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アトムの夢とAIBOの現実 解説:司田武己

第九回 プルートウと戦う痛み
 人間が創造した機械類は競い合わせて性能を向上させてきた歴史を持つ。たとえば、自動車はレースに出場させることでエンジンなどの動力部の開発が進展しているし、パソコンはCPUの処理能力を比較実演して他社と競い合うことで処理スピードの向上が図られたりしている。
 ロボットも同様で、それぞれを競わせて性能を上げていくことは行われている。世界各国で毎年開かれる自作ロボットの性能競技『ロボコン』、2足歩行ロボットによる格闘競技大会『ROBO-ONE』、AIBOも参加する自律歩行ロボットによるサッカー競技『ロボカップ』などのイベントが開催されている。ロボットはこのような競争のなかで発展していっている部分もあるのだ。
 1997年に第一回が開催された『ロボカップ』の目標は、「2050年にワールドカップのチャンピオンチームにロボットチームが勝つ」とされている。そのためには、ロボットがボールを蹴るだけでなく、ドリブルしながら味方にパスを回し、敵をかわしてシュートを決めなければならない。夢のような話だが、その夢に向かって競い合う精神がロボットを発展させる素地の一つになっている。

 第17話の『地上最強のロボット』で、戦うためだけに造られたロボット「プルートウ」は世界最強のロボットとなるために、数々の有能ロボットに戦いを挑んだ。ロボットボール選手のハーレーを倒し、ロボットスクワット隊長デルタを倒し、ロボッティング世界チャンピオンのヘラクレス、ロボット環境観測員のエプシロンを倒したプルートウはアトムを倒すために現れる。アトムは「なぜロボット同士が戦わなければならないの?」と問うが、プルートウには通じなかった。
 天馬博士は「アトムの潜在能力を引き出すために、プルートウを造った」と語る。アトムをロボットの王として君臨させることがアトム創造主・天馬の目的だったのだ。
 アトム以上のパワーを持つプルートウは、戦うごとに成長するようにプログラムされたロボットだった。しかし、アトムの「友だち」という言葉にプルートウは迷い始める。そしてウランの歌を聞いて優しさを見せた。わずかな感情を持ったプルートウは完全に戦うロボットには成りえなかった。戦うことで傷付く対象を思いやったとき、それをロボットの人工知能が実際に感じたとき、プルートウは戦うことを躊躇したのだ。

 アトムが「戦い」の意味を問うのは、アトムが単なる機械としてのロボットではないことを表す。ロボットには身体的に「痛い」という感覚はないはずだが、仲間であるロボットが傷付くのを見たときに「心が痛い」とアトムには思えたのかも知れない。
 だから、第18話『プルートウは死なず』で現れた、感情をまったく持たない「ダークプルートウ」には、真っ向勝負でアトムに勝ち目はないはずだった。ダークプルートウはプルートウが手に入れた戦う性能がコピーされ、心を排除された“真の戦うマシン”になっていたからだ。ダークプルートウにとって、勝つことはアトムを破壊することを意味していた。
 スポーツの競技では「肉体」だけでなく「精神」の強化が大切であるとよく言われる。どんなに肉体の鍛練を積んだオリンピック選手でも、心に迷いが生じれば勝負に勝てなくなることもある。「精神=心」があるからこそ、勝負に勝つことは難しいということができる。だから、相手を“思いやる”ような感情が生じない方が戦いやすいということになるだろう。特に、格闘技においては。
 人間が勝負を挑むときにさまざまな感情が働くからこそ、同じ競技でも結果は一様でなくなる。人間の感情は複雑であり、それだからこそ感情をロボットが持つことは難しい。逆に考えれば、競技において一様な結果を出せるものほど、機械的なロボットであると言えるだろう(100mを8秒で走るだけのロボットなら今の技術でも造ることができるはずだ)。
 完全な人工知能を持つロボットを作ろうとすると、人間の葛藤やあいまいさも含めなければならず、結果として、勝負に勝つための性能から離れていくことになる。AIBOは感情を持つために、勝負ごとには向いていないロボットと言える。ピンク色のボールを認識すれば蹴ろうとするが、サッカーというゲームで成功するとは限らないのだ。だからこそ観ている側も、成功の喜びや感動を味わうことができる。
 人間社会が勝ち負けだけで成り立っていないとこは明らかだ。しかし、造り方次第で、プルートウのような勝ち負けに偏ったロボットを生み出すこともできる。物語のなかで、プルートウはアトムのような人間に近い考えを持つロボットに接したことで、わずかな心に“バグ”が生じ、自ら人工知能を進化させたのである。

 戦うことを宿命付けられ、強さの裏に悲哀を背負うプルートウは、原作アトムのなかでは人気NO.1の悪役ロボットである。『MONSTER』の作家、浦沢直樹が独自の切り口でプルートウを描く『PLUTO』が「ビックコミックオリジナル」(小学館)で連載開始された。新作アニメーションのプルートウに加え、また一段とプルートウの魅力が増すことになりそうだ。

アトム豆知識
アトムは「怖い」という感情を持っていない?
原作のアトムでは、アトム自身が人間と同じ様に感じる「心」が欲しいとお茶の水博士にねだるシーンが二度あります。一度目は『サンゴ礁の冒険』の巻(現在の単行本には未収録)で、「怖い」と感じる心を二日間だけ備えてもらったとき。二度目は『アルプスの決闘』の巻で「人造心臓」を取り付けてもらったときです。でも、どちらの場合も危機の前で怖じ気づいてしまったために、アトムはいつもの力を発揮できませんでした。ヒーローにとって「怖い」という感情は邪魔なもののようで、それ以降は、人造心臓が取り付けられることはありませんでした。


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