、角形ロッドを採用することで課題をクリアし、さらに付属パーツの利用により丸形ロッドにも対応できる仕様とした。さらにアイカップを片手で脱着できるよう取り付け部を変更したり、先に述べたアームの長さ変更も含めて、様々な調整をする際、いちいち製品を置いて調整するのは、撮影現場では時間のロスにつながると考え、製品を肩に担いだ状態でも容易に調整できる設計を心掛けた。
また、締め付けクランプを増やすことにより、マイクホルダーが簡単に脱着でき収納時の利便性が高まったほか、ファインダーをモニター的に使うための折り畳み式フードも付属品として新たに追加した。
さまざまな要望やフィードバックを取り込みながら、さらにその結果生まれる先の要望まで見越して先回りして設計することを心掛けたという。

ロッドクランプ。付属の丸形ロッド用スペーサーへ交換することにより一般的なφ15mm丸形ロッドにも対応する。

取り付けクランプのツマミ部。増設したクランプも、ロッドを締めつけたままツマミ部分を引き上げて回転させ、ツマミを邪魔にならない位置に変更できるようにした。このような使い勝手への取り組みは随所におよぶという。

従来のアイカップに加え、付属品として追加された液晶フードは折りたたみ構造にすることで、胸ポケットやウェストバッグなどに収納しやすくする工夫をしている。

見た目に違いを感じない部分にも無数の改善

細かな進化はこれにとどまらない。見てわかるアサイナブルボタンの追加などにはじまり、オーディオ系操作部の誤操作防止カバーを横開きから縦開きに変更、内部構造と放熱経路見直しによる排熱効率の改善、XQDカード取り出し時のカード飛び出し量の変更、XQDカードスロットカバーの開閉音の改善に至るまで、無数の使い勝手の向上のために、結果的に本体の金型も半数以上を新規に起こしたという。その結果、一見するとFS7と変わらないような外観でありながら、全く新しいカムコーダーが誕生した。それがFS7の思想を受け継ぐ上位モデルFS7 IIであり、冒頭の「外観はパッと見変わらないのですが、FS7 IIは似て全く非なる製品なんです」という伊藤の言葉が改めてよくわかる。

わずか18mmの中にレバーロックタイプのEマウントや電子式可変NDフィルターなどを凝縮し強度や剛性を両立する高いハードルをクリア

「実質的には新しいマウントなので、検討しなければならないことも、やってみてからわかることも山ほどありました」と語る、マウント設計担当の宮尾。

「Eマウントはマウント面からイメージセンサーまでわずか18mmしかありません。この中で全てを盛り込むことが苦悩の連続でした」と語るのがマウント設計担当の宮尾である。今回、PLマウントやB4マウントと同様に、マウント側リングを回転してレンズを固定する構造を採用するにあたって課題となったのが、フランジバックがわずか18mmしかない、というEマウント特有の壁である。

マウント機構のみならず、電子式可変NDフィルター、IRカットフィルター、ローパスフィルターなど多数の機構が加わる。特に、電子式可変NDフィルターは、ND OFFの際には、NDフィルターユニットをモーターでスライドさせて、退避させる構造となっている。また、退避させるだけでは、NDフィルターと空気で屈折率が異なることからバックフォーカスが変化してしまう。そのため、退避させるだけでなく同じ屈折率を持つクリアのフィルターと入れ替えなければならない。また、さまざまなレンズやアクセサリーの装着を想定した重量にもマウントは耐えなければならない。しかも、耐えるだけでなく光学性能もしっかりと維持されなければならない。こうした複雑な機構を内蔵しつつ、同時に頑強さを兼ね備えた構造を、わずか18mmのスペースで実現することにチャレンジしなければならなかった。

新しく開発したレバーロックタイプEマウント

マウント部背面。PLマウントのように大きく寸法にゆとりのあるマウントに比べ、設計・製造に要求される精度がケタ違いに高く、精度と量産性の両立に苦労したという。

各種マウントの設計経験者も集まり、ノウハウを結集

Eマウントは単にフランジバックが短いだけでなく、剛性のキーとなるレンズのマウントにかかる爪部分の肉厚も制限があり、マウントに脱着する際の回転角もPLマウントと比べると回転角が小さい。回転角が小さいと、回転に伴う摺動の繰り返しでマウント側が削れて、長期間の使用でレンズをしっかり固定できなくなる恐れもある。そこで、FS7 IIのマウント部の爪には「窒化処理」という特殊処理を加えて硬度を高め、耐摩耗性を飛躍的に向上させた。従来のレンズマウントには導入されていなかったテクノロジーである。

