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鉄道を舞台とした
動画作品のおもしろさ

写真家 山下 大祐

写真家山下 大祐

PROFILE

鉄道を動画で撮ることの最大の魅力は、写真にはない自由なカメラワークや、季節感や臨場感を豊かに表現する音声など、表現の幅の広さだと思います。さまざまな表現ができるがゆえに、撮影者の感性が試される場面もありますが、セオリーにとらわれない表現は、作品づくりをさらに楽しくしてくれます。鉄道を撮りに出かけるときは、ぜひ動画での撮影にもチャレンジしてほしいですね。

この作品は、さまざまな風景の中を駆け抜ける列車の動画を、「四季」をテーマにまとめたものです。一般的に鉄道写真のセオリーから外れた “走り去る”列車の姿でも、趣深いシーンとして成立してしまうのが「動画」のおもしろいところ。また、大好きな列車の姿ばかりを追いかけると、車両紹介のような作品になってしまうので、ちょっと引いて見てみましょう。風景をゆったりと見せるように撮ると、大人びた感じの動画に仕上がります。それから、ワンカットにすべての車両を入れようとすると間伸びしてしまうので、先頭部や最後部を切って、テンポよくつなぐのが編集のコツです。列車が入っていないカットを編集時のつなぎ用の素材として撮影しておくと、編集するときに役立ちますよ。

動画ならではの
撮影術

仕事では動画もよく撮影するという山下氏に、動画ならではの鉄道の撮影方法や
必須アイテム、現場でのセッティングについて教えていただきました。

写真とは異なる構図づくり

写真

動画

上の2枚の画像は、同じ列車を2台のカメラで「写真」と「動画」で撮り分けたものです。「写真」では、列車が途中で切れてしまうとバランスが悪く見えるので、先頭車両から最後尾までフレームに収まるように撮るのが基本です。一方、「動画」は列車が動いているので、フレーム内に収めなくても車両をすべて見せることができます。最後尾まで入れない分、車両や背景を大きく見せることもできます。また、「写真」では先頭車両を止める位置にも配慮し、架線柱がかからないようにするのがセオリーですが、「動画」では気にしなくて大丈夫。構図についても、風景を取り入れて撮影する場合、「写真」では列車を画面の上か下に寄せたほうがバランスよく収まりますが(この場合は下寄せ)、「動画」では画面端に寄せすぎないほうが、見やすいと思います。

動画撮影の必須アイテム

NDフィルターで露出をコントロール

動画撮影では、スムーズでなめらかな動きに撮影するため、フレームレート分の1秒という遅いシャッター速度に設定します。そのため、露出オーバーになりやすいので、NDフィルターを装着して露出をコントロールするようにしています。

NDフィルター

音声収録に欠かせない外付けマイク

動画撮影に外付けマイクは必須です。私は、ショットガンマイクロホンECM-B1Mを愛用しています。対応するα本体上部のマルチインターフェースシューに装着するだけで、ケーブルレスで接続でき、電源供給も可能。持ち運びやすく、セッティングもあっという間なので、とても重宝しています。指向性は3タイプから選べるのですが、列車の音だけを集中的に録音できる、鋭指向性を使用することがほとんどですね。また、私が使用しているα7R IVでは、音声をデジタル信号のままカメラ本体に伝送可能で、高音質録音ができます。AUTOに設定すれば難しいレベル調整が不要。音割れなどの失敗がないため、同モデルをお持ちの方におすすめです。

ショットガンマイクロホン ECM-B1M

コンパクトで設定も簡単
指向性も選べる高性能マイクロホン

ショットガンマイクロホン
ECM-B1M

商品情報

ワンチャンスを
フルに活かして
写真と動画を撮影

私は、写真用と動画用で2台のαを使い分けています。写真は3:2、動画は16:9と画角が異なるため、ポジションを多少変えることはありますね。動きが速い被写体を写真に収めるときはメカシャッターを使用するので、シャッター音を拾わないように、動画用カメラを一歩前にセッティングしています。三脚は一般的な写真撮影用のもの。動画用のカメラは、パンがしやすいビデオ雲台に取り付けています。あまりパンしない場合は写真用の雲台で十分だと思います。1本の三脚に写真用と動画用のαを一緒に設置すると機材が減らせて楽ですが、写真用αのシャッターを切る際のわずかな揺れで動画がブレてしまうので、1台のαに1本ずつ三脚を用意するようにしています。

基本の撮影設定と
αの機能

山下氏が日頃から実践している動画ならではの撮影設定や、
活用しているαの撮影機能を教えていただきました。

シャッタースピードは、
フレームレート分の1秒に

α7R IVの場合
(4K 30pならシャッタースピードは1/30秒)

フレームレートは、数値が大きいほど被写体の動きがなめらかな動画を撮影できるので、お持ちのαのや撮影条件に合わせて最高の値を選択するのが基本です。私は、4K 30pに設定しています。一方で、シャッタースピードはフレームレート分の1秒よりも速くならないように設定します(4K 30pの場合、1/30秒以下に)。一般的に、高速で動く被写体を撮影する際、「写真」ではシャッタースピードを速くしますが、「動画」では逆。1フレームの間に列車は数メートル移動するため、シャッタースピードを速くすると、フレーム間で瞬間移動しているように見え、パラパラ漫画のようなぎこちない動きになってしまうので注意が必要です。

