Now Loading

3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
11

Yuki Wakisaka

Film Director
映像にあわせた
独自の企画を取り入れる、
新時代の表現者

脇坂 侑希

1991年生まれ、広島県出身。大阪芸術大学在学中に、SHE’SやMy Hair is BadのMVを手がける。卒業後は東京にてフリーランスで映像監督やカメラマンとして活動。2015年に株式会社イサイ(isai Inc.)を設立。現在はMVやCM、ライブ映像など、様々な映像作品において、多彩な才能を発揮している。

大学在学中から数多くのMVを手がけてきた脇坂氏。ミュージシャンからの信頼も厚く、最近ではファン参加型のこれまでにないMVの企画を立ち上げ、成功に導いています。MVというメインフィールドに固執せず、ライブ配信や広告など新しいことにも果敢にチャレンジする脇坂氏の3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter 01
たった1本のMVを持って、
レコード会社へ売り込みに

大阪芸術大学4年の時に、デビュー前のSHE'Sの「Voice」という曲のMVを撮ったんです。それが、初めてのMV撮影でした。彼らと製作費を折半して、自主製作のような形で撮りました。でもその映像で伝えたいことはたくさん考えたのに、技術の乏しさから、全然伝えきれなかったんです。その時、「自分はまだまだ大したことない」と実感しましたね。

そうした苦い経験をバネに、もっと腕を磨こうと毎日ライブハウスに通ってバンドマンに声をかけたりしながら、大学卒業までに数十本のMVを撮りました。音楽レーベルのTHE NINTH APOLLOにSHE’SのMV1本を手に、「ロックバンドのSHANKが好きだからMVを撮らせてほしい」と売り込みに行ったこともあります。社長の渡辺旭さんが「1本しか撮ってないのによく来たな」と面白がってくれて(笑)。THE NINTH APOLLO所属バンドのMV撮影を依頼していただきました。それ以来今でもTHE NINTH APOLLO所属バンドの映像を作らせていただいています。そのつながりで、東京の現場に勉強しに行くこともできました。プロが実際にどんなカメラや機材を使っているのか、ライティングやカラコレをどうやっているのかを見ることができて、その後の作品づくりにとても役立ちました。

SHE'S - Voice (MV)

chapter 02
作品が話題になることで、
依頼が一気に増加

東京に活動の場を移してから、My Hair is Badの「真赤」というMVを撮る機会を得ました。曲自体が非常に良く、さらに渡辺旭社長から「この曲売れるから頼むよ!」と声をかけられて。この曲がヒットしなかったら自分が撮ったPVのせいになるなとプレッシャーに感じましたね(笑)。

「真赤」という曲を聞いてみて、映像には女の子を出したいなと思いました。ただ、正統派の美形な子ではなく、アンニュイな雰囲気のある子をイメージしてアサインしたんです。そうした画作りが功を奏し、「真赤」のMVが完成すると一気に話題になって、仕事の依頼がどんどん増えていきました。

My Hair is Bad 『真赤』

東京に来てからは、FS7やF55、F3といったカメラをよく使っていましたね。FS7はレンタル代だけで3台購入できるくらいはいったかもしれません(笑)。それで結局、FS7を買いました。過去2年前くらいまでの作品は、ほぼFS7で撮っています。このカメラは軽くて、丈夫ですよね。他のカメラは10回くらい修理に出していますが、会社設立の1年目に購入したFS7は、確か1回か2回しか修理に出してないのでコスパも最強だと思います。

chapter 03
参加型イラストMVという、
今までにない企画

今年に入ってSHE'Sの「One」のMVを依頼された時に、「今までとは違うもの」というオーダーを受けました。そこで今まで撮ったMVのことなど色々考えていくと、「イラスト映像はやったことがないぞ」と。それをさらに参加型にしてイラストを集めたら、今までとは違う、ほっこりとした雰囲気のあるMVができると考えたんです。その企画を提案してみると、SHE'S側も「面白いね」となり、企画が進んでいきました。

イラストを募集すると2000弱くらいの応募がきて、そこから約500人の方にイラストを依頼しました。一人3枚のイラストを描いていただき、合計1500枚をほぼ全部使っています。企画時には「500応募くらいきてほしいな」と思っていたのですが、2000応募もきて本当に驚きましたね。その後、500人とイラストのやり取りなどもあって、普段のMV製作と比べて10倍は大変でしたけど(笑)。

