柴咲コウ主演の『SalonStyle Presents「髪からはじまる物語」三部作』の撮影にHDVカムコーダーHVR-Z1Jが活躍。監督は「世界の中心で愛をさけぶ」の行定 勲氏、撮影は行定氏の数多くの作品を手がけた福本 淳氏。日本映画界を代表する二人が、HVR-Z1Jの魅力を語る

コーセーコスメポート株式会社・サロンスタイルのキャンペーンとして、商品に付属の鑑賞券のIDを打ち込むと、Webシネマ「髪からはじまる物語 三部作」がストリーミングで視聴できるというもの(キャンペーンは終了しています)。
主演は、サロンスタイルのCMでもお馴染みの女優・柴咲コウさん、そして監督は「世界の中心で愛をさけぶ」「北の零年」とメガヒットを続ける行定勲さんという豪華なキャスティング。三部作ともに30分を超える本格派のショートムービーに仕上げられており、従来のCMドラマとは一線を画すものとして関係者の注目を集めた作品です。
このWebシネマの撮影に、HDVカムコーダー「HVR-Z1J」が活躍しました。行定 勲監督と、撮影を担当された福本 淳カメラマンに、HVR-Z1Jについての評価や今後のコンテンツ制作ツールとしての可能性などを伺いました。

今回のWebシネマでこのカメラを使ってみて一番魅力的だと思ったのは、このコンパクトさでHD撮影できる点です。DVカメラの機動力はそのままに、クオリティの高いHD撮影が可能ですから、映像世界を表現する立場からすると、DV制作でこれまで感じていた表現上の限界や不満、あるいはジレンマといったものを解消してくれる可能性を秘めていると実感しました。
発色の良いカメラだ、というのも強く印象に残っています。かつてのアグフア社のフィルムに近い発色で、独特の魅力を持っていると感じました。クオリティの高い画質ですが、フィルムとも、CineAltaとも違います。フィルム、HDに、このカメラによってHDVが加わったことで、作品の内容、最終的な仕上げ、あるいは画づくりやトーンに合わせて選べる選択肢が増えたということにもなります。
今回の三部作でも、第一部「復讐劇」はCineAlta(HDW-F900)で撮影し、第二部「憧れ」、第三部「懺悔」で、このカメラを中心に撮影し、一部でXDCAM(PDW-530)も使っています。映像表現の世界でも、一定の制約や限られた条件の中でベストの方向を目指す必要があります。それだけに、選べる選択肢の数が多いほど、より理想に近づけることができます。このカメラは、これから有効な選択肢の一つになっていくでしょう。今回の作品でも、画づくりに合わせてツールを選ぶことで、結果的にうまくいったのではないかと思っています。

このカメラはHD特有の臨場感のある精細な画なので、リアリティが要求される撮影に向いていると思います。特にドキュメンタリーの撮影に威力を発揮するのではないでしょうか。例えば歴史的建造物や遺跡の雰囲気を伝える場合には、フィルムで撮影しても臨場感や迫力は出せないのではないかという気がします。
同じ意味で、コンサートや舞台などのライブ撮影にも有効でしょう。ステージ上のアーティストや大勢の観客が醸し出す熱気、ほとばしる汗、そういったライブ感を表現するにはうってつけだと思います。機動力があるのも、こうした撮影に大いに貢献してくるはずです。デンマークの映画「ダンサー・イン・ダーク」(2000年制作 監督・脚本: ラース・フォン・トリアー 撮影: ロビー・ミュラー)の中で、大量のDSR-PD100(PALモデル)※を使った話題のシーンがありましたが、そのような使い方もこのカメラなら、HDながらさほど大がかりなイメージにならずできそうです。コンサート撮影などでも、このカメラを20台ほど使っていろいろな場所から撮影し、編集時にインサートしていけば、かなりの迫力と臨場感が再現できるはずです。去年コンサートを撮影する機会があったが、あの時にこのカメラがあれば、もっとおもしろいことができたはずと、ちょっと残念に思っています。
DVでの映画製作も色々なカメラが出ていて、それっぽく撮れますが、本質的ではありません。これは僕の持論でもあるのですが、ドラマのような虚構の世界を表現するにはフィルムが適していると思っています。また単純なHDの映像でもきれいすぎて、うまく「嘘(=虚構)」が表現できないように感じます。今回の三部作も本来ならフィルムが適している作品だと思うのですが、その辺りを福本さんをはじめとしたスタッフの方々の努力と撮影の工夫、そしてHVR-Z1J が持つクオリティとフィルムルックな雰囲気を作る機能が、自分の思い描く世界に近いものをうまく表現してくれたと思っています。
DSR-PD100は生産が終了しています。

