スイッチャー

株式会社 北海道日本ハムファイターズ 様

文化・スポーツ

2016年3月掲載

日本では珍しいトレーラータイプの新中継車で、楽しさ・臨場感を伝える新しい映像表現を目指す。ファンサービスの強化・拡充にフル稼働中。


2015年3月から本格運用されている新HD中継車。日本では珍しいトレーラータイプとすることで音声中継室のスペースも確保されました。また、横向きファンのエアコン室外機にすることで、冬期運用時の準備軽減も図っています。

株式会社 北海道日本ハムファイターズ様は、ファイターズ戦の中継・収録、配信を行う新HD中継車を、球団保有の専用車として2015年3月に導入され、札幌ドームでのホーム開幕戦から運用を開始されました。
同社 事業統轄本部 ゲストリレーション部 部長 森野貴史様に、新中継車導入の目的、機器・システム採用の決め手、運用の成果と今後の運用での期待などを伺いました。
なお、記事は10月上旬に取材した内容を、編集部でまとめたものです。

コンテンツホルダーとしてより充実したファンサービスを目指して

森野貴史様
森野貴史様

ファイターズは、2004年に本拠地を東京から札幌に移転しました。これに合わせて中継車を配備し、以来CS/BS、地上波、さらに場内の大型映像表示システムを介して、ファイターズの映像をファンや来場者に提供してきました。

プロ野球球団として、ファンにプロ野球の楽しさ、ファイターズ選手のプレーを楽しんでもらうのが最大の使命です。球場に足を運んでくれた方々に、プロならではのプレーを味わっていただくのはもちろんですが、テレビ放送の視聴を通して球場の臨場感を感じていただき、それをきっかけに球場に足を運んでいただくために、映像コンテンツは欠くことのできない重要な役割を担っていると考えています。中継車を球団保有としたのも、より柔軟な運用を可能にすること、そしてそれがお客様に対するコンテンツホルダーとしての使命とも考えた結果でした。


スイッチャー卓。スイッチャーにMVS-7000X、ルーティングスイッチャーにIXS-6700を2式採用。計11台のカメラを含めた多種素材を、放送のみならず、大型映像装置などでも活用しています。MVSシリーズは道内放送局で多く採用されているため、習熟したオペレーターの人材を確保しやすい面も。


VE卓。設計当初よりも増えたカメラ台数に対応するため、レイアウトに工夫を加え、効率的な映像管理を実現。VEモニターにはできる限り、有機EL モニターを採用。液晶モニター使用時に比べ、オペレーターの負担軽減効果も期待されています。

この時の中継車が10年を過ぎて更新時期を迎えたことで、今回の新HD中継車の検討を開始しました。検討にあたっては、さらに魅力的なコンテンツ配信でファンサービスの強化・拡充することを目指しました。

今回、最終的にソニーのシステムインテグレーションを採用した一番の決め手は、一言で言えば総合力の高さです。以前の中継車もそうですが、道内の放送局においてもソニー製のシステムが多数採用されています。クオリティーの高さもさることながら運用での評価も高く、信頼性・安定性の面でも定評があります。機器やシステムのラインアップが充実しているだけでなく、つねに新しいソリューションを提供してくれることを期待させる先進性も魅力でした。

また、現場の声を細かくヒアリングしてインテグレーションに反映してくれる点や、柔軟なオンサイトサポート対応も評価しています。今回の中継車では、すでに製造段階に入った時期になってから、少々強引なお願いをしました。カメラ台数を増やしたい、表現力を高めるためにスーパーモーションカメラを増設したい、あるいは場内のファンサービス強化の一環としてワイヤレスカメラを導入したい、などです。このときも適切に対応いただきながら、予定された納期に間に合わせてくれました。こうした臨機応変な対応もソニーの総合力の高さを示したものとして評価するとともに、感謝しています。

シーズンを通して安定した運用で成果を上げたと評価


3倍速スローのHDC-3300Rに加え、スタンダードタイプのHDC-2000を5台とポータブルタイプのHDC-2500を3台配備、2倍速スローも積極的に使用しています。ワイヤレス伝送機器を装備したXDCAM HD422カムコーダーPDW-850(写真・右下)も大活躍。


