イタリア撮影記 with NEX-7

NEX-7のカタログで撮影の舞台となった、イタリアのトスカーナ地方。
古都フィレンツェにはローマ帝国時代の石畳や建造物がそのままの姿で残され、収穫を迎えたトスカーナには、大地の恵みがあふれていた。
その歴史と伝統をじっくりと味わいながら、写真家とともにトスカーナを巡った、その撮影の舞台裏に迫ってみた。

トスカーナ 黄金の大地

早朝、ルネッサンスの中心地となったイタリアの都市フィレンツェから車で郊外へと向かった。
なだらかな丘陵が続き、ぽつりぽつりと農家が現れるだけで、斜面にはトスカーナの名産である麦とオリーブの畑がどこまでも広がる。道しるべのように植えられた糸杉を目印に、轍が残る舗装されていない道をひたすら進む。しかし、どこまで行っても小麦はすでに収穫を終えた後で、見渡すかぎり荒野のような地平が広がっていた。そのうち朝日がゆっくりと昇りはじめた。その瞬間、枯れた草と掘り返された赤土が、光を浴びて黄金色に輝きはじめた。

闇に浮かんだ「天空の村」

まるで孤島のように断崖絶壁に建つ小さな村。
かつては平野の村だったのが、長年にわたる浸食で周りの柔らかな石灰岩の土壌が削り取られてでき上がったという。残された土地には、いまでは20人ほどしか住んでいないそうだ。朝靄が立ち込めると、「天空の村」という呼び名の通り、雲海にぽっかりと浮かんでいるように見えると聞いた。その光景を見ようと待ち構えたが、その日は雲海が出ることはなかった。ただ、夜明けとともに闇の中から浮かび上がる「天空の村」は、かつてないほど幻想的な光景だった。

イタリア 大地の恵み

朝のやわらかな光に包まれた食卓。宿の主人が気に入ったものしか仕入れないという、厳選された食材が並んでいた。その味は、どれも濃厚で滋味にあふれていた。そこには人が手塩にかけてつくったものに対する、強い尊敬の念があった。大地の恵みに感謝しながら、素材を生かしきるのがイタリア人の気質だという。確かにチーズも、ワインも、大地の恵みをじっくりと凝縮させた食材だ。イタリアには歴史や伝統ばかりに目がいきがちだが、大地の恵みに感謝する気持ちが根底に流れていることを感じた。

美しき豊穣の大地


トスカーナ地方は、収穫の季節を迎えていた。ワインとなる葡萄は、太陽の光を全身に浴び、小粒だがぎっしりと実っている。足元の至るところには、日本とはまた少し違った形のイタリアの栗が落ちていた。熟しきった果実たちが、まるで収穫を待ちわびているかのようだった。収穫された葡萄は農家の庭先に運ばれ、そのままつぶされてワイン樽に詰められていった。せわしなく農道を行き交うトラクターが、あたり一面に葡萄の甘い匂いを漂わせている。じっくりと樽の中で寝かされたこのワインは、何年後、何十年後、誰の食卓を彩るのだろうか。

歴史に刻まれた人の営み

歴史が刻まれた石畳:ローマ帝国時代の古い街並、馬車が駆け抜けた石畳の街道がそのままの形で残されている。どこを切り取っても、悠久の歴史が深く刻まれている。その石畳を、老年のカップルが手をつなぎながらゆっくりと歩いてきた。このフォトジェニックな瞬間を、二人の姿が逆光に浮かび上がるように切り取った。

ドゥオーモ:フィレンツェの中心部にそびえ立つ街のシンボル「ドゥオーモ(大聖堂)」。3色の大理石で装飾されたその美しい大聖堂の姿は、街のどこからでも眺めることができた。この荘厳な建造物が、まるで街の人々の営みを見守るかのようだった。そのドーム状の赤煉瓦の屋根が、夕暮れの茜色の空に溶け込んでいた。

バールと裏路地


地元のバールにて:地元の人たちで賑わうバール。入れ代わり立ち代わり、ワインやエスプレッソを飲みにたくさんの人が訪れる。イタリア人にとってバールは生活のリズムに欠かせないという。お客さんとの軽いおしゃべりとともに、せわしなくスタッフたちは動き回っていた。疲れたからだを休めるのに、その喧噪は心地よかった。裏路地を彷徨う:フィレンツェには小さな路地が入り組み、ひとつ道を間違えただけで、思わぬところに出てきてしまう。街を彷徨いながら見つけた、雰囲気ある裏路地。やわらかで人をなぜか惹き付けるような光芒が、路地の奥まで続いていた。こうやって迷うことで、新しい被写体との出会えることも、また旅の醍醐味ではないだろうか。

ゆっくりと暮れる古都


時計塔:時計の針は、午後7時を指していたが、イタリアの空はまだ明るいままだった。対照的に曲がりくねった路地は一層その暗さを増した。空と路地、その光と影のコントラストを、モノクロにして浮かび上がらせた。
彫像のシルエット:さっきまで降り続いていた雨がようやく止み、厚い雲の隙間から、突如強い陽の光が射し込んてきた。街道の石畳に、夕日が反射し、彫像のシルエットを浮かび上がらせた。

ベッキオ橋:市街の東西を流れるアルノ川に架かるフィレンツェ最古の橋「ベッキオ橋」。太陽が沈み、街の明かりがいっせいに灯りはじめると、古都フィレンツェはまた別の表情を見せる。ゆったりと流れる川面にあたたかな光が反射して、街はとても幻想的な雰囲気に包まれる。誰もが足を止め、その光景に見入っている。街も人も少し歩調をゆるめたような気がした。一日が、ゆっくりと終わりを迎えようとしている。