また、Eマウントは、ミラーレス一眼レフカメラ用のマウントとして開発されたこともあり、脱着の回転方向が異なる。レンズを回転させて取り付ける場合にレンズ側が右回りとなるように作られており、カメラ本体側のマウントを回転させる場合には、PLマウントやB4マウントとは逆に左回転をさせなければならない。今回の設計では、PLやB4に慣れたお客様が回転方向を間違えることによるレンズ脱落事故を防止するため、マウントの自動ロック機構も備えた。「手動ロックではロックを忘れることがある。それでは意味がない」と、自動ロックにはこだわったという。これをメカニカルに実現するため、そのギミックには知恵を絞ったという。さらに、レンズマウントを刷新して判明したことが、従来のマウントキャップが流用できない、ということであった。カメラのマウント側が回転するために、キャップも同時に回ってしまうのである。そのため、新規開発はマウントキャップにも及んだ。

そして、Eマウントには、すでに多数のレンズやアクセサリーの資産がある。全てのレンズ、全てのアクセサリーが物理的に干渉なく装着できる構造に取り組んだ。さまざまなレンズやマウントの設計経験者も集まり、難度の高い、この新マウントにノウハウを結集した。マウント回転機構部に塗布するグリスも新たに選定し直し、マウント回転時の操作感に至るまで、徹底的にこだわった。「実質的に新しいマウントなので、検討しなければならないことも、やってみてからわかることも山ほどありました」という。

マウント表面と新開発のマウントキャップ。マウント側回転を考慮されていない従来のレンズ群に物理的に干渉せず、かつ、脱着時の高い操作性を実現するために知恵を絞ったという。加えてマウントキャップ1つにも、その先の要望を見据えて、装着方向が一目でわかる角形のツマミ形状を導入するなど、新たな使い勝手への取り組みを心掛けたという。このマウントキャップは、従来のEマウントのカメラにも利用できる。

FS7 IIの誕生に大きく役立ったネット上に溢れるユーザーの声

「いたる部分の無数の進化を、実際に製品を手に取って体感してほしい」と語る、プロジェクトリーダーの鈴木。

「実はブログやSNSなども日々チェックして、製品作りに役立てています」と語るのが、今回のFS7 IIのプロジェクトリーダーを務めた鈴木である。日頃から、新製品の開発にあたっては、世界中の既存ユーザーの声を、販売会社や世界に広がる拠点から集める努力をしているが、それと同じくらい役立ったのは、ブログやSNSなど、ネット上にあふれるユーザーの声だったという。特にFS7が世界的なヒットとなったことにより、多くのユーザーが、製品の感想にはじまり、さらなる要望、はたまた実際の運用事例に至るまで、多くのコメントや写真をアップしていた。どうしても、伝聞による報告だと感触やニュアンスまでは伝わりにくいが、ネットを通じたフィードバックではそれらも余すことなく伝わり、FS7 IIの設計に効果的に活かすことができたという。これについては、外装設計担当の伊藤も「Instagramで現場の写真を上げてらっしゃる方が多かったのが印象的でした。『ああ、こういう風にカスタマイズしてるんだな』とか『こういう風に使っているんだな』というのが一目でわかり、とても勉強になり、設計に活かすことができました」と、嬉しそうに声をそろえた。
例えば、新規に搭載した電子式可変NDフィルターも、幅広い用途で使えるよう、ワンプッシュオートND機能や、フルオート撮影時のND連動など、ENG的な用途にも便利に使えるようにした。こういったことも、ネット上のフィードバックから、幅広い用途でFS7が使われていることを知ったのがきっかけになっているという。鈴木は「いいものを作る上で直球のメッセージはとても役に立ちます。これからも、ちょっとした感想でも、気軽に上げていただけたら、私たちは必ず目を止めて、必ず受け止めます。」と熱意を滲ませた。

スペック以外のFS7 IIの良さを是非感じてほしい

「使い勝手の徹底した進化」を掲げた今回のFS7 IIは、多くのFS7ユーザーの声を受け止めて開発を行った一方、無数にちりばめた改善の数々はとても目に見えにくいのが悩みだという。どうしても、製品のカタログやWebサイトに上げる情報は、注目度の高い機能の列挙になってしまいがちで、使い勝手の良し悪しについては、文字や言葉でのアピールがとても難しい。鈴木は「いたる部分の無数の進化を展示会や店頭などで、是非多くの方に手に取って実際に体感していただきたい。ソニーの大勢のエンジニアがこの商品に込めた思いや狙いをわかっていただけると思います。そして、もしこの商品がお客様の思い描いた映像作品を作り上げるための、ほんの一助にでもなれれば、エンジニアとしてこんな嬉しいことはありません。」と述べて、今回のインタビューを締めくくった。

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