収録用にXDCAM Station XDS-PD2000を2台導入。サーバーの中の素材をファイル転送できるようにすることで試合終了後の作業時間短縮を図るとともに、ノンリニア編集システムとの連携も考慮しました。

新中継車で収録したファイターズ戦の映像は、CSスポーツチャンネル「GAORA SPORTS」に配信・オンエアするとともに、要望に応じて地上波、BS放送、インターネットなどの各メディアに配信しています。2015年のシーズンを通して安定した運用ができており、クオリティーの高い映像で、期待通りファンサービスの強化にもつながっていると感じています。

新中継車では、2台のHDスーパーモーションカメラHDC-3300Rによる3倍速スローに加え、高感度・低ノイズのHDC-2000シリーズでも2倍速スローが使えることで、よりクオリティーの高いリプレイで選手の動きを見せることが可能になりました。

XDCAM HD422カムコーダーPDW-850を使ったワイヤレスカメラシステムも、狙い通り効果的に運用できています。試合前のイベントや試合後のヒーローインタビュー、観客を場内の大型映像表示システムに映し出す際など、さまざまな場面で使用しています。

実際の操作・運用は、道内の放送局系列のプロダクションにお願いしています。前述のように道内の採用実績も多いので、担当するスタッフ、オペレーターがソニーのシステムや機器を使い慣れています。事前のヒアリングで細かな要望に対応し、運用を把握した上で構築されたシステムである点も安定した運用に寄与しているのではないかと思います。

安定性・信頼性の高さは、函館・帯広・釧路・旭川の球場で行われる遠征時にも発揮されています。こうした屋外の球場では、風雨や寒暖差など、時として撮影・収録には厳しい環境となりますが、トラブルもなく安定した状態で稼働できました。

ソニーと結んだ「遠征サポート付きの中継車年間保守契約」により、こうした地方球場への遠征時には、バックアップ機材とともにサービスエンジニアが帯同してくれる体制となっています。ユーザーとしてはとても安心ですし、これもソニーならではの充実したサポートの一つだと感じています。

4Kや、より柔軟なアーカイブ運用にもチャレンジへ

2015年シーズンを通じて、新中継車のポテンシャルの高さを感じてきましたが、まだまだ活用しきれているとは言いきれません。今後もそれをフルに活用したファンサービスの強化を図っていきます。とても大きな期待感を持っています。

これまでの映像制作を通じ、球団には「他にはない」映像も多く残されています。コンテンツホルダーとしては、そういった過去の貴重な映像資産の効率的な管理・運用も求められていくと考えています。新中継車導入以降のコンテンツは、プロフェッショナルディスクに収録してファイルで保存していますが、以前のテープ保存のままのコンテンツも少なくありません。適切な形で保存していくことはもとより、要望があった際に、必要な素材の求められる部分にスピーディーにアクセスして取り出せるようにする仕組みも必要になってくると思います。ソニーにはさまざまなソリューションや実績があると聞いているので、相談しています。

また、4Kなど次世代映像への取り組みは、私たちにとって直近の課題とは言えないまでも、将来的な課題の一つであると考えています。今回の更新では本格的な対応は見送りましたが、システム構築の際には、できる限り次世代でも活用できる機器を選択し、盛り込んでもらいました。その観点からすると、ソニーから発表された4K/HD対応のマルチフォーマットポータブルカメラHDC-4300には興味があります。8倍速スローは、HD制作におけるより幅広い表現にすぐにでも活用できそうですし、新中継車で運用中のHDC-2000シリーズと連携でき、アクセサリーも有効に活用できると聞いています。

ソニーには、今後も新中継車の運用や現場のスタッフ、オペレーターの要望に機能強化やアドバイスで対応していただくとともに、時代の要請に応えるソリューションを提案し続けて欲しいと思います。それにより、私たちのコンテンツ制作の総合力をさらに高めていければいいと思います。