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少人数ロケは、どこまで画の質を上げられるのか
——ASJの現場で考える、BURANO導入による変化

プロデューサー 小川 祐紀 様 / 撮影監督 末松 祐紀 様 / カラリスト 平田 藍 様

少人数ロケの現場に、シネマ機を入れる。
その瞬間に増えるのは、画の情報量だけではない。準備、重量、データ、確認工程——現場を“重くする要素”も一緒についてくる。

それでも、Another Side of Japan(ASJ)は映像のクオリティーを妥協しない。
地域の魅力を世界へ届けるこのプロジェクトで、株式会社TYO(以下、TYO)は少人数の現場体制を保ちながら、どうやって“画の質”と“機動力”を両立させてきたのか。今回は、制作・撮影・仕上げの3名に、その判断のログを聞いた。

(左から、小川氏 /末松氏 /平田氏)

Profile

小川 祐紀:株式会社TYO 事業開発本部 BizDev/チーフビジネスプロデューサー

人材業界で経営・人事コンサルティングに従事後、SNSマーケティング企業で営業責任者を務め、動画広告やインフルエンサープロモーションを推進。2018年にはデジタルガレージに入社し、クロスボーダーマーケティング部門を創設・責任者として統括。国内外ブランドの東アジア展開を支援し、動画メディア事業化も実現。2023年にTYOに入社し、「ステートメントムービー」や「Another Side of Japan」を軸に新規事業とマーケティングを推進。

末松 祐紀:KASSEN Cinematographer

ストリートファッション・グラフィカル・ドキュメントタッチな作風を多く手掛け、自然光を生かした質感のあるナチュラルなトーンが得意。瞬発力と柔軟性のある画作りを得意とする。自らカラーグレーディングをする作品もあり、仕上げを想定した色や光に対する理解が深く作品に合わせたトーンコントロールを行う。CM・MV・映画などジャンルを問わず活動。

平田藍:株式会社TREE Digital Studio DIGITAL GARDEN Div./カラリスト

テレシネアシスタントとしてキャリアをスタート。
ポストプロダクション2社での経験を経て、2021年よりTREE Digital Studio/DIGITAL GARDENに所属。
特定のスタイルに捉われず、広告・映画・MV・ドラマ等、幅広いジャンルのカラーグレーディングに携わる。
「Anotether Side of Japan」のメインカラリストとして活躍。

Another Side of Japanとは何か。消費されない、“記憶に残るコンテンツ”へ

Another Side of Japan(以下、ASJ)の骨格は明快だ。日本各地にある価値の高い地域資源に、映像で“光を当てる”。国内だけでなく海外に届け、地域の価値を伝えていく。

そしてASJの魅力として外せないのが、映像の「ハイクオリティー」そのものだ。公式サイトでも「私たちは映像のプロとして、これまであまり知られていなかった日本の地域の魅力を引き出し、各種動画プラットフォームやSNSを通じて、新しい旅の選択肢を提案します」と掲げている。
「何を撮るか」だけでなく、「どこにどう届けるか」までを含めて設計されているのがASJの前提だ。

さらに重要なのは、この作品を“TYOが運営・プロデュースしている”という点。ASJは、サステナブルツーリズムをテーマに、景観・文化・食・産業など地域の物語を“美しい映像コンテンツ”で世界に届けるサービスとして位置づけられている。
つまりASJは「作品単発」ではなく、制作力と運用力をセットで持つプロジェクトだ。

小川氏(プロデューサー):
「これまで、瞬発力のあるソーシャルコンテンツの制作にも深く携わってきました。刻一刻と移り変わるトレンドを捉える難しさと面白さを実感する一方で、半年後、一年後、あるいはその先の人生のふとした瞬間に思い出されるような、人の記憶の奥底に定着するコンテンツをつくりたい。そんな、普遍的な価値として残る映像づくりを手掛けていきたいと思っています。」

そしてASJは“長期的なプロジェクト”を志向しながら、同時に短期間でもしっかり伸びている。
TYOによれば、2024年9月の配信開始から約1年で、SNS・動画プラットフォームにおけるフォロワー総数が10万人を突破。さらに勢いは加速し、ローンチ1年半の2026年3月現在は22万人超に成長。欧米豪・アジアなど50以上の国と地域へ広がったとされる。
「ハイエンド映像が言語や文化の壁を越える」というASJの設計思想は、プロジェクトの成長性にも直結している。

