写真家 高橋良典
1970年、奈良県生まれ。2000年よりフリーの写真家として独立、写真事務所「フォト春日」を設立。カレンダー・ポスター等へ作品を提供。また、写真雑誌や出版物への写真提供及び原稿執筆を行う。自分が生まれ育った奈良県の撮影と並行して自然の織りなす旋律をテーマに撮影を続ける。2018年、2019年CP+ソニーブースにてセミナー登壇。
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・ソニーイメージングプロサポート会員・αアカデミー講師
光と形を読み、
風景の気配を
写し止める
常識にとらわれず風景を撮るためには、先入観を持たないことが重要です。風景写真は景勝地や名所など「場所ありき」で撮ることが多いと思いますが、実はどんな場所でも撮影できます。現場を幅広く見渡すことで、なにげない被写体も作品になるからです。私が一番大事にしているのは「光を読む」こと。カメラの目になって光を見つけることで、見えない世界が見えてきます。下の作品は、肉眼では見えない写真的な明暗差をあえて表現しました。αのファインダーは、撮影設定が反映された状態で確認できるので、カメラ初心者で光を読むのが難しい場合は、ファインダーをのぞきながら露出補正を変えてみてください。また、この作品では明暗を強調するためにDレンジオプティマイザーをOFFにしています。 カメラの初期設定ではAUTOになっていますが、光の状況に応じて、ファインダーで確認しながらさまざまな設定を試してみて欲しいですね。
水の流れなど動きのある被写体は「形」を読みます。刻々と変化する形を目で追い、一番美しい形を想像しながら撮影しています。また、目線を変えてみることも大切。人間の目線だけでなく、虫の目線や小動物の目線など、さまざまなアングルで被写体を観察します。特に低いアングルは被写体の魅力を引き出せることが多いと思いますね。
自然の中で撮影していると、その場に「何か」が宿っていると感じることがあります。その気配は、光や形として現れるのだと考えています。私は、風景の気配を写しとめたいと思いながら、日々作品づくりに取り組んでいます。
超望遠ズームレンズ
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS
飛行機などの撮影に使われる超望遠レンズ。
一見、風景撮影には必要ないと思われるかもしれませんが、おもしろい風景が撮影できます。
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは、200mmから600mmまで1本でカバー。
ズーム時もレンズの長さが変わらず重心が移動しにくいので、安定したフレーミングが保てます。
遠くに浮かぶ、
優美な花姿
この蓮の花はかなり離れたところに咲いていたのですが、超望遠レンズで引き寄せて、ここまで大きく撮影できました。超望遠レンズなら、今まで届かなかった遠くの被写体にもアクセスできます。実はこの作品は、APS-Cモードで撮影しているので、焦点距離は900mm相当。高画素のα7R IVなら、APS-Cモードで撮影しても十分な画素数を保つことができます。さらに、超望遠レンズの圧縮効果で、背景をすっきりと整理することができました。
闇夜に降りそそぐ、
数多の星
星の軌跡を撮影する場合、広角レンズでは30〜40分ほど露光しますが、超望遠レンズなら、たった2分でこんなに星が流れます。立ち枯れの木にピントを合わせていて、星からは少しピントが外れていますが、軌跡が太くなり存在感が出せたと思います。ここは奈良県の大台ケ原の駐車場。αのブライトモニタリングでも被写体が見えないような暗い場所でのピント合わせには、リモートコマンダーが役立ちます。+−ボタンでピントを最小単位ずつ動かし、撮影と確認を繰り返しながらピント位置を探っています。
さらに常識に
とらわれない表現
真夏にはじける、
水のきらめき
公園にあるスプリンクラーの水しぶきを撮影。スプリンクラーは広範囲に水を撒くものなので、水しぶきには前後差がありますが、600mmの圧縮効果で凝縮感が表現できたと思います。背景に黄色くぼけているのはヒマワリの花。かなり遠かったのですが、圧縮効果で存在感を強調できました。動きのある被写体は形を見て撮影しますが、自分の想像を超えてしまう場合は連写します。この1枚を撮るために200枚は撮影したでしょうか。トライアンドエラーをくり返し、撮れるまで諦めないことが大切ですね。
望遠ズームレンズ
FE 70-200mm F4 G OSS
レンズを選ぶときは、質量も重要なポイント。野山を歩き回ることが多い風景撮影には、
軽量なレンズが断然おすすめです。FE 70-200mm F4 G OSSは約840gと軽量なうえ、
三脚座やフォーカスホールドボタンなど、撮影時の操作性にも優れています。
水面をゆらす、
風のささやき
池から伸びる水草と水面の波紋を、光を読みながら撮影しました。水面の揺らぎを表現するために、手前と奥を少しだけぼかしたくて、絞り開放で撮影しています。FE 70-200mm F4 G OSSは絞り開放からの解像感がすばらしいレンズです。軽量でカメラバッグに収まるサイズでありながら、画質をまったく犠牲にしていないところが、このレンズの最大の魅力だと思います。
