小寺信良が「MZ-RH1」の魅力を探る 録音・再生Hi-MDウォークマン「MZ-RH1」誕生 ソニーが3月23日に発表した新ウォークマンは、なんと「MD」であった。確かに過去のウォークマンのラインナップを見てみると、まずカセットテープの時代があり、CDウォークマンがあり、今は亡きDAT、そしてMDと来てメモリ、HDDと、あらゆるメディアに対してその可能性を追求してきた。そう考えれば、MDのウォークマンが発売されても、おかしくはない。だが今日のようなシリコンメディアプレーヤー全盛の時代に、なぜMDなのだろうか。誰もが思う疑問を胸に、筆者は開発陣の元を訪ねた。
Interview1 製品企画担当者に聞く、今なぜ録音できるMDなのか Interview2 設計に聞く、再生機としてのこだわり Interview3 そしてもう一度聞く、なぜ今MDなのか
Interview 3 そしてもう一度聞く なぜ今MDなのか
MDがやるべきこと
3月23日の製品発表以来、RH1の存在は消費者の間ではかなり好意的に受け止められているようだ。 その中でも特に、過去に録音した音楽をパソコンへデジタル転送できる、「MDアップロード機能」への評価が非常に高い。
厳格なDRM(デジタル著作権保護機能)の中で運用されてきたMDへの音楽転送だが、従来のMDからパソコンへ逆方向の転送ができるのは、RH1が史上初となる。

「MDは当初よりコンテンツ保護の趣旨からSCMSを導入、デジタルコピーに対する制限を課してきましたが、その後のPCの普及により、急激な音楽環境の変化が起こっています。 PCを使って音楽をCD-Rに焼いたり、インターネットでコンテンツをやりとりするするという方法を、多くのお客様が行っています。 MDもHi-MDになって大きく進化しましたので、パソコン周りのオーディオ機器として、違法コピーに配慮しつつも、昨今のデジタルコピーの許容度に合ったところを目指したかったんです。」(菊池)
「どうしてこれまでアップロード機能を付けていなかったかというと、もちろん音楽著作権の動向を睨みながらというのはあったんですが、実はMDにもNet MDにも、音楽のアップロード機能というのは当時の著作権保護の考え方を反映して規格の中にないんです。 これは音楽配信など、PCとのコンテンツのやりとりの著作権保護技術が進化したHi-MD世代になって、初めて実現できることなんですね。」(松本)
MDからパソコンにアップロードした曲は、CDDBサービスで知られるGracenoteが提供する「MusicID」という機能を使って、自動的に曲名を取得する。 これは音楽の波形データを解析して、音楽データベースと照合させる技術だ。 つまりMD上で曲名を入力していなくても、パソコンにアップロードすることで曲名やアーティスト名、アルバム名などが自動的に入力されるのである。

「MDをずっと使ってきたユーザーに対して、曲名まで付けてPCで管理したり、あらためてデジタルコンテンツとしての便利さを付加させてあげたいという思いですね。」(土屋)
もちろんアップロードできるのは、RH1で録音した音も同じである。取材や素材音録りでMDに録音したものも、パソコンにデジタル転送することで、コンテンツの作成に活用できる。 特に今回はMac用の転送ソフトも新たに開発したことで、テレビ番組の効果音など、プロの分野での活用も促進されるだろう。
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なぜ今MDなのか
現在MD録再機の平均的な価格は、だいたい2万5千円前後である。 その中で、市場想定価格4万円前後という超高級機であるMZ-RH1は、MD市場の縮小傾向から考えれば、おそらく決定版的な意味合いを持つだろう。 製品化前の試作モデルには、「Professional」の文字が誇らしげに記されているところからも、開発者が注ぎ込んだ気迫を感じる。

「かつてのデンスケだとか、ウォークマンプロフェッショナルというのがありましたけど、RH1はその血筋を引いたものであるという思いはありましたね。」(村上)
1992年、MDウォークマンの初号機「MZ-1」の発売以来、MDは過酷な開発・販売競争の波に揉まれ続けてきた。薄さ競争、電池競争、音質競争と続く戦いの中で、MDはその完成度を高めていった。

