デジタルアーカイブが拡げる未来の裾野\

Chamber 21
2018.07.13

デジタルアーカイブが拡げる未来の裾野

過去何度もブームが来ては去りを繰り返していた「デジタルアーカイブ」がまた注目されはじめています。今回は「デジタルアーカイブ」に関するさまざまな分野で活躍するアカデミック・リソース・ガイド株式会社の岡本真さんにお話を伺いました。

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――これまでどのような活動をされてきたのか教えてください。

「1999年から約10年間、ヤフー株式会社に在籍していました。Yahoo!知恵袋を立ち上げ、初代のサービスマネージャーを務めたり、Yahoo! JAPAN研究所の設立やYahoo!ラボの公開にも携わってきました。現在は、図書館や美術館など公共文化施設の計画策定から施設整備に係るプロデュース業務がまずひとつめの柱です。ふたつめはヤフー時代に培った関係から、産官学連携のコーディネーターとして、さまざまな大学と企業のマッチングをしています」

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出典:『天保山御固之図』『改正増補国宝大阪全図』『(大阪名所)造幣局』『泉布観 』(大阪市立中央図書館所蔵)

――コンテンツのデジタル化は現在どのように進められているのでしょうか?

「今、新たに施設を作る際に資料のデジタル化は最重要課題です。以前はスキャナーでデジタル化していましたが、資料を傷める心配や、サイズの限界があり、今はデジタルカメラで撮影してアーカイブすることが多いですね。画像だけでなく音声や動画ファイルなども緩やかに増えていますが、アーカイブされているのは圧倒的に画像です」

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――東日本大震災を契機にデジタルアーカイブへの関心が高まったと伺いました。

「震災は大きな転換点となりました。デジタルアーカイブが現実的に役に立つということが再認識された機会でもありました。東日本大震災では、津波の実態が数多く記録されていました。想像し得ない、語り継ぎでは表現しきれない貴重な写真や映像などがたくさん残されていたのです。
例えば、三陸沿岸部の各地では、流される前の街の模型を作り、確認し合いながら復興を進めていますが、その時に活躍したのが残された数多くの”写真”でした」

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――アーカイブの観点では、どのような写真を残していけばいいのでしょうか?

「そこに関しては考えが分かれるところです。私は、一切選別する必要はないと思っています。どれがありかなしかという選別は、所詮今の私たちの発想や価値観にすぎません。意味付けをするのは、あとあとそれを使う人たちです。アングル、写っている内容、有名かなどはまったく関係ないと思っています。
ストレージに限界があった時代ならわかりますが、今や容量は飛躍的に増え、もはやこだわる意味がない。たくさんあってこそ役に立つのがアーカイブだと思います」

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――大量のデータがあると、埋もれてしまうのではないかと心配するのですが……。

「そこも楽観視していて、技術が将来的になんとかします。私は写真をアップするときに、いつ何を写したか以外の記録はしていません。デジタルカメラは緯度経度情報を入れてくれますし、今の技術なら画像上の文字情報も読み取れたり、類似写真を探すこともできます。またこれはさらに進歩するでしょう。
ウェブ的な話ではありますが、限られたデータで研究開発しても大した成果は出ない。とにかくものすごくまとまった大量のデータが発生してこそ、技術開発が一気に進みます。SNSなどでは自動で顔認証ができるようになりましたが、これは皆さんが大量に写真をアップするようになったからです」

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――海外と日本では文化遺産のアーカイブについての意識の差などはありますか?

「海外は非常に進んできています。個人的にはヨーロピアナ(EU加盟国の図書館や博物館が所蔵する書籍、文献、映像、絵画などを検索・閲覧できる電子図書館ポータルサイト)のように、ライトなものが増えればいいと思いますね。とある日本の社長さんが、ゴッホの作品を買って、死んだら棺桶に入れてくれと言って物議を醸した話は有名です。欧米では、人類の文化財をお預かりしているという感覚が所有者にもある。日本では、自分のものだと思いやすいという差があるのかもしれません。
また、日本には寺の文化財がたくさんありますが、写真を公開させないポリシーを持っているところが多いように思います。信仰の観点やビジネス上の問題からでしょう。でも存在が知られなければ、誰も見に来ません。これは文化財の権利関係の方の意識の問題でもあります。8KやVRなど進化したデジタルコンテンツを見て感動したとき、それだけで人は満足するかといえば違って、人間はかえって現物を見てみたいと思うはずなんですよ。
渋谷駅の岡本太郎さんの作品も、あのサイズであの場所に置かれているものを見るのが美術体験ですよね。デジタルなものと本物は、比較するものではなく、共存するものだと思うのです」

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――デジタルアーカイブをより普及させていくために、解決すべきことは何だと思われますか?

「利活用ですね。アーカイブしても、使われないと意味がありません。その結果、廃れてはブームがきて、を繰り返すことになる。これからは、例えば大阪市立図書館のように、オープンデータという形式をとることが求められていくのではないでしょうか。営利目的も含め自由に利用していいという形で、国の方針としてもすすめられています。
今、デジタルアーカイブは大きな転換期を迎えています。利活用に関して、オープンデータ化するということが非常に重要です。それができれば、アーカイブされたデジタルデータの価値はもっと高く評価されると思います」

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デジタルアーカイブというと、美術館などで著名な芸術作品をデジタル化し公開しているイメージが強いかもしれません。今回、有名無名問わず、ある意味“取るに足りないもの”のアーカイブが後世で生きる大きな可能性を感じました。その価値を見出すのは、10年、100年先の子供たちかもしれません。アーカイブは、大量に、そしてオープンに残されてこそ。解析の技術や知能は今も進化し続けています。未来に向けて、デジタルアーカイブがより価値のあるものになっていくのでは、といった期待感を抱くインタビューとなりました。

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岡本 真

アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役/プロデューサー

「学問を生かす社会へ」を標榜し、数々の公共・商業施設の計画、設計、運用に携わる。国立情報学研究所産学連携研究員、東京大学工学系研究科松尾豊研究室研究協力員、早稲田大学ITバイオ・マイニング研究所客員研究員、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ理事、図書館総合展運営委員会委員、saveMLAKプロジェクト リーダー、Code4Lib JAPAN事務局長、総務省地域情報アドバイザー。

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