想いをカタチに

「ハグドラム」「ハンドルドラム」のキービジュアル
#社会へ貢献する

音楽はみんなのもの。
誰もが楽しめる演奏体験で、
たくさんの人を笑顔にしたい。
#006

第6回目の“My Sony STORY”は、従来の楽器とは一線を画し、演奏経験がなかったり、聴覚などに障がいがあっても楽しめる“ゆる楽器”のひとつ「ハグドラム」「ハンドルドラム」のプロトタイプを開発したメンバーたちのストーリーです。
開発のきっかけや、どのようにデザインしていったのか、その想いに迫りました。
※ ハグドラム・ハンドルドラムは開発中のため、商品発売していません(2025年10月時点)

プロジェクトのきっかけは、
夢の実現を目指した個人の想いからでした。

“楽器を弾けるようになりたい—— ”。多くの人が一度は思ったことがあるのではないでしょうか。とはいえ、楽器を自在に操るには練習と根気と時間が必要。さらに譜面やリズム感、音感などいくつもの不安要素がつきまといます。そんなさまざまなハードルを低くして、より多くの人が気軽に楽器を楽しめるようにと、『世界ゆるミュージック協会』とソニーグループが共に開発を進めているのが“ゆる楽器”です。
“ゆる楽器”のハンドルドラム(左)とハグドラム(右)の製品写真

“ゆる楽器”のひとつ、 ハンドルドラム(左)ハグドラム(右)

ソニー・インタラクティブエンタテインメントで研究開発業務に携わりながらソニーの各グループを横断する技術に関わる業務にも参画していた塩野。その横櫛活動の中で、今回の新規プロジェクトに興味を持ちました。というのも、シンセサイザーを自作するほど音楽と電子工作に造詣が深かったからです。
「学生時代から音楽が大好きで、シンセサイザーに興味がありました。ただ当時のシンセサイザーはとても高価で学生には買えなかったこともあって、自分で作ってしまいました。その時代のソニーはウォークマンやCDなどオーディオ機器全盛期だったので、音響に関わる仕事をしたいと思いソニーに入社しましたが、実際の配属は半導体でした。その後携帯電話のカメラ、ゲームとなかなか音に近づけなかったのですが、そろそろ本気で音に関わりたいと思っていたところにゆる楽器開発の話を聞いて、今までのソニーでの経験とプライベートで培ってきたノウハウをいかせるチャンスだと思い参画しました」
“ゆる楽器”開発担当エンジニア・塩野のポートレート

“ゆる楽器”の開発を担当するエンジニアの塩野

時を前後するように、ソニーのデザイン部門であるクリエイティブセンターのデザイナー、秋田もゆる楽器へと導かれていきます。
「3歳から12歳頃までピアノを習っていたのですが、楽譜を読むのが苦手で楽器演奏に挫折した経験がありました。音楽は大好きなのに楽器はうまく弾けないというジレンマがずっと心の片隅にくすぶっていて。さらに、私が数年前からクリエイティブセンターのインクルーシブデザインプロジェクトに関わっていたこともあって、ゆる楽器の存在を知ったときにインクルーシブデザインの知見を生かすことと楽器への想いの両方が叶うかも!と直感しました」
“ゆる楽器”プロジェクトリーダー・デザイナーの秋田のポートレート

“ゆる楽器”開発のプロジェクトリーダー デザイナーの秋田

リズム楽器ならば、
誰もがチャレンジできるのでは?

最初に外装のデザインで関わったウルトラライトサックスは複雑なキーの動作がいらず、鼻歌を歌うだけで演奏ができるので、視覚に障がいのある方も簡単に演奏ができる楽器。そしてメンバー内での議論を通し、第2弾として「聴覚に障がいのある方も楽しめる楽器」としてリズム楽器の開発にチャレンジしよう、という新たなテーマが生まれました。
音と聴覚障がいという一見、難題と思われるテーマではありましたが、インクルーシブデザインに携わっていた秋田は“リズム楽器ならば可能なのでは?”と考えました。
「リズム楽器は振動の要素が大きいですし、ほかの楽器に比べてチャレンジがしやすいだろうと。リズム楽器にもいろいろな種類がありますので、初期段階から様々な障がいのある方が在籍するソニー・太陽の社員の方々とワークショップを開いたり、障がいの有無によらず誰もが演奏できる「共遊楽器」を研究されている神戸芸術工科大学の金箱淳一先生にメンターとして入っていただきながらアイデアを出し合いました。そのなかで、抱えて演奏するとか、振動するといったキーワードが出てきて、最終的にはシンプルでプリミティブな筒形ドラムに決まりました」
ソニー・太陽や金箱淳一氏らと行ったワークショップの様子

