


WH-1000XM6
2016年に登場したソニーのワイヤレスヘッドホン「1000Xシリーズ」は、ユーザーに最高のリスニング体験を届けるべく、音質とノイズキャンセリング機能を核に進化。長きに渡ってその想いを“継承”し、磨き上げてきました。そんな1000Xシリーズの最新モデル『WH-1000XM6』では、音質へのこだわりはそのままに、時代のニーズに合わせた多彩な新機能を取り込むことにも“挑戦”。頭と耳を柔らかく包み込む装着感や、それぞれのライフスタイルに合わせた音体験など、より多くの方々にその音を楽しんでいただけるよう進化しました。ここではそんな『WH-1000XM6』が極めたこと、挑み続けてきたことについて、開発を担当したメンバーたちが熱く語ります。
Index

足かけ10年。その哲学は、ぶれない。
1000Xシリーズが登場した2016年当時、ヘッドホン市場はまだ有線モデルが主流でした。ワイヤレスモデルは音が悪い、通信が途切れる、重いという印象を持っている人が多かったのです。そこで1000Xシリーズでは、今日まで継承されている「最高の音質をどこでも、どんなコンテンツでも楽しめるワイヤレスヘッドホンをお届けする」という哲学のもと、最新技術・ノウハウを盛り込み、その性能をブラッシュアップしていきました。新しい『WH-1000XM6』はそうした足かけ10年に渡る進化の最先端。時間をかけてじっくりと作り込まれた完成度の高さをご確認ください。
ワイヤレスヘッドホン「1000Xシリーズ」のぶれない哲学

“継承”し続けてきたからこその高みへ。
その哲学が示す通り『WH-1000XM6』の根幹は、特定のジャンルに特化せず、あらゆる楽曲をクリエイターの意図通りに再現する音作りと、周囲の雑音をシャットアウトして音に集中できるようにする優れたノイズキャンセリング性能にこそあります。ぶれることなく音質とノイズキャンセリング性能の向上に取り組んできたからこその、その音。もちろん、心地良い装着感や上質なデザインなどにも、初代モデルから受け継いできたシリーズならではのこだわりがあります。本当に大切なことを見極め、惑うことなく積み上げ続けたからこそ、この高みに到達することができたのです。
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ノイズキャンセ
リング設計担当
伊藤 『WH-1000XM6』では、従来モデルでも好評だった「マルチノイズセンサーテクノロジー」を進化させるために、マイクを大幅に増強しました。具体的には、周囲のノイズを収音するマイクを片側4個ずつ、耳に近い位置のノイズを収音するマイクを片側2個ずつ、合計12個のマイクを連動させてノイズキャンセリング性能を大きく向上させています。
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QN3開発担当
田森 高音質化やノイズキャンセリング処理を精度高く行うためには、ヘッドホン内部に搭載されているチップの処理能力が重要になります。1000Xシリーズが最高の音質とノイズキャンセリング性能を目指す以上、プロセッサーに妥協はできません。研究開発と商品設計、半導体設計が一丸となって高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN3を開発し、音質向上やノイズキャンセリング性能向上など、多くの機能強化を実現しています。
ワイヤレスヘッドホン『WH-1000XM6』が“継承”したこと

