LMD-32M1MD開発者インタビュー

ソニーのディスプレイ技術を結集し、医療で求められる画質と使いやすさを追求
4K HDR 2D メディカルモニター「LMD-32M1MD」

手術で重要な役割を果たすメディカルモニター。「LMD-32M1MD」の開発では、テレビやプロジェクターなどソニーの長年にわたる映像技術の知識と経験がいかされています。

顧客の声に耳を傾け、医療で必要とされる機能を技術で実現した「LMD-32M1MD」開発チームに話を聞きました。

製品開発の背景
ー 医療現場のニーズから生まれた開発ストーリー

秦(プロジェクトリーダー)

秦:「LMD-32M1MD」は、2022年に発売した4K 3D HDRモニター「LMD-XH550MT / XH320MT/ 550MD」が大変好評だったため、この画質を汎用性の高い2Dモニターでも実現してほしい、というお客様の強いご要望を受けて、急遽開発が決定しました。
製品化にあたっては、ソニーの映像技術を結集して開発チームを結成しました。メディカルモニターはもちろん、テレビ、プロジェクター、放送局で使われる制作モニター、ゲーミングモニターまで、多様な映像技術を持つエンジニアたちが集まり、お互いの知見をいかして共同開発することになったのです。
まず全員で取り組んだのは、「医療現場のお客様を、改めて深く理解する」ことでした。メディカルモニターを使うドクターや医療スタッフの方々の働く環境から、どんな画質、どんな機能をメディカルモニターに求めているのか、要望の背景まで理解した上で、「LMD-32M1MD」の仕様を検討しました。
機能や性能、製品像を固め、お客様にお届けする時期も含めて、あらかじめ最終ゴールを明確にしてチーム全員と共有し、開発をスタートしました。もちろん、一筋縄ではいかず、さまざまな課題をクリアするプロセスもありましたが、「医療現場のお客様に、真に役立つメディカルモニターをつくる」という目標を繰り返し開発チームに伝えました。
全員がお客様のことを考えて真剣に議論を重ね、開発に邁進したことで、目標を達成できたと思っています。
「LMD-32M1MD」はソニーの製造事業所で一貫生産を行っています。開発チームと製造事業所の緊密な連携も、高品質な製品を造り上げる大きな力になりました。
私たちの志は「医療の未来に映像で貢献する」ことです。「LMD-32M1MD」がドクターや医療スタッフの視野となり、多くの手術室や検査室で使って頂けることを願っています。

技術の融合:ソニーの映像技術の結集
ーテレビ、プロジェクター、ゲーミングモニターの技術応用

寺西(メインチップ・基盤開発担当)

寺西:「LMD-32M1MD」の高輝度・高コントラストを実現しているのがソニー独自のローカルディミング(部分駆動)技術です。これは、テレビの技術をメディカルモニターに応用して開発しました。また、映像をつかさどるブロックは、プロジェクターの開発チームと一緒に開発しています。
共同開発の過程では「こんな技術もある」「こんな機能もある」と、最先端のディスプレイ技術を共有しあい、メディカルモニター向けにどうやって使いこなすことができるのか、一緒に検討しました。不具合があった場合も、お互い議論を重ねて乗り越え、「LMD-32M1MD」を完成させました。

※ 画像はイメージです
ローカルディミングのOFF(左)、ON(右)の画質

櫻井(画質担当)

櫻井:「LMD-32M1MD」は、2022年に発売した「LMD-XH550MT / XH320MT/ 550MD」と同等の高画質(ピーク輝度最大1850cd/m2の高輝度・最大1,000,000:1の高コントラスト)を実現しています。
画質は、メディカルモニターのさまざまな機能が最適に動作してはじめて達成されるため、開発チームの各グループ、メンバーを横断し、全体的な視点で目標達成をリードする必要がありました。
開発チームは高度なディスプレイ技術を有し、画質に対するこだわりも強いのですが、メディカルモニターに関しては経験のないメンバーもいました。ドクターや医療スタッフが見やすい画質とはなにか、その実現には、どのようなディスプレイ技術が求められているのか、深く考えました。私は病院や、医療機器ディーラーなどソニーのメディカルモニターを使っている多くのお客様に会いに行き、医療現場の要望をメンバーと共有して開発を進めました。
お客様のニーズや背景を理解し、メンバーと議論を重ねるうち、次第にチームとしての意思が形成され、「LMD-32M1MD」の高画質として結実したと思っています。

医療現場への配慮
ーファンレス構造、清掃性、低反射技術

窪寺(機構担当)

窪寺:手術室では清浄度を保つよう、空調は上から下へ(天井から手術台下まで)風の方向が決まっています。また、薬品など液体がモニター本体に入り込まないことも重要なポイントです。こうしたニーズを受けて、「LMD-32M1MD」は、ソニーの4Kメディカルモニターでは初めてファンレス構造を採用しました。
メディカルモニターはテレビと比べて小さく、筐体内部の空気の容量も小さいため、独自の工夫が必要でした。専用の部品を追加して放熱性を高めたり、ただ熱を逃がすのではなく水分も入りにくい特殊な通気孔構造にしています。