ソニー・太陽でのワークショップの様子(左)。金箱先生とのワークショップの様子(右)。多くの方たちとの共創で開発が進んだ

ソニー・太陽でのワークショップの様子(上)。金箱先生とのワークショップの様子(下)。多くの方たちとの共創で開発が進んだ

秋田も塩野も音が聞こえてしまうため、聞こえない世界のことも、その世界での課題も、さらにはそのことによってほかの感覚が研ぎ澄まされていくという体験もありません。まったく新しい価値をもつ楽器を作る過程は困難の連続でした。
「よかれと思ってやったことが空回りしてしまうことがたくさんありました。たとえば、音の種類はたくさんあったほうがいいと思って試作してみたら、マイクが拾った音を全て振動に変えて伝えてしまうために工事現場にいるような体感になってしまったり。また、“カーン”というような高音は振動として感じにくいというフィードバックがあり、どんな音だったらわかるのだろうとサンプラーを使って様々な音を振動に変えて体感してもらいました。結果的にたくさんの音で表現するのではなく、感じ分けやすい低音と高音の2種類に絞ることに決めました」
プロトタイプを用いた検証とユーザーフィードバックの場面

プロトタイプを作っては、リードユーザーの方々にフィードバックをもらい、トライアンドエラーで楽器としての精度を高めていった
(左)社内メンター(右)手話パフォーマー『手話エンターテイメント発信団 oioi』

さらに、方向性の大きな流れを決めたのが、二人一組で使うように設計したこと。打面を叩くとボディが光を放つとともに、内部の振動スピーカーを通して脇腹にダイレクトに振動が伝わります。さらに相手の打音も自分のドラムに共振します。
「聴覚障がいのある方にとって、リズムや叩くタイミングがわかりにくいことが楽器演奏のボトルネックになると聞きました。だったら一人で演奏するのではなく、リードしてくれる相手と一緒に叩くようにしようと。振動や光も大事ですが、音が聞こえない人は予備動作と呼ばれる叩く前の動作も含めて情報にしているので、相手がいると安心して叩ける。その安心感はもちろんですし、二人で演奏していると叩きながら会話をしているみたいになるんですよね。それもハグドラムの楽しさにつながりました。」
ハグドラム同士、またはハグドラムとハンドルドラムでのセッション風景

ハグドラム同士はもちろん、ハグドラムとハンドルドラムでのセッションも楽しめる

不安を払拭するための二人一組という設計が、結果的に二人で演奏する楽しさ、パフォーマンスとしての舞台映えに。こうした設計を実現できた背景には、塩野たち技術チームの力がありました。
「二つのドラムが演奏情報を伝え合うためにMIDIという電子楽器用インターフェース規格を使いました。これは40年前くらい前から使われている規格で汎用性が高く、ほかの楽器も簡単につなぐことができます。ゆる楽器はスタートアップ的な事業ですから、まずはありものをうまく組み合わせてスピーディーに開発することを優先しました。これは、ハグドラムを小型化し、お子さまも楽しめるように改良したタンバリン状のリズム楽器「ハンドルドラム」にも共通しています。また発音の要になるデバイスにはソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下SSS)のIoT用ボードコンピュータ「SPRESENSE™(スプレッセンス、以下SPRESENSE)」を使用しています。このSPRESENSEは省電力でありながら、高いオーディオ性能や、AI認識・信号処理ができるパワーを持っており、人工衛星にも搭載されています。SPRESENSEには楽器開発用のソフトウェアライブラリがあり、開発に活用しました 」(塩野)

