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3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
06

Hidetsuna Kuwabara

SOUND DESIGNER/
RE-RECORDING MIXER
ジャンルを超越する
「音」のデザイン術

桑原秀綱

株式会社サウンドラウンド 専務取締役。2歳からピアノを始め、幼少期から音に親しむ。音響の専門学校卒業後は、大手映画会社に就職。その後ゲーム会社に転職し、2019年独立。音響制作プロダクション「SOUNDROUND」を立ち上げる。映画、ドラマ、アニメ、CM、サウンドドラマ、外画吹き替えなど、年間約200本の作品に関わっている。スーパー戦隊シリーズの音響効果も担当。

ジャンルを問わず、さまざまな映像作品の「音」を生み出している桑原氏。手がける作品は年間200本にも及びます。派手なアクションを魅せる特撮から人間模様を描く恋愛ドラマまで、求められる表現が全く違う作品でも、クオリティーの高い音を届けるためのこだわりとは。桑原氏の3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter 01
シーンによって、
音をデザインする

私はサウンドデザイナー/リレコーディングミキサーとして、映像作品における「音づくり」を担っています。「サウンドデザイナー」は海外ではメジャーな仕事ですが、日本だと、テレビ業界では「音効」、映画業界では「音響効果」、ゲーム業界では「サウンドクリエイター」と呼び方が変わります。でも、やることはどの業界でも変わりません。映像作品の効果音や音楽を作ることが、サウンドデザイナーの役割です。

「リレコーディングミキサー」はあまり馴染みがないかもしれませんが、テレビ業界だと「サウンドミキサー」、映画業界だと「整音ミキサー」と呼ばれています。録音した音を整え、映像作品のさまざまな音のフォーマットにミックスダウンすることがリレコーディングミキサーの役割です。

当たり前ですが、音には形がなく、四六時中耳に入ってきます。映像を見ていて、自然な音であれば違和感なく耳に入ってくるでしょう。逆に視聴者に意図して違和感を持ってほしければ、不自然な音に作り変えることもあります。そのため、監督が各シーンで何を求めているかを理解して、作業しなければなりません。

例えば、登場人物がジャンプするシーンひとつとっても、恋愛ドラマと特撮では表現する音が異なります。恋愛ドラマなら、衣擦れの音だけでもいいかもしれません。しかし、ヒーローが活躍する特撮だと、子どもやファンが納得する”カッコいい音”が求められます。このように、作品のテイストや演出に合わせて音をデザインすることが、私のミッションとなります。

chapter 02
音をつけるのは、
塗り絵に近い感覚

作った音がカッコいいか。それを常に自分の物差しで測っていかなくてはなりません。そのために、さまざまな映像作品に触れながら、勉強しています。例えば、特撮であればアイアンマンが飛んでいる効果音を分析してみたり。スターウォーズやマーベル作品などを作った先人から、学ぶことは多くありますね。

私が担当しているスーパー戦隊シリーズなどの特撮も、それぞれの作品によってテーマやコンセプトが異なります。最初にキャラクターや話の展開を聞きながら、どんな音が合うのか、どんな効果音が必要かを考えていきます。その後、出来上がった映像を見ながら、動きに合わせて音を当てはめていきます。最近思うことは、作品に音をつけるのは、塗り絵に近いということ。映像という枠があり、その中で自由に音を描いていくイメージです。

映像にマッチしたオリジナリティーのある効果音を出すため、シンセサイザーで偶発的に出た音、レコーダーで無作為に収録した色々な音を混ぜたりもします。スターウォーズを象徴する武器、ライトセーバーの音はその代表例ですよね。あれは放電した音を収録したものをスピーカーから出し、それにマイクを振ってできた音なんです。今までにないアイデアをもとに生み出された音は、本当に面白いですよ。

chapter 03
作品ごとに、
アプローチが変わる

スーパー戦隊シリーズで登場する、ロボットの目が光る時の「キラン!」という効果音。あれは、私のオリジナリティーが発揮されている音の一つだと思っています。作品の中では、ロボット同士が合体しながら最後に目が光る演出が多々あります。カッコいい目の光り方だとロボット自体もカッコよく見えるので、いろんな音を試しながら、こだわって作っています。さらに、作品ごとにさまざまな種類のロボットが出てきますが、それぞれのキャラクターに合わせて微妙に効果音も変化させています。

