法人のお客様システムカメラ 事例紹介 朝日放送テレビ株式会社 様

朝日放送テレビ株式会社 様

4K HDR / HD SDRサイマル中継と
最大16倍スローに対応した新大型中継車

朝日放送テレビ株式会社 様は、ソニーの提唱する“SR Live for HDR”ワークフローによる4K HDR / HD SDRサイマル制作に対応した新「201中継車」を導入し、2021年4月より運用を開始されました。

朝日放送テレビ株式会社
技術局 制作技術部
担当部長 兼 総合編成局
予算マネジメント部員・
株式会社アイネックス兼務
勝間 敦 様
朝日放送テレビ株式会社
技術局制作技術部 
制作技術課長・
(株)アイネックス兼務
川本 龍文 様
朝日放送テレビ株式会社
技術局制作技術部
制作技術課長・
(株)アイネックス兼務
岩橋 貞成 様
朝日放送テレビ株式会社
技術局員 主任同等・出向
株式会社アイネックス 兼
技術局 制作技術部
設備担当
芝田 幸司 様
朝日放送テレビ株式会社
技術局員 出向
株式会社アイネックス 兼
技術局 制作技術部
設備担当
松岡 俊樹 様
朝日放送テレビ株式会社
技術局員 出向
株式会社アイネックス 兼
技術局制作技術部
設備担当
鹿嶋 友樹 様
株式会社アイネックス
制作技術部 制作技術課
板谷 諒介 様

4K HDR / HD SDRサイマル制作の開始が決まり、中継車を更新へ

当社では、制作番組のための大型中継車や中型中継車にはじまり、計9台の中継車を保有しています。今回、このうち「202音声中継車」と合わせ、大型の「201映像中継車」の更新を行い、201中継車のシステムインテグレーションをソニーにお願いしました。
旧201中継車は15年前に導入した車両で、機器の老朽化などから更新が迫られていました。また、番組規模も年々拡大しており、仮設する機材などが増え、設営や撤収の作業時間や車内スペースが課題になっていました。さらに、4K HDRとHD SDRのサイマル制作を行う予定が決まっていたため、それを見据えての更新でした。

20カメのスポーツ中継から中・小規模番組まで柔軟に対応

この201中継車は、野球やサッカー、ゴルフなどをはじめとするスポーツ中継から4〜6カメ程度の中〜小規模な制作番組にも使用します。そのため、スペースに限りがある現場でも運用できるよう、片側拡幅構造としつつも、拡幅しなくても運用が可能な構造としました。

回線インフラなどの環境が整い次第、IP化できる設計に

本社の制作番組用のBスタジオでは、同じくソニーによるIP(SMPTE ST2110)ベースの4K HDR / HD SDRサイマル対応サブ(副調整室)の導入を行っております。中継車システムは12G-SDIをベースとしつつ、カメラコントロールユニットにST 2110オプションを搭載するなど、後年IP化できる設計にしました。
一方で音声系については202音声中継車と共に音声・インカム・制御系を含めて大規模にIPで連携できる形にしました。ソニーのLSM(IP Liveシステムマネージャー)により、映像系と統合したルーティングなどのコントロールが行え、映像と同じハードウェアコントロールパネルを用いて各車各卓からの切り替えが行えます。

Bスタジオに続いて“SR Live for HDR”を採用

SR Live for HDR

映像系のシステム構成としては、HD SDR制作時にはシステム全体が従来通りのHD SDRで動作し、4K HDR / HD SDRのサイマル制作では、システム全体が4K HDRで動作し、最終段に設けたHDRプロダクションコンバーターユニット HDRC-4000を介してHD SDR変換することでサイマル出力を実現しています。ソニーの掲げる「SR Live for HDR」ワークフローに則った運用です。
SR Live for HDRワークフローは、数年前から実験的な運用テストを行ってきました。回を重ねるごとに、運用に基づいた機能の強化(HDR Black CompressionやMild Lookの導入、PC MSUによる監視強化など)もされており、すでにBスタジオサブでも導入しています。弊社としても、十分なノウハウの蓄積がありましたので、迷うことなく導入することができました。

