法人のお客様メディカル関連機器 評価レポート・事例紹介 東京医科歯科大学医学部附属病院 様

東京医科歯科大学医学部附属病院 様

daVinciXi手術におけるIP映像システムの有用性
ロボット・AI・IoT 次世代医療を実現する
医療映像プラットフォームNUCLeUS

当院には現在15部屋の手術室があり、2023年には新設統合が予定されており手術室が増設されます。MEセンターには臨床工学技士(Clinical Engineer: CE)36名がおり、私が主任をする手術部チームは1日5〜10名が勤務していて、毎日20〜30件程の手術を担当しています。

瀬島 啓史 様
国立大学法人 東京医科歯科大学
医学部附属病院 MEセンター
主任臨床工学技士
瀬島 啓史 様
Hiroshi Seshima
医療映像プラットフォーム NUCLeUS

IP(Internet Protocol)ネットワークを通じ、手術室を含む院内の多様な機器からの医療映像データを一元的に管理・活用することで、手術サポート、ワークフローの効率化を実現する次世代型映像システム

今回、ロボット支援下手術におけるIP通信を用いた映像システムの有用性を検討することを目的に、NUCLeUSの本体システムを手術室に持ち込んで下部消化管や泌尿器の手術において試用しました。

試用方法とシステム概要図

NUCLeUSとLANケーブルでIP接続した手術支援ロボット(daVinciXi)から出力された2D/3Dの手術映像を統合して、手術室内のモニターにリアルタイムでの表示および録画を行い、試用後に泌尿器科の医師やCEから使い勝手や映像の見え方についての評価を得ました。

評価①「LANケーブルでの配線がスマートでトラブルの要因が減る」

今回の試用を通して最もメリットと感じた点は、複雑な医療機器の配線をLANケーブル(Ethernet)1種類に統一できたことです。手術映像機器の接続で「映像が映らないんだけど…」というトラブルの原因の多くはIn/Outを間違えていることです。例えば、4K映像を出力しようとするとフルハイビジョン用のSDIケーブルを4本繋げる必要があります。モニターの8個ある入出力端子の中から4個を選び、それぞれに正しく接続しなければ映像は表示されません。映像機器や手術室の壁面パネルの接続箇所には注意書きのテープを貼るなどの対策はしていますが、忙しい業務の中ではトラブルが起きやすく、場合によっては対応に数十分かかってしまうことも珍しくありません。今回NUCLeUSと接続した手術支援ロボットの場合、3D表示のためのLeft-OUT、Right-OUTの端子があり、それぞれをモニター側の複数あるIN/OUT端子の中からLeft-IN、Right-INに正しく接続する必要があります。

そんな複雑で煩雑な配線が、IP映像システムではIN/OUTを気にする必要がなくLANケーブル1本で繋げば済んだため、作業は圧倒的に効率化されました。映像機器の接続に慣れていないスタッフでも簡単に利用できます。また、現在の映像ケーブルでは壁面パネルに必要な端子が足りない場合は工事が必要となりますが、LANケーブルだと柔軟性が高く、追加工事も不要となるため、コスト削減にもつながります。

評価②「超低遅延で、劣化のない鮮明な映像」

試用する前には映像の劣化や遅延があるのではないかと懸念していましたが、そのようなことは全くありませんでした。特にロボット支援下手術や内視鏡手術においては、術者にとって自分の手元の操作と映し出された映像に遅延があることにストレスを感じます。これまでの経験から0.3秒以上の開きがあると、どの医師からも指摘を受けます。今回はHD映像を4K相当にアップコンバートしてモニターに表示しましたが、手術支援ロボットの内視鏡モニターと比較しても術者に遅延を指摘されることはありませんでした。また、映像の質も全く問題なく、鮮明さや色味が細部に至るまで損なわれることはなく映し出されました。

評価③「タッチパネルでの直感的な操作で表示切り替え」

NUCLeUSのタッチパネル画面にはLANケーブルで接続された医療機器から出力されたリアルタイム映像と機器名称が表示されるのでとてもわかりやすかったです。現在当院で導入しているシステムでは1台のモニターに術野映像やエコー情報などをPiPで分割表示をしようとしても画面の固定された位置にしか表示することができません。それが、NUCLeUSでは、タッチパネル画面で医療機器のプレビュー映像を見ながら表示先を変えることが可能なため、初めて利用するスタッフでも簡単に理解して操作できると思います。手術中の表示形式の切り替えは、術野映像、CT/MRI画像、ナビゲーションシステム、エコーなど複数の情報を同時に表示させたり、必要な情報に切り替えたりすることがある症例などで有用だと思います。

また、NUCLeUSには手術開始前の患者をリラックスさせる機能があり、海の中で漂うクラゲの映像などを手術室内のモニターに流すことができるのですが、これが特に看護師に好評でした。手術直前は、患者の不安な気持ちを緩和するために看護師が寄り添って対応しているのですが、こういったリラックス映像が流れ手術室を和やかな雰囲気に包んでくれることで、手術の準備作業に時間を充てることができ業務効率化にもつながります。手術開始時には、タッチパネルをワンタッチするだけですぐに手術映像モードに切り替わります。

今後への期待「IP化された将来の医療」

近年医療機器はIoT化が急速に進んでおり、医療情報をIP化することで利用の幅や自由度が格段に高められると考えています。ロボット支援下手術やAIといった先進技術を活用するためにIP化は不可欠な要素です。データを集約して有用な解析結果を術中にリアルタイムにフィードバックできれば、医療安全や業務効率の改善が期待できます。また、医療業界は患者のプライバシー保護などの観点から手術情報を病院外に出すことを敬遠しており、現在は関連病院間でカルテ情報を共有することぐらいしか実現されていません。将来的にIPで連携することが実現できれば、1つの病院だけではマンパワー的に実現は難しいことも、拠点施設から、リアルタイム映像と医療情報を合わせて支援ができるのではないでしょうか。高度にIT化されてネットワーク化するからこそ、現場に頼りすぎないで安全性が保たれる仕組みやサポート体制も重要となります。このような「IP化されたその先のビジョン」をソニーには提案し続けて欲しいと思っています。