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フルナビの精度に近づいた“POSITION plus GT”

従来の測位システムには、限界があった

PND(ポータブル・ナビゲーション・デバイス)では、据え付け型のカーナビとは異なり、GPSによって位置を求めています。通常は4個以上のGPS衛星からの電波を受信することで測位が可能になりますが、ビル街やトンネルの中ではGPS衛星に頼ることができません。
そこで、GPSの電波が受信できない時も自律航法により位置を更新する自車位置測位システムが必要になります。
長年にわたってカーナビの性能にこだわり続けてきた大久保は、従来の自車位置測位システムの正確さに限界を感じていました。
「従来の自律航法でもセンサーを駆使して加速度と方向の情報を取得し、車の位置を割り出すことができますが、トンネルなどで測位時間が長くなるほど速度のズレが大きくなってしまいます」
もっと正確に速度を測り現在地を把握する新しい方法はないか・・・、大久保の頭にはいつもその課題があったのです。そして、新しい自車位置測位システムの開発が、彼の“ひらめき”から始まりました。

二度のひらめきから生まれた画期的なアイデア

人間は、音や揺れ、流れる風景など、五感を通じた速度の感覚をもっています。これを機械に教えてやることはできないか・・・。大久保が無意識に考えていたある日、最初のひらめきがやってきました。高速道路を走っている時、車が微妙に上下に動いていることに気づいたのです。
「道路にはわずかな“うねり”があり、速度によって上下の揺れ方が変わります。その動きを利用すれば、スピードが算出できるのではないかと思ったんです」
いくつもの技術要素と長年の経験が、その時、一本につながり始めました。
二度目のひらめきも、やはり運転中。地下駐車場を走行中、壁に当たったヘッドライトの光が上下に揺れているのを見た瞬間でした。
「道路の勾配によって、車の角度も変化します。うねりによる加速度と、この角度変化を組み合わせれば、車自体の速度を割り出せるのではないかと思いつきました」
加速度データを積算しながら速度を測る従来の方法では、距離が長くなるほど誤差が雪だるま式に増大するという問題があります。しかし、大久保の方法ならこの問題は起こらず、飛躍的に精度を高めることにつながります。

「この計測方法のポイントは、まず『元の速度に足し算』することを捨てること。次に、道路のうねりを、車よりもずっと大きな円の一部としてとらえることでした。

うねりを大きな円周の一部と考えると、『遠心力』と『傾きの変わる速さ(=角速度)』を検出するだけで、実に単純な計算式で速度がわかります。

ジェットコースターやブランコ、離陸中の飛行機などで、ぐっと沈み込むように感じるのは,ほとんどがこの式で説明できます。しかも、沈み込みは速度が速いほど大きくなります。このシンプルな理論と計算式は、いままでの『元の速度に足し算を繰り返して、速度を割り出す』という、誤差が積み重なりやすい方法とまったく異なり、車の小さな挙動だけで『いまこの自動車が時速何キロで走っているか』を算出できることを意味しています。これで、長いトンネルや山岳部、高架下などでも、少ない誤差で安定してナビを続けるための下地が整ったのです」

いくつもの課題を乗り越えながら開発を推進

その後、ひらめきを形にするために、通常の業務のかたわらで測位データを収集。いくつものシミュレーションの結果、大久保は確信を得ます。
「社内に新システムを提案した当初は、あまり芳しい評価を得られませんでした。車の揺れだけで正確な速度(自車位置)計測できるのか、道路にそんなにうねりがあるのか、というのがその理由です。でも、賛同してくれたソフトウェアエンジニアがいて、彼と試作品をつくり、根気強くテストを重ねました」
しかし、このまったく新しい自車位置測位システムを完成するためには、大きな課題がいくつも残っていました。
「車の微妙な動きや揺れは、凹凸の多い道路と新しい道路で異なるのはもちろん、車種によってはエンジンの振動が数値に影響を与えてしまうものもあります」
それでも大久保はあきらめず、周囲の人にもテスト走行を呼びかけ、シミュレーションと改良を重ねていきました。

高精度の検出を可能にするセンサー基板

「ナブ・ユー」NV-U77VT/U77Vのセンサーは、3軸加速度センサー1個、ビデオカメラなどの手振れ補正などにも使われるジャイロセンサー2個で構成されています。これらのセンサーは、クルマのわずかな動きから大きな揺れまでを検出する必要があるため、微小な信号から大きな信号までを検出できる優れた特性のものでなければなりません。さらに、センサーの微弱な信号を確実に処理するため、精密計測機器にも使われる高性能16ビットΔΣ(デルタシグマ)方式のADコンバータを搭載。これらのチップはすべて、“POSITION plus GT”の性能をフルに発揮するために設計された専用基板(写真)に配置されており、電気的なノイズの影響なども受けないように工夫されています。

知恵の結晶、演算アルゴリズム

“POSITION plus GT”を実現するためには、得られたデータを処理する高度な演算アルゴリズムも必要でした。クルマの走行時に発生するさまざまな振動に起因するノイズや、地球の重力の影響を除去するために、アルゴリズムはいくつもの処理ブロックから構成。クルマの走行状況に対して動的に最適化されたフィルタ処理が行われます。勾配によって著しく変化する重力の影響も、独自の処理技術で除去に成功しています。他にも、様々な走行条件下でも正しく機能するよう、さまざまな“知恵”がこの頭脳に組みこまれています。

「実機でのフィールドテストでは、長野県乗鞍の山岳路を走行しました。深い山岳路と長いトンネルが続き、GPSの電波はキャッチが困難な場所です。そこを完璧な位置情報を示したまま走り抜けることができました。その時は本当にうれしかったですね」

新しい技術を生むソニーの風土、そして経験と熱意

「今回のシステムは、まったく新しい測位方法ですが、加速度センサーやジャイロセンサーは従来と同じセンサーを使用しています。まさに発想の転換でした。システムの原理はシンプルですが、ただ単に計算式にセンサーから得た数値を当てはめても速度は得られません。さまざまな工夫を重ねたソニー独自の高性能な車速演算技術を開発して、初めて実現できたのです。一見、常識外れの発想を商品化できたのも、新しい試みを受け入れるソニーの風土があったからかもしれません」
一人の社員の“経験”からひらめきが生まれ、“熱意”から商品化が実現されました。この新しい技術を搭載した「nav-u」が、いまも日本中の道路でドライバーの運転をサポートしています。

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