写真家の想いと作品

福田健太郎/あらゆることに対応できる妥協のない究極のオールインワン

Profile:1973年、埼玉県川口市生まれ。幼少期から自然に惹かれ、自然、風景、人に出会いたく、18歳から写真家を志す。1994年、日本写真芸術専門学校卒業後、写真家・竹内敏信氏のアシスタントを経てフリーランスの写真家として活動を開始。日本を主なフィールドに、「森は魚を育てる」をキーワードとした生命の循環を見つめ続けている。

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質感をリアルに表現する描写力

新しいRX100 III。レンズ、センサー、エンジンなど、このカメラのトータルな描写力が好きです。サボテンの刺の鋭さもよく出ています。線が太くなったりせず、細いものは細く、だけど単にエッジをガチガチにしているわけではなくて、被写体をそのまま再現してくれています。それがこの大口径レンズと1インチ素子、エンジンの決定的に良いところです。このような暗部の諧調も含め、このカメラは質感をそのまま再現するにはどうするかという方向をきちっと向いているように思えます。この写真は広角でF8.0まで絞って撮りました。F1.8からF2.8のレンズは、ぼけを生かすという点でも優れていますが、私は逆に、1インチセンサーの性格を活用して広範囲にピントを合わせられるのもいいと思います。パンフォーカスで全面がシャープ、気持ちのいい写真を撮りやすいんです。

広角24mmで空の広がりを写す

(作例3) 1/50|F4.9|ISO400

夜明け前の千葉県、手賀沼です。広角24mmで空の広がりを撮りました。24mmは空の広さだったり、遠近感を強調したり、「引き」の無い場所で広い範囲を写したいとき、欲しくなる画角です。28mmと24mmは大きく違います。こういう風景を撮るとき、ワイド感や空のきれいなグラデーションは、これくらいの広角でないとなかなか出ないんです。今回RX100 IIIのレンズは24mm〜70mmという、多くの場面で使うありがたい領域をカバーしています。描写力はこれまでのRX100、RX100 llも良かったわけで、それを継承しつつ、さらに良くなっているようです。RX100シリーズの持つ魅力、そしてそれ以上の期待、そうしたものをとにかく裏切らないカメラです。

70mm望遠F2.8、ぼけ描写の魅力

今回のレンズの変更では、望遠70mmのとき最短撮影距離30cmで撮れるようになったのもいいですね。しかも最望遠の70mmでもF2.8。これくらい大口径なら、背景ぼけや前ぼけなど、ぼけを意識した写真を撮ってみたいという気になります。この写真は、目を花に向けてもらうために、手前に紫陽花の葉っぱを入れてぼかしてみました。梅雨時のしっとり感を出せたかなと思います。70mmのレンズで撮影距離30cmというのは、テーブルの上のケーキや小物といったものをアップで撮るのにちょうど良く、とても使いやすいのではないでしょうか。ちなみに、RX100シリーズの特徴であるコントロールリングは、ステップズームに設定するのもいいのですが、私は今回は絞り値に割り当てて、ぼけ具合をいろいろ調整しながら撮っていました。

近接でも際立つフォーカス精度

ワイド端の最短撮影距離はRX100、RX100 IIと同じ5cmです。この蝶もそれぐらいの距離で撮りました。カメラが大きかったり、私の身体がグッと迫ったりすると蝶は逃げてしまいますが、このカメラは小さいし、可動式液晶を使って手を伸ばせば、ここまで近づくことができます。これはフォーカスエリアをフレキシブルスポットに設定して、蝶の目のところでピントを合わせています。こうしておけば画面の全部といっていいぐらい端のほうまで、精度高くピントを合わせるエリアを選ぶことができます。画質も充分すぎるぐらい良くて、拡大すると解像度の高さに驚きます。このカメラで撮った写真をA4版くらいの大きさに印刷するためのデータとして出したこともあります。これだけ小さなカメラで撮ったとは気づかれません。かなり大きくプリントしても損なわれることのない画質です。

ファインダーで集中力を高める

新しいRX100 IIIで一番目につくのは何といってもファインダーが内蔵されたことでしょう。これはファインダーを使って撮った写真です。いろいろポージングしてくれる鳥の一番いい瞬間を捉えたい。そうしたときはファインダーのほうが集中度を高められます。はじめ鳥は画面の左側を向いて池の中で小魚をつかまえていました。そしてふと反対に向きなおり、少しずつ右の方へ移動したんです。足を踏み出し、首がS字を描いて、背中に木漏れ日が当たった。その瞬間にシャッターを切りました。こんなふうに小さくてタイミングを計る必要があるものはファインダーのほうが絶対にいいんです。液晶モニターとファインダーは臨機応変に使い分けたいですね。たとえば遊んでいる子どもを追いかけながら撮るというときなどは液晶モニターのほうがいい。スピードや予測のつかない動きにも対応できます。一方でポートレートなど、繊細な動きの対象をじっくり狙うにはやはりファインダーです。

心地よい感触、メカを操る楽しみ

手賀沼に朝日が出てきたところです。逆光のときもファインダーのほうが断然見やすいですね。特に太陽がこうして入ってくると、明るいところは液晶モニターでもよく見えますが、例えばこのボートのような暗い部分について、どこまでフレームに入るか、諧調はどうかなど、細かく確認するにはやはりファインダーがいいんです。日が昇ってどんどんまばゆい光になってくる、そういう変化もファインダーのほうが見やすいですね。RX100 IIIのファインダーの見えはクリアで、こんな小さいボディにこの性能のファインダーが隠されているということに純粋に驚きます。使うとき指で手前に接眼部を引き出すんですが、このマニュアル感はさながら小さなオペラグラスのようで、メカを操る何ともいえない楽しみがあります。引き出したりしまったりするときの感触がいいからということもあるでしょう。