写真家の想いと作品

貫井勇志/RX1Rでなくてはできない 作品づくりの世界がある

Profile: 1964年7月2日東京生まれ。映像作家として撮影作品「平成職人の挑戦」、監督作品「SMALL WORLD」、「血族」、などがある。 写真家としては映像専門誌「DVJ」誌の表紙を担当し、2008年7月からはソニーのコーポレートサイト上の企画である"α" CLOCKプロジェクトに専任カメラマンとして参加。世界遺産の撮影を開始する。

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持てば撮りたくなる、質実剛健さ

撮りたいとか、書きたいとか。やる気にさせてくれる道具というのがあります。僕はこうした小さいカメラでそんな風に思った事はなかったのに、RX1Rは、まさにこれで撮りたいという気持ちにさせてくれるカメラでした。持っただけでやる気が起きる、質実剛健な感じが漂っています。この写真は富士の樹海。立体感を出したいので、絞りを調整して、手前の葉っぱから木の右のエッジにだけピントが合うよう調整しました。樹海の写真では溶岩のくぼんだところが黒くつぶれがちなんですが、ほとんどそれが見らません。驚きましたね。フォーカスの位置や露出を変えることで自分の見せたいものを強調しようとすると、できの良くないカメラだと、飛んだりつぶれたりが激しくなかなか思い通りにコントロールできません。このカメラはそれがないので、現像すればこの辺りまで絶対に出るなと思いながら確実にシャッターを切れる。もともと僕はあんまり枚数をとらないのです。この時も3枚しか撮っていません。でもそれだけで確実に撮れていると予測できる手堅さを持っています。

RX1Rならどう写る? 尽きない興味

これは浅間神社の片隅、矢倉状に積まれていた石を撮ったものです。RX1Rで、立体感がどうなるのか見たかったんです。その屋根の端を見ると、屋根の石がその下の石の上に乗っているという感じが、明確に伝わってきます。写真なのに石の下に手が入ってつかめそうな感じさえする。今まではそんなことは考えたこともなかったのだけれど、このカメラを持ってから、そういうものがどのように見えてくるのかすごく興味が出てくる。ピントが合っているところの解像感は、ローパスフィルターがない分やはりシャープになっています。反面、ここまでシャープになってくると、フォーカスはここでいいのか?とわずかな違いまで気になり始めます。自分に対して、ちょっとまずい、今までちゃんと考えてなかったのではないかという、ショックも受けました。本当にこれひとつで背筋が伸びる。いつも持ち歩いてちゃんと撮ろうと決心させてくれます。適当に撮るとあっという間にダメなところがわかってしまう、がんばった分はそれがちゃんと出るカメラ、そんなふうに思います。

富士五合目、圧倒的な解像感

山梨側の富士山五合目、登山口から登山を始めたところ。そこにワッと雲が来た瞬間です。はじめは稜線の手前に光が差し込んで光のレイヤーができているところを撮ろうと思っていたんです。そのときまさに雲が上がってきてくれた。そこで雲の塊を追いかけるように撮影場所に走って、三脚を使わずに急いで撮ったスナップです。解像感があるから、気軽なスナップというよりは、満を持して撮った作品のように見える。向こう側の稜線の木々の枝まで細かく見えています。これは撮ってからシャープネスをかけるのでは絶対に出せないシャープさですね。本当に楽しいカメラです。撮影できたのはこの一枚だけ。一瞬後にはあたりが真っ白い雲に覆われて、五合目に帰るときには視界が全く利かなくなっていました。僕は雲とか湿気とか霧がけっこう好きで、いつも気になります。むしろ晴天の日に撮ることのほうが少ないかも知れません。湿気が来る前は、匂いと身体に受ける感触で何となくわかるんです(笑)。

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