スイッチャー

株式会社 日テレ・テクニカル・リソーシズ(NiTRo) 様

プロダクション

2016年3月掲載

「サイズは中型、機能は大型」な中継車を実現。MVS-7000XやHDC-2000シリーズの導入でスポーツ中継を中心とした番組制作にフル活用


新HD 中継車「OB-X」

株式会社 日テレ・テクニカル・リソーシズ(NiTRo)様は、同社の主要な業務である、スポーツ番組中継にフォーカスしたHD中継車「OB-X」を導入され、2015年8月から本格的に運用を開始されました。
 同社 営業センター 企画営業部 専任担当部長 兼 設備戦略部 今井 正様、制作技術センター 技術制作部 VE専門副部長 飯島章夫様に、今回の新中継車導入の経緯やコンセプト、システム概要、運用状況などを伺いました。
 なお、記事は2015年10月上旬に取材した内容を、編集部でまとめたものです。


  • 今井 正様

  • 飯島章夫様

「サイズは中型、機能は大型」を目指して更新

当社では3台の中継車を保有していますが、そのうち1台が運用開始から約10年を迎え、機能などさまざまな面から更新時期に差し掛かっていました。当社は、日本テレビ放送網株式会社が主力とするスポーツ系の番組を中心に、中継車を運用しています。従来はカメラが5 〜 6台の規模のニーズが主体でしたが、最近は大規模な中継のニーズも出てきており、これらに対応する必要に迫られていました。また、4Kなどの新たな運用へのニーズも出てきています。これらに幅広く対応できる中継車にすることが、今回の更新の目的でした。具体的な計画がスタートしたのは約2年前ですが、その1年ほど前から仕様の検討などを進めていました。その結果として導き出したコンセプトが、「サイズは中型、機能は大型」でした。


カメラにHDC-2000シリーズを8台常時搭載し、スポーツ中継でフル活用中。

最終的に、カメラの台数は、HDC-2000×2台とHDC-2500×6台の計8台を常時搭載し、最大7台の増設で15台までの運用ができる構成としました。スイッチャーはMVS-7000Xの3MEタイプです。オプションのマルチプログラム2を装備しており、システムの拡張が可能です。また、サブスイッチャー用に1ME分のコントロールパネルを別途搭載しています。これらは、現状主力となる用途とのバランスを考慮して決定しました。

中継車の仕様は、中継車のライフサイクルから5年、10年というスパンで考えなければなりません。その中で、4K対応も最後まで課題として残りました。しかし、すべてを盛り込もうとすると、車体も大きくなり、駐車場所などを含めたさまざまな制約が大きくなってしまい、運用が不便になります。そこで、今回は「10年先を見据えて拡張性を確保しながら、近い将来にフォーカスする」設計としました。4K対応というコンセプトもその一つです。4K対応機材としては、スイッチャーとルーティングスイッチャーのみを搭載し、それ以外については持ち込みの形としました。持ち込みについては機材やシステム構成も決めてあり、一体化した運用が可能です。

また、今回は当社として初めてとなる拡幅型としました。この拡幅は、現場に応じて、広げなくても運用することができます。

拡幅でスペースが大幅に広がることにより、大規模な中継の際にも車内で動きやすく、細かいケアができます。

先進性・実績・互換性からソニーを選択


MVS-7000Xを据えたメイン卓。大型中継車に匹敵するモニター画面数と、機器増設運用に対応する拡張性を実現。メイン卓とモニターパネルの間隔も十分に確保し、広さと視認性を両立しています。

かつてとは異なり、放送機器の分野も技術が日進月歩の勢いです。そして、10年使うシステムですから、できるだけ時代の先を行くシステムを導入したい。その一方で、中継という用途を考えると、事故やトラブルは避けたい。その両立が本当に悩ましいテーマでした。その点で、ソニーの製品やシステムは先進性の高い機能を多く備えながら、一方で導入実績も多く安定性もある、ということが決定のキーポイントとなりました。また、当社は自社スタジオの他、日本テレビの機材運用があり、そこでも同様にソニーのカメラやスイッチャーを使用しています。増設時の機材流用性や、技術スタッフが戸惑いなくオペレーションできる共通性も重要なファクターでした。


前列着座時も視界が遮られることなく、後列座席からもモニターパネル全体を一望できる視認性を実現。拡幅の有無による差も後列座席の有無のみとすることで、使い勝手の共通化を実現しています。

このほかにも、HDC-2000シリーズが2倍速(1080/59.94i×2)で駆動でき、どのカメラの画もスロー再生に使える、ということも、スポーツ中継を中心に運用する当社にはとても魅力的でした。
中継車は長く使いますから、導入後に後悔するようなことは避けたいです。実際にソニーに決定して、設計に入ってからも、多くの要望を出しました。その都度、さまざまな形での提案やシミュレーションをしていただき、良い中継車になったと思います。たとえば、最近は大型モニターを利用したマルチ分割表示を用いることが増えてきていますが、ライブ中継車で採用した場合、一つのモニターが故障すると、放送を継続する上で大きな痛手となります。すべての機材のトラブルに対して、放送の継続性や対策について検討を行う必要がありましたが、こういった面でも、入念なシミュレーションや対策の提案をしていただけたことで、今回の「OB-X」では初めてマルチ分割表示を導入することができました。

引き出し式RCPパネル下部のラックのデッドスペースを、移動時の機材収納兼搬出口として活用できるようにするなど、収納の工夫や独自の車体構造により、運用の利便性が向上しました。

トラブルもなく、満足の仕上がり

実際に導入してからも、トラブルや使い勝手の不満などもなく、満足しています。特に、今回初めて導入した拡幅型については、大変好評です。日本テレビグループではスポーツ中継は基本的にディレクター自らがスイッチングを行い、TD(テクニカルディレクター)は中継全体の技術的なマネジメントやサポート役を務めます。スイッチャー卓周りは制作スタッフだけになることもあるため、中継の最中に何かあれば、TDが車内を動き回ることになります。「OB-X」は拡幅でスペースが大幅に広がったことにより車内で動きやすくなり、細かいケアができるようになりました。導入後も、「OB-X」に盛り込んだ機能を現場でフルに活用し、4Kライブ中継にも対応しました。私たちにとって、中継車の完成は終わりではなく、次の中継車更新に向けての始まりでもあります。今回の更新で得た経験をもとに、さらなる完成度を目指した中継車の導入に取り組んでいきたいと考えています。

ソニーには、今後もさらに先進的で、完成度に磨きをかけた提案をいただきたいと思っています。