ご担当者の紹介
株式会社Jストリーム
プラットフォーム本部 ライブプロデュース部 プロダクトプランニング課 テックリード 細谷友輝様(右)
プラットフォーム本部 ライブプロデュース部 プロダクトプランニング課長 細川貴広様(左)
株式会社Jストリームは、1997年の会社設立以来、インターネットにおける動画配信の先端企業として様々な情報発信やコンテンツ配信の手法を提供し続けてきました。今日では提供したい情報にあわせたコンテンツの企画制作やウェブサイト構築・運用、あらゆる端末に対応した高品質で安定した配信サービスまでをワンストップで提供しています。
Jストリームは、B2B向けの動画配信事業を展開しており、特にライブ配信は創業時からの主力サービスです。年間2400件以上の現場対応実績を持ち、失敗が許されない企業向けのライブ配信を、確かな仕組みと運用体制で支えてきました。
近年、ライブ配信の形態が多様化し、一つのコンテンツを複数の視聴サイトに同時並行で展開するケースが増加しています。こうした中、私たちはライブ配信動画の品質を個別に監視しているのですが、急増する監視対象に対し、人力での監視、特に音声のモニタリングが大きな負担となっていました。
Jストリームではこの問題を解決すべく「モニタリング管理システム」を構想。コアとなる音声解析機能については当初、外部の動画配信サービス向け監視ソリューション導入を検討しましたが、サーバー増設などといった初期コストの高さに加え、この仕組みのためのノイズパターンを新たに用意せねばならないなど多くの課題があり、実現に至りませんでした。もちろん自社開発も検討しましたが、同様の理由から膨大な投資を回収するのは難しいだろうと判断せざるをえませんでした。
そうした中、着目したのがA2 Productionです。ソニーとは以前からAI解析の利用に関する議論を重ねていたのですが、ソニーが出展していたイベントでの音声解析の展示をきっかけにトライアルが進み、ソニーでも音声ノイズ検出エンジンの開発に着手することになりました。ソニーの挑戦は2024年11月にリリースされた「A2 Production カスタマイズソリューション Ver.1.4」の新機能として結実し、音声モニタリングの自動化に向けて、大きな一歩を踏み出すことができました。
A2 Productionの音声ノイズ検知エンジンは、メイン系統と副系統の音声を比較する「差分検知方式」を採用しており、事前にノイズパターンを規定する必要がありません。無限に存在するノイズパターンに柔軟に対応できるため、未知のノイズでも高精度に検出できます。これにより、属人的な判断を排除し、正しい音圧やノイズを明確に定義し、異常検知精度を向上させることを目指しています。
さらに、APIを活用した通知システムを構築することで、ライブ配信をリアルタイムでモニタリングし、異常を検知すると速やかにアラートを発報することが可能になりました。ダッシュボード上での通知やアイコンの色変化に加え、将来的には案件ディレクターへの直接通知も検討されており、現場の人員が常にダッシュボードを監視する必要がない運用も視野に入れています。
音声モニタリングをシステムに任せることで、人間はカメラ映像の確認やエンコードパラメータの調整など、ライブ現場でのオペレーションに集中することができます。また、機械による常時モニタリングと数値化されたアラートにより、品質がばらつくことなく、安定した高水準を維持・向上させることが期待されています。
また、ソニーのAI解析サーバーがクラウド環境にあるため、配信状況に合わせた柔軟なスケーラビリティを容易に実現できることも大きなメリットのひとつと言えるでしょう。これにより、従来のオンプレミス環境で必要だった大規模な初期投資や常時運用コストの問題を解決できる見込みです。
モニタリング管理システムは2025年4月からテスト運用を開始。現時点ではまだシビアな音声トラブルは発生していないものの、音声品質を常時モニタリングし、早期発見やエスカレーションが可能になったことが評価されています。これにより、配信現場の担当者が、モニタリングに過度なリソースを割くことなく、業務全体にバランスよく対応できるようになり、心理的な負担の軽減にもつながっています。システムによる数値化された明確な基準でのアラートは、これまで曖昧だった人間の耳による判断に比べ、問題解決の迅速化やコミュニケーションの効率化にも貢献しています。
なお、実際にシステムを運用する中で、音声のピークオーバー(過大音量)に関するアラートが最も多く発生していることが報告されています。これは、ライブ配信でもオンデマンドコンテンツの音に負けないよう音量を比較的大きめに設定していることに起因しているのですが、聴覚上はなんら問題なかったため、人力の音声モニタリングではパスしていました。このような数値に基づいた具体的なフィードバックが得られることは、コンテンツ制作側が自身の制作方法を見直すきっかけにもなっており、モニタリングの品質だけでなく、コンテンツ制作の改善にも役立つと実感しているところです。
今後は音声だけでなく、映像や視聴環境の各種Webパーツなどの監視にもシステムの適用範囲を広げていきたいと考えています。また、問題発生時の通知手段についても各種チャットツールなどを選択可能にし、現場ごとに異なるチーム体制に合わせられるようにしていく予定です。これらの改善を通じて、ライブ配信業務における品質維持・向上とコスト削減の両立に貢献していくことを目指します。