法人のお客様メディカル関連機器 技術者インタビュー

技術者インタビュー

プリンターとプリントメディアの
最適化によって実現する高い印刷品質

1980年代から今まで、長年にわたり高品質で安定した印刷品質を医療現場に提供してきたソニーの技術と信頼性。そのこだわりをふたりのエンジニアに語ってもらいました。

右:プリンター開発担当 蛭海
左:プリントメディア開発担当 鳴海

ソニーのメディカルプリンターの特長とは

ソニーのメディカルプリンターUP-898シリーズに
搭載されているサーマルプリントヘッド

蛭海:ソニーのメディカルプリンターは、直接感熱型のサーマル方式を採用しています。これは、記録デバイスであるサーマルヘッドを感熱紙に直接接触させて熱で画像を記録する印刷方式です。
サーマルヘッドの熱を正確にプリントメディアに伝えることで、画像が持つ滑らかな階調性を再現し、高画質な印刷を実現しています。また、インクやリボンが不要なため、医療用カートに搭載しやすいコンパクトなサイズで、メンテナンスの負担が少ないことも大きな特長です。
直接感熱型のサーマル方式ではプリンターと感熱紙(プリントメディア)の組み合わせがとても重要です。ソニーはその両方を開発しているため、それぞれの組み合わせを考慮した上で適した設計をすることが可能なのです。

プリンターとプリントメディアの最適化はどのように実現しているのか

蛭海:ヘッドと感熱紙を接触させ、熱で画像を形成しながら感熱紙を走査させて印刷するので、ヘッドの形状と表面性、感熱紙の記録層の構成は特に重要ですね。高画質な記録を行うためにはヘッドの精密な熱制御と正確な熱伝達、スムーズな感熱紙の走行を実現する必要があります。
高画質だけでなく、信頼性も非常に重視して開発しています。ヘッドの静電破壊や腐食による断線、汚れの付着による筋が発生しないように、プリントメディアの感熱記録層の構成を慎重に決め、サーマルヘッドの表面処理との最適化を図っています。

鳴海:プリントメディアの表面成分を工夫することで、サーマルヘッドに対してセルフクリーニング機能を持たせています。セルフクリーニングが強すぎるとサーマルヘッドが摩耗しますし、弱すぎるとプリント時の摺動でサーマルヘッドにプリントメディア成分が固着して、ヘッドに固い焼き付きが生じてしまいます。
どちらも印画物にスクラッチ傷が入るトラブルになります。ソニーはプリンターとプリントメディアを両方開発していますから、ヘッドの情報は常にプリントメディア側にも共有されています。ちょうどよいバランスを検証しながら、設計しています。

サーマルヘッドの表面状態をマイクロスコープで確認

品質検査はどのように実施しているのか

プリントメディア開発の環境試験。
温度や湿度を変えて、品質に異常がないかを確認

鳴海:大病院を想定して、1日の患者さんが10人、ひとりあたり3枚印刷するとして、一週間で210枚、5年相当で約5万5千枚(250巻)です。この枚数をノントラブルでプリントできることを品質目標としています。実際にそれだけのプリントを数か月にわたって実施し、画質劣化がないか確認しています。
耐久性も大変重要です。さまざまな湿度や温度の環境でも安定して動作できるよう、プリントメディアの機能層を設計しています。

鳴海:工場では、数千m〜数十kmにもおよぶプリントメディアの基材原反上に機能層を塗布していきます。工程検査では、高速画像診断装置を用いて、高速で流れている基材上に、塗布欠陥や異物などがないか確認します。この時の情報を後工程へ送り、原反から製品へ仕上げる時に欠陥部分をすべて排除しています。
これに加えて、出荷前には完成品検査を行います。完成品検査では実際にプリンターでプリントして、グレー階調の演色性評価も行っています。こうした品質管理によって、モニター画像のプリント再現性に変化が無いよう、細心の注意を払っています。

環境負荷をかけ大量のプリントを実施して、動作、画質の劣化がないことを検証

蛭海:ソニーには、長年同一品質を維持するため基準機と呼ばれるプリンターがあります。製造されるプリンターは基準機に合うよう調整して出荷しています。

階調再現性を確認している様子

メディカルプリンター、プリントメディアの開発体制

蛭海:直接感熱方式ですから、メカ(サーマルヘッド含む)とプリントメディアは直接接触します。開発にあたっては、メカとプリントメディアのマッチングがまず大変重要です。そこが、記録デバイスと印画紙が接触しないインクジェットプリンターなどとは大きく異なるところですね。

鳴海:メカ・プリントメディアに電気・ソフトが加わり、4者で共同開発しています。それぞれが緊密に連携しあうことで、プリンター、プリントメディア双方の安全性、品質などが早い段階から検証できます。さらに、開発スピードの加速、開発段階であがった課題克服の時間とコストが最小化できます。顧客のニーズを4者が同時に吸い上げて共有し、役割分担することで的確な顧客への回答ができる点も大きなメリットです。