企画・準備から完成まで1カ月ほどかかりましたが、「コロナ禍でライブにも行けないこんな時期に、イラストで参加できて嬉しかった」といった声がファンの方々から届きました。SHE'Sも今までにない挑戦ができてよかったと言ってくれましたね。

SHE'S 『One』

chapter 04
音楽に寄り添った、
映像作品をこれからも

TK from 凛として時雨の「copy light」というMVは、最近手がけた中で特に印象に残っている作品の一つです。全編ドラマ仕立てなのですが、「いい画を撮ろう」と力を入れました。お笑い芸人で作家の又吉直樹さんが出演されているのですが、彼ならこのMVをどう撮るだろうと考えながら、曲を聞いて構成をイメージしました。そして、又吉さんを物語の登場人物の一人という風に見せながらも、実は彼は登場人物ではなくその物語を書いていた人だった、という内容を考えたんです。企画をプレゼンしたら、アーティストからもOKをもらえて無事に撮影することができました。

TK from 凛として時雨 『copy light』

また、MAN WITH A MISSIONのMV「Change the World」では、世紀末の夕日をイメージしたオレンジの世界観に仕上げたくて、色温度を限界ギリギリ10000ケルビンにして撮影しました。カラコレで後から色をいじるのではなく、この色でいこうと撮影当日に覚悟を決め、その設定に。疾走感を出すために、普段はあまり使わないステディカムを導入して、撮影技法も大きく変えました。結果、面白い作品に仕上がりましたね。

MAN WITH A MISSION 『Change the World』

手がける映像作品の中ではよく裏テーマを決めていて、それは「嫉妬」や「報われなかったこと」、「別れ」といったものがベースになっています。自分の経験からも、出会いより別れの方が、感情が揺さぶられ頭が働くことが多い。「卒業」とか「何かをやめる時」とか「最後」など、ネガティブでもあえてその部分を描くことで、ストーリーの中の感情を上手く描くことができる気がするんです。かといってあまり深くは描かないというか、見ている人が自分に置き換えて物語の中に入れる余白は作りたいなと思っています。ただ一番は、MVであればその音楽に、CMであればその商品に映える作品を撮りたいなと思っています。

chapter 05
学生の頃から、
思いも好きな機材も変わらない

光にはこだわっていて、撮る時にどうすれば綺麗に入るかなどはいつも考えています。好きなレンズもいっぱいあるのですが、CP3は万能なので18、25、35、50、85、100mmと一通り揃えましたね。また、ブラックプロミストフィルターを学生時代に使ってとても感動して、これは今でも使っています。フィルターを入れて撮影し、編集でさらに映像をフィルムルックにすることもあります。

学生の頃からプロデューサーになりたくて、本当はディレクターになるつもりはなかったんです。でも、大学時代から自分で色々と対応していたら、ディレクターとしての経験が自ずと増えていったんです。だから今後は、プロデューサーやクリエイティブディレクターとしても活動の幅を広げていきたいですね。カメラを自分で回すのは、現場で頭をフル回転したくてやっているんです。忙しい現場の方が好きなんですよ。

chapter 06
ジャンルを越えた
クリエイティブ活動に挑む

最近では音楽のライブ配信が楽しくて、演出や照明といった部分にまで深く関わっています。自分でもライブ配信のイベントをやりたいと、今は計画している最中です。ライブ配信の場合、会場にお客さんが入っていないケースが多いので演出の自由度が高いんですよ。普通では入れないような渋谷クラブクアトロにクレーンを入れて、配信用の映像を撮影したりもしました。

今後は、企業とコラボレーションしてSNSのドラマを制作したり、Web用のコンテンツの動画といったクリエイティブもできたらなと思っています。企画を提案しながら企業のブランディングにつながるようなことにも積極的に参加していきたいですね。クライアントのブランドイメージを、クリエイティブの力で変えていきたいと思っています。

そして、株式会社イサイ(isai Inc.)の才能あるスタッフたちと共にいい作品を作れるよう尽力していきたいです。

あとがき

ミュージシャンから絶大な信頼を得ながら、様々な企画をMVに盛り込んでいく脇坂氏。コロナの影響でリアルイベントが開催できない中で、イベントのライブ配信という、今まさに注目を集めているジャンルでもその力を発揮しています。また、「音楽」というジャンルに縛られることなく、クリエイティブを使って企業と関わることを見据えながら、自身の活動領域を広げようとしています。今後、MVというジャンルだけでなく、生活の様々な場面で脇坂氏の作品に出会うことになるでしょう。

Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki

最新記事をすぐに読みたい方はこちら
メールマガジンに登録する
このページの先頭へ