2018.9.18
フードコーディネーターの冷水希三子さんによる、RX100ダイアリーの後編。あるホテルの朝食メニューをディレクションするために、京都に出張したときのこと。日常から離れてみると、その場所ならではのさまざまな出会いや食の楽しみがあり、自然の中にも、ふと心を惹かれる情景がありました。そうした思いがけない場面を写真に残すことの楽しさにも、気づかせてくれたようです。
「京都に出張する機会があって、その際に、夜ごはんを食べにお邪魔した『ファームーン』というお店で撮らせていただいた写真です。ここは料理家の船越雅代さんが開いているアトリエで、昼はカフェ、夜は貸し切り制のレストランになるという、すごく素敵な空間。燻製されたチーズのオーブン焼きや、梅ソースをあわせたスペアリブなど、どのお料理もとても美味しかった。このときは貸し切りだったこともあり、ひと声かけて撮ったのですが、普段外食するときは、食べる前に写真を撮るということは、まずしません。いちばんの食べどきを逃したら失礼かなと思うし、集中して食事を楽しみたいので。つくっていただいた料理の写真を撮るならば、やっぱり大切に撮りたいですね」
「出張のあいだに京都市内から移動して、南山城村というところにも行きました。この村でランドスケープ計画を手がけることになった若手の設計士の方が、フリーペーパーをつくっているということで、南山城村に来て、感じたことを書いてほしいと依頼されたんです。はじめは、私が原稿を書くの?って思いましたけど(笑)。実家からもわりと近い場所なので、なにかのご縁かなと。その設計士の方が、村に住んでいる人たちと、とても親しく交流されているんですね。畑でつくった野菜をもらったり、猟師さんが獲った鹿の肉を分けてもらったりして。都会とはまるで違う環境の中で、豊かな暮らしを見つけているなと思いました」
「南山城村はお茶の産地として知られていますが、ブルーベリーなども栽培されていて、もうすぐ収穫できそうな実もちらほら。畑のそばを流れている川のまわりではクモの巣を見つけて、きれいだったので、カメラを向けたくなりました。ポシェットに入るコンパクトなサイズで、撮りたいときにすぐ取り出せるし、起動が早いから便利ですね。この村には、かつて保育園だった施設が残されていて、設計士の方が、これからギャラリースペースとして運営していくそうです。自然に囲まれたこういう場所ならではの楽しみ方があって、アーティストが移住してくるようになったりすると、ますます面白くなるかもしれません」
「出張から都内に戻ってきて、料理教室でつくった料理や、部屋にある陶器など、普段の暮らしの中にあるものをいろいろと撮ってみました。昨日はたまたま、窓からピンクに染まった夕焼けの空が見えたので、これは!と思って(笑)。料理や食材を撮ることが、もちろんいちばん多いのですが、ときどき、こういう風景も撮りたくなります。ただ、スマートフォンで撮ってみても、自分が見ている風景とはどうにも違うなと、残念なことが多くて。きれいな夕焼けとか、朝焼けとか、遠くに広がる景色を、自然な印象のままに残せるのは、やっぱりうれしい。それにカメラを持ち歩いていると、コツがつかめてきて、『これも撮ってみようかな』と思うことが、だんだん増えてきますね」
【取材を終えて】 いくつもの料理のレシピのことが、いつでも頭の片隅にあるという冷水さん。お仕事のことについて尋ねてみると、まるで、毎日楽しい宿題を抱えているかのようでした。その答えは、頭の中で考えているだけで出てくるはずもなく、実際に食材を探しにいくことで、はじめてレシピとして見えてくるといいます。ちなみに、普段の食事のときも、撮影用の料理のときも、盛り付ける器を決めるのは、料理が完成してから。その日の気分と、料理の仕上がりによって、いちばんフィットするものを選んでいるそう。だからこそ、とても自然に、美味しそうに写っているのですね。(RX100ダイアリー編集部)
※冷水さんには、デジタルカメラ「DSC-RX100M3」、メモリーカード「SF-G64」を使って撮影していただきました
(インタビュー時の写真は除く)
※本ページに掲載している情報は2018年9月18日時点のものであり、予告なく変更される場合があります
冷水希三子(ひやみず きみこ) 1974年生まれ。奈良県出身。フードコーディネーターを養成する専門学校を卒業後、レストランや旅館で料理の経験を積み、大阪でフードコーディネーターとしての活動をスタート。2009年に、神奈川県・鎌倉市に拠点を移す。2016年には都内にアトリエを移し、料理教室も開く。近年の著書に『さっと煮サラダ』『スープとパン』(ともにグラフィック社)など。
冷水希三子 オフィシャルホームページ
http://kimiko-hiyamizu.com/
Edit by EATer / Photography by Kiyotaka Hatanaka(UM)[interview] / Design by BROWN:DESIGN
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