誰でも弾けるけれども、
プロも満足できる楽器にしたい。

ゆる楽器は楽器演奏のハードルを下げることがスタートでしたが、ただ簡単なだけではありません。
「もしボタンひとつ押せばかっこいい演奏ができたとしても、うれしいのは最初だけだろうと。やっぱり、演奏すればするほど上達するのが楽器の楽しさでもあると思うんですよね。入り口の敷居は低いけれども上達する楽しさをどうやって仕込んでいったらいいかを模索するために、『手話エンターテイメント発信団 oioi』、即興パフォーマンスグループ『el tempo(エル・テンポ)』と、その主宰者であるシシド・カフカ氏にメンターとして入っていただきました。みなさんには、電子楽器で起こる音の遅延の改善のほか、相手を見ながら演奏できるような光の見せ方など、改善点のアドバイスをたくさんいただきました。そのなかで、ハグドラムとしてあるべき姿は、やはりきちんとした楽器であることなんだと改めて認識しました。誰でも使えるけれどもプロが使っても楽器として成立する。“ハグドラマー”みたいなミュージシャンがうまれたら最高です」(秋田)
『el tempo(エル・テンポ)』との共創による演奏検証の様子

シシド・カフカ氏が主宰の『el tempo』との共創。
プロミュージシャンの方々ならではの意見も開発に反映させた

たくさんの笑顔がプロジェクトのゴール。
演者も観客も一緒に楽しめる楽器に。

ハグドラムを初披露したのは、2024年5月の「ゆるスポーツランド2024」のイベント会場。el tempoと手話エンターテイメント発信団 oioiによる演奏が行われました。
「演奏は本当にカッコよくて素晴らしかったです。同時に、ハグドラムの体験ブースを作って来場者に体験していただきましたが、みなさん触った瞬間一様に目を丸くして“何これ!?”という反応をすることに感激しました。表情も言葉も“楽しい!”というのが伝わってきて。中には障がいのある子どもの親御さんが来て、“うちの子があんなに楽器を楽しそうに演奏しているのがうれしくて”とお礼を言ってくださったり。本当に胸の熱くなるエピソードばかりで、ゆる楽器開発のモチベーションになっています」(秋田)

2024年5月に開催された「ゆるスポーツランド2024」にて、el tempoと手話エンターテイメント発信団 oioiのデモ演奏が叶いました

動画内容のテキストはこちら

タイトル
世界ゆるミュージック協会
ゆる楽器「ハグドラム」
誰もが一緒に演奏できるインクルーシブな打楽器

解説
ソニーのデザイン部門であるクリエイティブセンターは、ソニー・ミュージックエンタテインメントと協働し、誰もが楽しめる「ゆる楽器」の開発を進めています。 叩いた音を光と振動で感じられる打楽器体験「ハグドラム」を2024年5月11日に開催した「ゆるスポーツランド2024」にて初公開。
ハグドラムは、インクルーシブデザインの手法を用いて聴覚に障がいのある方の「音楽を楽しみたい」という声をもとにデザインしました。楽器開発メンターとして、今回は聴覚障がいのある手話パフォーマーの岡ア伸彦氏と中川綾二氏、シシド・カフカ氏率いるel tempo(エル・テンポ)のプロのミュージシャンたちもメンターとして加わっていただきました。

楽器開発メンターのel tempoと聴覚障がいのある手話パフォーマーのoioiのみなさまによるハグドラムの演奏から動画が始まる。

ナレーション
ハグドラムは音を振動と光に変換することにより、体で感じながら演奏することができる打楽器です。聴覚に障がいのある方やリズム感に自信のない方、小さな子どもも一緒に合奏を楽しめます。基本的な使い方としては、ハグドラムを抱きかかえるようにして持ち、2人1組で演奏します。打面を叩くと胴体が光り、同時に胴体にある2つの振動スピーカーが揺れることで音を感じることができます。

様々な打楽器とハグドラムで奏でるリズムアンサンブルの練習風景。

テロップ
質問:「開発を始めた経緯を教えてください」

梶の声
今回の設計に関しては、耳が聞こえない人でも、もちろん聞こえる人でも一緒に演奏できて合奏できているという安心感を与えることと、喜びを与えるっていうことをオーダーしました。

