法人のお客様Networked Liveスペシャルレポート Technical Note.01

スペシャルレポート

※本ページは2018年6月時点での情報を基に作成しています

Technical Note.01

IP Liveプロダクションシステムが提供する2つのメリット

新時代の映像制作システムソリューションとしてソニーが提唱している「IP Liveプロダクションシステム」のご採用・導入が急速に拡大しています。国内だけでもすでに5システムの運用が開始され、10システム以上の導入準備が進んでいます。今回は、IP Liveプロダクションシステムのメリットが、実際の制作現場のアプリケーションやワークフローにどのような効果をもたらすのかを実例を交えながらご紹介します。

事例記事:静岡放送株式会社様 採用事例「IP Liveプロダクションシステムによるリモートプロダクションを初運用」

最大のメリットは“リソースシェア”と“リモートプロダクション”

IP Liveプロダクションシステムでは、映像や音声、そして制御系の伝送を一括してIPネットワーク上で扱いますが、これらの伝送をIP化することの最大のメリットは、「ケーブル1本=1系統」の伝送や、ケーブルの伝送距離の制約から解放されることです。伝送経路もケーブルをつなぎ変えることなく自由に設定可能で、動的に再構成できます。システム全体において「機器間の配線変更」に相当することを、PC1台の設定だけで瞬時に実行可能です。

そのIP化によって得られるメリットの1つが、動的再構成の特長を活かした「リソースシェア」です。リソースシェアは、今までスタジオごとに設置していた機器を、特定のスタジオに縛らず、複数のスタジオで共用しようという概念です。

そして、もう1つのメリットが「リモートプロダクション」です。いままでは切り離すことができなかった、スタジオフロア〜スタジオサブ(副調整室)やカメラ中継車などの間を、離した場所同士で行おう、という概念です。

投資効率がアップする“リソースシェア”

「リソースシェア」ではIP化によるシステムの動的な再構成機能を活かし、投資効率のアップを実現します。従来のSDIベースのシステム設計ではスタジオフロアごとにスタジオサブを備えていましたが、実際の運用には美術の建て込みやバラしなどの時間も必要であったり、毎日放送する帯番組などの場合には、番組ごとに専用化したフロアが必要となったりするため、どうしてもサブの設備が稼働しない時間が大量に発生してしまうことが避けられませんでした。「リソースシェア」では、3フロアに対して2サブ、2フロアに対して1サブといったような、スタジオの数に対して、同時稼働が見込まれる最小限のサブを設け、複数のスタジオフロア間でスタジオサブを共用する、といった投資やスペースの節約が可能です。

機器単位にとどまらない、1台の機器を同時に使うシェアにも対応

「リソースシェア」は機器単位でのシェアにとどまりません。1台のスイッチャー本体を2つのサブで同時にシェアして使うといったことも可能です。たとえば、マルチフォーマットスイッチャーXVS-9000やXVS-8000では、1プロセッサーの分割運用機能を備えており、1つのプロセッサーを2つの論理プロセッサーに分け、M/E 列単位で必要な数をそれぞれに割り当てて運用することが可能です。運用フォーマットも論理プロセッサーごとに選択でき、一方のサブでは4K、もう一方のサブではHDといった運用も可能ですし、コントロールパネルのプリセットなども各々独立して使用できます。

加えて、いままではルーティングスイッチャーも、スタジオや基幹設備ごとに設置されることが一般的でした。しかしリソースシェアなら、これも局全体で1台に集約する、といったようなことが視野に入ってきます。現在、スカパーJSAT様において、1000系統を超える大規模なシステム構築と、経路二重化による冗長構成を実現することを目指して、次世代マスター設備向けのIPルーティングシステムの構築を行っています。このような規模のルーティング設備は、従来のSDI方式では困難だったものです。

“リソースシェア”でサブの集約を実現する三重テレビ様

「IP Liveプロダクションシステム」によって2つのスタジオを同時に更新される三重テレビ様は「リソースシェア」のメリットを活かしたモデルケースの一つです。三重テレビ様では、現在、報道・情報番組兼用のスタジオおよびサブがあるのですが報道と情報番組ではセットも違うため、それぞれスタジオを分けるが、制作人員は共通のためサブは1つという形で今冬に予定される更新を行います。

