写真家 小澤忠恭 with α77 これまで数えきれないほどのポートレートを撮影してきた小澤忠恭氏。その小澤氏に“α77”の進化について語ってもらった。

“距離感とシャッター音がコミュニケーション

135mm F2.8[T4.5]STF・1/125秒・F8.0・ISO200・WB太陽光

ポートレート全般のことですが、写真を見てもらうと分かるように、1日つきあうとモデルの表情って変わるんですよ。最初はモデルの表情が固くて、最後の方は柔らかくなる。ポートレートではその表情の落差を撮っていきます。例えば、ズームレンズで同じ場所から引きとアップを撮っても、モデルはどこを撮られているか分からない。でも、自分が動いて撮ると、モデルは寄ってきたな、離れたなって分かるわけです。だから単焦点レンズだと表情を引き出しやすいんですね。それからシャッター音が連続すると、「あ、こういう顔が欲しいんだ」ということがモデルに伝わる。言葉よりも思いが伝わるときがありますね。距離感とシャッター音が、ポートレート撮影での大きなコミュニケーションなんです。だから、同じモデルと1日いて、ちょっと離れた方がいいかなと思えば望遠レンズで離れたところから撮ったり、緊張した雰囲気がいいときは広角にしたり。距離感を変えるためにレンズを交換する。ささやいて聞こえるところ、叫ばないと聞こえないところ、ポートレートも距離感でまったく雰囲気が変わりますね。

αレンズはシャープさとぼけ味のバランスがいい

135mm F2.8[T4.5]STF・1/100秒・F6.3・+0.3EV・ISO200・WB太陽光

この写真はSTFレンズで撮りましたが、特に連続したぼけのときにSTFレンズは面白いですね。絵画的といってもいいと思う。〈モナリザ〉の背景なんかも、STFレンズのようなぼけ方をするんだけど、人間がナチュラルに感じるぼけ方なんですね。機械の匂いがあまりしないというか、記憶色というのがあるけど、記憶にあるぼけに近いのかもしれません。これまで僕はたくさんのポートレートを撮影してきたけど、ずっと“α”を使ってきていて、αレンズはシャープさと、ぼけの柔らかさのバランスがすごくいい。これはレンズ作りで相反するところだと思うけど、ピントはシャープに合うんだけどぼけが柔らかくて、それが女性ポートレートに向いていると思いますね。

カテゴリーの枠にはまらないα77の性能

DT 16-50mm F2.8 SSM ・1/1250秒・F2.8・+0.3EV・ISO200・WB太陽光

画素数や連写性能を見るとスペック的には上級機に負けない、でもユーザーフレンドリーで初級機みたいに使いやすいカメラです。だから、上級機とか中級機とか分け方自体にあまり意味がない。だいたいソニーさんは、一眼カメラ業界をかき混ぜるようなことばかりしていますからね(笑)。そこがすごく面白いんだけど。カメラに限らず、ソニーさんはこれまでの既成概念を壊してきた。“ウォークマン”もそうですが、ソニーさんがうれしそうに新製品として出したものは、世の中のライフスタイルを変えてきた。最近は日常生活にそんなに写真が必要だったのかと思うほど、多くの人が写真を撮りはじめている。そういうライフスタイルの変化みたいなものを、ソニーさんはいつも狙っていますね。

2000万画素を超えると、まるで中判カメラのような世界観

Sonnar T* 135mm F1.8 ZA・1/640秒・F2.5・+0.3EV・ISO200・WB太陽光

2430万画素になると、ポートレートの肌の質感が全く違いますね。大きくプリントしないと違いは分からないと言う人もいますが、全然違う。2000万画素を超えると、その写りが中判カメラのような世界観を持ってきます。すごく感覚的なものですけど空気感や立体感が変わってきますね。だから光などにとても気を使いますね。あと、自分ががんばったことが無駄にならない。どういうことかと言うと、ちょっとした光の工夫とか、例えば海辺で光が強いときに、白飛びしそうなところを何枚も撮るわけだけど、その努力が写真に写るってことです。写真は表現でもあるけど、もう一方で工夫してつくるものでもあるんです。2430万画素だと自分が工夫したものがしっかり写るし、反対に手を抜いた分もそこに写ってしまうと思いますね。

写真家 小澤 忠恭

1951年岐阜県郡上八幡生まれ。1972年 日本大学芸術学部映画学科中退後、写真家 篠山紀信氏に師事。1981年「僕のイスタンブル」「ブエノスアイレスの風」でデビュー。以後「作家の貌」などの人物写真、「MOMOCO写真館」などのアイドル写真、旅や料理の写真で、雑誌、CMで活躍。ヌード、ポートレートで定評を得る。女優写真集、アイドル写真集、料理写真集など100冊近い写真集がある。神奈川県大磯町生沢在住。