まずは「少人数で成立」させる。FX6を選択した理由

ASJで末松氏が大切にしていたのは、ライティングで作り込んだ映像よりも、その場に流れている空気や、人の暮らしの風景をどう切り取るかだった。
今そこに残っている風景が、ずっと当たり前にあるとは限らない。だからこそ、その瞬間を撮ることには、記録としての意味もあると感じていたという。

末松氏(撮影監督):
「ライティングをして綺麗に撮りたいっていうのが、この作品のテーマではなくて、あくまでその場にお邪魔して、その場の風景、人の暮らしの風景を切り取らせていただくっていうのが、僕らがめざしている方向だった。」

その前提に立つと、ASJの撮影で求められる条件もはっきりしてくる。
大きな体制を組まず、限られた人数で動けること。朝焼けや夕景など露光条件が厳しい瞬間にも対応できること。そして、最悪ワンマンに近い状況でも成立すること——。
そう考えたとき、最初の福島編でFX6が現実的な選択肢になった。

末松氏(撮影監督):
「ドキュメンタリーや、小規模なスポーツ撮影などでよく利用していたから、助手がいなくても自分でフォーカスを送って、ガンガン担いで撮影するっていうのは想像がしやすかった。」
「朝焼けの瞬間、夕方の暗い瞬間などの露光条件的に厳しい瞬間で撮影しなきゃいけない状況を想像できたので、高感度に強いカメラが必要だといろいろ考えたときに、選択肢としてFX6を最初の福島編でまずは使用しました。」

末松氏は普段、案件によってはVENICE 2を使うことも多い。それでもASJでは、まずFX6が“ベースライン”として機能した。
画の品位だけでなく、その場に入り込み、暮らしの風景を崩さずに撮ることが、この作品では何より重要だったからだ。

参考作品
FUKUSHIMA | Exploring Ouchi-juku: Fukushima's Enchanting Edo Period Village

YouTube:FUKUSHIMA | Exploring Ouchi-juku: Fukushima's Enchanting Edo Period Village 別ウィンドウで開きます

ただし仕上げで差が出る。

現場では不満がない。だが、ポストに入った瞬間、別の論点が出てくる。
平田氏が指摘したのは、FX6素材の「追い込み」における繊細さだ。

平田氏(カラリスト):
「特にセカンダリー周りの作業は、正直BURANOやVENICEとの違いを感じてしまう。」
「追い込んだときに、思い描くようにコントロールすることが難しい部分もありますが”ルックを作る”という点に関して力不足ということは感じません。」

重要なのは、「ルックが作れない」という話ではない点。
ベースの世界観を作る上では十分成立する。一方で、狙った色だけを柔らかく拾う/追い込みの精度を上げる、といった局面で差が出る。

ここでASJは、ひとつの分岐点を迎える。
“少人数で成立させる”は守りたい。だが、“画の質”や“仕上げの自由度”も上げたい。
その矛盾の解き方が、BURANO導入の挑戦だった。

BURANO導入は、「いつもの現場体制を崩さずに、運用できるか」から始まった

BURANOを入れるとき、現場が最初に考えたのは、単純なスペックの優劣ではなかった。
テーマはもっと実務的で、“これまでの少人数運用を崩さずに、画の質を一段引き上げられるか”という一点にあった。

ASJの現場は、撮影部を大きくできない。移動も多く、時間も限られる。だから、カメラだけが良くなっても、運用が重くなれば意味がない。
末松氏が最初に気にしていたのも、まさにそこだった。本体の重さ、リグ、そして普段使っている小型スライダーで本当に回せるのか。つまり、“いつものやり方”の延長線上にBURANOを置けるかどうかだった。

末松氏(撮影監督):
「正直、不安だらけでしたよ。やはり、重いイメージがあったので。なので、事前テストとしてレンタルハウスでBURANOを出してもらって、ケージなども全部外して、丸裸の状態にしました。必要最低限の機材で組んでみたら、意外と小型スライダーでもいけることがわかったんです。”重い”という先入観があったな、と気付かされました。」

