ボディ内5軸手ブレ補正について

α7 IIプロジェクトリーダー 江川 哲広

「小型ボディと手ブレ補正の両立への挑戦」

江川 : はじまりは、既に発売していたα7をお持ちのお客様の「このボディでもっと気軽に自分のレンズ資産を生かしたい」という声からです。そうした声は日増しに増えていき、その想いに応えるべく、α7シリーズの魅力をそのままにフルサイズセンサー対応の手ブレ補正を搭載することを至上命題としてα7 Uの開発がスタートしました。

 α7シリーズの魅力はなんといってもコンパクトなボディによって得られる機動力とフルサイズセンサー搭載による描写力の両立。この2つの要素は決して妥協は許されません。そこで、これまでのα7シリーズの正面視(幅と高さ)をキープしたまま、いかにボディ内に手ブレ補正ユニットを搭載するかというのが最大のミッションでした。

 フルサイズセンサーへの対応に加えて、5軸手ブレにも対応させるためにはセンサーを制御するモーターを3つも搭載しなければならず、当然ながら手ブレ補正ユニットは大きくなります。そのユニットを限界まで小型化するために手ブレ補正ユニット設計では幾度となく試行錯誤を重ねました。さらに手ブレ補正ユニット設計とメカ設計の間でも緊密に連携しました。ユニットの下部に小さな凹みがあるのですが、これは三脚ネジ穴のために設けているスペースです。こんな小さなスペースまでメカ設計と内部構造を突き合わせることで、補正ユニットを小型ボディに収めることに成功しました。一般的には分業で設計するようなことも、とことん連携しながら一歩一歩進めていきました。

 そして、フルサイズのセンサーの搭載で難度が格段に高まるのが高精度をキープすることです。当然ながらイメージセンサーはマウント面に対して真っ直ぐ水平でなければならず、たとえ数ミクロンでも傾きがあれば画質に影響します。フルサイズセンサーは面積が広いため、この精度を出すのが非常に難しいのです。その一方で、手ブレ補正によりセンサー自体を大きく可動させなければなりません。それを見込んだ上で精度を保つためには、イメージセンサーを含む手ブレ補正ユニットをしっかり固定する必要がありました。そこで、フロントカバーにマグネシウム合金を採用し、マウント部を強化しています。さまざまな状況で正確に手ブレ補正を発揮するためにも、ユニットを確実に支えるボディの剛性の向上は必須だったのです。

手ブレ補正制御開発担当 藪本 靖之

「さらに高機動力を発揮するためには5軸手ブレ補正」

藪本 : 5軸手ブレ補正の開発は、さまざまな撮影シーンに持ち出せるα7シリーズにとって挑戦しなければならない高いハードルでした。そこでまずAマウントで培った角度ブレ補正の精度を高めると同時に、シフトブレ補正はゼロから開発に臨みました。初めて加速度センサーによる水平・垂直方向の移動量の検出に挑戦し、ミクロン単位で動きを制御しています。さらに回転ブレへの光学補正は、補正ユニット下部に2つのモーターを設置し、左右で異なる駆動をさせることでイメージセンサーそのものを精確に回転させ制御することに成功しました。

 各補正の精度を高めるためにレンズの情報も大いに活用しています。シフトブレが発生しやすいマクロ撮影などでは、被写体までの距離に関する情報が非常に重要になってくるため、レンズからの情報が不可欠で、これにより正確なシフトブレ補正を実現しています。そして今回、Eマウントレンズはもちろん、Aマウントレンズ、コニカミノルタレンズのすべてのレンズで手ブレ補正の最適化を行っています。古いレンズは、シフトブレ補正などの新技術に対応する情報がないものもあるため改めて調べ直し、一本一本プログラムを書き起こして正常に補正が効くかチェックしました。

藪本 : 今まで手持ちでの夜景撮影は、周辺が流れるのが当たり前になっていましたが、α7 Uなら回転ブレ補正によって流れずに撮れます。また、NDフィルターでシャッタースピードを稼ぎながら水の流れを撮るようなシーンも、α7 Uなら三脚を使わずに手持ちで撮影できます。5軸手ブレ補正をフル活用しながら、これまでにない表現にぜひ挑戦してみてください。

江川 : 手ブレ補正の搭載で妥協しなかったのは、小型ボディだけではありません。電気回路や制御アルゴリズムも見直し、従来と変わらない撮影枚数を実現しています。また、画質についても周辺光量落ちやノイズに細心の注意を払い、最高4.5段の手ブレ補正を可能にしながらもフルサイズセンサーの性能を最大限に発揮できるようにしました。さまざまなレンズをこのα7 Uで存分に楽しんでいただければと思います。

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カメラボディ設計について

α7 II メカ設計担当 小西 隆哉

「撮る悦びは何か?感性にまで訴える形状」

小西 : 手ブレ補正を搭載したα7 Uは、望遠レンズをはじめ大型のレンズを使う機会がこれまで以上に増えるであろうと思います。ですから、どのようなタイプのレンズを装着しても快適に撮影に集中していただけるよう、まずグリップ部分の形状から再検討し、一からつくり直すことにしました。とは言え、α7シリーズならではのコンパクトさを失ってしまっては本末転倒です。最適なグリップの形状とは何かを模索する中で、最初に取り組んだのが世界中の人々の「手」のデータを調べること。人がしっかりと握れる最小の寸法の解を求めることにしたのです。そして試作を何パターンもつくり、最良のグリップ形状へ追い込みながら、最後は実際に何度も握っては微調整を繰り返し、ようやく納得のいくグリップ形状を導きだしました。さらにグリップの握り心地にもこだわり、小さな刃物で実際にすべてのシボを削り込むという新しい製造技術を開発。まるで手に吸いつくような感触を実現しました。

