 |  | 鉄腕アトムは近未来のファンタジーとして描かれた人間のようなロボットだ。遠い昔から人間は自らが神となって人間を生み出すことに挑もうと、それを物語として数多く残してきた。ユダヤ教の伝説にあるゴーレム、ゲーテのホムンクルス、メアリー・シェリーのフランケンシュタイン、ヴェリエ・ド・リラダンのハダリー。これらはみな「人造人間」という絵空事を具現化したい信念の現れであるが、ロボットを造ることは、人造人間を造ることと同じファンタジー性に満ちている。 ファンタジーを日本語にすると「空想」とか「幻想」ということになるが、想像したものを形にするという意味で、プロダクツの世界の概念はファンタジー性を多く含んでいる。大海を渡りたいために船を造り、空を飛びたいために飛行機を造る。子供のころに見聞きした童話や絵本、小説や映画、テレビやマンガなどで描かれるファンタジーに影響されて、大人になってそれを実現させようとする働きがプロダクツの背景にあることは少なくないだろう。 それとは別に、実世界を不条理に考える働きもファンタジーの一種だ。「今、自分が見て触っているもの自体が夢なのではないか。誰かに作られた器のなかで操られているだけではないか‥‥」。SF界ではこうした考え方を“サイバーパンク”と称し、1980年代にブームを巻き起こしたことがある。最近の例では、映画『マトリックス』もサイバーパンクの部類に入る。自分自身や実世界を客観的に見ることで、フィクションとノンフィクションの逆転を楽しむことができ、目から鱗が落ちるような現実に対面できたりする。
第20話『永遠の少年』で描かれた、大人のいない世界「ネバーランド」を作ろうとしたダーリングは、子供の純粋な心のまま歳をとらなくなる機械を造って実行しようとする。これは自己中心的で不条理なファンタジーが招く偽りの世界への諷刺と捉えるべきだろう。また、アニメーションのなかの天馬博士も身勝手なファンタジーを抱いている一人だ。亡くした息子の代わりに生み出したはずのアトムを、自らの野望を果たす道具に使おうとしているからだ。 一方、第30話『地底探検』では、地底の巨大空洞という夢のあるファンタジーをもとに描かれた。アトムと共に地底探索機コア・レーダーに乗って地底を掘り進みながら、地底の別世界を発見するという話だ。実際、二十世紀前半のアメリカを中心に、地底1,300キロのところに空洞があって古代生物が生息しているという「地球空洞説」が真剣に議論された時期があった。北極と南極に巨大な穴があって地底世界への入り口となっており、そこからUFOが行き来しているというトンデモない説まで地球空洞説は発展した。 | |
手塚治虫が生み出したアトムは、無感情の機械人形だった「ロボット」というファンタジーを大きく転換させた。1951年に登場したアトムは、人間のように泣いたり笑ったりして、兄妹や両親も持っているのだ。アトムはそれまでのロボットの概念にはない、斬新な象徴として君臨したのだ。それは1962年から世界中のテレビで放映され、この新しいファンタジーを世界中の子供たちが目にすることになる。 手塚治虫は「ファンタジーなんか書けません」と題したエッセー(マガジンハウス『手塚治虫大全1』所収)のなかで、「すぐれたファンタジー描写が書けるか書けないかということは、その人がどのくらい日常性や論理性を無視できるかのちからによります」と述べている。そして、ファンタジーを書こうとすると子供にはとてもかなわないと付け加えている。常識に捕われず、子供の心を理解できる手塚治虫だからこそ、アトムを生み出すことができたのだろう。 同じ様に、便利さを追求してきた消費社会のなかで、AIBOのような(便利さという意味で)役に立たない機械を生み出したソニーの開発者たちは常識外れだったはずだ。しかし、その非常識さのお陰で現在に生きるロボットが誕生したのだから、開発者たちの勇気と実行力は称賛されるべきだろう。
ファンタジーは時として「逃避」の材料として捉えられる。勝手なファンタジーを抱き、自分の思い通りにするために周りを犠牲にしてもいいと思うような自己中心的な考えが浮かぶ場合もある。人造人間を作っても、その目的が自分の欲望を満たすためだけのものであれば、破壊を招くことは先人の文学者が充分に唱えている。 だが、ダーリングや天馬博士とは違い、「AIBO」や「QRIO」の開発者は自己の欲望を満たすためだけではなく、世の中を面白くしようとロボットを造り出している。実体として見て触れるものを通して夢を喚起させるからこそ、AIBOやQRIOは魅力があると言ってもよいだろう。 手塚治虫は子供たちに“未来のある”ファンタジーを与え続けてくれた。そのお陰で、それに影響を受けた子供が大人になって、AIBOのようなロボットを生み出した。これから、AIBOやQRIOに触れた子供が大人になったとき、また別の“未来のある”ファンタジーを生み出してくれるに違いない。 |
   |  |  |  | 天馬博士の不幸な生い立ち アトムの生みの親である天馬博士の本名は、天馬午太郎(うまたろう)。ひのえうま年生まれ。群馬県出身。科学省長官就任時に息子のトビオを交通事故で亡くし、代わりとなるアトムを造ります。天才でありながら狂気の持ち主で、成長しないアトムに嫌気が差してサーカスに売り飛ばしました。原作のなかの天馬博士は実は混血児で、小さいころに虐げれていたためにテロリストの仲間になっていたことがオリジナル版『アトム今昔物語』で明らかにされています。このエピソードは現在、『鉄腕アトムコンプリートブック』(メディアファクトリー)でしか読むことができません。
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