法人のお客様Networked Liveスペシャルレポート Technical Note.02

スペシャルレポート

※本ページは2018年11月時点での情報を基に作成しています

Technical Note.02

IPならではの運用ができる”REMI”をキーワードに世界でも日本でも採用が広がるIP Liveプロダクションシステム

制作インフラのIP化ならではとも言えるメリットの1つが「REMI」(レミ)と呼ばれるリモートインテグレーション(REMI: REMote Integration )です。
距離の制約がなくなるIPでは、離れた拠点間の機器をIP でつないで1つのシステムとして運用できます。
そして、もう1つのメリットが、1つの機器を複数の場所から共用できる「リソースシェア」です。
最近は、このリモートプロダクションやリソースシェアのためにIP Liveプロダクションシステムを採用いただく事例が急速に増えています。
今回は、そのREMIを中心とした採用・導入事例を中心にご紹介します。

事例記事:奈良テレビ放送株式会社様 採用事例「4KやHDRに対応したIP Liveプロダクションシステムでスタジオサブ・中継車を更新へ」

IBC 2018 では“オーケストレーションシステム”をデモンストレーション

IP、すなわち、ネットワークによるシステムの運用というと、CU(Iコマンドラインインターフェース)でキーボードを打ちながら設定を行うような風景を想像されがちですが、ソニーではすでにIP Liveプロダクションシステム全体をGUI で簡単に設定・管理できる「IP Liveシステムマネージャー」を提供しています。しかし、局全体や遠隔地を含めた大規模なシステム管理では、それがいくつも稼働します。リモートプロダクションやリソースシェアのために、システム構成を切り替える際には、カメラやスイッチャー、ネットワークスイッチに至るまで多数の機器の個別での設定変更が必要になります。そこで、9月にオランダ・アムステルダムで開催された欧州最大の放送機器展、IBC 2018においてソニーは、さらに大規模なIPLive プロダクションシステム全体の設定管理や変更をGUI上で一括して行うことができる「オーケストレーションシステム」のデモンストレーションを行いました。

このデモンストレーションでは、遠隔地にある機材や装着されたオプションのボード類などの構成がGUI上でラックの配置通りに表示され、ステータスやコンディションのモニタリングから設定状況の確認や変更、制作する番組ごとのシステム構成変更を想定した、時間による予約や一括した自動切り替えなど、新たな機能の実現をご紹介し、好評を得ました。IPは単にIP化すれば便利になるわけではありません。それを簡単に管理できるツール、オーケストレーションシステムがあって初めてメリットを享受することができます。ソニーのIP Liveプロダクションシステムはオーケストレーションシステムによりさらに進化します。


システム全体を管理・監視するオーケストレーションシステムのGUI

すでにREMIで成功を収めるオーストラリア

オーストラリアでのスポーツ番組制作では最大手のプロダクション、NEP オーストラリア様では、すでに運用中のIPLive プロダクションシステムを2019年にソニーのカメラやスイッチャーで4K化されます。オーストラリアは飛行機で移動しても片道約5時間になる路線があるほど、ヨーロッパ全体に匹敵するような大きな国土を持っています。地上を中継車が移動すると、移動だけで3日がかりになってしまうような距離です。機材の投資効率や、スタッフの移動・宿泊旅費の問題だけでなく、スタッフが中継のためにたびたび家を空けることによる家庭不和が大きな問題になっていたそうです。そこで、サブや機材をシドニーとメルボルンに集約し、カメラマンやカメラ、CCUなどの最小限のスタッフと機材のみを現地に送るREMIの導入で成功を収めています。スポーツ中継分野で特に評価の高いディレクターが、現地に赴いていた時には、週に1番組をこなすのがやっとだったのが、週に何番組も担当できるようになるなど、番組のクオリティーアップにもREMIが貢献しています。

NEPオーストラリア中継拠点
IP化で大規模リモートプロダクション運用を開始したNEPオーストラリア

世界でも続々局舎オールIP化でREMI

アメリカに本拠を置く世界的に有名なニュース専門チャンネルがソニーと共同で「大陸間REMI」の実証実験を行いました。アメリカ・ニューヨークとイギリス・ロンドンの間の大西洋を跨ぐ5,600kmを10GbpsのIP回線で接続し、ニューヨークに置いたスイッチャープロセッサーなどの各機器本体をロンドンのサブからリモートで使って番組制作を行う実験です。実験は大成功し、2019年に予定している局舎移転では、ソニーのカメラやスイッチャーを全面採用したIP Liveプロダクションシステムの導入が決定しました。

このほか、ポルトガルの首都リスボンに本社を置く大手放送局SIC(Sociedade Independente de Comunicação)様でもIP Liveの導入を決定されました。局舎内を全面IP化で更新し、2018年3月から運用を開始する予定です。

アジアでもIP Liveの導入が広がっています。中国の国営中央放送局であるCCTV(中国中央電視台)様では、すでに北京の局舎内をIP化しており、2018年10月1日より全国13都市でケーブルおよび衛星を使用した4K放送を開始しました。さらには、広東省の広東テレビ(広東広播電視台)様も2018年初めより、IP回線経由の4Kテレビ放送を開始しており「4Kを進めるならばIPで」ということで、中国全土から急速に4K IP Live中継車や4K IP Liveスタジオの引き合いが増えています。そして、この流れは4Kにはとどまりません。ソニーでは中国の経済産業省にあたる「工信部(工業信息化部)」とMOU(Memorandumof Understanding、覚書)を締結しており、8K制作用IP Live中継車の構築に向けて今後協力していくことを確認ました。IP化はHDから4K、さらにその先も、同じインターフェースの上でシステム構築や移行を図れることが特長の1つです。8Kまでを見据えるIP Liveの将来性が認められた形と言えるでしょう。


