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3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
12

YP

Film Director
デジタルとアナログを行き来する、
令和に求められる複合的視点

YP

1994生 / 映像監督
( https://twitter.com/YP_________ )
Forbes が選ぶ【業界を代表する30歳未満のイノベーターにインタビューを行う「NEXT UNDER 30」】に選出
( https://forbesjapan.com/articles/detail/25234 )
Gorilla Attack「Gorilla Step」MV/オンライン短編映画「純猥談 触れた、だけだった。」/水溜りボンド「ハッピー毎日投稿終了前ソング」MVなど界隈を幅広く横断しながら新時代の映像クリエイティブを行う。
バーチャルミクスチャーな表現と若者のハイコンテクストな空気感を捉えて作られた作品はZ世代から多くの支持を集めている。

若干20歳でテレビCMを手がけ、その後は多くの著名アーティストの映像を制作したり、公開3日で1000万再生を記録したWEBCMを監督したりと、さまざまなフィールドで才能を発揮するYP氏。これまでのターニングポイントとなった作品や印象に残る作品を振り返りながら、YP氏の3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter 01
19歳で訪れた思いがけない転機

高校生のころ、友人と有名アーティストのパロディ動画を作り、YouTubeにアップしたことから僕のキャリアはスタートします。当時はインターネット黎明期。面白半分でアップした動画が反響を呼び、再生回数は10万回以上に膨れ上がりました。もちろん、いい評価だけでなく悪い評価ももらいましたが、コメント欄では自分の作った映像に関するコミュニケーションが交わされていて。顔も知らない世界中の人からリアクションをもらうことに驚きながらも、“インターネットを介して世界と繋がる”という初めての感覚に、アドレナリンが出るのを感じましたね。そこから機材を少しずつ購入し、独学で映像を作り始めました。もっと言うと、僕は映像を作ること以上に、自分が作った何かで人の心を動かすことに喜びを覚えたのだと思います。

高校卒業後は、京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)へ進学して空間デザインを学びますが、映像制作はずっと続けていました。そして、2年生の時に学校を辞め、会社を立ち上げることに。当時はまだ京都を拠点にしていたので、活動の場を広げたくて、家探しのつもりで夜行バスに乗って東京へ向かいました。到着後、首からカメラをぶら下げて池袋の街を歩いていた僕に、一人の男性が声をかけてきます。その方はカメラマンで、ひとまず連絡先を交換することに。数ヶ月後、その人からまた連絡をもらい、ファミレスで会いました。そこで「CM制作やってみない?」と言っていただいたんです。今聞くと相当怪しい話ではあるのですが(笑)。

それで作った映像が、エイベックスが主催するイベントで、リプトンが映像として流すCMでした。当時、テレビCMディレクターでは僕が最年少だったらしく、そこから色々とお仕事をいただけるようになっていきました。あの日東京に行っていなければ、男性に声を掛けられることもなかった。実績もなく未熟だった19歳の自分に、ある日いきなり訪れた転機でしたね。

chapter 02
遠くまで行くためには、
より精密な航海図が必要

まだ大学在学中だった頃、企業と美大生を繋ぐイベントが東京でありました。その時たまたま連絡先を交換したのが、当時株式会社VAZの副社長をされていた小林さん。そのイベントから1年ほど過ぎたある日、Facebookのフィードに小林さんの投稿が流れてきました。そこには、「美大卒の映像クリエイターを探しています」と。すかさず「それ、僕です」とコンタクトをとりました(笑)。それからポートフォリオを送り、実際に会って話すことに。最初は、イベントで流す映像から任せていただき、少しずつ信頼関係を築いていきました。

いくつか仕事を任せていだいた後、WEBCMを作ることになりました。それが「JAPANESE BUZZ」です。2017年にネットで流行したネタを盛り込みながら、新進気鋭の若手YouTuberを起用して制作したこの動画。各方面から大きな反響があり、今後の自信にも繋がった作品です。でも僕は、広告とかマーケティングといった知識を学んでこれを作ったわけではありません。そういった方法論じゃなくて、「若い世代の視聴者だったらこう思うよね」とか「動画にこういう情報が盛り込まれていたら見てくれるよね」といった自分の感覚を頼りに、あとはカメラマンや照明の方とディスカッションを繰り返し、実際に手を動かしながら学んでいきました。

この時学んだことは本当に沢山ありますが、なかでも“企画と向き合う”ということは今も大切にしているモットーですし、僕自身の強みだと認識しています。ゴールを描いてそこへちゃんと導くことができるクリエイターというのは、時代に左右されずいつの時代も求められる存在。ゴールを描くための設計図が企画書であり、絵コンテ。より遠くまで行こうとするとより精密な航海図が必要になるし、立派なビルを建てるためにはちゃんとした設計図が必要。それと同じです。もちろん、現場の奇跡も信じていますが、僕はちゃんと企画を立てた上でそこに相乗効果で現場のノリや空気感が加わった方がもっと大きな奇跡を起こせると思っています。

株式会社VAZ/JAPANESE BUZZ

chapter 03
制作までの助走をどれだけ長く掛けるか

最近の作品だと、Gorilla Attackの「Gorilla Step」と「隔世Gorilla」という2本のMVを手掛けたことが印象に残っています。実はこれ、“Gorilla Attackとはそもそも何者か?”というブランディングからキャラクターデザイン、グッズ制作に至るまで、自らクリエイティブディレクションを担当した作品です。そうした大元を考えるのが正直一番時間も掛かるし、大変。でも、だからこそ楽しい。自ら決めた世界観に、映像を当て込んでいくので、自分の好きなように、やりたいようにできますしね。