プリンターとプリントメディアで設計情報を共有し、常に最適化を図っている

鳴海:私たちは、即時プリントの性能だけを見て開発しているのではなく、さまざまな環境での動作保証、耐久性を考慮して開発しています。保存環境・輸送条件を想定して貨物輸送試験も行っています。さらに、プリントした画像の保存性なども含めて、あらゆる品質を検証して、素材から高い次元で設計しています。

ソニーのプリンター、プリントメディアの進化の方向性は

蛭海:UP-898シリーズは主に超音波診断装置のプリンターとして使われています。最近の超音波診断装置は小型化が進み、プリンターに求められる電源もかつてのACからDC電源に変化しています。プリンターも超音波診断装置のトレンドに合わせて、小型化、軽量化、低消費電力化をさらに追求していきます。

鳴海:ソニーのスタンダードなプリントメディアUPP-110Sは、1986年に販売を開始して既に40年近くになります。もっとも新しい、プレミアムグレードのUPP-110HGですら、発売開始から約25年が経過しています。プリンターはその間6世代が商品化されています。
プリントメディアは、いつの時代もすべての世代のプリンターに関して互換性が求められますので、基本的には『変化しない』ように進化してきました。時代ごとに、各国のコンプライアンス対応、化学物質規制等にミートするよう進化しています。

開発者としての期待、夢は

鳴海:先進国において病院のIT化が進むにつれ、デジタル化によるプリントレスの時代が来ると言われています。しかし、IT化が行き渡るとしても、国の文化・価値観、あるいは保険制度によりプリントする機会は残っていくと思います。
私自身、自分の子どもが生まれる前の超音波画像は、すべてアルバムに貼って保管しています。家族の大切な記録になるでしょう。
新興国などでは医療機器の導入は始まったばかりですし、先進国並みのIT化とそのインフラが整うには時間を要すると考えています。その間、医療現場でプリントすることは必要です。
今後も継続してプリンター市場の開拓・拡販を進め、プリントを維持する活動を行い、医療業界に貢献していきたいと考えています。

蛭海:サーバーやクラウドなどデジタルの環境を使えば、大量の画像を保管することが可能です。一方で、自分の必要なデータに素早くアクセスするためには、IT環境を整えたり、データベースを緻密に整備したり、手間や維持費がかかることもたくさんあります。
プリントは良くも悪くも紙なので、取り扱いやすいですよね。それに、カルテと一緒に保管しておけば、停電時や万一システムがダウンした時でもアクセスできます。

電子カルテシステムを導入している病院は先進国をはじめとしてどんどん増えていますが、それでもプリントが併用されているケースが多いのは、「記録として紙で残す」という文化やニーズがあるからではないでしょうか。
そのためにソニーがメーカーとしてやっていかなければならないのは、使いやすく、安価なプリント環境の提供だと考えています。プリントの価値を大切に、見失うことなく、今後も開発を続けて行きます。まだまだやるべきことはたくさんありますね。

ソニー メディカルプリンターの歴史

ソニーのメディカルプリンターの歴史は1980年代から始まります。
当時超音波診断装置の印刷は、ポラロイド写真が主流でしたが、画像が定着するまで1分以上も時間がかかる上、一枚当たりの費用も150〜160円と高く、一度にセットできる印画紙は10枚まで、など制約が多く、医療現場で手軽に印刷することは困難でした。
これに対して、ソニーは当時開発していたビデオテックス用のグラフィックプリンターが応用できるのでは、と着想し、各画素の階調を再現するサーマルヘッドの熱制御方法と、階調再現に適した専用感熱紙を開発しました。

*端末としてテレビを使用し、電話回線を通して文字・画像・動画などを送受信するネットワークシステム

その技術を盛り込んだのが1986年7月に発売した「UP-811」です。開発にあたって、ソニーは各メーカーの要望や医療現場の声を収集、製品に反映しました。この画期的な白黒プリンターは、当時の主力医療機器メーカーから次第に注目されるようになり、彼らの医療システムに次々と採用が決まります。

超音波診断器用サーマルビデオプリンター
「UP-811」

医療用A5カラービデオプリンター
「UP-5000」

ソニー メディカルプリンターの医療業界への貢献

「UP-811」は、印刷時間10秒以下、一枚当たりの費用を10円程度まで抑えながら、写真並みの高品質プリントが実現できるとあって、これまでの超音波診断装置の印刷に革新をもたらしました。産婦人科、内科など多くの診療科で白黒超音波プリンターが日常的に使用される端緒を開きました。
その後、ソニーは世界に先駆けて昇華転写方式のカラープリンターを開発し、1988年には前モデル比で印刷時間・重量・価格を三分の一に抑えた「UP-5000」を発売。軟性内視鏡(flexible endoscope)装置のプリンターとして使用されるようになります。

以来ソニーは、画像診察装置(超音波、放射線、内視鏡など)向けにラインアップを拡充してきました。安価で高品質、使いやすい白黒およびカラーのメディカルプリンターを継続して医療業界に提供し、技術と製品で医療業界に貢献しています。