いずれのスタジオも生放送をメインに運用されており、2つのスタジオが同時に稼働することはないので、サブとしては1つでよく、いままで報道/情報の兼用スタジオは2つに分ける事で効率的な運用が可能になります。IP Liveプロダクションシステムの「リソースシェア」はこういった要望にピッタリとマッチしました。システムが1つとなることでオペレーションの共通性も達成され、スタッフの皆さんの負荷軽減につながるとともに、コストパフォーマンスの高さでも高い評価を得ています。

リソースシェア自体は非IPでも「理論上」は不可能ではありませんでしたが、機器間のインターフェースもさまざまで、それらをすべて動的に再構成することは、あまりに非現実的でした。加えて、IPベースならば実現できる、というものでもありません。映像から音声、制御に至るまでを1つに統合している「IP Liveプロダクションシステム」だからこそ実現できるものであり、ライブスタジオシステムに必要な主要機材をワンストップで提供しているソニーだからこそ実現できるシステムです。

距離の制約から解放してくれる“リモートプロダクション”

一方、「リモートプロダクション」は長距離伝送が可能なIP伝送の特長を活かしたソリューションです。IP回線がつながる場所であれば、遠隔地からの中継でも、スタジオサブの目の前にあるスタジオフロアのように制作が可能です。

Gスタジオ設備
※NMI:Networked Media Interface

これまで現場に中継車を出して、スタッフも現地に多数送る場面でも、カメラやCCUなどの最小限の機材とスタッフを送るだけで、短時間で現場での設営が行え、中継ができるようになります。スタッフの拘束時間も短くなり、移動費が節減できます。スタッフのスケジュール繰りなども容易になります。単にいままでの中継がコンパクトになるだけでなく、中継を諦めていたような場面でも、中継番組が制作可能になる可能性を秘めています。

局舎外のサテライトスタジオなども、いままではスタジオごとにサブを設けたりVEさんなどを配置したりする必要がありましたが、サテライトスタジオにはカメラ・CCUとカメラマンだけを配置し、それ以外のオペレーションはすべて本社のサブで、といったようなことも可能になります。したがって、リモートプロダクションにはリソースシェアのような側面もあり、それぞれはまったく別のものではなく「特長を捉えるうえでの着眼点の違い」とも言えます。

IP Liveプロダクションシステムでは、非圧縮伝送だけでなく「LLVC」(Low Latency Video Codec)によるビジュアリーロスレス・極少遅延の圧縮方式も利用可能です。そのため、必ずしも広帯域な回線でなくとも、帯域や品質が保証されたIP回線が確保できる拠点間ならば「リモートプロダクション」の導入が可能です。

“リモートプロダクション”で制作の省力化を実現できた静岡放送様

静岡放送様の「リモートプロダクション」の導入事例は理想的なモデルケースの1つです。局舎から55km離れた静岡県磐田市のヤマハスタジアムで行われるサッカーの中継に、この3月「リモートプロダクション」を実施され、制作チーム1チーム分の省力化に成功しています(詳しくはこちらをご覧ください)。

IP Live 導入のメリットはHDのみのシステムでも

ソニーではIP Liveプロダクションシステムへの対応を、SDIではどうしてもケーブル本数が増えてしまう4Kや8Kから先行して進めてまいりました。今年のNABでは、新たにインカムなどを含めてオールIP伝送にも対応可能なHDC/HSCシリーズ用HD CCUのHDCU-3100を発表しました。これにより、HDのみのシステムにおいてもIP Liveプロダクションシステムを一層スムーズに導入いただくことができるようになりました。

また、SDIベースの機器をIPライブプロダクションシステムにインテグレーションする際に必要なSDI-IPコンバーターボード NXLK-IP40Fをコンパクト化し、占有スロットを1/2にすることで、シグナルプロセッシングユニットへの搭載枚数を増やした新モデルNXLK-IP40F/1をご用意します。シグナルプロセッシングユニット新モデルのNXL-FR316にフルに実装するとHDの場合、3U筐体わずか1台で、64系統の変換が可能です。1.5UのスリムなCCUと合わせ、中継車などでもIP Liveプロダクションシステムを一層コンパクトにご利用いただけるようになりました。車重や燃費に影響する配線重量なども大幅に削減が可能です。また、HDのみのシステムでも、SDIベースのシステムと比べて、IP Liveプロダクションシステムの方が高いコストパフォーマンスを実現できます。

