Special Interview

従来のAORの解釈やリスニングスタイルを一変させ、新たな価値観を生み出した“Light Mellow”の専門チャンネルが、Music Unlimitedに初登場!
定番曲はもちろん、文字通りメロウでグルーヴィーなAORナンバーが約500曲セレクトされた待望の新チャンネルです。
そのスタートを記念して、金澤寿和さん(監修・選曲)のスペシャル・インタビューをお届けします!

■99年に発行した洋楽AORのガイド本によってスタート

———Music Unlimitedでは様々なジャンルにフォーカスしたチャンネルがすでに配信中ですが、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)に特化したチャンネルは初登場となります。特に日本においては、『Light Mellow』シリーズをはじめとするコンピレーションが多くリリースされるなど、非常に人気のあるジャンルだけに待望の新チャンネルとなりますが、選曲においてはどんなところにポイントを置いてセレクトされましたか?
金澤 AORには明確な線引きがなく、極端にいえば際限なく広がっていくジャンルでもあるので、どこまで広げるか、どこまでならリスナーの皆さんが納得できるかということを気にしながら選曲をしました。もちろん王道の曲は押さえつつ、日本のマニアックなAORファンにも納得してもらえるようなラインナップになったと思います。AORって、アメリカではアダルト・コンテンポラリーと一般的に言われて、いわゆる日本で言うところのAORより幅が広いんですよね。例えばエアロスミスのパワーバラードなんかも平気でその範疇に入ってくるわけです。今回はエアロスミスとまでは言いませんが、ハートとかスターシップとか、ジャーニーとか、多分ここが限界だろうっていう(笑)、境界線のところまでは入れました。
———なるほど(笑)。国ごとはもちろん、人それぞれでどこまでがAORなのかというような境界線は確かにあるような気がします。そもそも金澤さんが『Light Mellow』というキーワードを提唱されたのはいつ頃からなんでしょうか
金澤 99年に発行した洋楽AORのガイド本『AOR Light Mellow』からでしょうか。もとを返すと、ある雑誌の特集で“Light Mellow”というくくりで使われたのが最初で、そこに僕はライターで参加していたんです。それから数か月後にそのAORガイド本のお話がきたんですけど、80年代後半から90年代の時代は“AOR”とストレートな物言いをすると軽く見られがちだったんですよね。そんな雰囲気もあって、AORと言いきるのは微妙かなと思って頭に浮かんだのが、AORという言葉が生まれる前にあった“Soft and Mellow”という呼び方。AORよりも、メロウ・フュージョン的な要素が入っていて、もう少し幅が広い感じがあったんです。それを“Light”に置き換えた、一種の造語なんです。
———そのふたつの“Light”と“Mellow”が合わさるだけで、だいぶイメージが違ってきますね。
金澤 今はAORも再評価されてポピュラリティーを得てきましたが、80年代と90年代は中古レコード店でもAORというコーナーはほとんど存在していませんでした。そういった背景も含めて、本にAORという言葉を生々しく出すのが憚られたんですよね。僕も世間が抱くAORのイメージより幅を出したいと考えていましたので、その上で“Light Mellow”というキーワードはジャストかなと思いました。

■「Free Soul」と同時代性を持ったAORの提唱

———実際に金澤さんが“Light Mellow”を提唱し始めて、それまではワンコインで買えていた中古レコードがいきなり高騰するようになったのを実際に目にしたりもしていますが、そうした動きは橋本徹さんの“Free Soul”とかなり近しい気がします。
金澤 そもそもAORのガイド本を作ろうという発想を遡ると、橋本さんの“Free Soul”の中でAOR的なものが少しずつ語られていたというのが大きいんです。“Free Soul”が考えるAORが若い人たちに広がっているなら、AORの主流もイケるんじゃないの? というのが編集者の頭にあったと思うんですよね。
———例えば、それまでのボズ・スキャッグスと言えば「We're All Alone」一辺倒だったのが、「Lowdown」や「Jojo」といった曲にも光りが当たるというか。グルーヴという観点で彼の曲に接するというようになったのが、“Free Soul”と“Light Mellow”以降のような気がします。
金澤 そうですね。80年代、90年代のAORというとベタなバラードというか、煙草のシーンに使われているような都会で大人というイメージが定着していて、半ば大人のイージーリスニング的な聴かれ方をしていたと思うんですよね。そのこともあって、硬派の音楽評論家の皆さんからは“軽い音楽”という叩かれ方をされていました。でも僕の本では、そのAORをブルー・アイド・ソウル的な観点から捉え直したんです。ある意味、DJ目線というか、軽くクラブで踊るとか、そういう意味でのブルー・アイド・ソウル感を出したのは“Free Soul”があったからですね。それを改めてAORの立場から再構築したのは、僕が99年に出したガイド本が最初でした。
———しかも、本を読み込むと深掘りもしていけますね。
金澤 まさに。発表当時は騒がれていなかったインディーやマイナーな作品を掘って探していく感覚というのは、“Free Soul”やレア・グルーヴの影響であって、80年代に真面目にAORを聴いていたリスナーにはあまりなかった視点でした。当時のAORは、参加ミュージシャンのクレジットで追うか、作品の雰囲気に惹かれて買うかでしたので、そこは新しかったと思うんです。AORを再評価させるには、今までのやり方じゃダメだというのはわかっていました。ですから、“Free Soul”のような新しい切り口の登場は大歓迎でした。DJ予備軍とかの若い世代に対するアプローチですし、昔からのAORリスナーには今までになかった視点ですからね。少し戦略的な面はありましたが、自分自身がシンパシーを持てるリスニング・スタイルでしたので、面白がる人も多いんじゃないかと思ったのです

