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映像制作機材 "XDCAM"

映画「KIRI−『職業 ・ 殺し屋。』外伝−」映画「KIRI−『職業 ・ 殺し屋。』外伝−」

監督・アクション監督 坂本浩一様 撮影 百瀬修司様

PXW-FS7のハイフレームレート撮影、S-Log3や4K RAW収録、程よい重さ、堅牢性 「アクション映画の撮影に必要なものが全て揃ったカメラ」

釈由美子さん演じる美しきヒロインのダイナミックアクションが炸裂する本格アクション映画「KIRI−『職業 ・ 殺し屋。』外伝−」は、XDCAMメモリーカムコーダー「PXW-FS7」で撮影されました。監督は、ハリウッド仕込みのアクションで国内外の特撮・アクション界で絶大な支持を有する坂本浩一様(有限会社アルファスタント)。フレームレート可変、合成部分の4K撮影、S-Log収録によるポストでのカラーグレーディング、アクション映画の絶妙な臨場感やライブ感を醸し出す"手持ち"撮影に適した程よい重さ、過酷な撮影条件に耐える堅牢性など、PXW-FS7が有する機能が効果的に活用されたといいます。「PXW-FS7はアクション映画の撮影に最適」とおっしゃる坂本様と、数多くの坂本作品で現場を共にする撮影の百瀬修司氏に、PXW-FS7の魅力などについて伺いました。

原作コミックをアレンジした劇場用オリジナル作品エチオピアという国の名刺を作るプロジェクト

坂本様「KIRI−『職業 ・ 殺し屋。』外伝−」は、原作の大人向けコミックを実写化するにあたり、設定とキャラクター以外の細かい部分をアレンジした劇場用オリジナル映画です。6月20日に劇場公開が始まり、10月にはDVDが発売されます。過去に特撮作品を含めて女性が活躍するヒロイン・アクション映画を何本も撮ってきていますし、釈さんとは以前から一緒に仕事をしたかった。何より"殺し屋"という題材が面白かったので、是非、撮りたいと思いました。百瀬さんとは3年前、台湾で初めて一緒に映画を作った時以来、僕の作品の撮影を数多くお願いしていますが、こちらの意見を汲み入れ、さらにその上を行くクリエイティブな映像を撮ってくれる方です。

百瀬様全編通しての本格的アクション映画というのはそれまであまり手がけてきませんでしたが、特殊効果の多用やエンターテインメント系の作品は多かったので、坂本監督のアクション映画にはそれほど抵抗なく入れましたね、体力面以外は……(笑)。

スピード可変はアクション映画を撮る時の必須条件スピード可変はアクション映画を撮る時の必須条件

坂本浩一様監督・アクション監督

坂本様僕がアクション映画を撮る時、カメラの必須条件となるのはスピードを変えられること。アメリカにいた時はほとんどがフィルム撮影で、現場でフィルムのスピードを変えて映り方を調整する方法を採ってきたので、2009年に日本に来た頃、既にフィルムでの撮影はほとんどない中で、どのようなカメラを使うかは非常に大きな課題でした。また、僕がアクションシーンを撮る時に大事にしているのが「リズム」の変化。単調なリズムでは観客が飽きてしまいます。リズムを変えるには「アクション」自体によるものと、「編集点」によるものの2通りがありますが、編集点によってリズムを変える場合、フィルムスピードをカットごとに頻繁に変えていく。ですから「24pや30pしか撮れない」といったカメラは僕の選択肢に入ってきません。また、日本で撮り始めた時に最も気になったのが「ビデオっぽいLook」です。それはカメラの問題だけでなく様々な要素によるものですが、例えば照明の当て方のコンセプトは日本とアメリカで全く違います。予算が潤沢な海外作品のロケ現場では、太陽の位置を確認して、必ず被写体を逆光の位置に置き、照明を当てる。日本の現場に来て驚いたのは、被写体を順光に立たせて、バッチリと陽の光を当てることでしたね。

基本はHD XAVC収録、合成シーンは4Kも活用 基本はHD XAVC収録、合成シーンは4Kも活用

百瀬修司様撮影

百瀬様今回、『KIRI』を撮るにあたって、PXW-FS7で色々とテスト撮影させてもらいました。スピードの可変やLog収録を使ったフィルムっぽいLookで撮影できることがわかり、「これは使える!」と監督に相談しました。