ソニーはこれからも引き続き、新しいテクノロジーを通じて、皆様に新しいアプリケーションやワークフローをご提供できるイノベーションの実現を目指してまいります。

ALL IP化により設備の自由度が増す

IP Liveプロダクションシステムによる
リモートプロダクションを初運用

静岡放送株式会社様

静岡放送株式会社様は、2019年3月よりライブ制作スタジオおよりリモートプロダクションの運用を開始され、同3月10日には、サッカーの中継で、磐田市のヤマハスタジアムと静岡放送様Gスタジオの間、55kmをIP回線でつなぎ、リモートプロダクションを初運用されました。

  • 磯部 和紀様
    技術局技術センター
    副部長
    磯部 和紀様

ローカル中継をリモートプロダクションで

静岡放送(SBS)は、Jリーグで公式映像制作の請負業務を行っておりますが、それとは別にSBSローカル放送も行う場合があります。さらにSBSローカル放送終了後すぐに、スポーツ情報番組「みなスポ」の生放送もあるので、人員配置を含めて効率的に運用を行う必要があります。今回更新を行った、GスタジオサブにはIPリモートプロダクションの機能があり、その機能を使う事でJリーグ中継と「みなスポ」の制作を効率的に行うことができました。

IP化により回線数の削減を実現

SBSローカルJリーグ中継は公式映像とは別に、ローカル放送専用の設備として、HDカメラ2台とそれぞれのカメラコントロールユニットを使用する事で地元チーム側の番組制作を行います。今回は公式映像、カメラ2台分の合計3つのHD映像をスタジアムからSBSにIPに変換して伝送を行います。また映像本線以外に音声やカメラ制御信号・インカム・タリーといった信号も伝送する必要があるので、映像信号をIP変換し伝送するSDI-IPコンバーターボードNXLK-IP40Fや、音声・インカム・タリーをIP変換するNXL-IP55を使用しました。

ローカル放送用のHDカメラ
スタジアム側の設備。IPスイッチ、SDI-IPコンバーターとCCUほか

IPの利点の一つとして、映像圧縮する事が可能であり、NXLK-IP40FはStandard/High/非圧縮の3モードが用意されています。今回は公式映像とローカル用の2カメの3本およびローカル映像のリターンを、1本のIP回線で伝送したいため、Standardモードを使用し、1映像あたり200Mbpsのレートで伝送します。音声はレートが低いため非圧縮伝送し、トータルで1Gbps未満になるように設計を行いました。これまで映像信号毎に光回線が必要だったのが、IPにする事により、双方向1Gbpsの中で映像/音声/制御などミックスして伝送する事が可能になりました。これにより、回線の数を減らすことができます。これらの構成で、静岡放送として15時から17時までサッカー中継のローカル番組、17時から30分間のスポーツ番組「みなスポ」の放送を行いました。

制作チームを1チーム削減

これまでの体制では、公式映像、ローカル中継、「みなスポ」と3つのチームが制作に必要でしたが、今回、ローカル中継後にそのままのチームが「みなスポ」を制作することで、2チーム体制で済みました。1チーム減るということは、4〜5名程度の人員削減効果ということになります。実証実験とは違い、今回はオンエアーであるため、普段と違う中継に不安と緊張を感じていましたが、結果大成功に終わりました。リモートプロダクションでも従来通りかつ簡単に運用ができ、大変楽になりました。

映像については、超低遅延で、従来の非圧縮伝送とほぼ変わらないものでした。リターン映像については3フレーム遅延であるものの運用上の問題はなく、むしろ画質が格段に向上したことでメリットがありました。「みなスポ」ではスタジアム側の解説者がGスタジオからのリターンのハイライトを見ながら解説をしたり、スタジオと掛け合いをすることができました。

現場のスタッフからは、IP回線経由のインカムの音声が、従来の回線使用時よりもクリアに聞こえ、これまで感じていた距離感がなく、相手がそこにいるかのような音質だと評価されました。

アウェーの試合中継にも挑戦したい

今回の初運用を終えて、IP Liveプロダクションシステムによるリモートプロダクションは、人員、時間、機器の削減効果があることを改めて実感することができました。これを踏まえて、中継車を出さずに最小限の機材で制作ができることが分かったので、たとえばサッカー中継で言いますと、県を出て、アウェーの試合の中継にも挑戦したいと考えています。

ソニーには、今後SDIからIPへの変換なしで直接IPに接続できる機器や、カメラ制御やインカムも含めた伝送の統合・シンプル化に期待します。

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