法人のお客様Networked Liveスペシャルレポート 株式会社フジテレビジョン様

スペシャルレポート

※本ページは2019年5月時点での情報を基に作成しています

事例紹介
株式会社フジテレビジョン様

『IPのメリットを今の現場で』 リモートプロダクションで「富士山女子駅伝」中継の円滑化とコストダウンを同時に実現

株式会社フジテレビジョン様は、NMI(Network Media Interface)に対応する、可搬型IP Liveプロダクションシステムを新たに導入され、スポーツ中継におけるリモートプロダクションを中心に、2018 年12 月より運用を開始されました。

  • 真崎 晋哉様
    技術局 制作技術センター
    映像部 部長職
    真崎 晋哉様

今の番組制作でIPを生かしてみよう

当社の社内には、さまざまな新規技術に対する、検討プロジェクトが設けられています。その一つとして「IP 技術」に関するプロジェクトがあり、リモートプロダクションについても、2017年から制作現場への導入を検討していました。IP 伝送自体は、すでにさまざまな用途で利用していましたが、リモートプロダクションは、社内外を見回してみても、実際に番組制作で使っている事例は多くありませんでした。そこで、実際に番組で使って、将来に向けた検証を自分たちで始めてみようというのが、今回のミッションです。

今回、実際に導入したのは、昨年12 月30日に生放送を行った富士山女子駅伝での中継です。富士山女子駅伝は、私がテクニカルディレクターやチーフVEとして長年携わっている番組です。私自身の担当は技術開発でも、IT 情報システムでもありませんので、制作技術の立場で、「今の番組制作で」どうIPを活用するか、が、今回の大きなテーマでした。検証と言っても「とにかくIPを使ってみよう」という意味ではなく「IP のメリットを制作に生かしてみよう」という意味での検証です。番組の技術責任者として、番組に確実なメリットがない導入はできないからです。

FPU伝送が難しい場所も中継車を出さずIPで

導入されたIP Live機器。右の黒いラックにCCUを積み込み中継地点側、左はセンター側に設置して、IP回線で接続

富士山女子駅伝では、ランナーの中継所が6カ所あります。毎年、それぞれの中継所に2 〜 3カメを出しています。以前は、すべての中継所に中継車を置いてスイッチングを行い、それを現場の放送センターで再度スイッチングして放送していました。しかし、それぞれ2 〜3カメしか出さないのに、すべての中継所に1台ずつ中継車を出すのは非効率ではないか?という疑問が以前からありました。また、中継所カメラのセンタースイッチングという制作的な効率化も同時に検討していたこともあり、まずは今回、1つの中継所をIPリモートプロダクションで置き換えようと考えました。

中継車を出さずに、2カメをセンターに送ろうとすると、従来の技術では複数のFPUやTS多重技術、光伝送などを用いる必要があります。今回IPリモートプロダクションを導入した第4中継所は、そもそもFPU回線の構築に手間がかかる難しい立地でした。さらに、FPUや光伝送では、カメラのリモートコントロールやタリー、コミュニケーション、送り返しをどうするかの課題が残っていました。

HD4本を1Gbpsで伝送できるNMIは現実的

センターとなった富士市役所と第4中継所の間は直線距離にして約5kmあります。その間に1Gbps帯域のIP回線を一時使用で契約し、仮設しました。今回は「今の番組制作で」がテーマですので、現時点でさまざまな場所で比較的確保しやすい回線種別と、費用の面からの選択です。そして、今回ソニーのIP Live プロダクションシステムを導入した大きな理由が、その必要とする回線帯域です。ソニーの採用するNMI ならば、1Gbpsの回線1本で、LLVC(Law Latency Video Codec)で圧縮された4本のHDストリームを同時に伝送できます。他社の製品や技術も検討しましたが、10Gbps など超広帯域の回線を前提としたものが多く、番組として手配できる回線としては非現実的でした。その点、NMI は既存のインフラ環境にマッチする、実質的に唯一のソリューションでした。


富士山女子駅伝でのセンター側の様子。IPによる監視・管理とマルチモニターの様子

作業性は上がりメリットあり、コストもダウン

この2拠点間で、カメラ2台の映像とリターン映像、ディレクター用の送り返し映像、音声、カメラのリモートコントロール、タリーに加えて、別途インカムなどを一括してIP ストリームに多重しました。画質がFPU多重に比べて良かった事はもちろんですが、作業性が良く、まさに「カメラケーブルを中継車に直接つないでいる感覚」でした。遅延は1フレーム程度であり、ロードレースの中継としてはオペレーションに問題はありませんでした。中継車も1台、スタッフも2名減らすことができ、費用の効率化に貢献できました。また、中継所カメラのセンター集中化と、中継車を1台余計に挟むことによる指令伝達のミスがなくなった事は制作面においても効果的でした。メリットは非常に多かったと言えます。複数の映像や、リモートコントロール、コミュニケーションラインなども一括して束ねられ、長距離・双方向で扱えるIPでは、できることが広がります。今回は、中継車の台数を減らすというコンセプトでしたが、この切り口に限らず、IPの持つ多様なメリットを生かせる応用方法を模索して、一層積極的に活用していきたいと考えています。この4月の「フジサンケイレディスクラシックゴルフ」においては、BS4K HDR ライブ中継にチャレンジをします。その中では、4KカメラのIPリモートプロダクションも行う予定です。


中継地点側のシグナルプロセッシングユニットNXLFR316とSDI-IPコンバーターボードNXLK-IP40F/1

IP Liveプロダクションシステムは、おおむね完成していることを実感

今回は、検討や事前準備段階からソニーの方々に加わっていただきました。テレビ技術者が持つIPに対する不安にも「できること」「できないこと」や「向いていること」「向かないこと」を根気強く説明していただき、不安を拭ってくれました。今回は中継所の1つをIPに預け、チャレンジングにも思えましたが、結果は大成功でした。実際に使ってみて、ソニーのIP Live プロダクションシステムは番組制作現場での運用に対してもおおむね完成してきているなと実感しました。放送当日も現場に立ち会っていただき、机上ではなく現場で発生するさまざまな事象のフィードバックという形でお礼ができたのではないかと思っています。一方で、実際に使ってみて分かってきた要望なども出てきました。ソニーには今後もそれらに積極的に応えていただき、完成度に磨きをかけていただけることを期待しています。

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