「今回の機種は、薄さ、音質にしても15年余りの歴史がないと、全然できなかったものなんです。 本当に正統に進化してきて、ここに凝縮したという印象を持っています。 今HDDなどのブームの中で、全部が一緒くたにされてもうMDじゃないよね、と言われるのがとても悔しくて。 今回の企画コンセプトは、そこから出ています。」(菊池)
「Hi-MDは単に大容量だけじゃなく、あきらかに技術としてのパラダイムシフトがあるわけです。 そういうところもちゃんと訴求できてない。 訴求できずに死ねるかというところがあって。 古いイメージの亡霊に付きまとわれているのが悔しいので、今回の製品には、設計面でそういうのを払拭できるネタを沢山入れていこうと。」(松本)

実際に筆者も、いい録音の音楽CDからLinearPCMでRH1に転送して、上質なヘッドホンで楽しんでいる。 いくら付属のMD Simple Burnerで簡単に作業できるとはいっても、音楽CDから直接聴くよりも手間がかかる。 だがそういう手間をかけてでも、これで聴きたくなる、質のいいデジタルアンプなのである。
また低域の特性の良さもポイントの一つだ。 曲の中のベースラインが、弦の巻き線のビビり感まで含めて、確実にトレースできる。 自分で音楽を演奏する人、特にベーシストには是非使って感想を聞かせて貰いたい低音表現である。
「正直言って、これだけの音が出せるポータブルプレーヤーというのは、そう数はないと思います。」(松本)

そして改めて開発者に問う。なぜ今MDなのか。

「今の世の中、インターネットや携帯電話から降ってくる音楽というのは、確 かに便利です。ですが今度は自分でナマ録して、かつデータとしてではなく、 メディアという形として大事な音を残しておくというのは、パソコンの便利さと いうところに振られちゃって、見えなくなりつつある。ここは絶やすことなく続 けていかなければならないところですよね。」(田村)
「実際DMP全盛の時代ですけど、MDは世界中にファンサイトもいっぱいあって、コアなファンがいるんです。 今回のモデルは、MDが得意なことを満載した。 一つは録音であり、もう一つは高音質再生。 MDのアップロードもそうです 。 ここは今のDMPではできないところですよね。 MDが便利という人というのは絶対いるので、そこの人たちにアプローチしたい。 そしてその中で、あらためて音がいいねということに気付いて貰えるといいですね。」(土屋)

価格、容量、利便性など、音楽プレーヤーに求められる資質はあまりにも多い。 かつてはMDも音楽を高圧縮することで、収録容量を競った時代もあった。
だが考えてみれば、安価なリムーバブルメディアを使うという世界感からすれば、ある意味容量は無制限であるとも言える。 そして音楽を、メディアという物理ブツに入れて長期間保存するという事は、音楽配信の伸びが期待される時代だからこそ問われる、次の課題と言えるだろう。

昨今の音楽シーン、そして今のDMPの流れを見ていると、もう音質で競争する時代はやってこないかもしれないと思うことがある。 そんな中で、レコーダとして、プレーヤーとしての質を極めたMZ-RH1の存在が、それを必要とする人の手に確実にリーチできることを、願わずにはいられない。
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InterViewer Profile
小寺信良
小寺信良 ( こでらのぶよし )
映像アナリスト/コラムニスト。 テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、94年にフリーランスとして独立。 以降放送および映像関連の執筆活動を行なう。 主な著書に「できるVAIO」シリーズ(インプレス)、「デジタルビデオ標準ガイドブック」(MdN)、「DVD&動画ファイル逆引き便利読本」(技術評論社)など。 WEBではインプレス AV Watch、ITmedia +Dにて週刊コラム好評連載中。 作り手側とユーザー側両方の立場から分析する切り口で、IT家電分野ではもっとも信頼の置けるライターとして注目されている。
Developer Profile
開発者
村上朋成:デザイナー
[後列左]

土屋大定:商品企画(RH1担当)
[後列中]

菊池康子:商品企画(MDウォークマンリーダー)
[後列右]

田村健一:外装・メカ設計担当
[前列左]

松本賢一:オーディオブロック設計担当
[前列右]
 
録音・再生対応“Hi-MDウォークマン”MZ-RH1