カメラはHDC-5000 / 5500とスーパースロー対応のHDC-4800

カメラにはマルチフォーマットスタジオカメラ HDC-5000を4式とマルチフォーマットポータブルカメラ HDC-5500を8式、さらにマルチフォーマットポータブルカメラ HDC-4800を1式、マルチパーパスカメラ HDC-P50を1式導入しました。
CCUについては、カメラコントロールユニット HDCU-5000とHDCU-5500を組み合わせて搭載しています。当社ではHDC-2000シリーズを別途保有していますが、大規模なHD制作時に混在運用する場合でもHDCU-5000へそのまま接続できます。一方で、HDCU-5500はハーフラックサイズでコンパクトな筐体のため、中継車内のスペースが有効活用できますので、双方を組み合わせることにしました。CCUにはST 2110インターフェースキットHKCU-SFP50を装着しており、回線環境などが整った段階で、「IP Liveプロダクション」への移行が行える準備がしてあります。

HD制作でも映像が際立つSuper35mmのスローカメラHDC-4800

HDC-4800については今回の導入以前から、何度かテスト使用を行っていました。HDC-4800をホームランカメラに据えてみると、「球の縫い目が見える」ほど、美しくキレのある映像でしたので、導入を決めました。
実際の制作では引き続き地上波がメインですが、HD時には16倍速での撮影が可能ですし、Super35mmイメージサイズであることで被写界深度も浅くできます。そのため被写体も引き立って、視聴者の視線を引き付けられますので、HD制作でも十分にパワーを発揮してくれています。
ハイスピード記録が行えるベースバンドプロセッサーユニット BPU-4800は、合わせて搭載しているマルチポートAVストレージユニット PWS-4500と連携しての「シェアプレイ」によるスロー送出ができます。さらにPWS-4500はハイライト編集を行っている他社のビデオサーバーとも連携できる仕組みが整っています。4Kのプログラム収録用としては別途XAVC-L422 QFHD200フォーマットに対応した4K XAVCレコーダー PZW-4000を2式用意しています。ちなみにHDC-5000シリーズにおいてもHFRソフトウェアHZC-HFR50を搭載し、4Kで最大2倍、HDで最大8倍速の撮影・スローができるようにしています。

ベースバンドプロセッサーユニット BPU-4800

マルチポートAVストレージユニット PWS-4500

カメラマンの“痒いところに手が届く” HDC-5000シリーズ

今回導入をしたHDC-5000シリーズで、何よりも驚いたのは画質の綺麗さでした。S/Nも良くなっていて、特に黒の美しさが上がりました。
画質だけでなく、使い勝手も一層良くなりました。4K撮影時はファインダーのピーキングだけではフォーカスがわかりづらいところがあります。フォーカスの合焦度をバーグラフで表示してくれる「フォーカスアシストインジケーター」のおかげで、フォーカスの微修正・追い込みが容易にできます。また、「フォーカスポジションメーター」の機能では、フォーカス位置をあらかじめマーキングし、現在位置と共にファインダー上に確認できるのがとても便利です。例えば、咄嗟にタリーを取って、そこからグッと寄らないといけない場面で、画面が広いうちにフォーカスを合わせてから寄ることができます。
他にも細かなところでは、ハンディカメラでもリターン映像を常時ONにしておくことが可能になったほか、マーカー機能などが充実しました。最近のスタジオ番組では画面に出る情報量や子画面などが増えていて、マーカーの充実が求められていました。スタジオでもHDC-5000シリーズが欲しいという流れになっていくと思います。

VEオペレーションを容易にする機能がさらに充実

VEオペレーションにおいても、レンズのバックフォーカス・フォーカス・ズームなどの操作が中継車内のリモートコントロールパネルで行えるようになり、便利になりました。プロ野球中継では一部固定カメラがあるのですが、試合中はカメラまで行くことができません。気温の変化などでバックフォーカスにわずかなズレが生じた場合でも、運用中にVEがリモートで調整できます。他にも、レンズのテレ端付近でのFドロップや周辺光量低下を自動補正してくれる機能「ARIA」(Automatic Restoration of Illumination Attenuation)(HDC-4300にも搭載)も、とても助かっています。HDC-5000シリーズは、従来モデルよりさらにS/Nが良くなり、9dB程度はゲインアップしても大丈夫です。ゲインだけで露出調整できる範囲が増えたことで、オペレーションの自由度が上がりました。

新しい映像表現も可能にする“可変NDフィルター”

今回、HDC-5000シリーズにはオプション(特注・改造扱い)で“光学式可変NDフィルター”を搭載しました。8月に予定している「夏の高校野球」など、デーゲーム中継で大活躍してくれると期待しています。可変NDフィルターは、特に4K制作時に顕著となるレンズの「小絞りボケ」対策をメインに導入したものです。しかし高校野球中継は特殊な点もあり、CM中も中継映像が出ますのでNDを変えられるタイミングが多くありません。また、被写界深度を維持したまま露出調整ができることで、深度を浅く撮って被写体を引き立てるなど、今までのスポーツ中継では難しかった演出ができるようになります。