特撮は体の動きの効果音も多いですが、爆発音やテーマ曲なども同時にひとつのシーンで流れる場合があります。そうなると、普通の布を動かしたような体の音だけでは視聴者の耳に届きません。そのため、体の動きを表現する効果音を作る際は、マイクを袋の中に入れて振ったりしながらさまざまな方法を試し、印象に残る音を作ります。

その他にも、映画のシーンによっては音楽やセリフ、効果音が重なってしまう場合があります。その時はどの音を際立たせるのかを考えます。人は音を同時に二つくらいまでしか聞き分けられません。ですので、シーンごとに音の主役を決めるようにしています。

chapter 04
アクションとドラマの違い

アクション作品では映像から飛び出るような音が求められますが、人間模様を描くような映画では、画に馴染む音が求められます。映画における足音は基本的に後付け(生音収録、FOLEY)ですが、静かなトーンの作品では、それが実際に撮影現場で出た音と思えるくらいのナチュラルさを監督は要求します。そのため、アクションとは真逆の音を意識して作るようにしています。

先日関わった恋愛映画で、主人公がナイフで刺されるシーンがありました。アクション中心の作品だと、「グサッ」というような効果音を入れます。しかし、実際にナイフで刺される時は、そこまでの音はしないでしょう。恋愛映画のそのシーンでは、刃物が布に触れるくらいの効果音にしました。

そうすることによって、刺される主人公の寂しさといった心情を表現できるようにしたいと考えたのです。ここで「グサッ」という派手な音がしたら、シリアスな場面がコメディに見えてしまいますから(笑)。シーンにおける音のメリハリには、とてもこだわっていますね。

chapter 05
再現性のある
システムを使いこなす

アイデアのアウトプットがすぐにできるよう、音響システムは複雑に組まないようにしています。10年前と今では制作環境もガラっと変わりましたね。ハリウッドもそうですが、大型のシネマDSPが入った卓が徐々にデジタル卓に変わってきました。以前はアナログで大きな機材が必要だったのがコンパクトになり、どのスタジオでも互換性が良くなったのです。

自宅で作っても、大手のスタジオで作っても再現性があります。私が立ち上げたスタジオ「SOUNDROUND」も再現性や互換性を大切にして作りました。昔はそれぞれのスタジオに卓があり、そのスタジオに行かないと再現できない音ばかりでしたが、それが今ではスタジオで作った音を自宅でも再現できるようになっています。

また、スタジオに設置している映像モニターにはこだわっています。映像フォーマットがNTSCでもPALでも、どんなフレームレートであっても高画質に安定して映せるモニターに統一しています。時々海外向けの仕事もやる場合がありますが、グローバルメーカーのモニターであれば安心できますね。

chapter 06
ジャンルを超えた
音づくりへの挑戦

映画やテレビ、ゲームと、映像表現のジャンルはさまざまありますが、その垣根を超えて音を作っていきたいですね。ゲームにおける音づくりの手法を映画に取り入れてみてもいいですし、それぞれのジャンルのやり方を組み合わせて技術を進化させたいと思っています。

また、これからは海外作品にも挑戦してみたいと考えていますが、ハリウッドはすべてが分業制。複数のサウンドデザイナーの上に、スーパーバイザーというサウンドエディターがいる構図で、大作になればなるほど大人数でサウンドを仕上げることになります。チャレンジできるなら、音を統括できるスーパーバイザーとして作品に関わってみたいですね。

あとがき

特撮からドラマまでさまざまなテイストの映像作品に携わり、映画やテレビ、ゲームとあらゆるジャンルで腕を磨いてきた桑原氏。自身のスタジオを立ち上げ、多様なジャンルで培った技術や知見を融合させながら、新しい音づくりに挑む熱意を感じることができたインタビューでした。既成概念に縛られず独自の音を生み出しながら、これからも多くの作品に命を吹き込んでいくでしょう。

Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki

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