法人のお客様 事例 生活の中で人の気配を伝える、5Gの新たな可能性

生活の中で人の気配を伝える、5Gの新たな可能性

五感で楽しむ展示ブース「5G/5Senses〜気配を伝える近未来〜」

当社は、1月23日(木)・24日(金)に東京ビックサイト 青海展示棟で開催された「DOCOMO Open House 2020」にNTTドコモ様との共同ブースを出展しました。次世代移動通信「5G」の商用サービスの開始を目前に控え、イベントには200社を超える企業や団体が参加。5Gが可能にする最新技術や新サービスが一堂に会した展示会場は、新たな体験への期待感で熱気に包まれていました。そんな中、当社は、「5G/5Senses 〜気配を伝える近未来〜」と題した展示ブースを出展。生活空間においてその場に居ない人の「気配」を伝えるというコンセプトのもと、音や光、振動などを通して2つの空間をつなげる展示は、多くの来場者からの共感を得るとともに、5Gの新たな可能性を示唆するものでした。この展示ブースの企画背景からコンセプト、実際のイベントの模様をご紹介します。

ソニーのクリエイティビティと提案力が、社会課題を解決するきっかけに

今回、NTTドコモ様と共同ブースを出展するきっかけとなったのは、当社が推進するリアルな体験の「場」を創造する「ロケーションバリュープランニング」の活動。スタジアムや商業施設、ミュージアムなど、そこに集う多くの人たちにワクワクするような体験や共感できる空間を、お客さまと共に創造する取り組みをご紹介したところ、「ぜひ一緒に新しいブースを作れないか」とご相談があり、本プロジェクトにつながりました。展示企画の立案にあたり、NTTドコモ様からいただいたご要望は、一般的な5Gによる映像伝送ではなく、「誰もやっていないこと」「表現に音を混ぜること」「ソニーらしいこと」。この難易度の高いオーダーに応えるため、プロダクトからグラフィックデザイン、ユーザーエクスペリエンスまで、ソニーのデザインすべてを手がけるクリエイティブセンターとともに、“技術”と “デザイン”の力を掛け合わせた新たな体験の創出に挑みました。

当初はスポーツをテーマにした案を始め、ジャングルを巡る体験、オーケストラやライブイベントなど、多岐にわたるアイデアを検討。NTTドコモ様への提案を繰り返す中で、「5Gという先進技術を生活に溶け込ませたい」というヒントをもらい、5Gの技術を使ってどう生活の質を上げられるかを改めて考察しました。そこで5Gの特性のひとつである「即時性」にフォーカス。たとえば遠くにいる両親や子どもが、家に帰ってきたか、朝起きたかなどを、瞬時に心地よく伝えられたら生活が豊かに変わるのではないか。この発想のもと、『監視』のような直接的な手段ではなく、かすかな雰囲気によって「元気そうだ」とお互いが安心感を得られる暮らしを「気配」というコンセプトに集約。今までにない難しいテーマですが、高齢者の一人暮らしなど社会課題の解決のきっかけにもなり、ソニーの得意とするエンタテインメント領域のデザインや技術を使って、安心して暮らせる社会に変えられるのなら挑戦する意味があるのではないかと考えました。このコンセプトを提案したところ、NTTドコモ様でもかつて「気配の伝送」について研究されていたということもありプロジェクトが本格的に始動しました。

「DOCOMO Open House 2020」のNTTドコモ様とソニーの共同ブース
5G/5Sensesの体験コーナーでは、来場者それぞれが2つに仕切られた部屋に入り、映像・振動・音で、お互いの存在を感じあう

「気配を伝える」という、新たな体験をデザインする

「気配を伝える」という展示コンセプトを具現化し、来場者にどうしたら体感してもらえるのか。この体験をデザインするため、ブース設計においても試行錯誤の連続でした。「遠隔地で人の気配を感じ、安心して生活できる」というストーリーのもと、お互いが見えない仕切られた空間で、相手の存在を「気配」として感じてもらえないかと考えました。そこで、人の行動をセンシングするとともに、『監視』のように直接映像を見せるのではなく、部屋の中を歩いたり、カーテンに触れたりすると、垂らしたインクがじわじわと広がるように相手の空間に色のにじみを浮かび上がらせ、「そこにいるようだ」と感じられるような表現に仕上げました。また、人の移動も音によって再現し、お互いの動きがリンクすると音が鳴るなど、相手をリアルに感じられるように工夫。椅子に座った時には、心拍数に近いパターンで振動させ、お互いの存在を鼓動という形で伝えることで、安心感を呼び起こすようにしました。さらに、空間演出として「香り」が流れるようにするなど、5Senses (五感)を通してお互いの「気配」を心地よく感じられるように体験を作り込んでいきました。