少人数の現場設計の中に無理なくBURANOを入れられるのではないかと末松氏は感じた。

そして、その見立てが立ったことで、FX6で成立していた機動力を大きく損なわずに、よりリッチな画や仕上げの余裕を取りにいく、という選択が現実になった。

つまり今回のBURANO導入は、
「現場体制はそのままに、どこまで画の質を上げられるか」
という挑戦だった。

少人数の現場で、BURANOは何を変えたのか。

岡山編での撮影部は、末松氏と撮影助手の2名。
全体も、監督・プロデューサー・制作1名にキャストを加えたミニマム体制で、ドローンは別動。本隊が本編の撮影に集中できるよう、役割を分けた設計だった。

そんな少人数の現場で、BURANOは実際どうだったのか。
末松氏の答えは明快だった。

末松氏(撮影監督):
「ストレスなく現場で撮影できました。重いか重くないかで言えば、FX6と比べると重いんですけど、4日目ぐらいにはもう慣れていましたね。撮っていて、やっぱり綺麗な画のカメラだなと感じましたね。」

FX6より重さはある。けれど、それがそのまま“少人数体制の破綻”にはつながらなかった。
むしろ現場では、BURANOにしたことで画の余裕を感じる場面が増えていったという。

(暗所での撮影もディテールまでしっかり表現が可能)

「ISO3200で、絞りもF1.4で使えば、薄暮の細かいディテールなどもちゃんと撮れる。」
「FX6とはまた違う、ちょっとリッチな世界が撮れたのかなっていうのは、現場では感じてました。」

(夕暮れ時も美しく捉えられる)

この変化は、単に“綺麗になった”という話ではない。
少人数でも、これまでより厳しい時間帯や光の条件に踏み込める。つまり、現場で取りに行ける絵の幅が広がったということだ。ASJのように、その土地の空気や暮らしの気配をすくい取りたい作品にとって、これは大きい。

撮影時には、ソニーのビューファインダーについても「信頼度がすごく高い」と語っており、少人数の現場で判断を支える道具として機能していたことがうかがえる。

ルック作りの考え方も一貫している。
末松氏が撮影した福島編・岡山編で共通して使っていたレンズは、ZEISS SUPER SPEED。監督のオーダーは「柔らかいクラシックな表現」で、フィルターには Schneider Hollywood Black Magic 1/8 を組み合わせている。

ただ、末松氏が重視していたのは、単に“柔らかいレンズを使う”ことではない。
BURANOではSuper35mmモードを積極的に使っていて、その理由をこう説明している。

末松氏(撮影監督):
「フルサイズとかでF1.4を使うと、人が見ている世界観よりもかなりボケ感が強調された世界になる。」
「Super35mmモードで撮る世界観っていうのは、ちょっとドラマとかドキュメンタリーっぽい要素を持っていると思うんです。」

ASJのように、土地の空気や人の暮らしを切り取る作品には、その自然な距離感のほうが合う。

平田氏と末松氏との会話で面白かったのは、同じZEISS SUPER SPEEDのレンズを使っていても、BURANOでは描写の質感が変わることだった。同じレンズ、フィルターを使用していたと気が付かないほどだと平田氏が話していた。

末松氏(撮影監督):
「FX6の時はすごい柔らかく描写してくれたんだけど、BURANOになったら、オールドレンズの良さをちょっとシャープに、リッチに底上げしてくれた感じがあった。」

つまり今回の変化は、同じルックの延長線上で、ボディ側の性能によって“同じ狙いがより高い精度で返ってくる”ようになった、ということだ。

一方で、仕上げの考え方もASJらしい。

平田氏は、シリーズ全体としての枠組みはありつつも、毎回トーンを一律に揃えるのではなく、その回ごとの撮影意図やスタッフのビジョンに合わせてルックを立ち上げていくと話す。

カラコレ前にはまずオフラインを見て、「ここが素敵だな」「こういう方向が合うかもしれない」と感じた点を拾いながら、撮影側と相談して方向性を詰めていく。つまりASJのルックは、固定されたテンプレートではなく、各回の魅力をどう伸ばすかを撮影・演出・仕上げの間で擦り合わせながら作るものだ。

だからこそ、FX6からBURANOへの移行は、単純なグレードアップではなく、
少人数の現場体制を保ったまま、画の質と仕上げの余裕をどこまで上げられるかという挑戦の、実践編だったと言える。

参考作品
OKAYAMA | Kurashiki & Kojima - Bathed in Blue, Birthplace of Japanese Denim & Jeans Culture

YouTube:OKAYAMA | Kurashiki & Kojima - Bathed in Blue, Birthplace of Japanese Denim & Jeans Culture 別ウィンドウで開きます