■“裏の繋がり”も意識してセレクトした500曲

———そうしたメロウでグルーヴィーなところもあり、技巧的なところもあるAORの本質が今回選曲していただいた約500曲の中に凝縮されていると思いますが、その中でも金澤さんのオススメを教えてください。
金澤 ガイド本にも掲載していますが、CCMと呼ばれるコンテンポラリー・クリスチャン・ミュージックがオススメですね。歌詞はゴスペルですけど、音楽的には完全にAORという曲を選曲しています。80年代初頭のアメリカではAOR的なサウンドが流行していましたから、当然そういうサウンドに乗って“ジーザス〜”と歌うアーティストが出てきたんです。82〜83年になると、産業ロックやブラック・コンテンポラリーに呑み込まれて良質なAORが減っていくのですが、その反面、商業ベースから距離があるCCMに良質なAORが増えたんです。そのあたりの作品を掻い摘んで入れました。
———それは聴きどころですね。メジャーなAORが大好きって言う方も、新しいAORの魅力に目を向けられるというか。
金澤 そうですね。エイミー・グラントみたいな人はわりとポップス色が強いイメージがありますけれど、もとはCCMから出てきた人だったりします。AORにも流行があるようにCCMも後にジャンルが細分化していくんですが、80年代半ば頃まではAOR寄りの美味しい部分があったということなんです。特にオススメしたいのはトミー・クームズやブライアン・ダンカン。ブルー・アイド・ソウル系です。少しロック寄りですけど、クリス・イートンとか。彼はCCMの範疇に入るアーティストですが、クリフ・リチャードのバックもやっている人なんです。AORはそうやってバック・バンドやってましたとか、曲書いてますという人が、いざ自分のリーダー・アルバムを作ったらAORになったというケースが多いんです。今回はそういう裏の繋がりも意識して選曲しています。曲を聴いて興味を持っていただいた方は、そこを紐解いといてもらうと、更に深く入っていけると思います。例えばマイケル・ジャクソンを何曲か選曲していますが、実は作曲がデイヴィッド・フォスターだったり、TOTOのメンバーだったりね。
———そうした背景を知ると、聴くのがより楽しくなりますね。
金澤 アーティストの従来イメージではAORのように思えなくても、曲を聴けば納得でしょ? という曲があります(笑)。先ほど言ったクレジット買いに通じますよね。クレジットで参加陣を追うことは、良い音楽と出会うツールのひとつなので、興味を持っていただけたらうれしいですね。曲を聴いて好きになるのは、ある意味当たり前というか第一段階であって、そこから一歩突っ込んでもらえればシメたもの(笑)。この曲とこの曲は全然違うアーティストの曲だけれど、よく聴くと同じシンセサイザーの音がしていて、実は同じ人が演奏していた、なんてね。そういう仕掛けがたくさん入った選曲にもなっています。それから、ここ2〜3年で注目されている北欧系のニュー・カマー、オーレ・ブールードとかステイト・カウズも要チェックです。決して懐メロではない、ということも同時にアピールしていきたいと思っています。
———AORというと車で聴くというのも、ひとつのイメージとしてあります。
金澤 そうなんです。AORは、ある世代には日々の暮らしと密着した部分があるので、BGMとしてドライブやお酒を飲みながらとか、カップルが良い雰囲気になるときに聴くとか、TPOをわきまえた実用的な音楽でもあるんです。Music Unlimitedは車でもBluetoothスピーカーを使っても手軽に聴けるので、ぜひ様々なシチュエーションで聴いてほしいですね。“Light Mellow”チャンネルに先駆けて、「Light Mellow - Winter Holiday -」と題したプレイリストも公開中です。こちらはクリスマス向けの選曲で、元ペイジス〜Mr.ミスターのリチャード・ペイジのソロ楽曲でCD化されてない配信限定曲も入っていますので、ぜひ聴いてもらいたいですね。
———今後は、シーンに合わせたり、作曲家くくりでとか様々なプレイリストができそうですね。
金澤 次回は寒い冬、家でぬくぬくしながら聴いたりできる、まったり系のAORを集めてみようかなとイメージしています。Music Unlimitedの2500万曲という膨大なライブラリーにはやはり相当な数のAORがありましたので、今後に期待してほしいですね。
———楽しみにしています! ありがとうございました。
[インタビュー:文 油納 将志]
プロフィール

金澤寿和

1960年、埼玉県大宮市(現さいたま市)生まれの音楽ライター。
AORを中心にロック、ソウル、ジャズ・フュージョンに和製シティ・ポップスなど、
70〜80年代の都会派サウンドに愛情を注ぐ。
現在は音楽専門誌やCD解説などに執筆する一方、各所で旧譜カタ
ログの発掘、再発プロジェクトを推進。邦・洋ライトメロウ・シリーズなど、
コンピレーションCDの監修・選曲を多数手掛けている。
ほぼ毎日更新のブログを含むサイトは、www.lightmellow.com

Music Unlimitedで楽しめる金澤寿和選曲のLight Mellowシリーズコンピレーション