スイッチャー

株式会社スカパー・ブロードキャスティング 様

プロダクション

2017年8月掲載

HDR/SDRサイマルライブ制作を実現した4K HDR中継車。QC卓を設置し、HDR/SDRおよび4K/HD信号の品質管理が可能に。


4K HDR大型中継車「SR-1」(手前)と4K HDR中継支援車「SA-1」(奥)。「SR-1」には、さまざまな出力フォーマットを適正に管理するQC卓を設置しています。

株式会社スカパー・ブロードキャスティング様は、4K HDR中継車「SR-1」4K HDR中継支援車「SA-1」を2017年1月に新たに導入され、スポーツ中継をはじめとする4K HDR制作に稼働中です。またHDR/SDRサイマル制作にも積極的に取り組まれています。

同社 取締役 技術本部長 早尻隆文様、技術本部 制作技術部長 柴崎正一様、同部アシスタントマネージャー 岩脇真士様、同部 坂口 歩様に、4K HDR中継車の導入の目的、仕様の検討ならびに決定の経緯、運用状況、導入後のご感想などを伺いました。

なお、記事は4月中旬に取材した内容を、編集部でまとめたものです。

早尻隆文様
早尻隆文様

柴崎正一様
柴崎正一様

岩脇真士様
岩脇真士様

坂口 歩様
坂口 歩様

HDR放送の開始に合わせた4K HDR中継車導入


スイッチャーとモニター卓。2台のBVM-X300と6台のマルチビューアーを搭載。マルチビューアーは1台あたり最大16画面まで表示可能。2台のBVM-X300ではHDRとSDRをそれぞれに表示してモニタリングができます。

当グループでは、2016年10月から「スカパー!4K体験チャンネル」でHDR放送を開始しています。さらに、2017年3月15日からは「スカパー! 4K総合チャンネル」でHDR/SDR混在編成もスタートしました。これまでスカパーのHDR番組は収録番組のみでしたが、スポーツをHDRで生中継することについては技術的課題も多く、グループ内で中継車を持とうという流れになりました。計画は2015年12月にスタートしました。特に、2018年にはBSと110度CSで4K/8Kの実用放送が開始され、2019年にはラグビーの国際大会、さらに世界的なスポーツイベントなどが控える中で、それらに備えるというのも目的の一つです。この4K HDR中継車は当社としては初めての中継車導入になります。

HD制作のみならず、4K HDR制作にフォーカス

当社が今回導入した4K HDR中継車の特徴は、基本的に4Kを主に、特に4KでのHDRとSDRのサイマル制作にフォーカスをしています。そのため、車内にはHDRとSDRのクオリティーを比較しながら管理するためのQC(QualityCheck)卓など、独自の機能も設けています。想定している制作コンテンツとしては、生放送を中心として、スポーツ中継や、音楽ライブ中継などを念頭に置いています。

最大20カメ規模での運用に対応


両側拡幅の採用により、広々とした制作空間を確保。スイッチャーの位置を左右に移動することでフレキシブルな制作スペースを構築できます。

カメラは、マルチフォーマットポータブルカメラHDC-4300をカメラコントロールユニットHDCU-2000ならびにベースバンドプロセッサーユニットBPU-4500と組み合わせて最大20式まで運用可能とし、常設として8台を搭載しています。スイッチャーにはマルチフォーマットスイッチャーXVS-8000を4M/E仕様で搭載し、卓内蔵の左右に可動できる4M/Eのパネルの他に、ジュラケースに入れた可搬型の2M/E分のパネルも用意しています。車両自体は運転席側1.2m、助手席側50cmの両側拡幅に対応しています。特に卓における視認性の観点から、卓とモニターパネルの距離を離したかったので、1.2mという比較的大きな拡幅機能を備えました。

柔軟性の高いシステム構成、50pにも対応

モニターパネルにはマルチビューアーを導入したほかに、30型4K有機ELマスターモニターBVM-X300を2式備え、HDRとSDR、といった形でのモニタリングなども可能なように配置をしています。HDR-SDR変換やその他の各種処理を行うHDRプロダクションコンバーターユニットHDRC-4000は合計9式18ch分を搭載しています。HDR/SDRサイマル制作のほか、外部からの持ち込み機材のSDR-HDRの相互変換、SQD/2SI変換など、さまざまな処理を柔軟性の高い構成で運用できるよう、十分な数を用意しています。

対応フレームレートとしては、当初計画より59.94p、23.98p、29.97pを予定していましたが、スポーツの国際大会などに関係して、ヨーロッパ圏からも引き合いが入るようになりました。そのため、ヨーロッパ圏メディアのユニ制作にも提供可能な50pにも対応できることを確認しています。

支援車を分離したことで、広大な室内空間を実現

4Kで20カメ規模のシステム構成としたことで、結果として、ラックの本数は43Uが13本と、一般的なHD中継車よりも3本ほど多い構成となりました。しかし、今回は電源を、電源車を兼ね、機材運搬や音声系の仮設ルーム、収録ルームなどとして活用できる広い荷室を備えた支援車に分離したことで、最大規模のシステム構成と拡幅による広い車内空間、フレキシビリティーの高い構成を確立することができました。

HDR/SDRサイマル中継もすでに開始

4K中継車としての初めての運用は、1月末の納車から約2週間後、バドミントンの試合での4K SDR中継でした。その後、HDR/SDRサイマルの中継も開始しています。4月12日には、Jリーグのリーグカップ戦を4K HDRとHD SDRでサイマル中継にて放送しました。従来では、HDRとSDRのサイマル制作は、別班構成で行われることが一般的でしたが、この中継車ではHDRC-4000を使用した、HDR-SDR変換機能により、VE卓ではSDRでモニタリングしながら、HDRとSDRを従来とほぼ同等の人員構成でサイマル制作を行っています。

サイマル時のワークフローとしては、システム全体をS-Log3で運用し、最終段でHDRC-4000を利用し、HDR放送用のHLG(Hybrid Log-Gamma)と、SDRへの変換をします。VE卓のモニタリング用と、最終段でのSDR変換用のHDRC-4000のSDRゲイン(HDRと SDRの差分設定)を揃えておくことで、VE卓でのSDRの見え方がSDR本線でも再現されます。システムとしては、S-Log3やHLGの他にPQ(Perceptual Quantization)へも対応をしています。一方、SDRのみ制作の場合は、全体のシステムをSDRに統一して運用を行います。これは従来のHD中継車のような感覚です。

ソニーとも経験を共有しながら、ノウハウを蓄積したい

実際に運用を開始してみての感想として、HDRとSDRのサイマル制作を別班体制にせず、従来とほぼ同等の人員構成で制作できるというのは大きな進歩であり、画期的でした。一方で、現実には、屋外中継では、天候の変化のみならず、カメラが室内と屋外を行き来したりするなど、あらかじめ定めたSDRゲイン固定では運用しにくい場面などにも直面することがわかりました。

例えば、MSUなどによる、SDRゲインの一括制御機能、リアルタイム制御などが実現すると、より万能に、柔軟に使えると思うので、今後のブラッシュアップにも期待したいと思います。このような現場で得られた知見をソニーにも共有・フィードバックを図りながら、今後もより多くの4K HDR制作ノウハウを蓄積していきたいと考えています。