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鉄道写真家 中井精也さん Special Interview 「僕と写真」

どんどんはまっていった鉄道撮影

子供のころの僕の家は税理士だった父親の趣味が高じて、フォート中井というカメラ屋さんを副業的にやっていたんです。だから、常にカメラが家の中にある状態でした。それで僕が小学生の頃、ほら!って父親からもらったのが最初のきっかけです。カメラをもらったわけですから、当然じゃあ何か撮ろうとなるわけですが、さて何を撮ろうか?そんな時ふと思いついたのが電車でした。というのも当時、阿佐ヶ谷から飯田橋まで毎日電車の通学でして、その通学中に撮ってるうちに、鉄道の撮影に、どんどんはまっていきました。

褒められてさらにはまる

そんな感じで電車にどんどん魅せられた僕は、中学生になると鉄道研究部員となっておりました。たしか中学2年生になって、この鉄道研究部で大糸線という路線をテーマに僕が撮った写真が、初めて他人に「これ凄くいいじゃない!」って言われて、学園祭に飾られたことがあったんです。これが、もう本当に嬉しくて。(笑)

木崎湖をバックに、下の方に小さく大糸線が写っているような写真だったんですが。思えば、既にこの頃に僕の構図は完成していたのかもしれません・・・(苦笑)

形として見えないものも被写体

最初はやっぱり鉄道の車両そのものを撮るところから入りましたが、考えてみると鉄道って日本中の至る所を走っていて、その路線、その路線で異なる景色の中を走っているわけですよね。 それで、いったいそこにはどんな景色が広がっていて、どんな人々が暮らしているんだろう?って想像が膨らんでいきました。言ってみれば鉄道の旅情みたいなものを被写体にできないだろうかって思い始めたんです。

それでだんだん撮影するものが、鉄道の車両そのものから、乗っているときに感じるのんびりした空気感とか、その路線が走る風景から感じる旅情とか、目には見えないのですが、心ではしっかり感じているものになっていきました。形のないものを被写体にしようとするのですから、それをいかに撮った写真から感じてもらえるようにするか、想像してもらえるかを考えながら撮っています。

日本人にとって、鉄道ってとても身近な存在だと思うんです。自分の人生の大切な部分、気が付くと日常に深く関わっていて、たとえば初恋の女の子がいつも立ってたホームだったり、社会人になって初めて通勤で乗ることになった私鉄だったり、大学進学で東京に出てくる時の新幹線だったり。鉄道の中には、様々な人の思いが溢れているわけじゃないですか。きっと日本人には、鉄道に言葉に出来ない郷愁を感じる信号が書き込まれているんじゃないかなと僕は思っているんです。

異国の地での撮影

今回、僕が訪ねたスイスは、当たり前ですが自分の生活圏ではない場所ですよね。でも今回、車内で女の子を撮ったりもしましたけど、その子が見せたわくわく感だったり、ちょっと大人ぶってるような気持ちだったりをすごく感じました。
なんというか、たとえ異国の地でも、鉄道は人の思いを乗せて走ることは日本と変わらないんだなと。森の中を抜けてく登山列車のなにげない車窓からの光景なんかも、どこか日本と通じる感じがあって素敵でした。

誰かに見せたくて撮っています

写真は撮るもの。当たり前のことなんですが、これは誰かに自分の思いを伝えるためのツールのひとつなんだと思っているんですよ。自分が今何を伝えたいのか。もしも世界に僕一人だけだったら、写真なんて撮らないと思います。(笑) 

誰かに見せるために、誰かに伝えるために僕は撮り続けています。僕は、僕の写真を見た人が、ああ久しぶりに旅に出てみようかと思ってくれたり、疲れた心が思わず癒されたり、優しい気持ちになったり、勇気がわいてきたりするような、そんな写真が撮りたいですし、そんな写真の力を信じているんです。

そしてもちろん、僕自身が撮りたいって思う強い気持ち。その気持ちは、写真にちゃんと表れます。本当に撮りたいと思って撮った写真は強いですよ。それは結局どういうことかなって考えてみると、その被写体のことが大好きで誰よりも自分がその魅力を知っているんだっていう自信。(笑)

漫然と撮るんじゃなくて、やっぱり熱いくらいの思いで撮る。そうすると自然と写真に力が宿るんです。ちなみに僕の場合、その魅力を伝えるべく何でも無い踏切に、とことんこだわってみたり、駅舎の柱ひとつの撮影に何時間も粘ってみたり、平気でしちゃいます。そうして自分が伝えたいものを、こだわりながらどんどん細分化させて研ぎ澄ませていく。ゆるいんだけど、尖っている(笑)。そんな感じで、写真で伝えるってことが具現化していくんだと思います。

シャッターチャンス

僕は、最近ではすっかり自分の思いを表現するために、このカメラをつかって撮っていきたいなって思っています。α7Sとα7Rというこのカメラ。まず何が良いって小さいのがいいんです。僕はセミナーやテレビなどでも話しているんですけど、重くて持ち出さない、大きくて撮影地に着くまではカバンの中っていうのは、もったいないって言ってます。シャッターチャンスはそこらじゅうに転がっているんですから。自分の思いを具現化してくれそうな被写体だって、いつ出会うかわかりません。ぱっと取りだして、瞬間を捉えられることって、とても重要なことです。

だったら小さければ良いのか?ってことになるんですけどもうひとつ、画質は良ければ良いほど嬉しいですよね。α7Sはダイナミックレンジが広いことを活かして、明暗差のある車内でも躊躇なく撮れるし、α7Rの方は凄い精細な写真が撮れるから、かっちり撮りたい時に重宝する。2台持ってスイスへ出掛けましたが、これじゃないと撮れない瞬間に何度も出会いましたよ。

最後に

小学生でカメラに出会い、今年で46歳になりました。年月が過ぎるのは早いものですが、ふと我に返ると、変わらずわくわくしてファインダーを覗いてる自分がいます。いつか飽きるんだろうか?って自問自答する時もあるんですけど、自分が生きてく中で、結婚したり、会社を立ち上げて独立したり、子供が生まれたり、そうやって立場が変わる度に自分と鉄道との距離感も変わり、と同時に「ゆる鉄」だったり、「DREAM TRAIN」だったり、新しい想いと、それを写真に残したいという欲求が生まれ続けています。
きっと僕はこれからも、自分の人生と重ね合わせながら鉄道写真を撮り続けていくんだろうなって思っています。