自分の動きをピンク色、隣接する部屋にいる人の動きをブルーのにじみによって表現
隣接する部屋の人がカーテンを触るとブルーのにじみが浮かび上がり、その行動を知覚できる
椅子に座ることで、お互いの存在を鼓動という形で伝えあう

こうした体験を通じて、日常で「気配」を感じることで暮らしがどう変わるのか、誰のどんな気配を感じられたら心地いいのかなど、体験者自身に新たな発見や近未来を感じてもらうきっかけとなり、5Gが社会にもたらす可能性を考える起点になることをめざしました。

未来の生活における、5Gの新たな可能性

開幕前日に行われたプレス向けのイベントでは、NTTドコモ 5Gイノベーション推進室長 中村 武宏様とフリーアナウンサー吉田 明世様のトークショーが行われました。実際にブースを体験されたお二方に感想を聞くと、吉田様は「自分1人しか部屋にいないのに、ひとりぼっちな感じがまったくしない。誰かがそばにいてくれるようなほっとする感じがありました」、中村様は「これまで5Gといえば映像伝送がメインでしたが、今回の展示がきっかけになって五感にアプローチする取り組みが増えれば楽しいですね」と述べられました。5Gのさらに先を見据えて、さまざまなことに挑んでみたいと話す中村様からは、「また来年もソニーさんと組んで、皆を驚かすようなデモをつくりたい!」というコメントまで飛び出しました。

トークショーの様子。左から内山、株式会社NTTドコモ 5Gイノベーション推進室長の中村様、フリーアナウンサーの吉田様

イベント当日は、常に30分待ちの状態になるなど、多くの方が展示ブースに来場。体験者アンケートでは、「気配」をテーマにしたことに関して9割の方が「おもしろかった!」と回答し、Twitterでは「難しいテーマにチャレンジしたことに好感が持てた」など、多くの方から賛同をいただきました。また、気配だけでなく、「温もり」まで感じられないかというご意見もあるなど、その反響の多さに驚きました。今回のイベント出展は、高速・大容量だけでなはない、5Gの新たな可能性を予感させてくれました。

小野寺(営業担当)

〜モノからコト発想へ、新たな営業スタイルに挑戦〜
製品やサービスのコモディティー化により、モノを作るだけではお客さまに本当に満足いただくことが難しい時代になりました。B to B領域のお客さまと話をしていると、ソニーに期待しているのは、「お客さまがかかえる課題に対するソニーらしい提案」です。今回のプロジェクトにおけるお客さまの課題は「気配を伝えるという新しい体験をつくり出すこと」でした。製品としてはプロジェクターを使用しましたが、NTTドコモ様にとって重要なのはモノ自体ではなく、そこから生み出される新しい体験です。NTTドコモ様にヒアリングを重ねたからこそ、お客さまが本当に求めるものを把握し、モノだけでなく、コトも含めたソニーらしい提案ができたと思っています。これからは、従来のモノを提案するという営業スタイルや意識にとらわれず、お客さまに寄り添いながらも一緒に新しいコトにチャレンジできる関係を築きたいと思います。

内山(ロケーションバリュー企画室)

〜モノづくりと営業の両輪で、ユーザー体験をつくる〜
今回は、「気配」という無形なものを価値として提供するという挑戦的な企画。どこまで共感が得られるか一抹の不安もありましたが、結果的に多くの来場者からの賛同を得られ、NTTドコモ様にもたいへん喜んでいただけたことは何よりでした。イベント当日はご来場いただいた方々の声に耳を傾けながら、どうしたら「気配」という体験が伝わるか、運営面においても模索しました。デザイナーがイベント空間をデザインするだけでなく、運営チームがひとつになり、来場者に心地よい体験を提供できるように体験時間の調整やアテンダントの説明を変えるなど、さまざまな配慮を重ねました。今回、モノづくりと営業の両輪でクリエイティビティを発揮し、ユーザー体験をデザインできたことがイベント成功につながったと思います。

ソニー株式会社 クリエイティブセンター 布施(クリエイティブ・ディレクション担当)

〜クリエイティブで、技術を親しみやすい形にする〜
クリエイティブセンターでは、これまでミラノデザインウィークで発表した「HIDDEN SENSES(隠された感覚)」を始め、技術を直接見せるのではなく、日常の空間や行為の中に技術を溶け込ませ、生活の質を向上させることに挑戦してきました。今回のイベントでも、空間における「気配」を、視聴覚を通して感性に訴えかけるようなデザインに挑みましたが、生活の中で技術を親しみやすい形で提供することがこの先ますます求められると思います。今後、ソニーのセンシング技術を使って空間全体をセンシングしていくことの重要性を改めて実感するとともに、「気配」に代表される近未来の新しいユーザー体験のデザインにも取り組んでいきたいと思います。