最初にも言ったように、今後のコンテンツ制作の中でこのカメラは非常に有効なツールとなっていくと思います。Webシネマといった需要が今後ますます増えてくるだけに尚更です。
しかし反面で、これだけコンパクトにHD撮影できるという利点が、困った状況を生み出す可能性もなくはありません。たとえば制作サイドでは CineAltaを使って描きたいと思う表現があっても、別のサイドからは、作品の内容やトーンに関わらず、このカメラで充分ではないか、といった声が出てくるのではないかといった危惧もその一つです。そうなってしまっては、表現する者にとっては悲しいことです。
ですから、このカメラはどんなトーンを創るのに適しているのか、機能を使うことでどんな表現が可能なのかなど、使いこなしていくことでノウハウを蓄積していくことも必要だと思います。ポテンシャルの非常に高い商品なので、まずはどんどん使い込んで、この機材を思い通りに使えるようになることが、その第一歩となるのではないでしょうか。
私個人も、このHDVというフォーマットを使用した機材が質的にも量的にも成長してくれることを大いに期待しています。
行定 勲さんのプロフィール
ゆきさだ・いさお●映画監督。1968年生まれ。鴨下信一氏、大山勝美氏のもとで助監督を務めた後、フリーに。映画、ドラマ、CM、ビデオクリップ等あらゆる映像媒体で活躍。『LoveLetter』『スワロウテイル』『四月物語』等、岩井俊二監督作品に数多く助監督として携わる。2000年「ひまわり」で劇場長編デビュー。同作品は、第5回釜山国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。2001年公開の「GO」は日本アカデミー賞最優秀監督賞など各映画賞を総なめにした。2004年に「世界の中心で愛をさけぶ」、そして2005年に「北の零年」とスマッシュヒットを続ける日本映画界を代表する監督の一人。次回作となる「春の雪」(原作:三島由紀夫、出演:妻夫木聡・竹内結子)は2005年4月にクランクイン、同11月に全国東宝系で公開予定。
HVR-Z1Jについては発表時から注目していました。DV制作において長年DSR-PD150を愛用してきたこともあり、この手軽さでHD撮影ができるという点に非常に魅力を感じたわけです。機会があったらぜひ使ってみたいと思っていたのですが、先日撮影した中編映画(宮崎市制80周年記念映画「voices」、64分)でHVR-Z1Jを試す機会があり、その願いを叶えることができました。
実際に使ってみて、その成果という点でも大いに満足することができました。HDの高画質ということはもちろんですが、僕にとってはDSR-PD150で培ってきたいろいろなノウハウ、たとえば色の創り込みだったり、フィルムルックといった表現がHD画像の中でできるという点が一番魅力的でした。DSR- PD150のコンパクトさ、手軽さ、使い勝手の良さというのが、このカメラに継承されているという点でも高く評価できました。
フォーマットという観点でいうと、HDV1080i(HVR-Z1J)はHDCAM(CineAlta HDW-F900)とDVCAM(DSR- PD150/PD170)の中間に位置することになるのでしょう。HVR-Z1Jを実際に使って見た印象では、もちろん色の創り込みのパラメーターや解像感こそCineAltaには及びませんが、HDV(HVR-Z1J)とDVCAM(DSR-PD150)の映像を単純に比較したとき、HDVの映像の見た目の印象は、やはりDVCAMよりもCineAltaに近いと思いました。走査線が倍の1080本に増えただけで、こんなにも違うものかと驚いた記憶があります。HVR-Z1Jは、小型カムコーダーの最上位機種として使えると言ってよいと思います。
この中編映画の撮影を通じて、HVR-Z1Jは幅広いコンテンツ制作に有効に使えると実感しただけでなく、使いこなしていけば、相当おもしろいことができそうだと感じました。

「髪からはじまる物語 三部作」というWebシネマは、ご覧いただくと分かると思うのですが、そのストーリーや作品の質からいって、本来ならフィルムで撮るような内容です。行定監督ご自身も、DVクオリティの世界観では表現したくないと、打ち合わせの段階から強調していました。DVでいくらフィルムっぽく撮影しても、基本的なクオリティ、質感に限界があり、まやかしだといった思いが監督にはあったようでした。しかしその一方で、当面の信号の出口はWeb配信ということですから、フィルムの情報量はまったく必要ありません。
こうした創り手の思いと予算等の制約との折衷案として、僕の方から撮影をHVR-Z1JによるHDV撮影とし、編集はスクイーズモードでダウンコンバートしたDVCAMで行うことを提案しました。HDV画質でフィルムルックに撮影することで、監督がイメージする表現に近いことができる自信がありましたし、このカメラならダウンコンバートしたSD映像もプログレッシブ映像と同等のクオリティにすることができます。それと今回の作品は、いずれDVD化といった話が出てきてもおかしくありません。その際にも十分な品質を保つことが可能であることを強調しました。さらに元素材をHDV映像で残しておけば、どんなマルチユースの要望にも応えていける、という意図もありました。
最終的に、第1部はCineAltaで撮影し、第2部および第3部のメインカメラとしてHVR-Z1Jを使うことになりました。