4K HDRの理想的なVEモニタリング、BVM-HX310とPVM-X1800

モニターについては、VEスペースに4K HDRのクオリティーチェック用として31型4K液晶マスターモニター BVM-HX310を搭載しています。加えて各VEの手元モニタリング用として17型有機ELマスターモニター BVM-E171と18型業務用4K液晶モニター PVM-X1800を各4式ラックマウントしています。
HD SDRの運用時は、BVM-E171でクオリティーチェックしつつ、4KのPVM-X1800には、4つのカメラ映像をラスタライザーで4分割表示しています。
4K HDR / HD SDRのサイマル制作時は、SR Live for HDRの運用に則し、SDRを主体とした運用を行うため、HD SDRの運用時と同様にHDのクオリティーチェックとしてBVM-E171を使用します。加えて4KのPVM-X1800も、HD運用時と同様に通常時は4つのカメラ映像をラスタライザーで4分割表示していますが、時にはそのうちの1つを全画面表示し、4K解像度で素材をピクセルバイピクセル表示しモニタリングができるように設計しています。
今回の更新では、VEの手元でも「4K映像を4Kのまま」モニタリングできるようにしたいというのが希望でした。BVM-HX310と同じ色域・発色特性と、同じ最大HDR輝度を備えるPVM-X1800はまさに待望の製品でした。この201中継車の新造にギリギリ間に合ったことで、4K HDRの理想的なVEモニタリング環境を整えることができました。

HD同様の使い勝手とIP対応でXVS-9000を選択

スイッチャーはXVS-9000を5M/E仕様で導入しました。車内TD卓のコントロールパネルは4M/E仕様です。他に2M/Eと1M/Eのコントロールパネルを持ち出し用として用意しています。XVS-9000には、新しくリリースされたミックスエフェクトボード XKS-8215を搭載しました。4Kでも機能に制約なく各M/E 4キーヤー使えるようになり(リサイザー・クロマキー搭載)、4Kを意識せず、HDと変わらないオペレーションができるようになりました。
XVS-9000はインプット・アウトプットボードを入れ替えたり増設したりすることによって、回線環境などが整った段階でIP化できることも大きな選定ポイントになりました。

多様なニーズに対応するためHDRC-4000を28ch搭載

4K HDR制作に欠かすことができないHDRプロダクションコンバーターユニット HDRC-4000は14式(28ch)を搭載しました。モニタリングや出力段での4K→HD・HDR→SDRの変換のほか、素材のアップコンバートやSDR→HDR変換などにも使用します。4K制作時はHD入力もアップコンバートが必要になります。例えばプロ野球中継の場合、放送席解説者のワンショットカメラなどは小型のHD非システムカメラです。そういった用途でもHDRC-4000が必要になることを考慮しての台数です。

ソニーだからできた、納車からわずか5日後の初運用

2021年3月30日に納車を受け、初運用は4月4日のプロ野球中継でした。その後も月に15〜20日程度という、かなりの高頻度で運用をしています。特に、納車から5日後の初運用というのは、他のメーカーでは考えられないことです。旧201中継車に引き続き、今回も同じ設計の方に担当していただけたのが心強かったです。私たちの考え方や機材の使い方を1つ1つ説明せずとも覚えていてくださったことで、打ち合わせや設計もスムースに運び、納車後もすぐに使える安心感につながりました。

ソニーでしか実現できなかった4K HDRサイマル中継車

更新計画スタートの段階では、選択肢をソニーに絞らず、他社も含めて検討していましたが、4K HDR / HD SDRのサイマル制作への知見の深さ、12G-SDIでの中継車システム構築実績、将来的なIP化を見据えた対応など、総合的にソニーの提案を高く評価しました。結果としては、先行して更新したBスタジオと同様、4K HDR / HD SDRサイマル制作に対応した中継車はソニーでしか実現できなかったと思います。

8月からはサイマル制作を本格スタート

設営・撤収時間の短縮、車内スペースの拡大など、新201中継車では実現したかったことが全て実現できました。現状では、新201中継車単独で運用しているプロ野球中継でもこれまでの約1/3程度の設営・撤収時間の短縮が実現できています。8月以降に予定している、サイマル運用での新201中継車の活躍を楽しみにしています。