中国の経済産業省にあたる「工信部(工業信息化部)」とMOU(Memorandum of Understanding、覚書)を締結

国内でもIP Live 導入が急加速

日本国内でもIP Liveプロダクションシステムの採用が広がっています。今年になって稼働を開始した静岡放送様、スカパーJSAT様や三重テレビ様に加え、導入を決定した奈良テレビ様など、2018年度末までには合計17システムが稼働する予定です。国内でも単なるIPを利用した更新、ということではなく、REMIやリソースシェアなど、IPならではの運用を前提とした導入が増えています(奈良テレビ様についてはこちらをご覧ください)。

スカパーJSAT様はマスター設備をIP化されたことで、今までSDIでは分散せざるを得なかった局舎内の1000系統を超える大規模なマトリックスをIPに一元集約することに成功しました。IPなくしては実現不可能だった事例の1つです。

一方、静岡放送様は2018年の3月5日よりIP Liveプロダクションシステムも採用したスタジオの運用を開始しましたが、わずか5日後の3月10日に、静岡市の局舎と55km離れた磐田市のヤマハスタジアムをIPでつないでサッカー中継のリモートプロダクションを実施しました。さらに7月18日には、磐田スタジアムに加えて日本平のIAIスタジアムともIPでつなぎ、IP二元中継のリモートプロダクションを行いました。いずれも、カメラマンやカメラ、CCUなどの最小限のスタッフや機材だけを現地に送り、サブは局舎内のスタジオを使用し、VEはサブにいながら現地のCCUをオペレーションする、といったリモートプロダクションのモデルケースとなるような運用です。これらは実験ではなく、すでに日常の番組制作として行われています。

こういった成功事例を受けて、国内においてもIP化のPoC(Proof of Concept、概念実証)の実験を自社でも行いたいというご相談が急増しており、IP化加速の流れをソニーとしても大きく実感しています。REMIやIP Liveプロダクションシステムに興味をお持ちになりましたら、ぜひソニーの営業担当にご相談ください。

4KやHDRに対応したIP Liveプロダクションシステムで
スタジオサブ・中継車を更新へ

奈良テレビ放送株式会社様

奈良テレビ放送株式会社様は、2019年3月の運用開始を予定している、本社L1スタジオサブならびに中継車の更新を「IP Liveプロダクションシステム」によるオールIP化で実現することを決定されました。

  • 浅井 隆士様
    クロスメディア局次長 兼
    技術部長
    浅井 隆士様
  • 都築 賢様
    クロスメディア局 技術部
    主任
    都築 賢様
  • 大寺 加織様
    クロスメディア局 技術部
    大寺 加織様

いまから10年使うのだから4Kは必然

当社は、2005年4月に現局舎に移転した時に導入した、主に夕方の帯番組や制作番組を扱うL1スタジオと、スポーツ中継や報道に使っている6m級の小型中継車に更新の時期が近づき、3年前の2015年から更新の検討を進めました。その中で、この先10年使う設備として見た場合、4K化は必須だろうと考え、4K/HDサイマル対応での更新を決定しました。

過渡期の二重投資を避けられるIP化

当初、クアッドリンク3G-SDIとIPの2つの方式を検討していました。しかしSDIベースだとHDと4Kのための二重投資が発生したり、時代の変化に伴って不要になる設備が生じる傾向があり、できるだけ柔軟性や将来性に優れるIPでのシステム構築をしたいと考えていました。そして、検討を進める間に機材などの周辺環境が整い、オールIP化を実現できる運びになりました。

音声のIP化での経験が映像のIP化に

当社では、中継における音声のIP化を3年ほど前から先行して行っていました。そちらで実感していた、ルーティングや設営の容易さや柔軟性、可能性の広さや将来性の高さと、厚木で見せてもらったIP Liveのデモンストレーションで、映像をIP化した時に得られる恩恵の具体像が湧いていました。現場スタッフの中には、当然SDIを支持する声もありましたが、逆に我々のような小さな規模の局だからこそ、こういう思い切った決断を、業界内で早い時期に行えたと思います。

運用開始後は全番組の4K制作化を狙う

当社では、局舎移転をした2005年という早い時期から全番組の制作をHD化したことで、早期にHD制作のノウハウを得ることができました。今回も更新を終え次第、全番組を4K制作に切り替え、4K制作のノウハウを先んじて得ていきたいと思います。いままで、テレビは電波という独占的な伝送路を持っていたからこそビジネスになっていましたが、これからは良質なコンテンツで生き残りをかけなければなりません。導入後は社外も巻き込みながらリモートプロダクションにも取り組んでみたいと思っていますし、次に控えるニュース番組用のL2 スタジオサブの更新ではリソースシェアも取り入れるつもりです。

4K化・IP化の具体的な提案はソニーだけ

今回の更新では「4K化」「IP化」「段階導入ではなく一度に」を柱に、各社に提案の打診をしました。しかし、これらの要望をすべて満たす具体的な提案をしてきたのはソニーだけでした。しかも、ソニーの提案は将来まで見据えたもので、「ほかと違うな」と感じました。

今後10年、15年と長く使う設備でもあり、単なる発注ということでなく、これからも運用開始までソニーと一緒にいいシステムを作り上げていきたいと考えています。

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