IP Liveプロダクションシステム

スペシャルレポート

※本ページは2020年11月時点での情報を基に作成しています

事例紹介
スカパーJSAT株式会社様

IP導入からもうすぐ2年
NMIなくしては実現できなかった更新
SDIと変わらない使い勝手

スカパーJSAT株式会社様は、2018年12月1日にソニーのNMI(ネットーワーク・メディア・インターフェース)を採用したマスター送出系統のIPルーティング設備を稼働開始されて、まもなく2年が経過しようとしています。
この2年を振り返って、運用の実態や感想をお伺いしました。

2年間で4回のIP化と拡張

今回、新送出設備においてIP導入を実施したのは、マスター送出系統のルーティング設備です。2018年12月1日の110度CS左旋の4K 8チャンネル新設を皮切りに、HDプレイアウト、東経124度/128度CS、110度CS右旋など、それぞれのサービスごとの4回にわたる移行・拡張を経て、約2年が経過しようとしています。

従来のSDIベースでは、将来的に必要となる規模のルーターを最初に導入することになりますが、IPでは段階的な移行や拡張、チャンネルのHDから4Kへの系統変更も柔軟に対応できます。そして、今回はスペースの都合からマスタールームとマシンルームを別フロアとせざるを得なくなり、柔軟な経路構築が可能なIP化が適していると考えました。さらに限られたスペースのままにチャンネル数が増える中で、ケーブルの集中を避けるとともに、チャンネル当たりの体積を削減する必要もありました。

  • 秦 慎二様
    メディア事業部門
    メディア技術本部
    放送システム部長
    秦 慎二様
  • 石黒 剛様
    メディア事業部門
    メディア技術本部
    放送システム部
    第2システムチーム
    マネージャー
    石黒 剛様
  • 小野 栄様
    メディア事業部門
    メディア事業本部
    放送運用部長 兼
    プレイアウトチーム長
    小野 栄様

唯一の選択肢がソニーの“NMI”

2017年の基礎検討フェーズにて、IPベースでの映像伝送フォーマットとしてSMPTEST 2022-6やNMI、SMPTE ST 2110を比較検討してきましたが、ST 2022-6は周辺規格が整備されておらず、システム全体を構築できるだけの製品やソリューションも存在しませんでした。またST 2110については、当時はまだ早すぎて、現実的な選択肢ではありませんでした。そこで、ソニーがトータルソリューションとして放送に必要なすべてを提供できたNMIが当時唯一の現実解でした。NMIの安定性や実用性については、110度CS左旋の4K試験放送の段階で評価も行い、実用上問題ないことを確認していましたし、NMIは他社への技術公開もありましたので、不安や抵抗感はありませんでした。IPライブアライアンスの中で、マルチビューアーメーカーに対しては、NMIのインターフェースとなるLSIを提供し、エンコーダーメーカーには、SDKを提供してもらうなどを通じて我々が使いたい他社機器との接続性を確保してもらいました。その後の運用段階においては接続や動作に問題はありません。

日頃の使い勝手はSDIと変わらない

実際に運用を開始して感じるのは、SDIかIPかは日頃のオペレーションにおいてはまったく意識しなくて良いということです。マスターシステムとの接続については、ソニーが公開している制御プロトコルNS-BUSを上位システムが実装し、ソニーのコントローラー(LSM)と連携を行っています。

一方、不具合時においては、SDIでは波形モニターで伝送路含めた異常切り分けができていましたが、IPでは伝送路での異常有無を確認するために、パケットキャプチャー等も実施し、原因を特定することになります。

想定外の不具合としては、光ファイバー挿抜時のコネクター端面汚れが原因で通信異常が発生したことです。これらの事象は端面をクリーニングすることで解決しましたが、ポイント毎にパケットキャプチャー装置を仕掛けて対象を絞るなど切り分けに時間を要しました。

なお、今回導入設備ではリモート保守を導入していますが、リモート保守と現地駆けつけを平行して対応ができることもあり、初動が少し早くなることがメリットと感じています。

設計が重要なのはSDIと同じ

更新前のSDIをベースとしたシステムでは、ルーターをXP数や処理性能、障害範囲の限定などの理由で、回線・本線・モニターなど用途毎に分けていましたが、今回のIPシステムでは一つに統合し、フラットで大規模なネットワークを構築しています。ただし、用途毎に接続するスイッチを分割する、コントローラーを分けるなど、システム設計を行う時点で、障害の及ぶ範囲の把握やバックアップを綿密に考えておく必要があるということはSDIと同様です。

このほか、今回我々は全チャンネルクリーンスイッチ(≒ブランキングスイッチ)できるようなシステムを構築しましたが、切り替え時に一瞬フリーズが出るなどしても良い、ということであれば、必要とされるネットワーク帯域を半分にすることもできます。例えばモニター系など、それで差し支えない用途もあります。SDIでできることをすべて求めるのではなく、もう少し割り切りができていれば、コスト削減につながったかなと感じています。

今回導入したシステムでは、基本は本線・予備の2系統ですが、一部で3系を設けているほか、まったく独立して試験系を設けています。試験系は、拡張や変更を行う前の動作確認や検証を行う系統で、本線系と同じ機器を導入しています。今回は拡張を何度にもわたって行う計画でしたので、費用はかかりますが安全のための投資ということで、充実した環境を設けています。

ソニーのNMIなくしては実現できなかった更新

ここまでの4回にわたる導入や拡張を全体として振り返ると、大規模なルーティングの集約、マスタールームとフロアが離れたマシンルームとの接続、物理的な体積の集約、段階的な移行・拡張など、当初の計画は達成できています。また、システム拡張については、もっと苦労するかと思っていましたが、想像以上にスムーズに進めることができ、すべてIPなくしては実現できなかったものですし、ソニーのNMIなくしては実現できなかった更新でした。もちろん、システム構築では苦労もありましたが、IPによって得るものが大きく、決して間違った選択ではありませんでした。ソニーとは、スタジオサブや中継車などを通じても長いお付き合いがあり、信頼関係がありましたので、NMIの提案を受けたときも不安はありませんでした。

IP導入にあたり、局側にネットワークの知識があった方が良いかと言えば、あった方が良いとは思います。メーカーとのやりとりなどでも共通言語が増えます。同時に、基礎知識がありさえすれば、IP導入は決して恐れるに足らないとも実感しました。ソニーからさまざまな面から説明を受けたりすることで不足する知識も補完ができました。

我々はだいぶ早い時期に導入したため、苦労もありました。しかし、早い時期に取り組んだおかげで、ノウハウはだいぶ蓄積できたと思います。この2年間、問題なく使ってきて安心もしています。

これまでは規模の拡張に取り組んできましたが、今後は、他局との接続やリモートプロダクションなど、幅広いシーンでの活用に取り組んでいきたいと考えています。

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