時代の変化に合わせた“挑戦”が生み出す、新たな可能性。
『WH-1000XM6』は、シリーズとしての根幹を大切にしながらも、時代の変化にあわせて、さまざまな新機軸にも挑戦しています。国際的な音楽賞の受賞経験もある著名なサウンドエンジニアとの共創による音作りや、映画館の迫力あるサウンド体験を再現する新機能など、従来の枠組みにとらわれない自由な発想で、ワイヤレスヘッドホンの持つ可能性を大きく拡げました。さらに今回は、誰一人取り残さないインクルーシブなデザインの実現も目指し、より多くの人に『WH-1000XM6』の体験を楽しんでいただけるようにもしています。
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音響設計担当
鷹村 音楽シーンの最前線でさまざまなジャンルの曲を取り扱っている専門家の知見を取り入れられたことで、「どんなジャンルの楽曲でも楽しめる」という従来からソニーが重視してきたポイントをしっかり押さえつつ、今の時代の音楽によりマッチしつつ、アーティストが意図した音をそのまま再現できる理想的な音質に仕上げることができました。
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デザイン担当
隅井 『WH-1000XM6』ではケースをジッパーではなく、マグネットで留める形にして誰でも簡単に開閉できるようにしました。さらに、前後がわかりやすいヘッドバンド形状や、触覚で判断しやすい操作ボタン配置など、直観的な操作性の実現を心がけています。結果として誰もが快適に使えるヘッドホンに仕上がったのではないでしょうか。
ワイヤレスヘッドホン『WH-1000XM6』が“挑戦”したこと
Interview
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商品企画担当
中西 -
プロジェクト
リーダー
高田 -
音響設計担当
鷹村 -
ノイズキャンセ
リング設計担当
伊藤 -
QN3開発担当
田森 -
360 Upmix for
Cinema開発担当
山嶋 -
メカ設計担当
鮫島 -
デザイン担当
隅井
3年の時をかけて練り上げた
1000Xシリーズの決定版
まずは、『WH-1000XM6』を含む、1000Xシリーズ全体に通底する哲学がどのようなものかを教えてください。
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商品企画担当
中西 2016年10月に発売された1000Xシリーズ第1弾『MDR-1000X』は、「最高の音質をどこでも、どんなコンテンツでも楽しめるワイヤレスヘッドホンをお届けする」という哲学のもと誕生しました。当時はまだワイヤレスの音質に懐疑的な方も多かった時代ですが、『MDR-1000X』はワイヤレスでもハイレゾ相当の音質を楽しめるようにする「LDAC」や「DSEE HX」、そして業界でもトップクラスのノイズキャンセリング機能を武器にそうした風評を過去のものにしています。これらの特長は1000Xシリーズに今も変わることなく継承されています。


音質とノイズキャンセリング性能こそが、シリーズが受け継ぎ、磨き上げてきた“背骨”であるということですね。それから今日に至る進化の中で、特に象徴的だったモデルはどれでしょうか?
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商品企画担当
中西 個人的に特に印象に残っているのは2018年10月に発売された第3世代モデル『WH-1000XM3』と、2022年5月に発売された第5世代モデル『WH-1000XM5』ですね。
『WH-1000XM3』は、新モデルにも搭載されている高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN3(以下、QN3)の前身となる高音質ノイズキャンセリングプロセッサーQN1(以下、QN1)を初搭載し、ノイズキャンセリング性能を飛躍的に向上させました。この製品とその次の『WH-1000XM4』(2020年9月発売)で「ノイズキャンセリング機能といえばソニー」という評価を確立できたと考えています。
『WH-1000XM5』は、メディアから「あらゆる点で改善すべきところが見当たらない」とまで評価されていた先代モデルのデザインを大胆に変え、「今までにない新しいヘッドホンの理想型」を提案することに挑戦した製品です。これが女性や若い方々、これまで1000Xシリーズを使ったことのなかった方々に好評で、「iFデザインアワード2023」の最高賞を受賞するなど、大きな反響をいただきました。
そんな1000Xシリーズの最新モデル『WH-1000XM6』がどのような製品になったのかを教えてください。
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商品企画担当
中西 なによりもまず、1000Xシリーズの根幹である「音質」と「ノイズキャンセリング性能」を改めて深掘りしたモデルだと考えています。特に音質については、ソニーミュージックのBattery Studiosをはじめ、いくつものマスタリングスタジオと共同で音質チューニングに取り組み、よりハイレベルなサウンドを追求しました。ノイズキャンセリング機能についても、QN3チップの新搭載とアルゴリズム刷新によってさらに性能を高めています。
その上で、ご要望の多かった折り畳み機構を復活させ、映画館のような立体音響を体験できる「360 Upmix for Cinema」や、ながら聴きに最適な「BGMエフェクト」など、ユーザーそれぞれのライフスタイルに合わせた新機能も豊富に搭載しています。
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プロジェクト
リーダー
高田 結果として、先代モデルの発表から3年もお待たせすることになってしまったのですが、それだけに大きな進化を遂げた、「決定版」とも言える製品に仕上がっています。