 α7 U専用の縦位置グリップにもかなりこだわりました。ボディと同じ設計思想のもと、同じ部品も使用することで、カメラ本体と変わらない握り心地、シャッターフィーリングを実現しています。ちなみにこの縦位置グリップは、装着するとボディのグリップ部分が長くなるように工夫しており、通常の横位置で構えても指が余ることなくしっかり握ることができます。それによってα7 Uとのフィット感が格段に高まり、カメラを構えたときの印象も全く変わります。撮影するときの快適さや感性に訴える満足感も大きいと思います。

「カメラを愛する人のために」

小西 : もちろん初心者の方にもどんどんお使いいただきたいですが、α7 Uで追い求めたのは、いわゆるカメラが好きで長年撮影を愉しんでこられた方にこそ好んで使っていただけるカメラです。そこで撮影者とカメラがダイレクトにつながるレリーズボタンを徹底的にこだわってみようと考えました。そのポイントは大きく3つ。1つ目は配置場所です。グリップ部のトップに持ってくることで、握ったときに自然に指がレリーズボタンにかかるようにしました。2つ目はサイズ。従来よりも2〜3mmほどボタンを大きくすることで、指の腹で自然に押し込む感覚を実現しています。ただ、これらにこだわることでグリップ内部の構造にも大きく影響するため、レリーズボタンのスイッチ部材はほぼ新規で設計しなければなりませんでした。

 そして3つ目ですが、それはストロークです。AFが合う半押しの状態から、レリーズが切れるまでのストロークを短くしています。これには力量計算、ストローク計算、加重測定を行い、何パターンもの検証を重ねました。なによりも重視したのが、撮っているときのダイレクト感。今切りたい!と思った瞬間に、すっと切れる。そんなシャッターフィーリングを追求しました。

 またボタン類やダイヤル類においても、カメラを構えたときに必然的に収まる場所にレイアウトし、それを崩さないために内部の実装物を新規で開発しています。外観については、黒のプロット塗装を施し質感を高め、ペンタ部分はよりさりげない佇まいとなるよう形状を何度も検証。とにかく、とことん使い込めるカメラを目指して徹底的につくり込んでいるので、いろいろな場所にα7 Uを連れ出してその良さを感じてもらえたらうれしいですね。

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オートフォーカスについて

α7 II AF-S設計 小澤 純

「瞬間を切り取るチカラの向上」

小澤 : α7 Uはオートフォーカスのさらなる高速化を目指し、AF-SとAF-Cの両方のモードで進化を遂げています。α7シリーズはフルサイズセンサーを搭載しているので被写界深度が浅く、大きくぼけた状態からAFで合わせにいくシーンが多いと思います。そこでAF-Sモードでのレスポンスを大幅に改善することで、瞬間をより快適に切り取れるようにしようと考えました。

 そのためにまず挑戦したことは、空間被写体検出の精度向上です。空間被写体検出とは、レンズ駆動中に得られる複数の画像と複数の空間周波数特性から被写体までの距離を予測するものです。この精度を高めることで、従来以上にピント位置の近くまでレンズを高速駆動させることが可能となり、AF時間の短縮を実現しています。さらに、位相差検出情報のAFへの活用面も進化しています。コントラスト検出方式や空間被写体検出と併用できることを生かし、位相差検出情報の活用機会をα7 Uでは大幅に増加させています。これらの改善によって、大きくぼけた状態からのAF速度が向上し、α7比で約30%の高速化を実現しています。

 いろいろなレンズでお楽しみいただきたいα7 Uですが、望遠レンズやF値の明るいレンズでもAF-Sモードでこれまで以上に快適にピントが合うはずです。気軽に持ち歩いて、撮りたいものに遭遇したときには、迷わないAFでシャッターチャンスを逃さず撮る。そんな心地よい撮影を、ぜひ体感していただければと思います。

α7 II AF-C設計 細川 孝之

「もちろん動体撮影でも威力を発揮」

細川 : α6000やα77 Uといった多点AFを持つ機種から得た知見をフィードバックすることにより、α7 UはAFの追従性を高めることにも成功しました。AFアルゴリズムで改善されたポイントは2つ。AFエリアの選択における安定性向上と精度の改善です。たとえば従来の機種ではサッカーなどのフィールドに芝目があるシーンで、選手から近くの芝へとAFエリアが移ってしまうことがありました。今回のα7 Uでは、より厳密にAFエリアの乗り移りを判定させることで、一度捉えた被写体からAFエリアが他に移ることなく追従する高い安定性を実現しました。
 また測距した結果から、選択するAFエリアの信頼性を検証し、ユーザーが狙った被写体に精度よく合焦するように性能を高めています。α7 Uは約5コマ/秒の連写が可能ですが、1コマ1コマにおけるピント精度が上がっているため、成功率は高まっています。

 さらに今回、ロックオンAFも進化しています。フォーカスエリアがワイドまたはゾーンの時には、最新の画像解析技術を駆使し、動いているものを優先してピントを合わせるようにしました。これは位相差検出エリアの範囲に関係なく、画面いっぱいに動く被写体を追従し続け、動体撮影をサポートします。フルサイズセンサーといえば高解像で風景を撮影することを主目的にされるユーザーの方も多いと思いますが、α7 Uは動体を撮影する際にも十分に対応できるAF性能を搭載しています。たとえば小三元のひとつであるコンパクトなFE 70-200mm F4 G OSSとα7 Uの組み合わせで、鉄道写真、飛行機写真、スポーツなどの撮影シーンにも、ぜひ持ち出していただき、高い追従性を実感していただけたらと思います。

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