解説
再び練習風景が映し出され、ハグドラムのデザインを担当した森澤と秋田の映像に移る。

テロップ
質問:「デザインのポイントを教えてください」

森澤の声
「叩けば音が出る」とか「光が出て反応がある」というのが誰でも感じられる。触ってもらえば楽しさが分かる、というところを考えてデザインしました。

秋田の声
つつ状の形になっていて肩から下げて体に密着させることで、振動が直接体に当たるようなデザインになっています。

「ゆるスポーツランド2024」でお客様にご体験いただいているところ、パフォーマンスの映像などが織り込められ、楽器開発に協力いただいたみなさまの映像とコメントが流れる。

テロップ
質問:「開発のポイントを教えてください」

InstaChord株式会社の永田雄一氏の声
これは楽器であるというのが前提であって、そこにテクノロジーで新しい体験ができるもの。

続いて、ウダリストの宇田道信氏の声
触って感じるための振動を十分に出すために、大きい出力を出せるように作っています。

「ゆるスポーツランド2024」でお客様にご体験いただいているところ、練習風景の映像などが織り込められ、楽器開発のメンターとして協力いただいたみなさまの映像とコメントが流れる。

テロップ
質問:「メンターとして開発に関わってきた感想を教えてください」

一般社団法人 手話エンターテイメント発信団 oioiの中川綾二氏の声
音楽の楽しみ方が変わるなというか、僕たちみたいに聞こえなくても、見て合わせられることがこれからできるようになるので、そういう人たちにも是非楽しんでいただきたいなと思います。

続いて、同じくoioiの岡ア伸彦氏の声
僕みたいに最初音楽を上がることに対して結構不安を感じている人っていると思うので、今回のこのハグドラムの演奏をきっかけにもっと聞こえない人たちが「自分もやりたい!」と思ってくれるようになったら良いなと、すごく思いますね。

続いて、ミュージシャンのシシド・カフカ氏の声
同じリズムを共有できることは音楽のすごく楽しいところなので、それを新しい楽器で新しいかたちで、感覚を共有しながら、一緒に音楽をやるのがすごく楽しかったです。

ゆるスポーツランド2024に参加されたみなさまの集合写真で終わる。

ソニーロゴ

普段はユーザーの反応を身近に感じる機会が少なかったエンジニアの塩野も、開発に携わった楽器を楽しんでもらう機会を目の当たりにして衝撃を受けたと言います。
「聴覚に障がいがあるピアニストと吹奏楽団がセッションをするイベントがあったのですが、ピアニストの足元にハグドラムをおいて足で振動を感じながら吹奏楽団と演奏しているんです。ピアニストはハグドラムの振動しか頼りにならないから不安だったと思うんですが、それが見事な演奏で。演奏の素晴らしさはもちろんですし、そのとき彼女が“ハグドラムがあることで自分の音楽人生が180度変わった”と言ってくださって、そういう場に居合わせることができることに感動しました」(塩野)
ピアニストが足元のハグドラムの振動を感じながら合奏に参加する様子

聴覚に障がいのあるピアニストの足元にハグドラムを置き、振動を感じながら吹奏楽団とセッションを行った

たくさんの驚きや感動の場に直面してきたゆる楽器チーム。自分たちの音楽や楽器への想いが社会に役立つという素晴らしい経験は、価値観の変化にもつながりました。
「ゆる楽器のモットーは“笑顔の数”。演奏している本人が楽しくて笑顔になることはもちろん、見ている周りの人も巻き込んで楽しい空気を作るということ。演奏が楽しい、できるとうれしい、できなくても楽しい、見ている知らない人も思わず仲間に入ってしまうような空気感を提供したい。そのなかには、障がいのある人、演奏が苦手な人、子ども、おじいちゃんおばあちゃん、プロのミュージシャン、みんなが当たり前のように居る。誰もが笑顔いっぱいの世界を作っていきたいです」(秋田)
子ども達が“ゆる楽器”を楽しむ様子
ハグドラムを抱える塩野、秋田
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