写真家の想いと作品

広田尚敬/一枚一枚、丁寧に撮りたくなる。RX1は、そんなカメラですね。

Profile:1935年東京生まれ。1960年よりフリーランスの写真家として活動。1968年の初個展「蒸気機関車たち」で独自の表現世界を展開して評判となる。1988年に設立された日本鉄道写真作家協会の初代会長をつとめるなど「鉄道写真の神様」として日本の鉄道写真界を牽引してきた。著書に『永遠の蒸気機関車』(JTBパブリッシング)、『電車大集合1616』(講談社)、『Fの時代』(小学館)など多数。

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すごく軽快で、深みがある。まるでモーツアルトのようだ。

RX1で撮影していると、深みのある写真がいとも軽快に撮れてしまいます。音楽で例えるなら、モーツァルトのようなカメラだなと思いました。さらに仰天したのは、撮影した画像をパソコンで見たとき、黒くつぶれていると思っていた暗部がカッとでているし、白とびしていると思っていた箇所もしっかり写しだされていたこと。そのダイナミックレンジの広さは、ピアニッシモからフォルテシモまで響きわたる壮大な交響曲を思い起こさせました。さて"このRX1で鉄道写真を撮影せよ"というお題に対し、私が選んだのが、四国は愛媛県、松山の伊予鉄道。明治20年に創立され、今年125周年を迎える四国初の鉄道です。夏目漱石の小説"坊ちゃん"のなかで"マッチ箱みたいな汽車"として表現され、松山赴任時代の漱石自身も乗車していた歴史のあるレール。この伊予鉄道を走る列車や、駅舎、レール脇の情景などをRX1で撮影してきました。

撮影地:港山〜梅津寺間
撮影地:港山〜梅津寺間

一枚一枚、丁寧に撮りたくなる。RX1は、そんなカメラですね。

道後温泉行き50形54号 車内にて撮影

今回の撮影では、連写をしませんでした。普段はジャジャッとたくさん撮って、不要な写真を消すのですが、RX1は一枚一枚吟味して、丁寧に撮るのが似合っていたのです。被写体を見て、構図を考え、ピントをしっかりと合わせて、シャッターを切る。すると、ソフトにカリッと描写されていて…いやあ、嬉しかったですね。左の写真では、運転席のレバーや木枠の使い込まれた質感が見事に再現されています。また、F2のツァイスレンズのおかげか、列車内でも明るい写真になりました。僕の経験則ですが同じF値でも、ツァイスレンズは明るく撮れると感じます。たぶん、レンズの質が高く、光の透過率が良いのでは?と勝手に予想しています。左の写真に戻ると、窓外の風景も自然にぼけていて良いですね。私は以前から「ツァイスに、ぼけ味の悪いレンズなし!」と言っていたのですが、それはレンズ一体型になっても変わりませんね。むしろ、フルサイズセンサーのおかげか、ぼける箇所はよりぼけて、ピントがでる箇所はよりピントがでてくれる、これは実戦で使えるカメラだなと思いました。

RX1の鉄道写真は、後世に残せる写真になった。

撮影地:大手町

鉄道写真では"歪曲収差がない"ことが非常に重要です。なぜなら列車や駅舎は、その多くが直線と直角で形づくられていますから、歪曲収差がとても気になってしまうのです。

しかし、一眼レフカメラの中には、歪曲収差を感じる場合が多く、もちろん使用するレンズにもよりますが、私自身も歪曲収差を"しょうがない"ことだと、慣れてしまっている部分がありました。そこにいくと、RX1は歪曲収差を感じさせず、直線・直角がしっかり再現されていて、本当に気持ちいいですね。さらに、画面周辺部まで写しだす解像感が、鉄道のある風景を眼で見た以上に正確に描きだしてくれます。右の写真は、日本ではここだけしかない、路面電車と郊外電車の平面クロスですが、四方に伸びるレールがまっすぐに描写され、さらに周辺の様子もすみずみまで写っています。ここまで精密な鉄道写真になると、後世に伝える記録写真としても有用となるでしょう。そういった意味でも、RX1は鉄道写真に向いているカメラだと思いました。

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