※ 図はイメージです

また、メディカルモニターは薬品や液体などが付着する機会も多く、汚れが拭き取りやすい形状が求められます。「LMD-32M1MD」のデザインは清掃性を高め、細部まですき間や段差を低減する設計を行っています。例えば、端子カバーや電源スイッチ周囲の形状も、大きく丸いアール状にすることで、拭き残しを最小限にできるようにしました。両サイドの通気孔も、スリットを縦に長い形状にすることで、上から下に縦に拭く、手の動きに合わせています。他にも、製品表面のネジの数を少なくして凹凸を減らすなど徹底的にこだわって、医療現場での使いやすさを形にしました。

白澤(電気・パネル担当)

白澤:私は、「LMD-32M1MD」の開発チームに異動する以前は、テレビの開発チームに所属していました。テレビの知見をメディカルモニターの開発にいかすことが私のミッションでしたが、実際に開発がスタートすると、テレビのやり方そのままではうまくいかず、メディカル特有の開発要件を理解する必要がありました。ファンレス構造と清掃性は医療現場で求められる重要な機能ですが、排熱用のファンをなくし、すき間の少ない堅牢な構造にした上で高画質を実現しようとすると、本体の熱処理が課題となります。
私が担当したローカルディミング技術(バックライトマスタードライブ)は、バックライトを明るい部分と暗い部分で分けて駆動させ、明るい部分はLEDをオンに、暗い部分はLEDをオフにして効率的に高輝度・高コントラストを実現する技術です。これを緻密にコントロールすることで、ファンレス構造・清掃性と高画質の両立が可能となり、医療現場に求められる機能を最適なバランスで実現することができました。
その結果、「LMD-32M1MD」はメディカルモニターとして世界で初めて(2025年1月現在)VESA DisplayHDR 1000を取得することができました。

嶋(低反射技術担当)

嶋:私は、低反射構造の開発を担当しました。低反射性能はモニターの見え方に大きく影響するため、医療現場から多くの要望を頂いています。
メディカルモニターを見ながら手術を行う時、反射などが映り込んで画面が見にくいと、ドクターや医療スタッフの目や姿勢に負担となってしまいます。そのため、「LMD-32M1MD」の保護板には、耐薬品性などの基本性能に加えて、画像の映り込みを低減し、深い黒と鮮明な色を再現できる特殊なフィルムを貼っています。
さまざまなフィルムを取り寄せて試し、メディカルモニターに最適な特性をもつフィルムを選びました。
開発の早期に試作品を作って、ソニーの販売会社のメンバーに映り込みの低減を見てもらうと、「映り込みは仕方ないものとあきらめているドクターもいるが、これなら提案できる」と、多くのポジティブな反応が返ってきて、自信を持って開発を進めることができました。

左:低反射構造にしていない場合のイメージ(ドクターの顔が映り込んでいる)
右:LMD-32M1MDの低反射技術により、映り込みのない鮮明な画像を再現したイメージ

使いやすさの追求
ーUSB設定機能、画面遷移の工夫・照明環境への対応

畑中(ソフトウェア担当)

畑中:「LMD-32M1MD」は、ソニーのメディカルモニターとして初めて、USBを使った設定機能を搭載しました。
最初に「LMD-32M1MD」一台を設定し、その情報をUSBにエクスポート(書き出し)したら、あとはそのUSBを他のメディカルモニターに挿入して情報をインポート(読み込み)するだけで、設定できます。

USBインポート・エクスポート機能

私はソフトウェア担当として、ドクターや医療スタッフのかたがたにとって、どういうメニュー、どういう画面遷移だったら使いやすいのか、ゼロからシナリオを考え、周囲と相談しながら試行錯誤を重ねました。
開発の大きな助けとなったのが、ゲーミングモニターの設計チームが提供してくれたシミュレーションシステムです。PC上でさまざまなテストを独立して実施できるため、試作品の完成を待たずとも質の良い開発をスピーディーに進めることができました。

堀江(企画担当)

堀江:私が担当している企画の業務では、医療現場でメディカルモニターを使うさまざまなかたがたの要望を収集・分析し、それを新しい製品の企画案に盛り込んでいくことが大きなミッションです。
「LMD-32M1MD」に搭載した「モニターの画面の明るさを自動で調整する機能」は、ドクターから「テレビに搭載されている機能を、メディカルモニターでもできませんか」と要望されたことがきっかけです。過去の手術の立ち会いなどを思い返してみると、蛍光観察を行う際に医療スタッフが手術室の照明をつけたり消したりしていることがありました。その際、モニターの輝度を手作業で調整、あるいはまぶしくても我慢していたケースもあったと思います。この機能によりその手間やストレスを低減できるはずです。すでに多くのお客様がこの機能に関心を寄せて下さっています。

医療の未来に貢献する製品として

「LMD-32M1MD」の開発では、ソニーの多種多様なディスプレイ技術の交流が行われ、新しい多くの知見が盛り込まれました。またメディカルモニターの知見が他のディスプレイ製品に展開されたものもあります。社内で「技術交流会」がたびたび開催され、組織の枠を超えて技術を追求できる環境があることも、高品質な製品づくりに貢献したと思います。

ー 関連リンク ー

お問い合わせはこちら PDFダウンロード