プロフェッショナルたちとの共創で
音質をさらにアップデート
ここからは、個別の機能について開発担当の皆さんに深掘りしていきたいと思います。まずは1000Xシリーズの最新モデルとして『WH-1000XM6』の音質をどのように進化させたのかを聞かせてください。
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音響設計担当
鷹村 今回の『WH-1000XM6』では、音質を大きく2つのやり方でアップデートしています。1つ目は先ほど中西からもお話のあった「マスタリングスタジオとの共同チューニング」。2つ目は、ハードウェア面でのアップデートです。
マスタリングスタジオとの共同チューニングに関しては、過去の製品でも行ってきたのですが、それはソニーミュージックのBattery Studiosなど、あくまでグループ内のスタジオに限られていました。一方今回は、これまでになかった挑戦として、外部の一流スタジオとも連携しています。具体的にはニューヨークの世界的マスタリングスタジオであるSTERLING SOUNDや、カリフォルニア州バークレーのCoast Masteringに所属する、国際的な音楽賞の受賞歴も持つようなエンジニアたちと共創する形で『WH-1000XM6』の音をブラッシュアップしていきました。

なぜ、彼らと共創しようと考えたのですか?
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音響設計担当
鷹村 音楽やその楽しみ方が多様化していく中、1000Xシリーズやソニーの音質をより魅力的にアップデートしていくには内部だけでなく外部の技術や知見を取り入れ、視野を広げていく必要があると考えたからです。
しかし、ソニーグループではない外部のスタジオと一緒に音を作り込んでいくのは、社風、文化の違いなどもあって大変だったのではないですか?
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音響設計担当
鷹村 そうですね。私自身、当初は「我々の音作りと全く異なる方向性を提案されたらどうしよう」という不安もありました。ただ、いざ一緒に作業してみると、目指している方向性が予想以上に近かったのです。低音域とボーカルのバランスや楽器の定位が正確に聴こえるかどうかなど、多くの点で共通する感覚がありました。

では、共創はなんらトラブルなく進んだということですね。
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音響設計担当
鷹村 もちろん、意見の相違が全くなかったというわけではありません。私たちの「常識」とは異なる考え方を提示されて驚いたことが何度もありました。しかし、そうした意見を取り入れつつチューニングしていくと、確かに音が良くなったと感じることも多かったんです。この取り組みを通じて、自分自身の音楽観もアップデートされたように感じています。エンジニアとして得がたい経験をすることができました。
グループの垣根を越えてコラボレーションした価値はあったということですね。
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音響設計担当
鷹村 はい。音楽シーンの最前線でさまざまなジャンルの曲を取り扱っている専門家の知見を取り入れられたことで、「どんなジャンルの楽曲でも楽しめる」という従来からソニーが重視してきたポイントをしっかり押さえつつ、今の時代の音楽によりマッチしつつ、アーティストが意図した音をそのまま再現できる理想的な音質に仕上げることができました。
もう1つの改善点であるハードウェア面でのアップデートについても聞かせてください。
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音響設計担当
鷹村 ハードウェアについては、まず音を出すドライバーユニットをアップデートしました。振動板の素材やサイズなどは『WH-1000XM5』から変わっていないのですが、ドライバーユニット背面の通気をコントロールするレジスタの特性を一定に保つための工夫をすることで低音域の歪みを低減させ、また内部のボイスコイルを巻き付けるボビンに穴を開けることで中高域の再現性がさらに向上しています。
そしてもう1つ、QN3チップに新搭載された「先読み型ノイズシェーパー」です。これはデジタル信号をアナログ信号に変換する際の高音質化技術です。実際に聴くと、低音のキレや高音域の伸びが一段上がり、音の広がり感も増していると感じていただけるはずです。

