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映画『曙光』

脚本・監督・撮影 坂口香津美様

4K/24p収録により“光”の美しさや“闇”の深さを表現
透明感ある映像に“重み”を与える適度な重量感

坂口香津美様 監督

 ドキュメンタリーと劇映画を行き来する“汽水の映画”を作り続ける坂口香津美監督の7作目の作品となる『曙光』(製作配給:株式会社スーパーサウルス/主演 黒沢あすか)は、ソニーのXDCAMメモリーカムコーダー「PXW-FS5」で撮影されました。『曙光』は、娘の自殺を止められなかった母親が、自殺しようとする人々を救済し、再生させていく姿を描く命の物語。過去に自殺の現場に遭遇した坂口様自らの体験から、その心の奥にある闇までも描いています。今春、神奈川県丹沢の森の中で行われた撮影は、PXW-FS5により、4K / 24p XAVC Long GOPで収録されました(完パケはシネマスコープサイズ)。4Kスーパー35mmCMOSセンサーによる高感度・広いダイナミックレンジや電子式可変NDフィルターを有効活用したほか、独自の照明手法を駆使し、暗い森の中に注ぎ込む木洩れ日や雨の滴など、“光”の美しさを見事に表現できたといいます。『曙光』は現在、編集作業が続いており、2017年1月の完成を目指しています。少人数体制で行われるローバジェット映画の撮影現場におけるPXW-FS5の可能性などについて坂口様に伺いました。

15年間持ち続けたテーマへの挑戦

坂口様にとって、『曙光』は非常に重要な意味合いを持つ映画です。

坂口氏「日本における自殺者の数は、十数年間にわたって3万人前後で推移しており、先進国の中でも特殊な存在となっています。一方、個人的には1990年に、自殺に遭遇するという体験をしました。テレビディレクターになって5年目のことでしたが、大変衝撃を受けて、3年ほど仕事ができませんでした。その心の深い闇を埋めていくのがドキュメンタリーでした。テレビ番組を作り、人々と出会いながら自分の心の空白・空洞を埋めていく作業でした。その時から“自殺”というテーマが心の底を流れ続けていました」

それから丸15年、ついにこのテーマに挑戦し、『曙光』の制作がスタートしました。坂口様は、『曙光』を撮影するカメラにPXW-FS5を選択しました。

坂口氏「自分が求めている世界、自分が撮りたい作品を追求するため、3作目からは自分で撮影も行っています。そして機材はその時に一番良いものを使い、良い映画を撮りたい。『曙光』は私にとって非常に重要な作品ですから、是非、最新鋭のカメラであるPXW-FS5で撮りたかった。映画は科学技術の発達とともに常に同時代の最先端のテクノロジーを取り込むことを宿命づけられているメディア。それが映画人の矜恃ではないかと思っています」

魅力はレンズ交換ができ、小型軽量でありながら“重み”のある映像が撮れること

坂口様は、PXW-FS5はレンズ交換が可能であることが最大の魅力だといいます。

坂口氏「『曙光』では全シーン・全カットでレンズを入れ替えて撮影しています。使用したレンズはカールツアイスの21mm F2.8 / 35mm F2.0 / 50mm F2.0 / 50mmマクロのほか、ソニーの18−105mmズームの計5本。これらのレンズとの相性も良く、非常に重厚な雰囲気のある良い画が撮れたと思います」

また、PXW-FS5は小型で軽量(本体0.8kg)ですが、坂口様はそこにもメリットを感じたといいます。

坂口氏「PXW-FS5は、軽いのですが小さなボディの中にさまざまな機能がギュッと詰まって適度な重さを持っている。そして、それは非常に嬉しい重さ。PXW-FS5の映像に“重み”を感じることができ、非常に気に入りました。また単焦点レンズを使用しての撮影では、ズームレンズと違い、微妙なフレーミングの調整にも三脚を持ち上げてカメラごと細かく動くことが必要になりますが、今回のような少人数での撮影時にはカメラマン自身でクイックにポジションを変えられるこのカメラの重量と機動性は大きなメリットであり、最大の魅力ですね。」

4K/24p XAVC Long GOPで撮影

『曙光』の撮影は今年4〜6月、神奈川県丹沢の森の中において行われました。  4K / 24pによる収録で、フォーマットはXAVC Long GOP 24pを選択しました。収録素材はSDカード14枚分(128GB×13枚、64GB×1枚=約1.7TB)、収録時間は26時間におよんだといいます。

撮影現場では、本体横に取り付けた液晶モニターを有効に活用したといいます。

坂口氏「撮影時における最大のポイントはカメラを据える場所。私は普通のカメラマンが狙わないようなアングルを常に探しているので、カメラ後方にあるビューファインダーではなく、液晶モニターを多用しました。また、現場のシーンチェックも液晶モニターで行っています。その際は、演技のチェックというより、余計なモノが映っていないかを共有したいからです。もし、何かが映り込んでいたら、それは後の編集で処理しなければならない。すると、映像が荒れてしまったり、時間もかかり、非常に効率が悪いからです」

また、画面サイズはシネマスコープを選択していますが、撮影時にはPXW-FS5の液晶モニターにあるシネマスコープのガイドラインの表示機能が活用されました。

坂口氏「是非、プレビュー時にも表示できるようにしてくれるとありがたいですね」

“光”の美しさを表現できる

撮影では、4Kスーパー35mmCMOSセンサーによる高感度・広ダイナミックレンジにより、深い森の中での木洩れ日など、明るい部分と暗い部分のコントラストのある良い映像が撮れたといいます。

