
講演をする福本氏
「贅沢な骨」「きょうのできごと」(行定勲監督)などの撮影監督を務めた福本淳氏が、HVR-Z1Jを使用して、中編映画を撮影。クオリティの高いフィルムライクな映像を可能にした『HVR-Z1J』について、各方面で評価を得ている「DSR-PD150」との比較を交えて講演していただきました。
私は普段映画の撮影をしており、フィルムカメラやHDW-F900なども使うのですが、今回HVR-Z1Jを使って中編映画を撮影する機会がありましたので、実際にこのカメラを使った上での感想も話させていただきたいと思います。
HVR-Z1Jですが、これから色々な使われ方をしていくと思いますし、非常に用途の広いカメラだと感じています。また、私はDSR-PD150推進委員会というものも一人で遂行していまして、DSR-PD150を使ってミュージックプロモーションビデオや映画の撮影もしています。DSR-PD150というカメラが持つルック-ルックというのは色のトーンやコントラスの作り方-ですが、非常に気に入っています。最近撮影した「恋文日和」という映画は、全て DSR-PD150で撮影して、フィルムプリントの状態で上映されました。
実は私はDSR-PD150を使うときはシャッタースピードを1/30にして使います。F(フィルム)効果という、奇数偶数のフィールドのうち、片方を抜いて、残ったフィールドのコピーを入れることによってフィルムルック、要するに映画っぽくするという技術があります。DSR-PD150でシャッタースピードを30分の1にすることによって、同じような効果が得られます。それで作られる映像が、非常にドラマを語りやすい質感だと思っているので、必ずそのような状態で撮影しています。ただ、DSR-PD150で1/30のシャッタースピードで撮影すると、窓の枠とか直線のものが、パンするにつれてジャギーという、直線が階段状になるような映像になってしまいます。
一方でHVR-Z1Jには、シネフレームという機能が搭載されていて、これを使って同じ原理でF効果が得られます。今回はさらにシャッタースピードも 1/30にして撮影しました。HVR-Z1Jで撮影し、SDにダウンコンバートされた映像を見ていただくと分かるのですが、シネフレームを使って撮影した場合には、もともと1080本の走査線があるので、SDにダウンコンバートされた状態でも、ジャギーがほとんど出ません。出ないことが今回私は非常に面白くて、ジャギーがどうしても消せないということが、いかにフィルムライクを目指していても、あまり美しくないのではないかとずっと考えていましたが、そこの欠点はこのHVR-Z1Jでは払拭されています。HVR-Z1Jで撮影した映像をSD素材として使っても、ここまでクオリティが良いというのは非常に素晴らしいことですね。HDモニターで映されている映像の方も、近づいてみてもジャギーのようなものは感じないと思います。16mmで撮影したような映像に見えているのではないでしょうか。
このCCDに関してですが、
・1/3インチ・16:9のCCDである
・1080本の解像度がある
・最低被写体照度が6ルクス
ということが、このHVR-Z1Jの特性をよく表していると思います。
まずHVR-Z1Jの場合、16:9で対角が1/3インチ、DSR-PD150は対角が同じ1/3インチでも4:3なので、HVR-Z1Jの方が横の画角範囲が広くなります。一方で私はDSR-PD150を使って「恋文日和」を16:9で撮影した時は、アナモレンズというものを付けて撮影しました。アナモレンズを付けると、水平方向に映像が圧縮されて、縦方向の解像度を保ったままワイド映像を撮影することができます。ですが、アナモレンズは歪曲したレンズになっているので、ズームを使って歪曲の中に入っていくと比率が変わり、フォーカスが合わなくなるという致命的な欠点があって、レンズのズームのストロークをフルに使い切ることができません。ドラマで言うと、よりドラマチックなシチュエーションを撮りたいと思った場合、望遠のレンズでの画作りができません。アナモレンズとDSR-PD170による映像の奥行き感 - 私はレンズ感と呼んでいますが- も魅力だったのですが、今回は1080本の解像度を持つ16:9のCCDで、なおかつシネフレームの映像が実用的でこれだけ綺麗に撮れるHVR-Z1Jに賭けてみようかなと思い、全編HVR-Z1Jで撮影しました。結果的に満足できるクオリティの映像が撮れたと思っています。
最低被写体照度についてですが、HVR-Z1JもDSR-PD150も、ゲインアップする機能が付いています。作品の作り方、あるいは撮影をされるカメラマンのねらいによって変わってくるところだと思いますが、DSR-PD150の場合は、私は6dBまではノイズのレベルはOKだと思っています。作る画によって、またはハイライトと暗部の分量の差によってもノイズの見え方は違いますが、色々なことも含めてDSR-PD150は6dBまでは使用上問題ないと思っています。一方でHVR-Z1Jの場合は、同じ感覚でゲインを上げていくと、9dBまではOKでしょう。12dBくらいまでいっても、私は特に問題ないと感じました。それはSN比がよいということに他ならないのですが、言い換えると、光量の条件が少ない所の撮影にも適しているカメラであるということになります。DSR-PD150と比べても、低照度に対する強さ、フィルムで言うところの感度 -どれだけの光量でどれだけの映像が撮れるかということ- に関して、ほとんど遜色がないと思いました。
HVR -Z1Jの標準のガンマ特性が、今回の作品にとっては私には少し堅い印象があったので、シネマトーンガンマを使ってみました。内蔵されているガンマカーブが標準のもの以外に2つあって、シネマトーンガンマのタイプ1とタイプ2があります。グレースケールチャートを使って見てみると、タイプ1をかけると、標準のガンマカーブのクロスポイントから少し下がります。タイプ2では、クロスポイントが下がった状態に加え、さらにコントラストが付くような感じで暗部が締まったような映像になります。今回の撮影ではシネマトーンガンマのタイプ1を使いました。クロスポイントを下げるので明るさが落ちた感じになりますが、ゲインアップのSN比が良いので、それも生かしながら撮影することができました。また、ニーがうまくかかって、DSR-PD150と比べてもハイライトの描写が非常に綺麗でしたね。
HDVの編集環境が整ってくれば、HDVフォーマットも、色々なプロダクションで選択肢に入ってくるのではないかと思っています。SDの状態でカンパケを仕上げることがまだまだ多いのですが、HDでフィルムライクな映像で撮っておいても、今のDV編集環境でもダウンコンバートした映像を使うことができるので、HVR-Z1Jは、映像制作環境において、非常に価値のある商品だと思います。
福本淳氏プロフィール
福本淳1964年神奈川県生まれ。早稲田大学中退後、フリーの撮影助手として主に篠田昇氏に師事する。1998年からは『タイムレスメロディ』(奥原浩志監督)などで、カメラマンを務める。
行定勲監督作品での撮影が多く、『ひまわり』、『贅沢な骨』、『ロックンロールミシン』、『きょうのできごと』などを手がけている。幅広い種類の機材を用いて撮影を行っており、HDW-F900を用いた作品には、 『カノン』『玩具修理者』『タスクフォース』などがあり、またDSR-PD150での撮影も多く、『閉じる日』『亡霊の棲む家』『陰陽師/妖魔討伐姫』『セブンスアニバーサリー』などがある。
『恋の門』(松尾スズキ監督)の後、2004年12月から公開された『恋文日和』 (大森美香・須賀大観・永田琴恵・高成麻畝子監督)では、全編DSR-PD150で撮影し、フィルムプリントをおこした。
『恋文日和』は、2004年12月4日より渋谷・アミューズCQNをはじめ、全国で順次上映。
(出演:中越典子、大倉孝二、村川絵梨、玉山鉄二、田中圭ほか)
http://www.koibumi.jp/