もう少し詳しく教えてもらえますか?
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QN3開発担当
田森 「ノイズシェーパー」とは、デジタル信号のアナログ変換において必要となる、デジタル信号の量子化ノイズのスペクトラムを制御する技術です。「先読み型ノイズシェーパー」は、この分野で多くの知見を持つ名古屋工業大学から学術指導をいただく形で新規開発しました。量子化ノイズを先読み計算して最適化するため、音の立ち上がりなど、急峻な信号変化に正確に応答できるようになっているのが特徴です。従来型のノイズシェーパーと比べて、迫力ある低音のエネルギー感や高音の滑らかさが大きく向上しています。
その開発にあたっては、ソニーのデジタルアンプ「S-Master」の開発でも使用しているこのボードで、アルゴリズムの実証と最適化を進めていきました。オーディオ再生における最終段のデジタル信号からアナログに変換する際の技術であるため、アナログ回路の性能も重要になります。従来のQN1チップと比べて7倍以上のパフォーマンスを持ち、アナログ回路設計にも妥協がないQN3チップだからこそ実現できたと思っています。


パフォーマンスが従来チップの7倍以上というのは凄まじいですね。
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QN3開発担当
田森 高音質化やノイズキャンセリング処理を精度高く行うためには、ヘッドホン内部に搭載されているチップの処理能力が重要になります。1000Xシリーズが最高の音質とノイズキャンセリング性能を目指す以上、プロセッサーに妥協はできません。研究開発と商品設計、半導体設計が一丸となって高性能なQN3チップを開発し、音質向上やノイズキャンセリング性能向上など、多くの機能強化を実現しています。
映画鑑賞から「ながら聴き」まで
さまざまな利用スタイルにマッチ
『WH-1000XM6』には、そうして磨き上げた音質を、より多くのシーンで積極的に楽しんでいただくための仕組みが数多く追加されています。その詳細と狙いについても教えてください。
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360 Upmix for
Cinema開発担当
山嶋 まずは、『WH-1000XM6』での映画鑑賞をよりリアルなものにする「360 Reality Audio Upmix for Cinema(以下、360 Upmix for Cinema)」について紹介させてください。これは、ステレオ音声(2ch)から映画館のような立体的なサラウンド音声を作り出す技術です。通常、スマートフォンとBluetoothヘッドホンの組み合わせで映画を視聴する場合、仕組みとして音声信号が2chになってしまい、映画ならではの音のスケール感が損なわれてしまいます。
それに対し360 Upmix for Cinemaでは、ステレオ音声をヘッドホン内部で解析し、リアルタイムに各音成分の定位を推定して、上方を含む立体音響信号にアップミックスします。そこにソニーが長年培ってきたHRTF(頭部伝達関数)技術や、この機能のために独自に開発した、映画館のような大きな空間を再現する音響シミュレーション技術を組み合わせることで、まるで「目の前に大スクリーンがあるかのような」広がりを再現するんです。映画館ならではの「音が面で来る感じ」と言えば伝わるでしょうか? 映画はもちろん、ドラマなど、プロがしっかりと作り込んだ全ての動画コンテンツで圧倒的な没入感を感じていただけるはずです。


