株式会社テレビ宮崎(以下、UMK)様は、2024年7月、制作スタジオサブのシステム更新を行い、平日夕方枠の報道・情報番組「4時どき!」、土曜日夕方の「U-doki」の生放送を中心に運用されております。
本スタジオサブのシステム更新に合わせて、システムカメラの更新を行い、マルチフォーマットポータブルカメラ「HDC-3500V」2式と「HDC-3200」を3式、カメラコントロールユニット「HDCU-3500」2式と「HDCU-3100」4式をご採用いただきました。
同社 技術局 技術部 部長代理 内藤 淳一 様、長友 理恵子 様、同部 主任 川畑 侑生 様に、導入に際してのシステムカメラの選定ポイントや決め手、また、2024年9月に開催されたUMK様主催の野外音楽イベント「UMK SEAGAIA Jam Night 2024」(以下、「Jam Night 2024」)での中継持ち出し運用の状況や成果について伺いました。
当社は制作中継車を保有しており、こちらには6台のシステムカメラを常設し、最大8台まで積載できるように設計されています。中継頻度はそれほど高くないため、カメラ台数が多く必要な場合には、SNG中継車やスタジオで使用するカメラを持ち出して運用しています。
今回の制作スタジオ用システムカメラ更新にあたり、導入するカメラの一部を中継へ持ち出すことを想定し、機器構成を検討しました。カメラ5台を更新し、そのうち3台はスタジオでの番組制作で最低限必要になるため、残りの2台は中継に持ち出すことを前提に考えました。
まだまだHDでの運用がメインとなるため、HDC-3000シリーズでの更新を考えました。大型レンズアダプター「HDLA-3505」と接続してスタジオレンズが使用できる運用性の高さ、そして上位モデルとなる「HDC-5500」と同じイメージセンサーを搭載していながら、コストも抑えられている点を鑑みて、検討初期には全数をマルチフォーマットポータブルカメラ「HDC-3200」とする検討をしていました。
そんな中、ソニーの営業担当者から、新しくマルチフォーマットポータブルカメラ「HDC-3500V」が発売される情報を伺いました。「HDC-3500V」は、光学式可変NDフィルターを標準搭載しており、NDフィルターの透過率を1/3〜1/256まで連続的に調整できるため、透過率を変更しても画面上へのフィルター枠の映り込みもなくなり、まさに光量の変化が大きい屋外の撮影に最適なのではないかと考えました。使用用途に合わせて、柔軟に機器を選択できるのはソニーのカメラの豊富なラインアップがあるからこそ実現できるのかなと感じました。
最終的には、スタジオで最低限必要になる3台を「HDC-3200」、屋外への持ち出しを想定する2台は「HDC-3500V」を導入しました。カメラコントロールユニット(以下、CCU)については6台導入し、4台を「HDCU-3100」、持ち出しを想定した2台は、可搬性を考慮して3Uハーフラックサイズの「HDCU-3500」としました。
カメラ台数に対してCCUを1台多くしたのは、当社が1台保有しているマルチフォーマットポータブルカメラ「HDC-2500」の増設を想定したものです。HDC-2000シリーズのカメラは、HDC-3000シリーズのCCUと接続互換性があるため、カメラヘッドだけ持ち込んで、簡単に増設できるようにしています。特番運用でのカメラ増設、中継持ち出し時に緊急でカメラが必要になる場合など、柔軟に運用することができます。
スタジオでの番組制作でも、社屋の外からお天気コーナーの中継をすることがあります。こういったケースには「HDC-3500V」を使うようにしています。可変NDフィルターの透過率は、カメラの調整値を保存して即座に呼び出すことのできるScene Fileに登録ができるので、屋外から屋内へ移動する際にも、Scene Fileボタン一つで簡単に最適な設定を呼び出すことができます。
また、カメラの色温度の設定についても、ケルビン単位で簡単に見ることができ、RCPのつまみから直接調整できるので、この点も直感的で使い勝手が良いですね。
Scene Fileの切り替え時に、ディゾルブをかけられる“Scene File Dissolve機能”があり、指定した任意の秒数でじんわりと各設定値が変わってくれるので、映像にショックも出ず、NDフィルターの透過率や色温度が変わってくれるため、屋外と屋内を行き来するような撮影シーンで、非常に便利に使用することができています。