一番小さいフォーカス
エリアで、
置きピン撮影

動画の場合、列車にフォーカスをトラッキングさせる必要がないので、置きピン(被写体の通り道にあらかじめピントを固定しておく手法)で撮影することがほとんどです。フォーカスエリアは一番小さいサイズを使用します。風景の中のピントの基準となる場所にあらかじめAFオンでピントを合わせておき、撮影開始時にAFオンを割り当てたレンズのボタンを押して動作させます。こうすることで、列車へのフォーカス移動も防ぐことができます。

クリエイティブスタイルで
撮影時にコントロール

撮影後の加工が手軽にできる写真に比べ、動画は加工に手間がかかります。そのため、クリエイティブスタイルを使って、現場でイメージに合った画づくりをしています。よく使うのが「ビビッド」。プリセットの設定から、コントラストと彩度を調整することが多いですね。陰影をやわらかく表現したいときはコントラストをマイナス方向に調整したり、「スタンダード」を使ったりすることもあります。

ゼブラ表示で
露出を直感的に把握

ゼブラ表示

露出は、直感的に確認できる「ゼブラ表示」で確認しています。輝度レベルは100+に設定し、白とびが出ない露出に調整します。 「ゼブラ表示」は写真撮影でも使用しているので、常に表示オンの状態にしていますが、すぐ呼び出せるようにマイメニューにも登録しています。

山下氏の作品と
撮影のコツ

山下氏の動画作品をご紹介します。撮影や編集のポイントもお聞きしましたので、
ぜひ参考にしながら、作品づくりにチャレンジしてみてください。

“shinkansen”

新幹線は風圧による
ブレに注意

新幹線をテーマにした作品です。新幹線を動画で撮影するときは、列車が通過するときの風圧に注意が必要です。カメラの横を新幹線が通過するとき、写真では撮影し終わっているので影響を受けることはありませんが、動画ではまだ撮影中なので、風圧で動画がブレてしまうことがあるからです。また、望遠レンズはブレやすいので、ブレを抑える工夫が必要になります。

One Point Advice

望遠レンズも三脚などで固定

ブレやすい望遠レンズの使用時は、カメラ同様、レンズも固定するとブレを抑えることができます。右の写真ではライトスタンドを使用していますが、三脚などを使って固定してもよいでしょう。列車通過時の振動や風圧の影響をダイレクトに受ける線路のすぐそばで撮影するときも、ブレを抑えるのに役立ちます。

“san’in”

列車の進行方向に
配慮しながら編集

この作品は、山陰地方を走る列車で構成。最初のSLのカットは山口線、それ以外はすべて山陰本線です。菜の花のカットは、マニュアルフォーカスでレンズリングを回しながら撮影しました。事前にリングをどれくらい回すかを決め、セロハンテープなどで印を付けておくと失敗が少ないと思います。パンやチルトのない短めのカットなら、撮影しやすいのではないでしょうか。列車がフレームインしてからフレームアウトするまでの時間が程よく短いカットは、撮影しやすく編集もしやすいので、初心者の方でもトライしやすいと思います。複数の動画素材をつなげるときは、列車の進行方向が同じだと単調に見えるので、気をつけましょう。

One Point Advice

早めの録画スタートで確実に

離れた場所から撮影する場合など、列車の接近がわかりにくいときは、長く録画できるよう準備をしておくことをおすすめします。編集で根こそぎカットしてもいいという気持ちで長めに撮影し、列車の通過シーンだけは確実に押さえるようにしましょう。

線路が山で隠れてしまっている時などは特に注意が必要

動画撮影にも
おすすめのレンズ

FE 24-70mm F2.8 GM 34mm  F8 1/250秒 ISO100

レンズはG Masterを使用しています。画面のすみずみまで鮮鋭に描き出す描写力に加え、ゴーストやフレアを抑える逆光耐性の素晴らしさが、このレンズを選ぶ理由です。写真撮影でも使用しているレンズなので、動画撮影でも迷わず使うことができます。中でも使用頻度が一番高いのは、FE 24-70mm F2.8 GM。現在愛用中のα7R IVは、画素加算のない全画素読み出しで、より高画質に記録できるSuper 35mmフォーマットでの撮影が可能です。その場合、APS-Cサイズ相当の画角にクロップされるので、程よい焦点距離となる標準域のレンズが重宝します。おすすめしたいレンズは、FE 70-200mm F2.8 GM OSS。ズームによってレンズの全長が変わらず、動画撮影中の操作性にも優れているので、使いやすい1本だと思います。

Super 35mmフォーマットでの撮影など、
幅広く使える1本

FE 24-70mm F2.8 GM
SEL2470GM

撮影中の操作がしやすい動画撮影に
おすすめの1本

FE 70-200mm F2.8 GM OSS
SEL70200GM

撮影にオススメの
アクセサリーのご紹介