坂口氏「雨上がりの森で、崖から転落する元自殺未遂者を救出するシーンなどは、雨が上がってすぐに森に入って撮影したので、美しい水の滴や光のコントラストが美しく撮れました。PXW-FS5によって“光”の美しさがより表現できたのではないかと思います」

なお、今回の撮影では、喧嘩で殴り合うシーンや森の中を駆け巡るシーンなどを手持ちで撮った以外は、基本的に三脚を使ってしっかりとフィックスさせた映像を撮っています。その他、拡大フォーカスやラストシーンレビュー、無段階可変のNDフィルターが有効に使用できました。

坂口氏「外付NDフィルターを付け替える余裕が無い少人数の現場では非常に重宝しますし、マットボックスも不要になるため、カメラが非常にコンパクトになります。拡大フォーカスは別モニターを用意することなく、4K+大判のシビアなフォーカスをしっかりコントロールすることができますし、ボタン一発でプレビューできる機能も非常に便利です。」

深い闇の中に小さな光を作り出す照明

一方、室内のシーンでは、独自に編み出した照明手法によって「暗闇の中にある小さな光」を生みだし、幻想的な映像を作り上げていきました。

坂口氏「私たちインディーズの映画製作者が、バジェットのある映画を模倣することは土台、不可能だし、滑稽だと思っています。インディーズにはインディーズの映画にしか表現できない独自の映像があるはずです。その一つが、「撮影監督」という現在の制作スタイルにつながっています。監督が撮影する以上、プロの撮影監督とは違う視点で撮影をしなければ撮影を兼務する意味はありません。私はつねに新たな映像をスクリーンで見せたいと思っています。とはいえ、ディレクターが撮影を兼務すること自体、珍しいことではなく、私自身、これまでテレビや映画のドキュメンタリーの現場で日常的に撮影を行ってきました。劇映画の撮影はその延長線上にあります。
撮影の現場で、最も神経を使うのが照明とレンズの関係です。レンズ個々の特性を見極めながら、ライトの当て方一つで微妙に変化する映像を捉える術を、試行錯誤しながら実践の場で学ぶことができたことは貴重でした。
細かいノイズを心配するより、ある瞬間、想像もしていなかったこれまで目にしたことがないような不思議な光を捉えることがあります。それは、万全に準備して、セオリー通りに撮影していたら出せない映像なのではないかと考えています」

PXW-FS5で撮った映像には透明感がある

『曙光』は今後、編集を経て2017年1月頃に完成する予定。約3時間の長編映画になるといいます。
坂口様は、PXW-FS5で撮った映像は、これまで経験したカメラの中で最も“透明感”があると感じたといいます。

坂口氏「特に、屋外での撮影で、さまざまな光の変化を不思議な透明感で捉えている感じがします。レンズとの相性もあるのかも知れませんが、今回の現場ではよく“本物よりピュアで透明感があるな”と思う瞬間がありました。暗部も深い色合いがしっかりと表現できていると思います。私がスポット的に使った光が、暗闇と解け合っていく美しさ。 PXW-FS5によって十分に表現できたのではないかと思っています。」

ドキュメンタリー製作にも最適なカメラ

また、PXW-FS5について坂口様は「彼(PXW-FS5)とは2ヶ月間一緒にいたので、自分の手足のようになって、愛着が生まれました。最大のポイントは、カメラと私の体が一体化するような、このフォルムかも知れません。最新鋭にもかからず、昔の16mmカメラのようなどこかクラシックでクールな雰囲気も魅力ですね。『海の音』に続き、ドキュメンタリーを4Kで撮り始めたところですが、PXW-FS5はドキュメンタリーの撮影に最適ではないかと思います。サイズが小さいので被写体に対する威圧感がなく、移動でも小さなバッグやリュックの中にスッポリと入る。小型であるのに映像には“重み”を感じる。本当に大好きなカメラです。また、PXW-FS5で撮りたいと思っています」と話しています。

新作『海の音』の制作も進行中

『曙光』に続き、今夏、海辺のホスピスを舞台に、小児がんなど命の時間が限られた3人の少女たちの命と愛を描く8作目の映画『海の音』の撮影を終え、編集中です。

なお、Motion Gallery(モーションギャラリー)にて、『海の音』映画製作支援のためのクラウドファンディング(http://motion-gallery.net/projects/uminooto )を実施中。

映画「曙光」

製作・配給:スーパーサウルス

監督・脚本・撮影:坂口香津美/プロデューサー:落合篤子/録音:山本研二/照明:田中爽一郎/制作:狩野美彩子/助監督:山本研二/サウンドデザイン:今泉徳人/協力:ダブルフォックス/出演:黒沢あすか、染野有来、森山太、新倉真由美、関友利、山下直、田中爽一郎、順堂静葉、谷川俊、山本研二、狩野美彩子、橘春花、乃芙斗、長友誠、倉田英二、沙羅、丸茂咲紅蘭、小島怜珠、橘真紀、若生麻理奈、杉崎洸太、笠原竜司、木島尚志、月城由莉、清水英行、袴田駿一、下村明日子、石塚瑛資、関彰文、有瀬賢治、勝又啓太、関正行、川口敦子、西畑慶吾、吉田之仁、吉田夏海、伊藤宗文、田村幸士

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