商品情報・ストア Feature Playing Time vol.01 細井美裕

Playing Time | vol.01 |
Chapter 2

細井美裕
サウンドアーティスト

「Playing Time」第1回目のゲストは、
サウンドアーティストの細井美裕さん。
初めての作品となった曲は、
果たしてどのような挑戦だったのか。
自分の声にいま見いだしている
可能性についても話してくださいました。
さらに今回は、細井さんの作品制作にも
欠かせないレコーダーを実際に使用。
衝撃的だったという、その音とは?

自分の声を多重録音したサウンド作品をつくり続け、これまでに山口情報芸術センター[YCAM]やNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]など、さまざまな施設・場所で発表。2020年、文化庁メディア芸術祭にてアート部門新人賞を受賞。近年は、音を再生する平面的な作品など、オブジェクトとして完成させる作品も手がけ、2023年夏に長野県立美術館で新作を発表する予定。

「 自分のやりたかったことを
発散したような曲 」

― 細井さんのアルバム『Orb』は、残響室で収録した声そのものをいかした1曲目「Chant」から、22.2chの音響フォーマットで制作した6曲目「Lenna」まで、自分の声の可能性を確かめながら、音楽の長い歴史を追うような構成でした。

「私のまわりには音楽で真剣に頑張っている友達がたくさんいて、ずっと間近に見てきたこともあり、彼らと同じくらい自分が頑張れることはなんだろうと考えて。自分の声だけでプレゼンテーションをしてみるというコンセプトだったら、なにかできるかなと思ったんです。なかでも『Lenna』という曲は、私にとって最初の作品という位置付けになるのですが、サウンドエンジニアや作曲家などに依頼して、一緒につくるということを初めてやってみました。それまでに溜まっていた自分のやりたいことを、一度に発散したような曲です。ただ、実際に制作を始めてみたら、とにかく大変で。泣きながらつくっていたような記憶があります(笑)」

「 覚悟がいるけれど、
いま意味のあること 」

― 「Lenna」に関しては、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを適用して二次利用(非営利)ができるように公開するとともに、22.2chから2chに至るまで、まったく異なる音響システムと場所で発表を続けていますね。

「簡単に言ってしまうと、『Lenna』はテスト用音源のようなイメージ。音響のフォーマットにもいろいろあるけれど、それを再生する場所にも、そこならではの周囲の音や響きがある。そういう、空間ごとの音を意識するためにつくった曲です。その22.2chデータをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスによって公開するにあたって、まずは自分たちで、さまざまな場所や環境に合わせたバージョンに再構築したうえで発表してきました。なにか1つの正解があるわけではなく、再生環境に合わせたアレンジを、その人なりの感覚で試してもらえれば、という思いがあったからです。プロセッサーをつくっている技術者などには、研究開発に役立ててもらうことも想定して、私が出せる限りの声を詰め込みました。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを適用して公開することには覚悟がいりますが、いまの時代には意味のあることだと考えています」

「 ひとりでは発せない音が
アイデンティティに 」

― 自らの声だけを素材として曲をつくるというアプローチには、どのような面白さや醍醐味を感じていますか?

「楽器の場合は、それを演奏しているのが誰なのか、誰の音なのかまでは、なかなかわからないけれど、知っている人の声であれば、誰のものかがすぐにわかりますよね。声というのはそれくらい、考える前に受けとめられる面白い“音”だと思っています。その一方で、私の声に関しては、匿名性が高いということがオリジナリティにつながるような気がしていて。しかも、作品の中では基本的に、自分のいくつかの声を重ねた音しか使用していないので、ひとりでは発せない音、機械を使わなければつくれない音ばかりです。そういった音が、自分の新しいアイデンティティになっていくのではと思っています」


レコーダー「PCM-D10」
+ ヘッドホン「IER-M7」で、
“自分の耳でそのまま聴いている”感覚に。
レコーダー「PCM-D10」
+ ヘッドホン「IER-M7」で、
“自分の耳でそのまま聴いている”感覚に。

とても自然な音によって、
空間的にキャプチャーできる

「このレコーダーとヘッドホンの組み合わせは、本当に衝撃で(笑)。これまで使ってきたレコーダーは、マイクで拾った音を聴いているという印象がほとんどだったのですが、これは自分の耳でそのまま聴いているようだったので、びっくりしました。家の中でも外でも、試しに録音しながら聴いてみたところ、室内でかすかな物音しかしないときなどはとくに、録音中なのかどうかもわからなくなるほど、機材など使っていない感覚になって。録音された音を再生して聴くだけでも、その部屋の中にいるように感じられました。音を取捨選択しすぎないというか、狙っている音とそれ以外の音がなだらかに調和していて、とても自然に聴こえる。こういう空間的キャプチャーができるのは、すごいと思います。これからの制作で、とくに背景的な音のレコーディングなどに試してみたい。買い換えるなら、この組み合わせですね」

フィールドレコーディングでも
使いやすく、頼りになる

「レコーダー本体に関してはまず、マイクの向きを指で簡単に調節できるのがよかった。電源をオンにして、すぐに録り始められるし、録音中であることもひと目でわかる。設定の仕方もわかりやすくて、全般的に使い勝手がとてもいいと思いました。それと個人的にうれしかったのは、本体がちょっとザラザラしたマットな質感なので、手でつかんで固定しやすく、ノイズが生じにくいこと。録音レベルの調節もダイヤル式なので、静かに操作できました。フィールドレコーディングをしているときなど、気をつけていても、どうしてもレコーダーを持つ手がずれたり、操作する指がこすれたりして、ノイズが入ってしまいやすいので、このつくりはすごく助かります。とくに私の場合は、洞窟の中に入って録音することもあったりするので。ほかにも、繊細な音を録るときにノイズを減らせる『高S/Nモード』を、自分の小さな声で試してみたら面白かった。リモート操作ができる『REC Remote』のアプリも便利ですね。レコーダーをどこかに置いて録る際に、その場から離れる自分の足音を入れたくないので、これから活用してみたいです」

Chapter 3 
細井さんがこれから
力を入れていきたい活動とは >

※ Chapter 3では、スピーカー「SRS-RA5000」、
ヘッドセット「WH-1000XM5」も使用していただきます


リニアPCMレコーダー
PCM-D10
音楽機材や電子楽器に接続可能なXLR/TRS入力端子搭載、高品位なレコーディングを実現するハイレゾ対応リニアPCMレコーダー
ステレオヘッドホン
IER-M7
これが、ステージ上で求められる音。原音を正確に描き出す高音質

PROFILE

細井美裕(ほそい みゆ) 1993年生まれ。サウンドアーティスト。慶應義塾大学卒業。自身の声を多重録音し、マルチチャンネル音響を用いたサウンドやインスタレーションなどの作品をつくり続ける。2019年に、22.2chの音響フォーマットで制作した「Lenna」を含む、自身初のアルバム『Orb』をリリース。山口情報芸術センター[YCAM]、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、日本科学未来館、東京芸術劇場コンサートホール、羽田空港、愛知県芸術劇場などで作品を発表してきた。「Lenna」のインスタレーションにより、第23回文化庁メディア芸術祭にてアート部門新人賞を受賞。

細井美裕 オフィシャルサイト
https://miyuhosoi.com/ 別ウィンドウで開きます

Edit by EATer /
Photography by Kiyotaka Hatanaka /
Design by BROWN:DESIGN