坂本様現状、日本の作品では4K撮影〜4K仕上げの作品はごく限られていて、撮影は4Kだけど仕上げは2Kにする作品が多い。これはポストプロの方で4K素材を貯めていく容量の問題や、全てを4Kで編集するには手間もコストも余計にかかってしまう。

百瀬様『KIRI』の撮影も基本はHDで行いました。フォーマットはXAVC-L(35Mbps)です。時間と予算にもっと余裕があれば一番画質が良いXAVC Intraで撮ったかも知れませんが、ハイスピード撮影が多いため、メモリーカードの枚数や最終的なデータ容量がかなり膨大になることを考慮してXAVC-Lを選択しました。また、合成シーン用の夜の実景ショットなどに関しては4Kで撮影しています。その後、編集部でApple Final Cut Proによるオンライン編集、カラリスト(照明技師の太田博氏が兼任)によるDaVinci Resolveでのカラーグレーディング、シネマサウンドワークスでDCP作業(アフレコ・音響作業など含む)といったワークフローとなりました。

手持ちによる"程よい手ブレ感"で臨場感を生み出す手持ちによる"程よい手ブレ感"で臨場感を生み出す

坂本様僕が撮るアクション映画では手持ち撮影が中心です。手持ちによる程よい手ブレ感のある作風が好きなんですね。アクションシーンの撮影でも、三脚やステディカムに載せてカチッと型にはまった映像ではなく、手持ちによるライブ感や躍動感、没入感のある映像を多用する。ですから、今回も百瀬さんに「できる限り手持ちで」とお願いしました。

百瀬様PXW-FS7の良さは軽すぎないこと。"程よく重い"のがいいですね。動画も撮れるDSLRなどで手持ち撮影すると、軽すぎるが故の手の振動が映像にも現れてしまう。PXW-FS7のように程よく重さがあると、それが相殺されて細かいブレが気にならない。今回の撮影では、それがちょうどいい塩梅だったという印象です。それから、PXW-FS7に付属するグリップも非常に重宝しました。今回はアクションシーンでよく使うイージーリグを使用しなかったので、基本的にカメラを体で安定させる必要がありました。肩に担ぐというより、脇に抱えるような体勢での撮影にもしっくりくるデザインのグリップだと思います。

過酷なアクション映画の現場に耐える堅牢性過酷なアクション映画の現場に耐える堅牢性

坂本様アクション映画は、埃にまみれた中で戦いますし、灼熱の炎天下で長時間の戦闘シーンなど通常のドラマとは全く異なる環境や条件で撮影されることが多いんです。特に僕の作品の現場では、レンズ交換やスピード変更も頻繁に行うので、カメラの耐久性、堅牢性が非常に重要です。『KIRI』の撮影でも結構荒々しいシーンは多かったし、極寒の山中でのロケもありましたが、PXW-FS7は全く問題なく動いてくれました。動きの速いカメラワークによるデジタルノイズや、ローリングシャッターによる歪みも全く気になりませんでしたね。

百瀬様レンズは、付属の「FE PZ 28-135mm F4 G OSS」のほか、Sigma「10-20mm F3.5」「24-70mm F2.8」「70-300mm F4-5.6」、キヤノン「70-200mm F2.8」を、マウントアダプターを使って使用しました。これまでの坂本組ではいつもRED ONEやEPICを使用しており、通常は2Kモードで、合成カットなどの場合には4Kモードで撮影してきました。2Kモード(ソニーのカメラで言うところのセンタースキャン)の時はスーパー16mm用、4Kでは主にスーパー35mm用のレンズを使用しますが、今回、PXW-FS7には2Kモードがなく、全て35mm用レンズを使用するため、レンズ、特にズームレンズの選択が大きな課題でした。アダプターを介してスチル用レンズを使うことはできますが、助手が普段使い慣れているレンズとはズームやフォーカスなどの操作感覚が違う。『KIRI』の撮影開始のタイミングで出た「FE PZ 28-135mm F4 G OSS」は、もちろん高価なシネズームレンズと比べるものではないと思いますが、価格から考えるとすごく使いやすくて、非常に重宝しました。

S-Log3収録は思い通りのカラーグレーディングができるS-Log3収録は思い通りのカラーグレーディングができる

百瀬様『KIRI』ではS-Log3収録を行いました。坂本監督の作品では、現場ではなく後処理で色調整を行うケースが多く、現場では基本的なLookは確認しますが、特にLog収録の際にはLogの状態でモニターに出し、オーバーやアンダーがなければどんどん撮影を進めていく感じでした。