作品と体制で決まる、ASJのカメラ選び

最後に、ASJの現場で今後VENICEを使う可能性について聞くと、末松氏はこう答えた。

末松氏(撮影監督):
「チャレンジしてみる場合は、人を一人増やしたいですね。」
「作品は、トータルバランス。何かを上げる代わりに体制も整えないといけない。」

末松氏は、古いモデルのカメラを“過去のもの”とは捉えていない。
どのカメラにも固有の描写があり、それは今でも表現の道具として生きている。大切なのは、新しい機材へ一直線に進むことではなく、作品に対してどのカメラをどう選ぶかということだ。

末松氏(撮影監督):
「過去/現在/未来って、優劣ではないんですよね。“表現の道具として、どのカメラを選択してどう表現していくか”というのがカメラ選びの面白さだと思う。」

ASJの現場で問われているのは、作品と体制に対して、どのカメラをどう選ぶか。その判断の積み重ねが、FX6からBURANOへ、あるいはその先の選択へとつながっていく。

ASJがこれから届けていくもの——地域の魅力と、それを映す人たちの視点

ASJの強さは、機材選びや撮影設計だけではない。
このプロジェクトが面白いのは、地域の魅力を「どこで撮るか」「どう切り取るか」という入口の段階から、制作・撮影・仕上げそれぞれが自分の視点を持って関わっていることだ。

小川氏は、ASJのロケ地選定について、有名な観光地をなぞるのではなく、“Another”という言葉の通り、東名阪の大都市圏とは異なる地域やまだ十分に知られていないものに光を当てる視点、そして表層だけでなく歴史や文化といった背景のストーリーまで含めて見せること。そのバランスを、プロジェクト全体で考えているという。

小川氏(プロデューサー):
「みんなが知ってるようなものではない、そのエリアにおいてもちょっとニッチ寄りであるとか、裏側のストーリー背景みたいなものとセットでフォーカスしていくという、いくつかの観点で、その“Another”っていう意味合いがあります。」

一方で、その視点は机上で完結しない。
地域のことを最も知っているのは地域の事業者やそこに住む人たちであり、実際にそうした声を取り入れながらプロジェクトを進めていると小川氏は語る。

その土地をどう切り取るかという点では、末松氏の話も印象的だった。
ロケ地は事前のプランだけで決まるものではなく、ロケハン中に出会った場所や、現地の人のひと言で変わることもある。
同時に、自身の考えをこのように述べた。

末松氏(撮影監督):
「今そこに残っているのが当たり前と思ってはいけない風景っていうのがある中で、今その瞬間を撮らせていただいている。この風景を伝えなくてはならないという使命を感じています。」

そうした素材を受け取る平田氏は、毎回カラコレ前にオフラインを見ながら、「行きたい」と思わされる感覚があると話していた。
派手な観光地ではなくても、画と編集と構成によって“そこへ行きたい”という気持ちが湧き上がる。その魅力をさらにどう伸ばすかが、自分の役割だという。

平田氏(カラリスト):
「毎回オフラインを見て準備していますが、そこで“すごく行きたい”って確実に思わせてくれる。」
「視聴してくださる皆さんも、こういう感情を多分持つんだろうなって。それがすごくASJの面白いところだと思います。」

小川氏は、ASJの今後を複数の軸で捉えている。

日本を代表するようなIPとして育っていく可能性。地域ブランドの基軸として機能していくこと。地域の人たちのシビックプライドにつながること。そして、TYOの新規事業として想定以上の広がりを生んでいくことだ。

実際にASJの映像は、成田空港の大型ビジョンをはじめとした場でも展開され始めており、その“可能性”は確実に広がっている。

さらに小川氏は最後に、ASJ全体だけでなく、一本一本の作品そのものもアワードや国際的な評価につなげていきたいと付け加えた。地域を映すプロジェクトでありながら、作品単体としても評価されるレベルを目指す——その視点もまた、ASJの重要な軸になっている。

映像で地域に光を当てる。
そのために、どの場所を選び、どう切り取り、どのカメラで、どんな体制で撮るのか。

ASJの現場で積み重ねられているのは、機材の更新そのものではない。
地域をどう見つめ、どう伝えるか。その視点を更新し続けることなのだと思う。

※本ページ内の記事・画像は2026年3月に行った取材を基に作成しています

制作:株式会社REX

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