旅×テクノロジー 〜近畿日本ツーリストと考えるスマートツーリズム〜\

Chamber 17
2018.05.13

旅×テクノロジー
近畿日本ツーリストと考えるスマートツーリズム

“スマートフォン、スマートシティーがあるのなら、スマートツーリズムがあってもいい”。近畿日本ツーリストの「未来創造室」では、AR(拡張現実)など次世代技術を用いた「スマートツーリズム」を推進し、総合旅行会社として新しい旅のカタチを模索しています。観光業界も過渡期と言われる今、旅行会社はテクノロジーをどのように活用していくのでしょうか。また私たちの旅のカタチは、どう変わるのでしょうか?近畿日本ツーリスト株式会社 未来創造室 課長の波多野貞之さんにお話を伺いました。

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――テクノロジーを具体的にどのように活かすことを想定されていますか?

「ウェアラブル端末やAR/VR技術を用い、たとえば今はお城の石垣しかないところに昔あった天守閣が見えたり、古墳を上空から見たり。今まではガイドの説明や本に頼っていたものを、ビジュアルとして見ることができたらシンプルに楽しいんじゃないかと始まったんです」

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――いろいろなものを「復元」できたら面白いですね。

「全国各地には、史跡や産業遺産や祭など復元できそうな観光資源がたくさんあります。それをARやVRという技術で可視化した体験を提供できたら、新たな地域の価値になるのではないか。実際に今、その手法として、自治体と手を組みスマートアイグラスを使った観光ツアーを企画しています。これまで自治体はアプリ等で観光コンテンツを作っていることが多かったのですが、なかなか利用されないという課題がありました」

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――今、ソニーのスマートアイグラスを使ってコンテンツ開発をされていますね。

「いろいろ試したなかで、ソニーのものが一番軽くスタイリッシュで、丈夫でした。端末の魅力はもちろんですが、ソニーとは東北・仙台での震災学習ツアーの実証実験やスマートツーリズムを通じて地域に根ざす活動で繋がっていきました。ソニーはただ最新機器を作っているだけではない、何か計り知れないことをやろうとしている、と(笑)」

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――防災ツーリズムとして取り組むスタディーツアー“せんだい AR HOPE TOUR”についてもお聞かせください。

「東日本大震災の被災地・仙台市荒浜地区を巡る『せんだい AR HOPE TOUR』を、近畿日本ツーリスト東北として4月にサービスを開始しました。実施に際しては被災地で何度もお話を聞いてきました。そのなかで被災者の方々は『こんなに被害がひどかった、暮らしが大変だ』ということを伝えたいわけではなく、津波で何も無くなってしまった土地にも、かつて人の営みがあり、こんなに豊かな生活があったということを知って欲しい。スマートアイグラスはそのために活用したいと思っています。

東北は沿岸部は海があり、森林があり、変化に富んだ風土は四季や多様な文化を生む一方で、地震や津波で大きな被害を受けてきました。先人は石碑や本に“津波に気をつけろ”など継承しようとしていました。しかしそれが生かされたとは言えません。記憶を継承するために、最新の技術を使っていけないか。震災から7年経ち、すでに風化が始まっているなか、旅行会社として取り組むべきツアーなのではないかと考えています」

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――東北大学との連携で、ツアーに幅や深みを持たせる取り組みをされています。

「今は教育旅行としての需要を見込んでおり、東京の高校からも校外学習の一環として相談を受けています。また海外からも問い合わせが来ています。今回、ツアーの監修を東北大学災害科学国際研究所にしていただいており、体験した方がさらに知識を深めることができるようオーダーメイドのプログラムを構築していこうと考えています」

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――ウェアラブル端末を使ってのツアーは、インバウンド対策としても有効である気がします。

「イヤホンガイドで説明が聞けそれを英語などに対応させることもできます。ただ、ガイドさんがいらなくなるかと言ったら、それはありません。最初ガイドさんなしでツアーをしてみたら、歩いていてシーンとして、なんともつまならい雰囲気になってしまったんですよ。スマートアイグラスで説明を聞いて、じゃああれはどうなの? とガイドさんに尋ねたり参加者で話し合ったりできればさらに深い体験になりますし、一緒にメガネをかけて楽しむという体験もまた旅なんです。可視化することで、言葉を尽くすより情報を凝縮できますから、ガイドの話す内容も変わってくるでしょう。だからこそ、ガイドの研修・育成にはもっと力を注がなければいけないと改めて思っています」

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――個人的には、今後どんなことをやっていきたいと思われますか?

「次世代通信規格5GでのVRライブ配信や、VR体験を他の人とシェアできる立体的な映像スペース作りなど、いろんな体験ができたら楽しいですよね。去年、福島の県営球場で1万発の花火大会を実施した際に、その映像を福島市飯館村の老人ホームにライブ配信し、VRゴーグルをつけて体感していただいたんです。旅に出ることが叶わない方への体験ツールとしての実証実験でした。
また、ソニーの4K超短焦点プロジェクターを活用した“Warp Square” という多人数でVR体験やパノラマ映像体験ができる空間を体験しましたが、VRライブ配信を多人数で体感できる機会は、今後のビジネスチャンスを大きく広げられると感じています。ぜひ次なるビジネス実証に繋げたいですね。
今、ネットで旅行手配をする会社はたくさんありますし、手配機能だけではもう総合旅行会社として生き残ってはいけません。これからはいかに体験価値を作るか。音楽の世界でもCDが売れない中、ライブだけは伸びていると言われています。バーチャルが進めば進むほど、リアルを感じたいと思うのではないか。なぜならリアルな体験は、他に比較出来ないその人固有のものになるからです。
だからバーチャルが進んだら現地に足を運ばなくなり地域活性に繋がらないんじゃないかと言われるんですが、それは逆なのではないかと思っています」

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――人が「旅」をしなくなることはないということですね。

「そうです。これからは旅にどんな体験価値を創出できるか。家にいながら海外旅行を体験する、海外のウェディングに参加するなど、高齢や体調などで旅に行くことが叶わない方へのユニバーサルツーリズムとしても担えるものがあると思います。
私たちは旅行会社として60年間お客様と向き合ってきて、お客様がどう感じるか、どうすれば満足していただけるかを考えてきました。お客様と向き合ってきた積み重ねは、ノウハウ・強みと言えるのではないか。それをベースに、まったく違う業種の方と連携すれば、新しいモノの見方や新しいサービスがが生まれるはずです。ソニーはハードの面だけでなく映像や音楽などのコンテンツにも強い会社ですから、これから一緒にいろんなことにチャレンジできたらいいですね」

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波多野 貞之

近畿日本ツーリスト株式会社/未来創造室 課長
(現:KNT-CTホールディングス株式会社 グループ事業推進本部 マーケティング部 未来創造室)

スマートツーリズム=「旅×テクノロジー」で新たな旅の可能性をテーマとする「未来創造室」の課長。
2015年に「江戸城天守閣&日本橋ARツアー」を行い、その後福岡城、弘前城、富岡製糸場にてARガイドツアーを展開。また映画ロケ地である島根県出雲たたら村、世界遺産候補地である堺市ではVRガイドツアーを実施。5G時代到来に向けたVRライブ配信への展開にも着手。2018年4月から『せんだいAR HOPE TOUR』では国内のみならずインバウンドに向けた施策などを展開する。

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