スマートフォンがどんどん大画面化・高画質化し、映像面での没入感が高まっている中、音声だけはステレオのままでチグハグ感を感じていたという人にうれしい機能ですね。
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360 Upmix for
Cinema開発担当
山嶋 自宅にしっかりとしたホームシアター環境を構築している人でも、それとはまた異なる中規模クラス以上の映画館の感じが楽しめますので、ぜひお試しいただければ。
そしてもう1つ、今日ご紹介したい新機能が“ながら聴き”に特化した「BGMエフェクト」です。通常、音楽を聴くときは楽曲に集中すると思いますが、仕事中や読書中にBGM的に音楽を流したいこともありますよね。BGMエフェクトは、カフェや美容室のような、空間的にふわっと音が流れている雰囲気を再現し、音楽が耳のすぐそばに張り付く感じを緩和してくれる機能です。「ノイズキャンセリングをかけつつ、音楽は控えめに感じられる」という不思議なバランスで、作業や勉強への集中を助けてくれます。
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商品企画担当
中西 これらの機能は、1000Xシリーズを音楽再生以外に使っているユーザーが多いことを受けて搭載されました。音楽はもちろん、動画やゲームなど、あらゆるエンタテインメントを、最高の音質で楽しんでいただければと考えています。
さらに進化したノイズキャンセリング性能を
周囲の環境に合わせて自動で最適化
続いて、ノイズキャンセリング機能についてお話を伺いたいと思います。今回、『WH-1000XM6』ではノイズキャンセリング性能が大幅に向上していると聞きましたが、具体的にどういったアプローチを採用されているのでしょうか?
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ノイズキャンセ
リング設計担当
伊藤 『WH-1000XM6』では、従来モデルでも好評だった「マルチノイズセンサーテクノロジー」を進化させるために先代モデル『WH-1000XM5』では8個搭載されていたマイクを大幅に増強しました。具体的には、周囲のノイズを収音する外部フィードフォワードマイクを片側4個ずつ、耳に近い位置のノイズを収音する内部フィードバックマイクを片側2個ずつ、合計12個のマイクを連動させてノイズキャンセリング性能を大きく向上させています。

このマイクの数はどのようにして決めたのですか?
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ノイズキャンセ
リング設計担当
伊藤 「理想のノイズキャンセリングを実現するにはどのくらいマイクが必要か」という研究開発部門の検証を踏まえて決定しました。マイクを増やせばノイズキャンセリング性能は上がる反面、コストやバッテリーへの影響もあるので、そのバランスを慎重に見極めた結果が合計12個のマイクということになります。特に内側のマイクを2個に増やしたのは大きな進化点で、ソニーのヘッドバンド型製品では初めての挑戦となります。
これらの配置も苦労されたところではないのですか?
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ノイズキャンセ
リング設計担当
伊藤 そうですね。既存モデルの外側や内部にたくさんのマイクを貼り付け(写真)、さまざまなパターンを試してベストな配置を探っていきました。特に大変だったのが、2つ目のフィードバックマイクの位置決めです。メカ設計メンバーとも話し合いながら、なるべく耳の近くに配置しつつ装着感には悪影響を与えないよう、どのような装着の仕方でも安定して効果が出る位置を見つけだすのが大変でした。ミリ単位で細かく詰めていくことで、なんとかベストな位置を見つけだすことができました。


1000Xシリーズのノイズキャンセリング性能はすでにこれ以上ないレベルに達していると思うのですが、最新モデルのノイズキャンセリング性能はどれほどのものに仕上がっているのでしょうか?
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ノイズキャンセ
リング設計担当
伊藤 あらゆるノイズに有効ですが、特に人の声やリビングなどでの生活ノイズなどをよりしっかりと低減できるようになっていますので、在宅ワークなどでご家族の声や生活音が気になるという方に喜んでいただけると考えています。
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商品企画担当
中西 また、『WH-1000XM6』ではマイク数の増強に加え、先代モデルに搭載されていた「オートNCオプティマイザー」を進化させた、「アダプティブNCオプティマイザー」を追加しました。これは周囲の音をリアルタイムに解析しながらノイズキャンセリング機能を最適化(オプティマイズ)するというもの。音環境の移り変わりに加え、頭の形の違いやヘッドホンに髪がかかっていたり、眼鏡をかけていたりといった装着状態の変化や個々のユーザーの特性にも対応しますので、より多くの方々に最適化されたノイズキャンセリング体験をしていただけるようになります。

