スイッチャー

株式会社 WOWOW 様

放送局

2014年7月掲載

3G-SDI対応の大型HD中継車を導入し、音楽番組のライブ中継・収録を中心に、スポーツ中継などにもフル稼働中。4Kにも対応。


3G-SDI対応など、先進のテクノロジーを搭載した大型HD中継車。音楽ライブ中継で不可欠なマルチカメラ運用に柔軟に対応するだけでなく、4入力単位で同時に切り替えることで4Kスイッチングも可能な仕様となっています。

株式会社 WOWOW様は、2013年9月に3G-SDI対応の大型HD中継車を導入され、同社の有力コンテンツとなっている音楽ライブの中継・収録を中心に、スポーツ中継やコンサートの収録などに、フル稼働されています。
同社 技術局 制作技術部 サブリーダー 横山敦司様、同部 坂本寛之様に、大型HD中継車の設計コンセプト、ソニーのシステムインテグレーション採用の決め手、運用の成果と評価などを伺いました。
なお、記事は2014年4月中旬に取材した内容を、編集部でまとめたものです。


汎用性は考慮しつつ、当社の中継・収録業務に最適化した設計


坂本寛之様


横山敦司様

放送局で中継車を導入、あるいは更新する場合、幅広い用途で運用できる汎用性が求められると思います。今回、当社で中継車を更新する際にもこの汎用性について一定の配慮をしました。しかし、更新コンセプトの重要なターゲットとしたのは、当社の主力業務である音楽ライブの中継・収録に最適化し、柔軟に対応することでした。

もう一つは、今後長期間運用しますので、新しい時代にも適合できる先進のテクノロジーを導入することです。59.94p や4K 映像といった新しい映像表現にも可能な限り柔軟に対応できるシステム構築を目指しました。そこで、3G-SDI に対応した大型HD 中継車を目標に設計を進め、2013 年9 月に完成することができました。導入後、当社の音楽ライブの中継・収録業務を中心にフル稼働中です。

コンセプト具現化の核となるスイッチャーにMVS-7000X


スイッチャー卓。マルチフォーマットプロダクションスイッチャーMVS-7000X(60入力、5ME、4DME、3パネル、4キーヤー/ME) を採用。ソフトウェアでME列を増設できるMP2(マルチプログラム2)も搭載しているので、メインパネルだけでも最大6MEでの運用ができるなど、ポテンシャルの高いスイッチャーシステムとなっています。

音楽ライブの収録業務では、30〜40台を超える多数のカメラを使用する場合があります。その際には、主力となるシステムカメラのほかに、外部非同期のデジタルシネマカメラ、固定式小型カメラなどを駆使して多 角的なアングルと魅力的な映像表現を目指してきました。今回の中継車更新は、現場で使用する多数のカメラに対応するため、スイッチャーの入力数を増やすこと、そして生中継以外の会場内スクリーン映像の提供( 以下、サービス映像) やODS(Other Digital Stuff =映画以外のデジタルコンテンツの上映) にもより柔軟に対応できることを仕様としました。

こうした仕様を実現する上で、システムのコアとなるのがスイッチャーです。当社の仕様に沿った大型スイッチャーを比較、検討した結果、60入力に対応したソニーのMVS-7000Xに決定し、サービス映像やODSへの対応を考え、メインパネルの他に2つのサブパネルを導入しました。3G-SDIに対応し、4入力単位で同時に切り替えることで4K映像制作にも使える点もメリットの一つです。

カメラシステムには、音楽ライブ収録に不可欠の低スミアを評価してFIT CCD採用のマルチフォーマットポータブルカメラ HDC-2600を10台と、2倍速スローのメリットを享受できるHDC-2500を4台導入。既存のHDC-1000シリーズとの併用も可能です。また、タリーは3rdタリーまで対応することで生中継・サービス映像・ODSといった同時運用にも柔軟に対応できる仕様となっています。CCUはスイッチャー入力数に対するシステムカメラの台数比率を高めるため、HDCU-2000/2500を20台常設し、HDCU-2500を12台増設可能にしました。