神々しく輝く、
晩秋の日の出
奈良県の大台ケ原で熊野灘から昇る朝日を撮影。空と海の間に浮かぶ雲の影が印象的になる瞬間を待ってシャッターを切りました。太陽がダイレクトに入る構図ですが、FE 70-200mm F4 G OSSは逆光耐性にも優れているので、ゴーストやフレアがしっかりと抑えられていますね。
さらに常識に
とらわれない表現
ススキの穂が描く、
風のかたち
山の斜面から、谷を挟んで向かい側の山の斜面に生い茂るススキを狙って撮影。風に吹かれたススキのうねりを際立たせるため、一番いい影が入る太陽の高さになるのを待って撮影しています。光が刻々と変化する朝や夕方の撮影では、光の状態がベストになるタイミングを探ることが大切です。開放から2段絞ることでFE 70-200mm F4 G OSSの優れた解像性能がより際立ち、画面のすみずみまでススキをより緻密に表現できました。
広角単焦点レンズ
FE 24mm F1.4 GM
風景撮影の現場に広角単焦点レンズを持ちだす一番のおもしろさは、背景を大きくぼかしながら、
周囲の情景まで取り込めることにあります。広角単焦点レンズは軽量なものが多いのが特長。
FE 24mm F1.4 GMは小型軽量なので、いつものレンズに気軽にプラスして持ち歩けます。
森の中にたたずむ、
小さな命
目線の高さを変えるのも、作品づくりのヒントになります。この作品は、小動物の目線で撮影しました。広角単焦点レンズを使うことで、背景をぼかしながら、滝がある森の情景を取り入れることができました。望遠レンズだと背景はぼかしやすいのですが、写る範囲が狭くなり、滝の存在がわからなくなります。絞り値は、滝の形がわかるように、少々絞ったF2.4に。ファインダーをのぞきながらF1.4からF2.8ぐらいの間で被写界深度を探りながら撮影してみてください。風景撮影では偏光フィルターをよく使います。反射を抑えるだけでなく、この作品では反射を引き出すために使用しています。
天空をわたる、
夏の天の川
FE 24mm F1.4 GMは、星の撮影に最適。開放F値がF1.4と明るいので、星がたくさん写ります。通常はISO感度を3200ぐらいまで上げないと、ここまで明るく写りませんが、レンズが明るいので、感度を低めに保ってノイズを抑えながら明るく撮影できます。さらに、このレンズは点像再現性も秀逸。星の形が崩れやすい画面周辺部まで美しく表現できました。この作品では、光害カットフィルターを使用しています。街明かりなど、地上に光があるシーンでは、霞を抑えて星をくっきりと描写できます。また、構図やピントの確認できないほど暗いシーンでしたが、αのブライトモニタリング機能が役立ちました。
さらに常識に
とらわれない表現
空の輝きを目指す、
木の息吹
森の中で、木の幹に芽吹いた若葉を、見上げるように撮影しました。広角レンズはぼけにくいと思っている方も多いと思いますが、FE 24mm F1.4 GMは開放F値がF1.4と明るいので、これだけ大きな玉ぼけが表現できます。画面周辺部まで玉ぼけの形が崩れていないのも、このレンズの魅力だと思いますね。
望遠単焦点レンズ
FE 135mm F1.8 GM
ポートレート撮影によく使われる望遠単焦点レンズも、風景撮影に取り入れると、印象的な作品が
撮影できます。FE 135mm F1.8 GMは、開放F値が1.8と明るいので、花などの小さな被写体を
アップにせずに、背景を大きくぼかして撮れるところが、とてもおもしろいと思います。
清流に集う、
可憐な花々
山中の清流に群生しているバイカモを撮影しました。水面ぎりぎりのアングルから撮影することで、群生する花の様子を、美しいぼけとともに表現できたと思います。バイカモは水面から出ている部分が、わずか2cmほどの小さな花ですが、FE 135mm F1.8 GMの最短撮影距離0.7mと、最大撮影倍率0.25倍を生かして、ここまで寄って写すことができました。マクロレンズとまではいきませんが、被写体にかなり寄ることができるので、花の撮影に最適なレンズだと思いますね。
月光が照らしだす、
深い山の流れ
この作品は、実は月明かりの中で撮影しています。岩肌が光って見えるベストな光の状態になるまで、月が傾くのを待って撮りました。月明かりとはいえ、半月でとても暗かったのですが、開放F値がF1.8の明るいレンズだから撮影できたのだと思います。暗すぎて肉眼ではピントや構図の確認が難しいシーンでしたが、ここでもαのブライトモニタリングが役立ちました。FE 135mm F1.8 GMは解像性能もすばらしいレンズ。岩肌のディテールまで表現できました。
さらに常識に
とらわれない表現
光と風に包まれる、
高山の夏
夏山に咲くキンバイソウを、低いポジションからFE 135mm F1.8 GMで撮影しました。キンバイソウは直径2cmぐらいの小さい花ですが、花は小さいまま、大きな前ぼけと後ぼけを取り入れることができました。G Masterならではの、とろけるような美しいぼけ味が、小さな花の可憐な姿を引き立ててくれました。