撮影では、DSR-PD150で培ったノウハウと、このカメラが持っている機能を使いこなすことで、かなりフィルムに近い表現ができたと思っています。まず、このカメラが持っている「シネフレーム」を使って30コマ/秒の雰囲気をつくり、さらに1/30秒のシャッタースピードで撮影しました。この組み合わせで、かなりのレベルでフィルム効果を出すことができました。ちょうど16mmフィルムで撮影したような雰囲気を出せたと思っています。
また、標準以外に2タイプの「シネマトーンガンマ」を搭載しているのも、Z1Jの魅力です。この辺は好みの問題になるのですが、僕は標準のものが少し硬めに感じられたので、タイプ1を基本的に選んで、ハイライトを付けたいシーンなどではタイプ2も使いました。フィルムに近い表現世界を創り出す上で、このシネフレーム、シネガンマトーンという機能は非常に有効だと思っています。
ゲインアップに強いのも、このカメラの魅力です。DSR-PD150で撮影するときも、その質感が好きで常時3dBはゲインアップしていましたが、この HVR-Z1Jでは6dBまでアップしても何の問題もありませんでした。SN比が良いということにほかならないと思うですが、シネマトーンガンマとの組み合わせで使うことで、おもしろい映像ができることを発見しました。
それと今回の撮影では使っていませんが、HVR-Z1Jには画面内の特定の色だけを補正できる「カラーコレクション機能」も搭載しています。撮影に参加してくれたビデオエンジニアの方が、その後パッケージビデオの制作時にこの機能をテストしていて、かなりおもしろいことができると言っていましたから、機会があったら試してみたいと思っています。

第2部「憧れ」は、昭和16年が舞台になっていることもあり、モノクロがベースとなった作品でしたが、カラーでもその雰囲気が出るように、色づくりに工夫しながら撮影し、編集時に色を抜きました。また、第3部「懺悔」ではシアングリーンがキーカラーになっていますが、この辺もうまく出せたのではないかと思っています。こうした雰囲気は、ダウンコンバートしたSDの映像でも、その狙いが崩れるようなことにはなりませんでした。やはりHVR-Z1Jの画質の素性の良さがあったからできたことではないかと思います。
編集が終わった段階で行定監督にチェックしてもらうと、「いいですね、非常に良いじゃないですか」とのことだったので、HDV撮影を提案した立場としても一安心することができました。
今後も、いろいろな映像制作の領域で、このHVR-Z1Jは有効に使えるだろうと考えています。機動力を活かした撮影もできれば、シネマレンズアダプターを使ってシネマレンズを付けて撮影することもできます。全編をこのカメラで撮影して、それをフィルムに変換して劇場用映画にするといったことも、機会があったらぜひチャレンジしてみたいと思っています。
HDVの編集環境が本格的に整って来ましたので、HVR-Z1Jを使う機会が増えてくると思います。個人的な希望としては外部コントロールができるCCUボックスのようなものを作ってくれることを期待しています。
福本 淳さんのプロフィール
ふくもと・じゅん●シネマフォトグラファー。1964年神奈川県生まれ。早稲田大学中退後、フリーの撮影助手として主に故篠田昇氏に師事する。1998年からは『タイムレスメロディ』(奥原浩志監督)などで、カメラマンを務める。なかでも行定勲監督作品が多く、『ひまわり』、『贅沢な骨』、『ロックンロールミシン』、『きょうのできごと』などを手がけている。近作は『恋の門』(松尾スズキ監督)。幅広い種類の機材を用いて撮影を行っており、HDW- F900を用いた作品には、『カノン』『玩具修理者』『タスクフォース』などがあり、またDSR-PD150での撮影も多く、『閉じる日』『亡霊の棲む家』『陰陽師/妖魔討伐姫』『セブンスアニバーサリー』などがある。特に2004年12月から公開された『恋文日和』(大森美香・須賀大観・永田琴恵・高成麻畝子監督)は、全編DSR-PD150で撮影し、フィルムプリントをおこした。HVR-Z1Jの可能性にもいち早く注目し、2004年に「voices」(宮崎市制80周年記念映画。2005年3月公開)、今回のWebシネマ「髪からはじまる物語 三部作」の撮影で使用。その後も、インディーズ系シネマやBSデジタル番組の撮影などに積極的に活用されている。