坂本様僕はカラコレ作業で色をいじるスタイルが好きなんです。日本の作品の場合、カラコレは基本的に"色合わせ"の作業が多く、特別なLookを作ったりすることは少ないですが、海外ではカラコレ作業にDPが入り、「どのようなLookを作るか」についてかなりの時間をかけて練り上げる作業が必須です。僕はそのアメリカンスタイルで育っているので、「データがありさえすれば後処理で何とかなる」と思いながら撮っています。つまり、僕が現場で一番時間を使いたいのは「撮影」。ですから、現場でLookを作り込む時間がすごくもったいない。もちろん、事前に入念な打ち合わせをしておくことは重要です。

百瀬様撮影前、監督から映画『Sucker Punch』(邦題は『エンジェルウォーズ』)のトーンを参考にしたいという説明がありました。現場でLUTを当てるようなことはせず、S-Log3で撮り、編集の段階でProRes 422 HQに変換した素材を一旦見せてもらい、『Sucker Punch』のLookをイメージしてLookを作りました。4パターンあるソニーの3D LUTの中からフィルムのLookに近いLC-709 TypeAを選択し、シーンごとに微調整していきました。

他作品とは全く異なるLookを実現できた他作品とは全く異なるLookを実現できた

百瀬様坂本組の現場は、監督や撮影技師などがポストプロでLookを詰めていくやり方ですが、時間に余裕がある現場では、パラメーターを駆使してLookを追い込んでおき、ポストプロでは他の部分に時間と労力をかけるというスタイルもあると思います。

坂本様現状、僕達が作る邦画の予算では、納得できるような照明の量や時間はなかなか用意できません。PXW-FS7は、他のカメラと比べて少ない照明でもしっかりとデータを記録できるので、後でカラコレする範囲が広がる点が一番良かった。

百瀬様PXW-FS7のLog収録時の基準感度はISO 2000ですから、他社のカメラではノイズが気になってハイスピードが使えないような照度でも安心して撮影できる。これは凄く助かりました。

坂本様『KIRI』を観た方々はみなさん「他とは違うLookですね」と言われます。役者さんも「今回はLookが違う」と。ポストプロやカラコレのことを知らない人でも、そこに気付いてくれたのは嬉しかったですね。

自分が欲しい要素が全て詰まっているカメラ自分が欲しい要素が全て詰まっているカメラ

坂本様「PXW-FS7」は、自分にとって初めてのソニー製カメラでしたが、スピードの可変、フィルムルックも含めて、自分が欲しい要素が全て詰まっているカメラという印象です。本当に使い勝手がよく、色調整なども満足できる仕上がりにできたので、いい意味でのサプライズが多かった。特に、これまでビデオ作品のイメージでしか撮れなかったような予算でも"映画"が撮れることが一番大きなポイントです。「PXW-FS7はアクション映画を撮るのに最適なカメラ」だと言えると思います。

百瀬様4KもHDもキレイに撮れて、スピード可変でフレームレートも変えられる。S-Log収録も可能で、ポストプロでも色々といじれる部分は最低限カバーしてくれている。基本的な部分はかなり満たしているし、予算的にもかなりコストパフォーマンスの高いカメラだと思います。我々が考える必要条件を満たしてくれるようなカメラが、ようやく完成に近づいてきた感じですね。

Staff List「KIRI−『職業 ・ 殺し屋。』外伝−」(2015 年/77 分)

製作・配給:東映ビデオ、エクセレントフィルムズ
監督・アクション監督:坂本浩一原案:西川秀明「職業・殺し屋」(白泉社「ヤングアニマル」連載作)/脚本:伊藤秀裕/脚本協力:江良至/音楽:MOKU、岡出莉菜/企画:加藤和夫/プロデューサー:中野剛、糸井美喜/ラインプロデューサー:高瀬博行/撮影:百瀬修司/照明・カラーグレーディング:太田博/美術:畠山和久/録音:山口満大/編集:目見田健/装飾:田仲正彦/ヘアメイク:内城千栄子/衣装:岡本佳子/コスチュームデザイン:YOU-KO /スクリプター:内田智美/助監督:伊藤良一/主題歌:lecca /出演:釈由美子、久保田悠来、文音、水崎綾女、小宮有紗、荒井敦史、月岡鈴、村野武範(友情出演)、大西結花、倉田保昭/配給協力:萩野和仁/宣伝:ライトスタッフ