現在、制作中継車の既設カメラは、他メーカーのカメラであるため、機器の操作性や色再現といった観点で、混在運用には多少不安がありました。しかし、立会検査や導入トレーニングの際に、ソニーのエンジニアのかたが、使い方を丁寧にレクチャーしてくださり、既設のカメラと色再現が合うような設定ファイル作りに協力していただけたので、問題なく運用できると感じていました。
UMKでは、例年、夏に「Jam Night」という野外音楽イベントを開催しており、その様子を特別番組としても制作し、九州の系列局様にも放送いただいています。今年は9月14日に開催し、その際に、初めて「HDC-3500V」を持ち出し、既設のカメラとの混在運用を行いました。
実際の運用を終えて、既設のカメラと混在しても色再現に違和感がなく、「混在運用は色が合わない」という懸念が払しょくされ、問題なく番組制作を行うことができました。これまでの運用で、一番良い映像を撮影することができました。
実際に撮影したカメラマンからも、担ぎのバランスも良く、フォーカスも取りやすいので、使い勝手は全く問題ないと好評でした。
「Jam Night 2024」の運用では、今回導入した「HDC-3500V」をステージ前方に設置したクレーンカメラやレールカメラとして使用しました。特にクレーンカメラは、日陰に入ったり、ステージに寄ったり、観客席を撮影したりと、光量変化が大きいポジションです。適正露出にするために、NDフィルター・レンズのIRIS(絞り)・ゲインなどを細かく調整する必要があるため、昨年かなり苦労した記憶がありました。「HDC-3500V」には、可変NDフィルターが搭載されていて、これを最大限生かすことのできる“Virtual IRIS機能”には大いに助けられました。“Virtual IRIS機能”を有効にすると、RCPのIRISつまみ一つで、可変NDフィルターの透過率・レンズの絞り・マスターホワイトゲイン(バリアブルゲイン)の調整を連動して制御することができるようになり、運用中はRCPのIRISつまみから手を離すことなく最適な露出に保つことができるため、大変便利です。IRISの開放端まで来ると、それ以降はゲインで明るさを稼いでくれるので、日が落ちてからの運用でも使い勝手がよいですね。
クレーンカメラは、カメラ本体をクレーン上に設置し、オペレーターは離れた場所からカメラ操作をすることになりますので、モニタリング系統を構築する必要があります。「HDC-3500V」には、カメラ本体のSDI信号上にTallyのステータスを重畳可能な“SDI Moni Tally機能”が搭載されています。したがって、カメラ本体から出力されるSDI信号をクレーンオペレーション用モニターに入力するだけで、映像とTallyを同時に確認することができますので、大変便利です。これまで、Tally系統は映像とは別線で構築していたので、SDI 1本だけで解決できるのは、設営時間の短縮にも大きく貢献でき、大変助かりました。
レールカメラなどの特機で使用する場合も、オペレーター向けのモニター系統で使用できるので、利便性が高い機能です。
「Jam Night 2024」では、日が落ちて暗くなったタイミングから、「HDC-3500V」に標準搭載されている効果フィルター“Black Mist”を入れて使ってみました。カメラの正面からステージ照明が映り込むと、光が柔らかく拡散し、映画のように印象的な映像になり、今回の撮影の良いアクセントになりました。RCPからフィルターを選択するだけで、簡単に映像演出効果を得ることができるのは嬉しいですね。VEオペレーションが楽しくなります。
制作スタジオサブのカメラ導入にあたり、ソニーには立会検査から機器の導入トレーニング、初の中継持ち出し運用の事前準備までご支援をいただきましたので、中継に持ち出しても問題なく運用ができることは確証を得ておりました。「Jam Night 2024」の番組制作を終え、良い映像を作れたことは私たちにとっても大きな実績ですし、今後の中継イベント時にも、持ち出して活用していきたいと感じました。
私たちは、まだソニーのカメラを導入したばかりですので、使いきれていない機能も数多くあるかと思います。そのような機能をユーザーが使いこなせるような各種機能の使い方を説明した資料やコンテンツをご提供いただき、継続的にユーザーを支援いただけることを期待しています。
※本ページ内の記事・画像は2024年10月に行った取材を元に作成しています