世界観を作るのに半年掛け、映像自体は1カ月くらいで制作しました。「隔世gorilla」はUNDEFINEDというVFXアーティストと一緒に作ったのですが、それも新鮮で楽しかったですね。夜な夜なDiscordを繋ぎながら議論を繰り返しました。コロナ禍で外出自粛していたというのもありますが、映像のワークフローが大きく変わり始めていることを実感します。リモートでディスカッションして、そのままリアルタイムで修正をかけていく。本作に関しては、ほぼ非接触で完成しました。オンラインでの作業はスピーディーで効率的。自分達にはすごく合っていると感じました。

この時、実制作に入る前の助走をどれだけ長くできるかが、これからの映像制作のクオリティーを左右すると感じました。平成のムーヴメントとしてまだ記憶に新しい岡崎体育さんの「MUSIC VIDEO」のMVは、映像を作る前提で曲が作られていることがわかります。ものすごく現代的だと思いますし、今の時代に重要なクリエイティブの視点ですよね。それが令和になると、さらに助走に時間を掛けるようになる。そうしないと、フューチャーされる作品は生まれないだろうなと感じています。

ちなみに本作は、僕が尊敬する映像作家の児玉裕一さんから直々に「よかったよ!」と連絡をいただき、そうした意味でも大変嬉しく、印象深い作品になりましたね。

Gorilla Attack/Gorilla Step

chapter 04
デジタルとアナログを行き来する
複合的な映像表現

Gorilla AttackのMVでは、ボリュメトリック(※)をはじめとした最新のテクノロジーも取り入れています。常に新しい手法や表現にトライする姿勢は大事にしています。根底にあるのは“人の心を動かしたい”という想い。だから、どうしたら人が喜んでくれるか、驚いてくれるか、飽きないか。そういった感覚をすごく大事にしています。かつて16歳だった自分が YouTubeに初めて動画をアップしたときの原体験が、今も自分のものづくりに大きく影響していると思います。
※撮影画像から3D空間を再構成する技術

この作品を通してもう一つ学んだことがあります。それは、先ほどお話したことと相反するようですが、機材やテクノロジーに捉われ過ぎないということ。本作では、最新のCG技術も取り入れていますが、あくまでも一番大事なのはアウトプットされた時の状態がどうなっているか。技術はそのための一つの手法に過ぎません。これからの時代は、デジタルかアナログのどちらかではなく、それらを複合的に取り入れることで、人の心を動かす世界観を作っていけると考えています。今までお話してきた通り、数ある手法の中からいろんなことを実験的に試して映像を作っているので、僕の成長速度は人より遅いはずなんです。一点突破ではないので。でも、数年後振り返った時、いろんな方向・角度に枝葉を広げて成長していたらいいな、と思っています。

機材は、ソニーのFS7を使っています。20歳の時に買ってから、撮影はほぼずっとこれです。当時はiPhoneにスロー機能が搭載されたタイミング。「これどうやって撮ってるの!?」と驚いたのを覚えています。だから、映像の綺麗さに加えて、スロー機能もFS7を使う決め手になりましたね。冒頭にお話したリプトンのCMも、初めて手掛けた短編映画「純猥談」も全てこれで撮影しました。

純猥談

chapter 05
ディズニーのような世界観を作りたい

これからやりたいことは大きく分けて2つあります。1つ目にやりたいのは、XR(※)の分野でオリジナル作品にチャレンジすること。自分の好きなストーリー、キャラクター、音楽を使って、自由に物語を作りたいです。カテゴライズするならCG作品になるかもしれませんし、今はまだ言語化されていないようなジャンルになると思います。イメージとしては、ディズニー作品が近くて、「ファンタジア」の中にもリアルにもどちらにも存在するミッキーマウスのようなキャラクターを作ることができたら素敵だな、と考えています。
※VR・ARなど仮想空間技術(空間拡張技術)の総称

2つ目は、コミュニティの成長。現在「YP映像大学」というオンラインサロンを運営しています。もともと育成というつもりでスタートしたのではなく、今の時代に適したディレクション感覚を持つ人が周囲にもっといたら楽しいだろうなと思って始めたもの。生徒の皆さんとは、2カ月に一度オンライン面談を実施し、最近手掛けた作品を見せてもらいながら、FBをしたりしています。

新型コロナウイルスの影響で、撮影の仕事は減りましたが、逆に企画の仕事は多くいただくようになりました。先ほどもお話した通り、助走にどれだけ時間をかけられるかということが、令和のディレクターには求められているのではないでしょうか。著しく発展する技術に追い抜かれないよう、ディレクション能力も時代に合わせて成長させていきたいですね。

あとがき

最新技術を駆使したMV。人気YouTuberを起用したCM。情緒的なシーンが印象的な短編映画。YP氏の映像作品は、いつもいい意味で私たちの予想を超えていきます。しかしどの作品にも共通しているのは「人々の心を豊かにしたい」という純粋な想い。高校生のころに得たものづくりの喜びが、今なおクリエイターとしての原動力になっているのだと感じました。インタビュー中では「一点突破ではなく、いろんなことを試しながら成長しているので、僕の成長スピードは人より遅いはず」と語っていたYP氏。数年後の彼は一体どんな成長を果たし、世の中にどんな驚きを与えているのでしょうか。これからの映像作品がとても楽しみに感じる取材でした。また、先日(2020年11月18日)開催されたInter BEE 2020 ソニーのオンラインセミナーにYP氏が登壇され、今回取材させていただいた内容を、ご本人から直接語っていただく貴重な機会となりました。

Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki

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