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QN3開発担当
田森 ノイズキャンセリングは、かつて、飛行機内の騒音を消したいというニーズから始まった技術ですが、昨今は、ユーザー数も大幅に拡大し、日常生活のあらゆるシーンで使われるようになりました。そうした実状を受け、気圧変化に加えて、ノイズの環境変化にも最大限にノイズキャンセリング効果を得られるよう「アダプティブ(適応型)」と名付けています。その効果の違いは一度使ってみていただければ誰にでも感じていただけるほどのものです。
その実現にはどのような難しさがありましたか?
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QN3開発担当
田森 リアルタイムに多くのマイク信号を解析するため、当然ながら処理の負担が大きくなります。私の所属する研究開発部門では、この特殊な開発ボード上で基礎アルゴリズムを開発できましたが、バッテリー性能や本体サイズに影響を与えることなく機能をどう実現するかに悩まされました。優れたパフォーマンスを誇るQN3チップを開発・搭載することなしには実現できなかったと思います。

先ほどから何度も出てきているQN3チップがこの点でも大きな貢献をしているということなんですね。
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QN3開発担当
田森 その通りです。今回は特に適応型の動作になるので、リアルタイム処理ならではのチャレンジポイントがあり、アルゴリズムも徹底的に新規開発しています。新規アルゴリズムの性能を最大限に発揮するQN3チップが開発できたからこそ、ベストなノイズキャンセリング性能を実現することができたのです。
シンプルなフォルムを洗練しつつ
すべての人に使いやすいデザインへ
『WH-1000XM6』は、先代モデル『WH-1000XM5』からデザイン面でも大きな進化を遂げています。今回、どのような挑戦を行ったのかを教えてください。
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商品企画担当
中西 基本的には『WH-1000XM5』で大きく刷新したデザインを継承しつつ、1000Xシリーズを愛好されている皆さんからいただいた要望の実現に挑戦しています。具体的には長時間使用するときに頭頂部の当たりが気になるという声をふまえてヘッドバンドの形状やクッション性を見直したほか、折り畳み機構を採用して持ち運びやすくするなどしました。
加えて今回はアクセシビリティの向上にも注力しています。あらゆるユーザーに快適にこの製品を使っていただけるよう、前後を分かりやすくしたアシンメトリーデザイン、マグネット開閉機構を採用したケース、それぞれのボタンの探しやすさ、押しやすさなど、細かな部分までこれまで以上に配慮しました。


大きく「装着感の改善」「折り畳み機構の採用」「アクセシビリティの向上」を行っているということですね。それぞれもう少し詳しく教えてください。
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デザイン担当
隅井 そもそも『WH-1000XM5』でヘッドバンドを極限まで細くしたのは、デザインチームとして「装着時に目立ちすぎない」ことを狙ったためです。『WH-1000XM6』ではこの目的はそのままに、装着感、使い勝手、質感、全ての点で満足感を高めたいと考えました。
まず取り組んだのが装着感の改善です。ヘッドバンドの幅を広げることで頭頂部の当たりを軽減し、長時間利用していても快適さを損なわないようにしました。この際、アクセシビリティの観点から、背面側にわずかに膨らみを付けたほか、先代モデルでは前後にあった縫い目を背面だけにしたことで、ヘッドホンの前後を迷わず正しい向きで装着できるようにしています。

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メカ設計担当
鮫島 耳に直接触れるイヤーパッドもこだわった部分です。この部分は装着感だけでなく、音質やノイズキャンセリング性能にも大きな影響を及ぼす遮音性、そして見た目の美しさにも関連してきます。また、イヤーパッドの中央の布(スクリーン)についても張り具合が堅いと耳に当たった時に不快になりますし、ゆるすぎると音響的に問題がでます。