多数のカメラ運用、マルチフォーマット収録にも柔軟に対応


車内高を高くするなど制作スペースを確保するとともに、卓の幅や厚さにも配慮した設計で、快適な居住性も実現しました。写真・左は、スイッチャー卓延長機構、写真・右は、スイッチャー卓前に設けられたスローコントロール卓などで活用できるユーティリティースペース。


フォーマット・チェンジ・ユニット。カメラ台数の多い運用では各機器のシステム周波数を揃える必要があるが、これにより一つ一つのCCU で必要であった出力スロット設定を一度に変えることが可能になりました。

多数のカメラを有効に駆使するには、大勢のスタッフ、オペレーターが車内で連携する必要があり、必然的に広い制作スペース、長時間の収録にもストレスを感じることなく業務に集中できる快適な居住性が求められます。そこで、車内の制作スペースを広く取るために、床面を跳ね上げる拡幅構造を採用しました。これにより、VE6名を含む最大14名が車内で作業可能になりました。動線の確保、コミュニケーションの強化にも貢献していると思います。

また、今回の中継車は、23.98PsF、29.97PsF、59.94p、59.94iの収録フォーマットに対応しました。この特長を活用する上では、いくつかの課題があります。たとえば、収録フォーマットに合わせて各機器(シンクジェネレーター、スイッチャー、CCU、VTR)のシステム周波数を揃えなければならない点もその一つです。手動の設定変更は項目が煩雑なことから、誤操作による収録事故の発生にもつながりかねません。この問題も、ソニーのSI部門が開発したフォーマット・チェンジ・ユニットを導入することで解消しました。

音楽ライブ、スポーツ、4K映像制作などにフル稼働

今回導入した中継車は、当社の音楽ライブ番組の中継・収録を中心に本格的に稼働しています。これまでの運用で、最も規模が大きかったのは、2013年末の年越しライブコンサートで41台のカメラを使用しました。また、テニストーナメントの中継といったスポーツ用途でも運用しました。

そして、2014年3月には、ライブコンサートの4K映像スイッチングに運用しています。この時には、CineAlta 4KカメラPMW-F55を19台使用したほか、XDCAMメモリーカムコーダーPXW-Z100を2台とマルチコプターを使用して4K/23.98pによる空撮も行っています。さらに、PMW-F55のカメラ出力ごとに富士フイルム株式会社製 IS-miniを使用して、S-Log2の信号をリアルタイムグレーディングしながら、その映像をスイッチングすることも行っています。PMW-F55の持つ広いダイナミックレンジを映像表現に活用したいとの要望に応えたものです。

4K映像の収録が主な用途でしたので、本来は中継車は必要ないのですが、スイッチングやアイリス、色管理といった工程を検証する目的もあって運用しました。当社は、ドラマやドキュメンタリーでPMW-F55を活用した4K完パケ、HDダウンコンバート放送を行っています。今後は、音楽ライブの収録でもどんな効果があるのか、期待と課題の両面から検証作業を続けていきたいと考えています。

すでに4Kの運用で見えている課題もあります。一つは、59.94pだけでなくユーザーの希望する表現方法に合ったシステム周波数が、各機器間で選択可能となることです。また、4K制作のワークフローも、まだまだ確立されていません。可能な限り、HD制作に近い環境、ワークフローで作業できることが希望です。

ソニーには、この難題を一つ一つクリアできるソリューションをぜひ提案して欲しいと思っています。


VE卓。13本のラックを配置し、最多6名のVEがそれぞれ4台のカメラのアイリスや色管理を行える体制を整えています。マスターモニターには17型有機ELマスターモニターBVM-E170Aを、素材モニターには9型マルチフォーマット液晶モニターLMD-941Wを採用。