単に柔らかくて耳あたりが良ければいいというものではないのですね。
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メカ設計担当
鮫島 そうなんです。特に今回はデザインチームから装着時のイヤーパッドのつぶれ方にもリクエストがあり、イヤーパッド内部のウレタン形状や、中央の布(スクリーン)の張り具合などを試行錯誤し、遮音性をしっかり保ちつつ、装着時の快適性や見た目にもこだわって作り上げました。
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デザイン担当
隅井 見た目でもなるべくハウジングとイヤーパッドに一体感を持たせたかったんですよね。もちろん素材が違うので完全な一体化はできないのですが、メカチームのがんばりもあって、納得できるものに作りあげられました。
折り畳み機構の採用についてはどのような難しさがありましたか?
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メカ設計担当
鮫島 最大のハードルは、デザインと機能の両立です。デザインの実現したい形状に折り畳み機能を入れ込むために、金属パーツを使うことで強度を高めています。この際、それをあえて露出させてデザインのアクセントとすることで、折り畳み機構を追加しつつ、細さと見た目の美しさを損なわないようにしています。

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デザイン担当
隅井 多くのヘッドホンは未使用の状態が最もシンプルで美しく見えるようになっており、利用時にヘッドバンドから内部の金属アームが露出して、段差ができたりすることにもどかしさを感じていました。そこで『WH-1000XM5』では、ヘッドバンドの構造を工夫し、使っている時にも美しく見えるようにしました。『WH-1000XM6』はそれをさらに磨き上げ、前から見た時にアーム部分がより薄くなるようにしたほか、その質感も揃えることに成功しています。また、ヘッドバンド部のアーチ形状についても頭頂部から耳もとまでフィットするかたちに改め、耳上のあたりに隙間が極力少なくなるようにしています。接合している部分についても特殊な製法を採用することで、より目立たないようにしているんですよ。

女性ユーザーの中には、アームを延ばしている=頭が大きいと周囲に思われたくない方も多いと聞きますから、これは良いアップデートですね。では、最後にアクセシビリティの改善についても聞かせてください。
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デザイン担当
隅井 数年前に社内で「ソニーのオーディオ製品を誰もが使いやすくするには?」というデザインプロジェクトがありました。その取り組みの中で、障がいのある方や高齢の方など、多様なユーザーが製品を買ってから設定して使うところまでを検証したのですが、思った以上に多くの成果が得られました。たとえば、ある障がいを持った方はケースがジッパーで閉じられていると開けづらいなど、これまでのもの作りでは見落としてしまうような気付きがあったんです。
そこで『WH-1000XM6』ではケースをジッパーではなく、マグネットで留める形にして誰でも簡単に開閉できるようにしました。さらに、先ほどもお話しした前後がわかりやすいヘッドバンド形状や、触覚で判断しやすい操作ボタン配置など、直観的な操作性の実現を心がけています。結果として健常者を含む、誰もが快適に使えるヘッドホンに仕上がったのではないでしょうか。

アクセシビリティの改善は、障がいのあるなしに関わらず、すべてのユーザーにメリットがある取り組みなのですね。
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デザイン担当
隅井 その通りです。ほかにも環境に配慮したオリジナルブレンドマテリアルを使った開梱しやすいパッケージなど、従来モデルから好評な部分はしっかり継承しています。
商品企画担当
中西
その違いは、先代モデルを使われている方にもはっきり分かるレベルです。そろそろ買い換えようかなと考えている方々はもちろん、今使っているヘッドホンに満足しているという方にもお手に取っていただきたいですね。きっとその違いに驚いていただけるはずです。
プロジェクト
リーダー
高田
結果として、先代モデルの発表から3年もお待たせすることになってしまったのですが、それだけに大きな進化を遂げた、「決定版」とも言える製品に仕上がっています。